第68話 まさかの再会
「ではなにか分かったら宿に使いを出します、なにかあれば遠慮なく知らせて下さい」
テリーの紹介された宿の場所を確認したリン達は、最初にギルドへと向かうことにした。
「では行きましょう、道案内は任せて下さい」
事前に聞いていた事だが、ウェインは騎士団に所属していた頃から度々訪れていた為、ドールの地理に詳しいらしい。
ウェインは確かな足取りで先頭を進んでいく。
ドールは東西南北の四つのエリアで構成され、エリア中央には国王が住まう城が建っている。
リン達がいる北エリアは主に商業街で、ドールでも特に賑わっているエリアなのだという。
そんな話を聞いている間に、目的地であるギルドへと到着した。
その外観はルフィアと比べて二回りほど大きく、街の大きさを理解させられた。
「冒険者ギルドですが、ドールは広いので他のギルドの業務も行っている為、非常に大きいんですよ」
確かに都市というだけあって、ドールは非常に広い。
ギルドが一か所しかないのでは何かと不便なのだろう。
そんな事を考えながらギルドの扉を開いた。
中はルフィアと同じ様に正面に受付のカウンターが並び、奥は酒場のような作りになっている。
そこで情報を交換したり、仕事を探したりする。
「さて、私は酒場で情報を集めてきます、申し訳ありませんがリン様は少し待っていて下さい」
リンとしては出来る事なら手伝いたいところだが、ここは専門家に任せた方がいいだろうと思い任せる事にした。
とは言え、特にする事が無い。
なにか興味を引くものでも無いかと自然と視線を巡らせていると一人の子供が目に留まった。
ローブのフードを目深に被っており、一見すれば少女なのか少年なのかわからない。
だが、その小柄な外見から幼いのは間違いなかった。
所在なさげにあたりを見回しているところを見ると、おそらく迷子なのだろう。
そう思ったリンは、手持ち無沙汰な事も手伝ってかその子に声をかける事にした。
「どうしたの? 迷子?」
突然声を掛けられたからか、見てわかるほどに身体が跳ね上がった。
「ああ、ごめんね、困っているのかと思って声を掛けたんだ、俺はリン、君は?」
少しでも警戒を解こうと自己紹介を交えつつ、話しかけたリンだったが、名前を名乗ったところでその子の瞳に驚きの色が浮かんだ。
その様子にリンは少しだけ疑問を感じつつも返事を待つ。
だが、逃げる様子は無いが、じぃーっとリンの瞳を見つめ返すだけで一向に返事はない。
『どうしたのかしら? 怖がっている様子でもないけれど…』
ルナも不思議そうにしていると、背後から声が掛けられた。
「あら? そこにいるのはミクちゃん? どうしたの一人で」
それはギルドの職員と思われる女性だった。
リンが軽く会釈すると、彼女は笑顔を浮かべた。
「こんにちは、貴方は初めましてですね、彼女がどうかしたんですか?」
さすがと言うべきか、職員と思われる女性はリンが新顔だとすぐに気が付いた。
一瞬、子供に声を掛ける怪しい人物だと警戒されているのではと思ったが、そうではなかった。
「お姉ちゃんとはぐれたの? 困ったわねぇ…今日はお姉ちゃん来てないわよ?」
ミクと呼ばれた少女は困った様子でうつむいてしまった。
「すみません、彼女、理由はわかりませんが、一切言葉を話せないらしいんです」
こちらの声は聞こえているらしいので、ある程度のコミュニケーションは取れるが彼女は文字も掛けないらしく、伝えたい事を理解するのが困難だというのだ。
それを聞いたリンは若干後ろめたいものを感じつつ、仕方ない事だと自分を納得させると、彼女のステータスを確認する事にした。
名前:セーラ シルベストル
種族:ハイエルフ
状態:記憶障害
名前からして違う情報だった。
ミクという名前が、偽名なのか記憶障害が理由なのかどうかもわからない。
「ミクちゃん、お姉ちゃんとはぐれたの?」
リンがそんな事を考えていると、職員の女性が再びミクに聞いた。
すると今度は小さく頷いてみせる。
どうやら迷子で決定の様だった。
『まさか迷子で話す事も出来ないなんてね』
『ああ…ん? あ!』
その瞬間リンに閃きが走った。
『なに? どうかした?』
ルナの言葉にリンは薄っすらと笑みを浮かべると――
『あーあー、ミクちゃん? 聞こえる?』
声ではなく、テレパシーでミクに話しかけてみた。
『?? 聞こえる?』
リンの期待通り返事が返ってきた。
――――――――――――
「どうやら、買い物の途中ではぐれたらしいです」
「え? どうしてわかるんですか?」
驚きと疑問が混じったような表情の職員の女性。
それを笑顔で誤魔化しつつ、ミクから聞いた話を伝える。
「もし迷子になったら宿に戻るよう言われていたらしいのですが、肝心の宿がどこにあるかわからず、たまたま近くにあったココに来たそうですよ」
リンの言葉がにわかに信じられないのか職員の女性がミクに「そうなの?」と聞くと、ミクは小さく頷いた。
「分かりました、なんで彼女の言いたい事が分かったのかは追及しません。 なんにせよ助かりました、この子が滞在している宿なら知っていますので私が後程送っていきますね」
そう言って小さく礼をすると職員の女性がミクの手を引こうとした。
だが――
「……なぜ、俺の服を掴んでいるのかな?」
どういう訳かミクはリンの服を掴み、離そうとしない。
それどころか足にしがみつかれてしまった。
これには職員の女性も困った表情を浮かべる。
「えーっとね、ミクちゃん? お兄ちゃんは忙しいから、私と一緒にお姉ちゃんと泊まってる宿屋さんにいきましょう?」
だがミクはリンの足にしがみついたまま、首を横に振った。
「はぁ…困ったわね」
無言でリンの足にしがみつくミクを見て職員の女性がため息をついた。
そこに聞き込みを終えたのか、ウェインが不思議そうな表情を浮かべ戻ってきた。
「えーっと…お待たせしました…というかどういう状況ですか?」
聞き込みを終え、戻ってみればなぜかリンが子供にしがみつかれたまま、職員と立ちすくんでいれば疑問に思うのも当然だった。
リンが事情を説明するとウェインが苦笑いを浮かべながらどこか納得の表情をする。
「ではこうしてはいかがですか? 私たちが彼女を宿まで送りますよ、ギルドの依頼として」
それを聞いた職員の女性は少しだけ考えてから小さく頷くと――
「それしかなさそうですね…今上司に相談してきますので、少々お待ちいただけますか?」
そう言って、職員の女性はカウンターの奥へと入っていった。
「やれやれ、本当にリン様は人が良いといいますか、トラブル体質といいますか…」
『まったくね、まぁそこが良いところだとは思うけどね』
リンは職員の女性が戻るまでミクにしがみつかれたまま待つ羽目になった。
――――――
「では、よろしくお願いします」
形式上の依頼表を受け取り、サインする。
実質ボランティアの様なものなので、報酬は銅貨一枚、それも先払いで支払われた。
「じゃあ行こうか、ちょうど俺たちも君と同じ宿に行くところだったから、丁度よかったよ」
偶然にもミクが滞在している宿は、リン達が泊まる予定の宿だった。
ギルドを出て歩き始めると、依頼表を見ていたウェインが驚きの声を上げた。
「リン様、彼女の保護者ってアナザーらしいですよ」
ウェインから告げられた事実にさすがのリンも驚いた。
「えーっと、名前が…ユーリ ソーマ」
ドクンッ! とリンの心臓が跳ねた。
あまりにも聞き覚えのある名前――
聞き間違いなど思いたい一心でウェインから依頼書をひったくる様に奪い、内容に目を通す。
そこに記されたユーリ ソーマの文字――
それでも信じられず、偶然だと自分に言い聞かせるリンだったが、胸の早鐘が収まる様子は無い。
そんなリンに声が掛けられた、久しぶりに聞くが耳に馴染んだ聞き覚えのある声―――
「やっぱり、凛もこっちにいたんだ」
振り返った先にいたのは、従妹で、幼馴染の
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