第121話 やっと役に立てます!

 確かにリンはあの時少しだけ気になった。


 役目を終えたをそのまま放置していいのか疑問を覚えた。

 だが、放置してしまった。


 その結果ーー


「要する、呪いを肩代わりした卵を放置するとカースドラゴンが生まれるって事か……」


「そういう事だね、常識だよ常識」


 日竜はどこか馬鹿にしたような口調だが、その言葉はリンに向けられたものではない。


「…………」


 無言で目を逸らしてはいるが、明らかに心当たりがありそうなルナに向けられている。


「ふむ、ドラゴンの卵を依代にした解呪法は聞いた事がありますが、そのような欠点があったのですな」


「欠点とも言えませんわ、呪いを移した卵を処分するだけで防げる事ですわよ? 一般的には炎で焼いたり凍らせたりするだけで簡単に済む話ですわ」


「そういう事だね、でもそんな簡単な事もせず放置した無知な者がいた結果カースドラゴンは生まれてしまったんだ」


 日竜の視線がルナに向けられると、その場にいたもの達の視線も釣られる様に一斉にルナへ向けられた。

 多数の視線を向けられ、いよいよ耐えられなかったルナが叫ぶように声を上げた。


「わ、悪かったわよ! だって知らなかったんだもの!」


「それは姉さんがお爺様の勉強から逃げ出してばかりいたからだろ? 完全に自業自得だよ」


 ルナはぐうの音も出ないのか小さな身体をプルプルと振るわせる。

 とは言え、話を聞く限り完全にルナの落ち度である以上もはや言い逃れは出来ない。


「どちらにせよカースドラゴンは倒さなきゃならないんだ、俺にも責任はあるしこうなったらやるしかないだろ」


 カースドラゴンが生まれた原因以前にそもそもなんとかしなければならない事なのだ。

 ただ、カースドラゴンが生まれた原因がリンとルナの放置した卵が原因だとすれば、獣人の集落が襲われた原因もまたリンとルナにある。


「……黙ってる訳にはいかないよな」


 独り言のつもりで呟いた言葉だったが、意味するところはその場にいた全員に伝わっていた。

 黙っていれば恐らくバレる事はない。

 だが、リンの中でそれは到底許容出来るものではなかった。


「その辺の事は月竜の契約者の好きにすればいい、個人的には馬鹿正直な気もするけどね。 それより話を先に進めるよ?」


「……分かった」


 ここであれこれ考えても仕方ないので、大人しく日竜の話を聞く。


「端的に言えば、まずカースドラゴンを姉さんとその契約者に倒して貰う。 二人が戦うのであれば仲間を連れて行っても構わないよ? 一応言っておくと僕も同行させてもらう、協力はしないけどね」


「いや、今回は俺とルナの責ーー」

「はいはいはい! 私とオーグさん、それにステフィの三人が同行するよ!」


 リンの言葉を遮るようにユーリが声を上げると、ムッとした表情でリンを見る。

 それだけでリンは降参して両手を上げた。


「続けるよ? カースドラゴンに対して唯一かつ最も効果的なのは浄化魔法で強さと暴走の源である呪いの力そのものを浄化してしまう方法だ」


「浄化魔法はあまり得意ではありませんわ」

「私はそもそも魔法が使えないよ」

「俺もそういった高等魔法は無理だな」


 リンが自分は使えるのかどうか分からず、なんと答えたらいいか迷っているとーー


「貴方には無理ですわよ? 浄化魔法は非常に繊細な制御が求められる高等魔法ですわ、力技でなんとかなるものじゃありませんわ」


 リンは思わず顔をしかめる。

 いい加減言われ続けたせいで自分に魔法のセンスがないのは自覚していたが、やはり面と向かって言われるのは悔しいものだった。


「分かった分かった、なら俺も無理だ」


「あはは、拗ねない拗ねない」


 ユーリにそう言われますます悔しくなるが、事実なだけに言い返すことも出来ない。


「うーん……ドラゴン相手に真正面からやり合うのは賢くないけど仕方ないーー」

「あの!!」


 リンの背後から日竜の言葉を遮る声が上がった。


「わ、私! 私は浄化魔法使えます!!」


 その言葉にその場にいたもの達が一斉に声のした方に顔を向けると、そこには若干緊張気味の表情で手を挙げるアリスがいた。


「え?」


 声を聞いた時点で誰かは分かっていたが、リンは思わずそう声に出してしまう。

 他の者達もそれぞれ多少の差はあれど驚いている様だった。


「君は確かこの国の王女だったよね? ハイエルフの守護者が言っていたけど半端な浄化魔法じゃ役に立たないよ?」


「だ、大丈夫だと思います! 浄化魔法は最高位のものを除けば使えますから!」


 アリスの言葉に今度こそステファニアの表情が驚きに変わった。


「それはすごいですわ。 高い魔力をお持ちだとは思っていましたが、アリスはクレリックでしたのね?」


「はい、幼少より神聖魔法を学んできました」


 アリスが魔法を使えた事に驚いたが、具体的にどう凄いのか理解出来ないリンとユーリにセーラが簡単に神聖魔法について教えてくれた。


 神聖魔法は治癒魔法や浄化魔法などの総称であり、扱いや適正が他の魔法と異なる。

 その上、高い魔力と繊細な魔力操作と制御が必須な為、高位の者は更に習得が難しいそうだ。


「要するにリンには絶対無理と言うことです」


「最後の言葉要らなくない?」


 セーラの毒舌に胸を抉られるリンだが、今はそれどころじゃない。

 アリスが高度な魔術を使える事に驚いたのは事実だが、使える事と戦う事は話が別である。


「ダメだ」

「嫌です。 私もついて行きます」


「嫌とかじゃないだろ、危険過ぎる」


「それは私も同感ですわ、浄化魔法が使えても実戦となれば話が変わりますもの」


 ステファニアの言葉に他の者も口にはしないが同じ考えなのだろう、アリスが浄化魔法を使えると分かっても驚きはすれ喜ぶ者はいない。


 だが、アリスの決意は僅かばかりも揺るがなかった。


「私はこの国の王女です! 守るべきものの為に戦うのは当然の努めです!」


 アリスも王族としての誇りがある。

 たとえ危険だと分かっていても譲れない想いがある。

 現実には想いだけでどうにかなるほど実戦は甘いものではない。


「それにーー」


 アリスは少し嬉しそうな表情を浮かべるとーー


「やっと私もリンの役に立てます」


 そんな風に言われてしまえば強く反対する事も出来ず、カースドラゴン討伐にアリスが参加する事が決まった。


 ーーーー


「じゃあ後は頼みます」


「かしこまりました、くれぐれもお気をつけて」


 翌日、リン達はカースドラゴン討伐に乗り出した。


 アリスがカースドラゴン討伐に参加する事になったあの後、すぐにリン達は準備を始めた。

 とは言えあまり時間はかけられない為、出発は翌朝と決めたのでそれまでに出来る事に限られた。


 アリスとルナが王都へ連絡に行き、シンとライズは騎士団と連携をとり万が一に備える。


 獣人達の件はセーラに一任した。


 肝心のリン達は人数が多くなった為、馬車を手配するつもりだったがーー


「仕方ないから僕が二人くらい運んであげるよ」


 日竜のお陰で移動の心配はなくなった。


 ルナの背にリンとアリス、それとオーグが乗り、日竜にはユーリとステファニアの二人を運んでもらう。


 そんな感じで、予定通り出発するはずだったのだがーー


「お願いにゃ! フェイも連れていって欲しいにゃ!」

「無理を承知でお願いします」


 フェイとレースの二人がカースドラゴン討伐に参加したいと屋敷に押しかけてきたのだ。

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