第16話 新たな出会い

「ご挨拶が遅れ申し訳ありません、私はキース、小さな商会を営む商人です。 この度は命を救って頂き本当にありがとうございます」


最初に会った男がキースと名乗り頭を下げた。

キースは見た目からまさに商人と言った出で立ちだ

小太りの中年で派手では無いが小綺麗な服装だ。


「頭をあげて下さい、俺は偶然近くを通りかかっただけです」


「いや、本当に助かった、礼を言わせてくれ。 俺はグラス、キースの旦那と同じ商人だ。 商人と言っても武器を専門に扱っている、本業は武器職人だ」


「あの! 助けて頂き本当にありがとうございます、俺はゼン、こっちはガイです。 セントアメリアの新米冒険者です」


次にグラスと名乗る男、年齢こそ50代といった感じだが、鍛えられた肉体は戦士と言われても疑わないレベルだった。

服装も戦士そのものであり、言われなければ商人には見えなかった。


最後の二人に関してはまさに新米冒険者といった雰囲気でどこか頼りない印象を受けた。


今回助かったのはこの四人、後の数名は残念ながら助けられなかった。

リンはその事がずっと引っかかっていた。

もっと早く助ける事は出来なかったのか、何故あの時飛び降りるのを躊躇ってしまったのか。

そんな後悔でリンは素直に感謝の気持ちを受け取る事が出来なかった。

そんなリンの心を読み取り、ルナが話しかけてきた。


『リンくん、それは傲慢と言うものよ、全員を助ける事が出来なかったのはリンくんの責任では無いわ、その事に罪悪感を抱くのはおかしい事よ、それよりも助ける事が出来た四人がいる事、そしてその四人から感謝されている事を素直に喜ぶべきよ』


言われて気がつく、確かに助ける事が出来なかったのは悔しい、だが助ける事が出来た人がいるのも事実だった。

その事実に目を向けると、心が軽くなった気がした。


『分かればいいのよーーーそれよりリンくん、私ヒュームの言葉って分からないの、通訳してくれない?』


「え? ああ、そう言えば会った時にそんな事言ってたっけ、おじいちゃんに言われたとかなんとか……」


『ちょ! また?! その話はするなって言ったでしょ!』


もちろんワザとだった。


「え? 会った時? おじいちゃん?」


キースが困惑した様子で話し掛けてきた、リンはうっかり声に出していた事に気がつく


「あ、ああ、すみませんこっちの話です」


この時リンはある事に気がついた。


『ルナ、今俺が言った言葉が分かったか?』


『え? 「すみませんこっちの話です」って言った事?』


どうやらルナにも理解出来る様だ。

これは大きい発見だった。

スキル《言語理解・共通化》は只の通訳スキルでは無いと言う事だ。

自分の発した言葉は相手が理解出来る言語として耳に届く。

一見すると既に分かっていた事のようだが、ルナとキース二人が理解出来たのだ。

要するに同時翻訳しているという事だ。

今すぐ何か出来ると言う訳では無いが今のうちに知っておけたのはラッキーだった。


「ええと、すみません、余計な事だった様ですねーーーところで失礼は承知の上ですが、 よろしければお名前を教えていただけないでしょうか? 恩人をいつまでも貴方呼ばわりは心苦しいので……」


キースに変な誤解を与えてしまった。

その上自分が自己紹介すらしていない事に気がつき慌てて説明する、


「あ、ああ! すみません! 俺はクサカベ リンです、こっちは相棒のルナです」


名乗った途端四人が突然ひざまづいた。


「大変失礼致しました! 貴族の方だとはつゆ知らずーー」


「あ! ち、違います! 貴族じゃありません!」


リンは慌てて言葉を遮る。


「貴族様では無いのですか? しかし苗字をお持ちなのですよね?」


「え、えーっと……」


思わず言い淀んでしまう。

自分が異世界から来た異世界人アナザーだと素直に告げて良いのか判断に迷ってしまった。

どうしたら良いか分からずルナに助けを求めた。


『ルナ! 俺が異世界人アナザーだと言っても良いのか?!』


『え? なに焦ってるの? 前にも言ったでしょ? 異世界人アナザーはこっちでは広く認知されてるから大丈夫よ、むしろ異世界人アナザーである事を隠す方が余程面倒だと思うわよ? さっき見たいに苗字も名乗ったら貴族に間違えられる可能性まであるわ』


それを先に教えて欲しかった!


だが、やはり隠しておく方がデメリットが大きいようなので思い切って打ち明ける事にした。


「えーっと……信じられないかもしれませんが、実はーーー」


そしてリンはこれまでの事を簡単に説明した。

その際には不死スキルや能力強化に関しては流石に伏せておいた、いくら何でも不信感を持たれかねないと懸念しての判断だった。

一通り説明を終え、恐る恐るキースの反応を伺うと、


「そうだったのですか、それはさぞご不安でしたでしょう。 ましてやドラゴン草原に飛ばされるとは、ルナ様のお陰もあるかもしれませんが、よくご無事でした」


全然無事では無かったです、10回は軽く死んでます。

とは流石に言えなかった。


「成る程な、通りで強い訳だ、異能だったか、余程強力な力を得たんだな、お陰で俺達も助かった!」


グラスが豪快に笑う、本当に商人には見えない。


異世界人アナザー……初めて見ました。 見た目は僕たちと変わらないですね。 あ! 誤解させたらごめんなさい! 変な意味じゃ無いんです。 異世界人アナザーの方はもっと超人的なイメージが強くて、いや! 決してリンさんが弱く見えるとかそういう意味じゃなくて……あああ!ーーーすみません!」


何故か謝られた。

そしてキースが話掛けて来た。


「リン様、我々の世界では異世界人アナザーの方が最初に出会った人だった場合伝える言葉があります、今では多少廃れてしまった文化ではありますが、少しでもリン様の救いになればと思い、僭越ながら私が伝えさせて頂きます」


キースが伝えてくれた言葉


「リン様、異世界人アナザーである事は決して後ろめたいものではありません。貴方は我々と同じ人です。 なにも心配する必要はありません。 私達の世界には多くの種族が生活しています。 差別や時には争う事もありますが、それは極一部の者達です。 どうか心配せず、堂々として下さい。 そして我々の住む世界、エデンにようこそいらっしゃいました」


それはリンの中にあった異世界人であるという後ろめたい気持ちを吹き飛ばし救ってくれる言葉だった。

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