第117話 結界強化完了
結界を強化すると言われた翌日、リン達は予定通り午前中に作業を切り上げる。
昼食後、セーラに言われるがまま中庭に出てきたリンは疑問を口にした。
「で、結界を強化するって具体的にどうするんだ? 正直、強化してくれとか言われてもどうしたらいいか分からないぞ?」
「安心して下さい、リンに魔術でそんな器用な事が出来るなんて微塵も思っていません」
まったくもって遠慮の無い言葉にぐうの音も出ない。
この一ヶ月、日に日にセーラの物言いは遠慮が無くなってきている。
ステファニア曰く『箱入りでしたから人見知りは激しいですけど、セーラは元々ああいう性格ですわ、まぁそれだけ心を許し始めてるということでもあります。 それにあれで可愛いところもありますわよ?』という事らしい。
「お待たせしましたわ」
「ックソ……なんだって俺がこんな雑用みたいな事をーー」
「すみません、僕が非力なばっかりにオーグさんにこんな事をさせてしまって」
リンがセーラの言葉にヘコみかけていると、ステファニア達が何やら2メートル近い物体を持って現れた。
正確にはオーグが一人で担いでいるのだが。
「それが例の装置ですか?」
「ええ、これで結界の強化は完璧ですわよ」
どうやら結界の強化はオーグが担いで来たら装置で行うらしい。
「それを使うのは分かったが、俺は何をすればいいんだ?」
自分が呼ばれたからには何か役目があるのだろうと思い、セーラに尋ねる。
「リンは今ある結界の術式を出してください。 それをお姉さまが最適化した上でその装置で再発動させます」
「……術式?」
初めて聞く言葉に思わず首を傾げるリンにセーラが冷めた視線を向ける。
だが、すぐに諦めたかのようなため息と共に説明を始めた。
「リンにも分かりやすく言えば、魔法の設計図です。 それを見ればその魔法の規模や効果などが分かります」
セーラの説明後、リンはやり方を聞いて結界魔術の術式を出現させる。
屋敷の庭に現れた巨大な魔法陣、それを見たステファニアとセーラはなにに驚いているのか目を丸くした。
「な、なんですのこのデタラメな術式は……」
「ありえないくらい強引で無駄が多いです……」
酷い言われようだった。
「これはちょっと手を入れるとかそういう問題ではありませんわ」
「根本的に改善が必要です。 そもそもこんな術式、単独で発動するのは不可能、仮に発動したとしても魔力が枯渇して死ぬと思います」
実際死にました、とは口が裂けても言えない。
その後、二人はあーでも無いこーでも無いとブツブツこぼしながら巨大な魔法陣を前に格闘を続ける。
「ダンナも大変だな、あの姉妹に振り回されて」
作業を眺める事しか出来ないリンにオーグが話しかけてきた。
「いや、むしろ助けて貰ってるんだ、感謝こそすれ文句なんか無いよ」
「ダンナは女で苦労するタイプだな」
リンの言葉にオーグは呆れ顔でそうため息混じりに告げる。
なんとなく反論したくなり口を開きかけたリンだが、若干の心当たりからそのまま別の話題を口にした。
「それより頼んでる仕事の方はどうなんだ?」
オーグとはこの一ヶ月でかなり打ち解けることが出来ていた。
歳は離れているが、オーグがそれを気にさせないタイプだったのもあるが、いい意味でリンに遠慮がなかった。
領主であるリンに気安く接してくる唯一の同性だったのも大きかったのか、今ではリンも言葉遣いを含め、遠慮は殆どしなくなっていた。
「ああ、順調だよ。 伯爵の坊ちゃんとイレモスの奴もちゃんと働いてるぜ」
「そうか、まぁ引き続き任せるからよろしく」
リンはオーグに重要な仕事を任せていた。
この度の改革を進める上で恐らくもっとも障害になるであろう存在、それが元公爵派の貴族たちだ。
そんな貴族達を表からアルファ伯爵に、裏からオーグとアルファ伯爵に雇われていたフードの男、イレモスの三人で大人しくさせる。
どうやら上手い事やってくれているようだった。
リンが進める改革は決して現存する貴族の権利を取り上げるようなものにはしていない。
領地の運営に支障をきたさない、税は納めさせるし、貴族達が得る収入も変化はない。
だが、先の違法奴隷のように権力を振りかざし、不当に利益を得るような真似は許さない。
オーグ達に牽制させているのはそんな横暴が当たり前になっている連中だ。
「おう、俺の役目は伯爵の坊ちゃんに釘を刺すぐらいだけどな」
アルファ伯爵は本来なら捕らえられ、爵位の剥奪及び御家取り潰し、で処刑になってもおかしくない罪を犯した。
だが、リンはアルファ伯爵を見逃す代わりに条件を出した。
『俺に全面協力しろ』
アルファ伯爵家はこのルフィアでリンに次いで高い爵位を持つ。
王都の貴族達にもある程度顔が効き、ルフィアの貴族はアルファ伯爵には基本的に従う構図が既に出来上がっている。
それを利用させて貰っているという訳だ。
正直、リンとしてはアルファ伯爵を許すつもりは無かった。
それは今も変わらない。
だが、それなら意味のある形で罪を償わせる事にしたのだ。
まぁ当然、そういった経緯で使っているのでアルファ伯爵はプライドの高さも相まって心中穏やかでは無いだろう。
いつ反旗を翻してもおかしくないのでオーグがお目付役をしている訳なのだ。
ちなみに、イレモスに関しては元々アルファ伯爵に雇われていただけの男だ。
処刑を免れ、更には仕事も貰えるならばと喜んでいるそうだ。
そんな事を話している間に、セーラ達の作業が終わっていた。
セーラとステファニアに術式が滅茶苦茶過ぎてもの凄く苦労したなど散々に言われたものの、どうやら無事結界は強化されたそうだ。
具体的な強化内容としてはーー
1・住民及び領地に明確な悪意を持つ者の出入りを制限。
2・結界の自体の安定化及び強化。
3・結界の半永続化。
という事だ。
装置自体は3つ目の強化である『結界の半永続化』を担っているそうだ。
「では私はこの装置を屋敷の地下に設置しておきますわ」
そう言って再びオーグに装置を担がせると意気揚々と屋敷に戻っていった。
ちなみにあのオーグが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていたので、多分あの装置は相当重たいのだろう。
「では私達も戻りましょう。 と言っても今日はもうお休みでいいです」
まだ正午を少し過ぎた程度の時間だ。
正式に休めると分かり、リンは少し心が踊った。
久しぶりに鍛錬するのも良いし、とりあえず街をぶらつくのも良いだろう。
そんな事を考えながら屋敷に戻ろうとしたリンの視界に人影が目に入った。
「あれは……クリスか?」
最近、騎士団団長として忙しそうにしているとライズから聞いていた。
そのクリスが酷く慌てた様子でリンを呼び止めながらこちらに駆け寄ってくる。
その様子からリンは察する。
『ああ……トラブルか……』
その予感は数分後、クリスの報告で現実のものになる。
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