異世界転移したら不死身になってた

にゃる

異世界転移と月竜

第1話 非常識の始まり

 《事実は小説より奇なり》というがある、誰しも一度は聞いた事があると思うが、俺に言わせれば馬鹿馬鹿しい事この上ない。

 現実は常に現実的な事しか起きない。


 曲がり角で食パンをくわえた美少女とぶつかって運命の出会いなんてありえない。


 空から女の子が降ってくるとか、普通に危ないだろ。


 最近では異世界転移して超人的な力に目覚め、八面六臂の大活躍!というのもテンプレ化していて小説や漫画ではもはや当たり前の設定だ。


 そんなオタクが喜びそうな事は現実ではあり得ない。

 俺はそういうは好きだ。

 読んでてワクワクするし良く聞く設定だと言われても、そこに色々な要素が加わる事で、良くある設定でも楽しい物語は沢山ある。

 でも、それはあくまで小説や漫画の話だ。

 現実では起こらないし、そもそも起こったら大変だろ?


 だから


 目の前のこれは


 ありえない


 そう


 夢に違いない…


 ――――――――――――――――――――――――――――


 最初に感じたのは爽やかな風だった。

 次に目を閉じていても感じる日差しと土の匂い、そして頰を撫でる草の様な感触


(…眩しい…けど風が気持ちいいな…)


 最近じゃ連日、真夏日が続き茹だるような暑さが続いている


(土の匂いとか久しぶりに感じたなぁ…土?)


 徐々に意識が覚醒してくると直ぐに違和感を感じる。

 そもそも俺の部屋は遮光カーテンで日差しは入ってこないし、寝る時に窓を開けたりしないので風なんか入ってこない。

 土の匂いなんて部屋で寝ていてするはずが無い。

 何より、背中に感じる硬さ、普段のベットとは異なる、まるで地面に直接寝ているような感覚に


「…って!え?!」


 慌てて飛び起きると目の前に広がる草原


「は? え? ここ…どこ?」


 全く見知らぬ場所で目を覚ました。


「ははは…何…これ」


 全く理解出来ない状況


「待て待て、まぁ待ってくれ」


 混乱のあまり思わず、独り言を言ってしまう。


「まずは状況を確認しよう、なんでこんな見たことも無い場所で寝てるんだ、俺は」


 誰も居ないのはわかっているが自分に言い聞かせるように昨日の事を必死に思い出す。


「えーっと、まず近所にこんな所あったっけ?いやいやいやいや!そもそも昨日はどこで寝たんだ…いや、その前に昨日は何をしていたっけ…」


 あまりの異常事態に思考がまとまらない。


(落ち着け、俺!こういう時は深呼吸だ!ヒッヒッ、フー…ヒッヒッ…フー)


 混乱のし過ぎで深呼吸の時点で既に間違っている事に気がつかないが、それでも徐々に落ち着いてきた。


(……待て、これは深呼吸とは違わないか?これはアレだ出産の時のヤツだろ…深呼吸、深呼吸…スーッ…ハーー、スーッ…ハーー)


 気がついて再び深呼吸


「ふぅ…ちょっと落ち着いて来た、俺は誰だ…」


 まるで落ち着いていない気もするが、そこに気がつけた時点で先程よりはだいぶマシになりつつある。


「えーっと、俺の名前は草壁 凛くさかべ りん18歳 高校三年」


 とりあえず自分に自己紹介してみる


「住んでいるのは東京都豊島区で彼女居ない歴18年、好きな物はゲームとラノベ、親は2年前に事故で他界、現在は叔父に世話になりつつ、独り暮らし中」


 言ってて悲しくなった。


(うん…まぁ、とりあえず自分の事は覚えてる…か。次は…)


 昨日一日の事を思い返していく


(昨日は、普段通り学校に行って、帰りにゲーム屋で予約していたゲームを買った、その後、同じく予約していた新作のラノベを購入、そのままコンビニで夕食を買おうと考えていたら遊里から電話で夕食に誘われたけど、適当に誤魔化して断った後、家で弁当を食べて、ラノベを読みながら寝落ちした…だな)


 遊里はお世話になっている叔父の娘で、要するに従姉妹いとこだ。

 年は一つ下だが抜群に頭が良く、都内でも有数の進学高に通っている。

 面倒見が良く、見た目も悪く無いので結構モテるらしい。

 俺に言わせれば口うるさく小姑の様な奴だ。

 え?俺はどうなんだって?高校も成績も見た目も平均ですが何か?

 脳内で自分にツッコミを入れつつ記憶を探るとかなり落ち着いてきた。


(…うん…間違い無い、昨日は自分のベットで寝たんだ、ならなんでこんな所で目を覚ましたんだ。そもそもここはどこなんだ…)


 改めて見回してみる。

 目の前には見たことも無い草原、遠くには山が見えるがかなりの距離がありそうで、それ以外特に何も見えない。

 後ろも草原、こちらも遠くに山が見えるが、前方のそれよりもはるかに遠く、わずかに影が見える程度で、やはりそれ以外気になるものは見えない。

 唯一、左手側に


(アレは…道路?と言うか道…か?)


 舗装された道の様なものが見える


(……ありえないだろ…これ…どう考えても東京では有り得ない景色だ…)


 産まれも育ちも生粋の都会っ子の凛にとって目の前の景色は現実離れしていた。故に


(…うん、これはアレだ。夢だな)


 そんな結論に至るしか無かった。


「いやー…リアルな夢だなぁ…夢以外あり得ないよなぁ…うん、間違い無い、夢だ、異世界転移モノのラノベ読んでたからこんな夢みてるのか、風とか土の匂いとか草の感触とかどう考えても現実なんだけど、状況的にあり得ないから夢だな…」


 凛は常々思っている。


 現実は常に残酷だ、小説の様にはいかない。


 運命なんて無いし、奇跡なんて存在しない。


 あるのは常に残酷な現実だけ。


 人は簡単に死んでしまうし、努力しなければ生きて行くことは出来ない。


 選択肢を選ぶだけで友人や仲間、彼女が出来たり、ステータスが上がるなんて事はない。


 小説やゲームは娯楽であって、現実とは違う。


 現実は残酷なんだ。


(そうだよ…こんな事、現実ではあり得ない…)


 理不尽な現実を生きてきた凛はリアリストであろうと努めて来た。

 人はそれぞれ色々な悩みや傷を持っているものだが、凛は18歳という年齢で考えれば少々ハードな人生を生きてきた。

 両親の死だけでは無い、人の醜さや愚かさを若い内から嫌になる程見せられてきた。

 そんな経験があってか、ある意味では頑固な考え方をする様になっていた。


(夢じゃ無いとしたら、誘拐?確かに父さんが残してくれた財産は少なく無いけど、それにしたってこんな所に放置するのはおかしいだろ。誘拐ならもっと監禁するなりやり方があるはずだ)


 それでも、あまりにリアルな状況に夢以外の可能性を考える。


(これが現実だとしたらここはどこなんだ、こんな景色見た事ないぞ…日本だと北海道とかならあり得る景色なのかもしれないけど、あいにく目印になりそうなモノも無いしなぁ…)


 そう考え再び周囲を見回しても変わらない光景、地平線でも見えそうな景色に凛はため息をついた。


(まさか日本じゃ無いとか…ははは…それこそあり得ないか、海外に連れてきて、こんな所に放置して行くとか意味が無い、せめて星空なら星座とかで分かる事もあるのかもしれないけど、星座なんて北斗七星とかカシオペア座くらいしかわからないし…)


 そう思って、なんの気無しに空を見上げた凛の視界に、あり得ない光景が飛び込んできた。


(……え?)


 その光景は凛の知る常識とはかけ離れた、非現実的な光景


「な…なんだよ…アレ…」


 現実にはあり得ない光景に凛は


「やっぱり…夢だ…ははは…本当に早く覚めてくれよ…学校だってあるんだ、寝坊するなんて冗談じゃ無いって…」


 それは、凛にとっては日本だとか海外だとか以前に、現実である事を否定する光景


「ありえないって…


  太陽が二つあるなんて…」


 空に並んだ大小異なる太陽が浮かぶ光景だった


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