第11話 セントアメリアへ
「はぁ……もう限界……でも、ここまでくれば大丈夫ね」
そう言って月竜は祭壇の上にその身体を横たえた。
「本当に無茶してくれたわね、女王の巣に単身で飛び込むなんて自殺と変わらないわよ」
「本当に悪かった……ごめん」
凛は改めて謝罪の言葉を掛けた。
「もう謝らなくて良いわよ。でもこれで分かったでしょ、女王から卵を奪うなんて一個師団引き連れでもしないと不可能に近いよの」
「いや、卵は手に入った、だから月竜に使って欲しいんだ」
苦労はしたが無事に卵は手に入った。
先程、空の上で何度も確認したので間違いない。
「は? なに言ってるの? どこに卵なんてあるのよ」
「ストレージ オープン」
凛は床に手を付けスキルを発動する。
すると床の上の空間が歪み、真っ暗な穴が出現する。
その穴に凛は両腕を突っ込むと
「うん、大丈夫だ。 どこも割れて無い」
そう言って月竜に差し出した。
「使ってくれないか?」
そう言って月竜の目の前にそっと卵を置いた。
「嘘……でしょ……今のなに? 空間魔法でも使ったの?!」
《ストレージ》
スキル保有者が持つ事の出来る物の範囲で物品を保管する事が出来る。
ストレージ内部は時間経過の影響を受けない、また保管する事が出来る容量はスキルレベルに比例し、レベル以上に保管は出来ない。
また、生き物を保管する事は出来ない。
「って事らしい」
スキル詳細をそのまま読み上げた。
「……なるほどね、取り敢えず貴方が規格外な存在って事はよく分かった」
「規格外って……まぁいいか、兎に角それは使ってくれ」
「……貴方は知らないだろうから教えてあげるわ、女王ドラゴンの卵は売れば一生遊んで暮らせるくらいの価値があるのよ?」
それ程貴重なものだとは思ってなかった凛は少しだけ驚いた、だが、
「そうか、でもそれはお前の為に取ってきたものだし、月竜が使って良いよ」
確かにこれからこの世界でどれだけ過ごすかわからない凛にとっては、大金は魅力的な話だ。
だが
自分の利益の為に他者を踏みにじる、そんな大人に苦しめられて来た凛は、自分そうなりたくないと言う強い思いがあった。
「本気? そこまでして助けて貰う覚えが無いんだけど……」
「それを言ったら月竜だってそんな怪我をしてまで俺を助ける理由なんてないだろ? お互い様だよ。 でもそうだな……理由が必要なら俺をそのセントアメリアだっけ? そこまで送ってくれよ、その運賃だと思ってくれれば良い」
本当は月竜の優しさが嬉しかったから、とは照れ臭くて言えなかった。
「そこまで言うなら使わせて貰うわ。 ……ありがと」
月竜が照れたように小さくお礼を言った。
それだけで十分だった。
月竜が卵を全身で包み込む様に抱きかかえる。
すると卵が淡く光始めた。
「多分ちょっと時間かかると思うけど…」
「すぐに治る訳じゃ無いのか……ところでそもそもなんで月竜は呪いなんかに掛かったんだ?」
思ったより時間がかかるようなので、興味本位で聞いて見ることにした。
「……罰よ」
月竜は物凄く気まずそうに言った。
「罰? 何か悪い事でもしたのか?」
「……言わなきゃダメ??」
「まぁ……無理にとは言わないけど、何もせずに待っているのも暇だし、教えてくれるなら聞きたいな」
「っぐ……助けて貰った手前、断りづらいわね」
そう言って月竜は呪いを受けた経緯を話してくれた。
月竜に限らず、竜は本来聖域と呼ばれる場所で暮らし、外界とは殆ど交流を持たないらしい。
そして聖域では龍王と呼ばれる竜を中心に生活しており、月竜はその龍王の孫として生まれ、月の称号を貰い育ったそうだ。
「でもね、聖域での生活ってすっごい退屈なの」
基本的に竜は聖域から出る事は許されておらず、一部の竜以外は生涯を聖域で過ごすのだが、月竜は将来的にはその一部の竜になれるはずだった。だがその為に日々龍王から色々な事を学ぶ必要があった。
「その勉強が物凄くつまらないの」
そして月竜は度々、龍王の教育をサボり、挙げ句の果てには龍王の目を盗んでは外界を見て回っていた。
そしてそれがバレた。
その結果、月の称号を剥奪され、龍王に罰として呪いをかけられて聖域を追い出されたそうだ。
「あんまりだと思わない?! 三千年よ! 三千年! その上、ちょっと外に出ただけで呪いまでかけて! なにが “じっくり反省しろ!” よ! 孫が可愛く無いのかしら!」
完全に自業自得な上に逆ギレしていた。
呪いにより、徐々に力は失われてゆき、その事実に焦った月竜は自力で呪いを解呪する為に女王ドラゴンの卵に呪いを肩代わりして貰うと言う方法を思い出した。
そして単身で女王ドラゴンの巣に突っ込み、返り討ちにあったそうだ。
その結果、更に力を失い今に至るらしい。
「ひどい話でしょ?! そう思わない?!」
「 ノーコメントでお願いしたい」
多少同情の余地はあるものの、基本的には自業自得だろ、と言うのが正直なところだがそれは言わないでおく。
「 まぁ……お陰で今じゃ名無しの竜よ。 だからその月竜って呼び方も正確では無いのよね」
そんな感じで話していると気がつけば卵の発光は既に消えていた。
「終わったみたい、自分じゃちょっと実感が無いんだけど、多分無事呪いは解けてるはずよ」
凛が確認の為に月竜を調べた。
結果ーーー
[月竜 Lv182 称号:月の竜]
「うん、呪いは無事解除されてる」
「 ほんと!? よかったぁ、 本当にありがとう、貴方がいなかったら多分後数日で力尽きてたわ」
その声には隠しきれない安堵と喜びの色が出ていた。
「でも一つ気になる事があるんだ。 月竜はさっき “ 称号は剥奪された” って言ってたよね? でも月竜にはちゃんと月の竜って称号があるみたいなんだけど……」
他にも、前回調べた時には分からなかったLvも確認出来た。
おそらく見える情報が増えたのはスキルのレベルが上がったのだろう、と推測出来たがその事には触れずに称号について伝える
「え? うーん……多分、呪いが解けたのが理由じゃ無いかしら」
そう言われればその可能性は低く無いだろうと思える。
どちらにしろ無事呪いが解けて凛は一安心した。
「じゃあ早速セントアメリアに向かいましょう! と言いたいところだけど、この怪我じゃちょっとすぐには長距離の移動は無理そうだわ」
月竜が申し訳無さそうに言う、だが凛は特に困る様子もなく、月竜に近づくと、自分の両手をかざした。
「オールキュア」
凛が呪文を口にすると、凛の手から淡い光が生まれ、月竜を包み込む。
程なくして光が収まると、そこには傷一つ無い月竜がいた。
「これで大丈夫か?」
「もう大抵の事には驚かないわよ……」
そう言って月竜は身体を起こした。
「話の続きは移動中にしましょう、早速移動を開始したいのだけれど、最後に一つお願いがあるの」
そう言って月竜は凛の方に顔を近づけて肩の辺りを示す。
「竜が自分の背に乗せるのは
凛にその申し出を拒否する理由は無かった。
「むしろ有り難い話だけど、俺なんかでいいのか?」
「当然でしょ、命を助けて貰ったんだもの、これからよろしくね?」
「ああ、こちらこそよろしく」
凛は笑顔で答えた。
「じゃぁ肩に契約の印を刻むわね、痛みは無いから安心して」
月竜はそう言うと鼻先で凛の右肩に触れた。
触れた部分にほんのりと温かい熱を感じた。
「これで契約は完了よ、じゃあ早速出発しましょ」
そう言って月竜は自分の背に乗るよう促す。
凛は軽く地面を蹴りジャンプで月竜の背に跨った。
その時、ふと、役目を終えた卵が目に入った。
別に未練など無いが、このままにしていいものか分からず、一応確認しておこうと思ったのだが--
「じゃあ行くわよ、振り落とされたりしないようにしっかり掴まっててね」
月竜はそう言って翼を広げると、天井の穴から外に舞い上がり、一気に加速した。
不思議な事にその時加速のGや風の影響を感じなかった。
振り落とされないよう必死に掴まっている間に、すっかり卵の事は頭から抜け落ちていた。
『飛んでる間は喋れないから
月竜の声が頭に響いてきた。
『聞こえるか?』
『ええ、大丈夫』
初めてだが上手く通じたようだ
『月竜の声を聞くのは慣れたが、自分で話すのは不思議な感じだな。 ……まさかこれ、他の人にまで聞こえたりしないよな?』
月竜と初めて出会ったと時のことを思い出すと聞いておかなければならなかった。
あんな恥ずかしい思いは俺はしたくない、そう思ったのだが
『ちょ! 恥ずかしい思いってなによ! 思い出させないでよね! これは大丈夫よ、普通竜以外
考えている事が筒抜けになっていた。
物凄くショックだった。
だが月竜以外に聞こえないのには安心した。
『……何気に人の傷抉ってくるのやめてくれる?悲しくなるから……』
本当にダダ漏れである。
『ああ、ごめん…ところで月竜って名前とは違うんだよな』
先程の呪いを受けた時の話を思い出す。
確か今は名無しの竜と言っていた気がする。
『そうね、名前と言えるものは無いわね』
『それじゃ不便だし名前を決めないか?』
月竜と呼んでいるのは便宜上不便だからに過ぎない、相棒となる相手だしきちんと名前を決めたかった。
『そうね、なら折角だから貴方に決めて欲しいわ』
月竜は少し楽しそうに言った。
『え? いいのか? 実は俺の中ではもう決まってるんだ。 “ ルナ ” なんてどうだ? 』
凛は月竜に名前をつけようと思った時、 最初にこの名前が候補に上がった。
神秘的で美しい姿にぴったりだと思えた。
だからかそれ以外いい名前が思い浮かばなかった。
『う、 美し……貴方たまに凄くキザな事言うわね、聞いてるこっちが恥ずかしいわ』
どうやら未だに自分の思考はダダ漏れなようだ
物凄く恥ずかしかった。
『 うん…でも気に入った! これから私の名前はルナに決めた!』
恥ずかしい思いはしたが気に入って貰えて安心した。
『じゃあ改めてよろしくな、ルナ』
『こちらこそよろしくね! リンくん』
凛は頼もしい相棒が出来た事に強い喜びを感じ、目的地のセントアメリアへ向かうのだった。
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