第120話 日竜
結局その後の話し合いにより、カースドラゴン討伐メンバーはリンとユーリ、それとオーグ、ステファニアの四名に決まった。
シンは万が一に備えてルフィアに残し、ライズはクリスと協力して同じく万が一に備えて騎士団と連携を取る。
そして王都から戻ったばかりのルナとアリスはと言うとーー
「で? 私たちはまた王都に行けって?」
「仕方ないですよルナ、私たちが行くのがもっと話が早いんですから……」
圧倒的な速度で移動出来るルナと国王陛下までフリーパスの二人に任せるのがもっとも早い。
「ついでに王都で情報収集中のウェイン達にも戻るよう伝えてくれ」
ルナはかなり不満気なのだが、ここはなんとか納得してもらう他ない。
「ルナってばリンと一緒に行きたいのに連れて行って貰えないからいじけてるんだね」
ユーリが微笑ましそうにそう言うとルナは慌てたようにそれを否定する。
「な!! ばばばばば、バカな事言わないでよ! 別にそんなんじゃないわ! 」
ルナのリアクションにその場にいたもの達の表情が和らぐ。
「ーーやれやれ、相変わらず呑気だね月竜」
唐突に聞き覚えのない若い少年の声が部屋の空気を揺らした。
「っ!!」
「!!」
「……」
瞬時に反応したリンを含む数名が声のした方に向き直り構えを取る。
「失礼、驚かせるつもりはなかったんだけどね」
換気の為に僅かに開けていた窓の一つ、そこには一羽の鮮やかな赤い羽根を持つ鳥が止まっており、リン達を見つめていた。
「ーーは? え! アンタまさか
「久しぶりだねーー 姉さん」
ーーーー
「なんでアンタがここにいんのよ! 日竜!」
「うるさいなぁ、叫ばなくても聞こえてるよ」
日竜と呼ばれた赤い鳥が耳を塞ぐように翼を顔の横に当てる。
その様はどう見ても普通の鳥ではありえない。
突然の闖入者にどうしたらいいか分からず、誰一人言葉を発せず、2人ーー2匹のやりとりを眺めていた。
リンもその一人だったのだが、ふと日竜と呼ばれる鳥と目が合った。
知性を感じさせるその目から視線を逸らす事も出来ず、口を開こうにも口を挟むべきか悩んでいるとーー
「初めまして、君が月竜の契約者だね? 僕は日竜、いつも残念な姉がお世話になっているよ」
「ちょっとぉ! 残念って何よ! アンタ姉をなんだとーー」
日竜が話かけて来た事で口を挟む機会を得たリンは相変わらず騒ぎ続けるルナの口を塞ぎつつ日竜に話しかけた。
「まだ少し混乱してるんだが……あー……俺はリン、クサカベリンです」
どう接したらいいか分からず、言葉遣いがおかしくなりつつもとりあえず名乗っておく。
「ああ、普通に話してくれていいよ。 僕もその方が気兼ねしなくて済む、それと自己紹介させておいて何だけど君たちの事は一通り知っているよ」
「そうか、そう言ってくれるなら普通に話させてもらうか、それで今日はどういった用件なんだ?」
突然現れた日竜に混乱したリンだが、冷静に考えれば何か重要な話がある事は想像に難くない。
なにしろ、これまで全く姿を見せなかった竜族の一匹が用事も無く姿を見せるとは思えないかった。
「誰かさんと違って話が早くて助かるよーー もっとも僕が用件を伝えなくても君たちは動いてくれたようだけどね」
その言葉にリンだけでなく、その場にいた者達も日竜の用件を察する。
「カースドラゴンの事ですわね?」
ステファニアがそう問いかけると、日竜は小さく頷いた。
「その通りだよハイエルフの守護姫」
「ステファニア・シルベストルですわ、お会い出来て光栄です日竜様」
ステファニアがそう言って育ちの良さを感じさせる所作で一礼すると、セーラもそれに続く。
「セーラ・シルベストルです」
「そうか、君が……大変だったね、壮健で何よりだよ」
日竜の口ぶりから察するに、どうやら彼女達の事もこれまでの事も知っているようだった。
同時にリンは日竜のいう『守護姫』という単語が気になった。
だが、それを今聞いたところで答えが得られるとも思えず、とりあえず頭の片隅に置いておくに留めた。
そんな事をリンが考えている間に、その場にいた者達もそれぞれが簡単に名乗り、日竜がそれに一言返すしていく。
全員が名乗り終えると、日竜が改めて話を始めた。
「さて、じゃあ用件を伝えるよ。 と言ってもさっきも言った通り、カースドラゴンを倒して欲しい。 特に姉さんとリンの2人にはやってもらわなければならないよ」
日竜の言い方に引っかかるものを覚える。
お願いと言うよりは命令と言ったほうがしっくりくる感じだった。
そう感じたリンに日竜はどこか満足そうに頷く。
「そう、これはお願いじゃない。 君たちがやるべき
「後始末?」
まるで身に覚えがない後始末を言い渡され、リンは眉根を寄せた。
「端的言えばカースドラゴンが生まれたのは姉さんと君の責任と言う事だよ」
日竜にそう告げられ、リンは目を丸くして驚いた。
なにがどうしてカースドラゴンが生まれる原因を作ったのか、まるで心辺りが無いのだから当然だった。
「まぁ当然そういう反応になるよね。 そこはその残念な姉さんのせいだからリンが悪い訳じゃないよ? あ、そろそろ姉さんが窒息死しそうだから手を離してあげて?」
見るとルナはリンの手の中で既にグッタリしていた。
口を塞いだまますっかり忘れていたリンが慌ててその手を離すと、ルナはそのままテーブルに突っ伏した。
「あはははは! いい気味ーーじゃなかった、大丈夫かい姉さん?」
「聞き間違いでしょうか? 今『いい気味』って聞こえたような……」
「……多分、いえ絶対言ってました」
「それにすっごい嬉しいそうに笑ってたよね?」
アリスの呟きにユーリとセーラが声を潜めて答えるが、多分全員に聞こえているだろう。
そして多分、全員同じことを思っているに違いなかった。
「……アンタ、気がついてたのにわざとリンくんに言わないで私が苦しんでるの楽しんでたわね?」
「嫌だなぁ、そんな訳ないじゃないか」
ルナがフラフラになりながらも起き上がる。
そしてキッと目を釣り上げる。
心底腹立たしいと言わんばかだ。
「相っ変わらず性格ねじ曲がってるわねアンタ!」
今にも飛びかからんばかりのルナをリンが慌てて宥める。
が、怒りの矛先はリンにも向けられた。
「力強すぎんのよ! 私が必死に動いてもまるで振り解けないし、だんだん目の前が白くなって音が聞こえなくなって最後には目の前が暗くなったわよ!」
「あー……それは危なかったなーー って痛たたっ!! 噛むな! 噛み付くな! 悪かったよ」
ルナが涙目でリンの手に噛みつく。
割と本気で噛み付いていたらしく、振り解いたリンの手には血が滲んでいた。
「くくくっ……だ、ダメじゃないか姉さん主人に噛み付くなんて……」
日竜はあからさまに笑いを堪えている。
むしろわざとやっているようにも見えるほどだ。
だが、ルナには悪いが今はそんな事どうでもいい。
カースドラゴンを倒す事がリンとルナにとって後始末だと言うなら、そもそもカースドラゴンが生まれたのは二人に原因があるかも知れないのだ。
「単刀直入に聞くぞ? カースドラゴンが生まれた原因ってなんなんだ?」
「そうよ! なんで私とリンくんが倒さなきゃいけない訳?!」
イライラが収まらないルナが今度は日竜に噛み付く勢いで叫ぶのだが、そんなルナに日竜は心底呆れた様子でこれ見よがしにため息をつくと、口を開いた。
「あのカースドラゴンは
「ーーん?」
「ーーえ?」
リンとルナは背中に嫌な汗が吹き出した。
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