第5話 反撃とドラゴンブレス
「な…んだよ…これ」
マップ上で凛の周囲は二十匹を超えるドラゴンに包囲されていた。
(嘘だろ…なんでいきなり…まさか…リンクしたのかッ!)
シームレスバトルのゲームではモンスターの一部が仲間を呼んだり、戦闘中に近づいてきた敵もアクティブ化する場合があり、それをリンクするなどと呼ぶ事がある。
状況的に考えれば先程のドラゴンに発見され、逃走したが仲間を呼ばれた。
そう考えると辻褄は合うのだ。
(クソッ、街までもう少しなのに!完全に囲まれてる!)
絶望的な状況でも凛は止まらず走り続ける、
(このまま脚を止めても隠れる場所も無いこんな見晴らしの良い草原じゃ間違いなく喰われるだけだ…前方は若干ドラゴンのマーカーが少ない…どうせ無茶なら一か八か、街まで駆け抜ける!)
座して死ぬなら最後まで足掻く、そう心に決め、一層脚に力を込める
「はぁ!はぁ!はぁ!」
恐怖の為か、それとも単純に体力が尽き始めているのか、徐々に凛の息が上がっていく。
(クソッ!息が苦しくなってきた…でも、止まる訳には行かない!)
マップ上の反応が瞬く間に集まってくる
(きたッ!)
前方から数匹の緑色のドラゴンが飛んでくる
(全部グリーンドラゴン…ッ、なんか怨みでもあるのかよ!)
これまで二度も喰い殺された相手だけに恐怖以上に怒りがこみ上げる。
「ッ…喰われてたまるかぁぁぁぁぁ!!!」
凛は叫ぶ、
恐怖を押し込める為に、
怒りで自分を鼓舞する為に。
「ガアアアアア!!!」
「ギャアアアウ!!!」
「グルル……ッ!」
威嚇されたと思ったのかドラゴン達が吼える。
次の瞬間には凛と二匹のドラゴンが肉薄する。
右からきたドラゴンが大きく口を開ける、
左のドラゴンがその巨大な脚で地に叩き着けんが如く急降下してくる、
その様子が凛には
(ッ!見えるっ!)
殺される直前の走馬灯の様なスローでは無い、
凛にはドラゴンの動きが文字通りスローモーションの様にはっきりと認識出来た。
喰らいつかんとするドラゴンを右に躱し、左から襲い来るドラゴンの脚を潜り抜ける為にスライディングでギリギリ躱す、
(ギリギリだよ!畜生!)
しかし慣れないスライディングに体勢を整えるのが一瞬遅れる。
「ガアアアアア!!!」
二匹の影で見えて居なかったドラゴンが凛を喰い千切ろうと巨大な口を開けて迫る、
体勢を整えきれない凛に回避する事は出来ない距離、
しかし凛は諦めない。
「ッ!ざけんなこのトカゲ野郎!」
渾身のアッパーでドラゴンの下顎を打ち抜く、
玉砕覚悟のそれは、凛の予想を超えてその巨大な
「へッ?」
自分でも想像以上の威力の拳に本人が驚く。
しかし、それまで凛を只の獲物として見ていたドラゴン達も同じだった。
そしてそれは凛にとって値千金の隙だった。
素早く体勢を整え、再び走り出す。
刹那の後、ドラゴン達も凛を追う、
その中には先程凛の捨て身のアッパーで殴り飛ばされたドラゴンもいた。
(クソ!自分でも驚いたけどやっぱり素手じゃダメージらしいダメージは与えられないか!)
自分の拳が信じられない程の威力を発揮した事には驚いたが、やはり戦うには至らない。
そう考えると、逃げの一択だった。
(逃げ切る!絶対逃げ切ってやる!)
幸運にもマップ上、前方にはドラゴンのマーカーは存在しない。
その上街まではこのまま走れば五分と掛からないだろう所まで来ていた。
逃げ切れる、希望が見えたその瞬間後ろから何かが凛の横を通り抜ける。
「!?!?」
それは圧倒的な温度を持つであろう燃え盛る火球
前方に着弾すると爆発と共に地面を、空気を吹き飛ばす。
(ドラゴンブレスか!)
その爆発で吹き飛ばされたのは凛も同じだった。
宙に投げ出され、錐揉みになる。
そして視界に映るのは数匹の燃え盛る火球を放たんとするドラゴン、
(ヤバイ!ヤバイ!ヤバイ!避けられない!)
その事に気がついた瞬間には既に目の前まで迫る火球、
凛の走る速度やドラゴンのスピードと比較して尚圧倒的な速さ、
凛はその瞬間覚悟を決める。
絶対に耐えきる、と
腕を交差し、構える、
人間に直撃すれば形も残らないであろう事は先程の威力が証明していた。
ドラゴンに加減など無い、獲物であれば喰らう為に、その爪と牙を持って狩る。
だが敵であれば話は変わる、形など残す理由は無い。
喰らう為では無く、排除する為のそのブレスに一切の加減など存在しない。
全力でもって放たれたそのブレスは、
狂い無く、
凛に直撃した。
爆ぜる。
圧倒的な威力で空気や大地を吹き飛ばし、全てを焼き払う炎が凛を消し炭にする、
はずだった。
「ぐっ…ぁぁぁ…ッ!!」
(痛い痛い痛い)
人間に耐えられる威力でない事はドラゴン達知っている。
故に目の前の人間が生きている事が理解出来なかった。
(ちくしょう…滅茶苦茶痛い!でも耐えた!耐えてやったぞ!)
それはドラゴン達に動揺を与え、致命的な隙を作った。
(今の…うちに…)
凛は再び走り出す。
そして気がつく、
自分の両腕、肘から先が吹き飛ばされ無くなっている事に
(ちくしょう…どうりで…いたい…わけだ…)
爆炎によって吹き飛ばされた大地によって起きた土煙で視界は完全に塞がっている。
だが、凛にとって視界など必要は無かった。
目を閉じ、 呼吸を止め、走る。
凛には見えていた。
目を閉じ、視界を閉ざして尚、マップは眼前に映し出される。
故に凛は脚を止めない。
呼吸が出来ず、破裂するのでは無いかと思う程に暴れる心臓。
絶える事なく襲い掛かる激痛に意識が白くなる。
それでも走った。
ドラゴン達は追って来ない、上手く土煙に紛れて逃げだせたのかと安堵する。
しかし凛は気がつかない、
上空より見下ろす圧倒的な存在に、
ドラゴン達はそのプレッシャーに動けないだけだという事に、
その存在は静かに見下ろす、
死に物狂いで走る一人の人間を。
――――――――――――――――――――――――――
朦朧とする意識の中、凛は辿り着く。
既に視界を覆う土煙は無く、風が頰を撫で、 土が香るだけ。
しかし、 凛にそれを感じ取る余裕は無かった。
痛みや疲労が原因では無い、
絶望だった。
命掛けでここまで辿り着いた。
二度も殺され、今も瀕死の重傷を負って尚、希望を求め、諦め無かった。
しかし、
目の前にはあるのは、
崩れ落ち、崩壊した、
街の跡だった。
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