第79話 確認

 翌日ーー

 宿で朝食をとり、ウェインと別れた後にメグミの元を訪れた。


 昨日出来なかった話の続きをする為だった。


「じゃあリン君は自分のスキルをまるでゲームのように確認出来るんだね?」


 能力の全てを話してはいない、というのもルナに止められていたのだ。

『不死の能力とマップに関しては伏せておきなさい、その二つは必要以上に知られるのは危険だと思うから』そう言われた。


「そうですね、使った事のないスキルやよくわからないスキルも少なからずありますけど」


「なら可能なものだけでも一度使って確認した方がいいよ、もしかすると強力な武器になるかも知れない」


 特に断る理由も無かったので、メグミの助言に従い今まで使った事のないスキルを試してみる事になった。


 ――――――


 メグミ協力のもと、午前中いっぱい使って試した結果、今まで知らなかった事がいくつか判明した。

 その中でも[物資変成]と[魔術の書]に関しては収穫が多かった。


「その物質変成は今後成長すれば今まで技術的には不可能だった事が出来るようになるかも知れないね」


 [物質変成]のスキルを試したところ、レベルが低い為か大した事は出来なかった。

 木材を木刀に作り変える事は簡単に成功した。

 何よりメグミを驚かせたのは魔石の変成だった。

 レベルの問題か、正確な変成は出来なかったのだが、形そのものを作り変える事は出来たのだ。


「失敗に終わったとは言え、魔石の加工は極めて難しいんだ、何より形を変えるなんて不可能なんだよ」


 スキルは一般的には使う事でレベルが上がるらしいので、今後は練習も兼ねてレベルを上げていく。


 そしてもう一つ分かった事「魔術の書グリモワール]についてだ。


 色々と試してみた結果――


 まず、魔力消費が非常に大きく、燃費が悪い。

 普通の魔導士が10で済むところを、50も100も使っているらしいのだ。

 そして、スキルの説明には『あらゆる魔法が使える』とあるが、どんな事でも出来る訳ではないようで出来ない事もあった。

 魔力が足りないのか、他の要因があるのか分からない。

 とりあえず、イーリスとルナには無茶な事はしないよう釘を刺される結果になった。


 ――――――


「うーん……」


 メグミの好意で昼食をごちそうになりながら、先ほどの検証について話をしていた。


「とりあえず、リン君はかなり特殊なようだね。 はっきりと調べた訳ではないけど、君の能力はそれぞれが異能でもおかしくないほどの力だよ」


「加えて、その異常に高い魔力も考えられないわねぇ」


 メグミとイーリスはそう言って表情を真剣なものに変えた。


「とりあえず言える事はあまり無茶な事はしない方がいいという事だね。 特に魔法は万が一、魔力を使いすぎれば、下手をすると命を失いかねないからね」


 既に一度、魔力の過剰使用で死んでいるとは口が裂けても言えない。


「簡単なもので練習するといいと思うわ、今のリンさんはその膨大な魔力で無理矢理魔法を使っている状態に近いと思うの、正直暴走しないのが不思議なくらい。 だからこそきちんと訓練して魔力を制御出来れば良くなる可能性もあるわよ」


 確かにそうなれば、今まで以上に使い勝手が良くなる。

 使える魔法の幅は広げておいて損はないとリンも思った。


『私も一緒に練習したい』


 先日もそうだったが、やはりセーラは魔法に興味があるようで、今後はセーラと共に魔法の練習をすることになりそうだった。


「それにしても本当に不思議な力だね、このテレパシーに関してもそうだし…… そうだ、リン君一つ試してもらいたい事があるんだ」


 そう言ってメグミは小さな魔石を取り出した。


「その魔石がどうかしたの? 普通の――むしろ質の悪い、ただの魔石に見えるけど?」


 ルナが不思議そうに首を傾げた。


「そういえば、君たちには僕の異能をきちんと伝えていなかったね。 まぁ説明するより見てもらった方が早いかな?」


 そう言って、メグミは自分の手のひらに魔石を乗せた。

 すると、紫色だった魔石が徐々に色を失い、数秒で綺麗な透明の魔石に変わった。


「は?!」


 それを見たルナが驚きの声を上げた。


「これが僕の異能『魔石操作』だよ」


「……貴方も大概ね、ホント異能って非常識だわ」


「?? ルナ、俺には何がすごいのか全く分からないんだが……」


 ルナが呆れるほどなので、すごいのは理解できるがリンにはどう凄いのか理解できない。


「はぁ……」


 ルナはため息を吐きつつも魔石について簡単に説明してくれた。


 魔石とは魔力の結晶体である。

 結晶化した魔力の属性や質で魔石の性質が決まり、量が多ければ多いほど大きくなる。

 そしてその魔石を核に魔物が生まれる。

 質のいいものだと、魔石の持つ性質を利用して特殊な効果を持つ魔導具を作ったりできるが、大抵はなにかの動力に利用したり、大量の魔力を必要とする魔術の補助として利用する。


「リン君達に分かりやすい言えば電池の様なものだね。 普通なら電池は使い終わったら捨てるだけだけど、僕はその魔石を蓄電池に作り変える事が出来るんだ」


 メグミはそう言って先程の魔石をリンに手渡した。


「この魔石に少しずつ魔力を込めてくれないかい? 火でも水でも好きなものでいいよ」


「え、危なくない? 暴発とかしない?」

「やめなさい、危険だわ」

『……』


 理解は出来るのだが、甚だ不本意な意見がほぼ同時に吹き出した。


「……なら危なくない魔法を使うからいいだろ」


 そう考えてリンは魔石に魔力を込める。

 本当に暴発したら危険なので、少しずつ、本当にちょっとずつ魔力を魔石に送り込む。


 すると、魔石が徐々に白い光を発し始めた。


「もういいよ、ありがとう」


 そう言われてリンはメグミに魔石を手渡した。


「……これはすごいね」


「治癒系統の魔力ね、それもほぼ混じり気のない」


 そう言ってメグミとイーリスは魔石を見つめた。


「うん、これなら上手くいきそうだ。 リン君、今後はユーリさんと行動を共にするんだろう?」


 まだ、話あった訳では無いし遊里がどう考えているかは分からなかったのだがーー


「凛が良いなら私はそのつもりですけど、セーラはどうしたい?」


『私は一緒に行きたい。 リンさんと魔法の練習楽しみだし、ルナちゃんは魔法についてすごく詳しいから……』


 遠慮がちにリンを見上げるセーラの瞳が不安と期待に揺れている。

 遊里がそのつもりで、何よりセーラにそんな期待の眼差しを送られたら断る理由などなかった。


「ふふふ、セーラは見る目があるわね、任せておきなさい、私がセーラを立派な魔術士にしてあげるわ」


「……まぁこのアホの子に任せるかは別として、俺の方に断る理由は無いな」


「アホ?! アホって何よ!」


 ぎゃあぎゃあと騒ぐルナを無視してリンはメグミの言葉に頷いた。


「うん、なら今後コレはリン君に任せるよ」


 そう言ってメグミはリンにひと抱えもある皮袋を渡した。

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