第72話 ハイエルフ

 ハイエルフ、エルフの始祖と言われ、他の種族とは比べ物にならない程の高い魔力を持つ。

 また、非常に長命な為、あらゆる分野において知識と技術を有していた。


 だが、今から千年ほど前に突如、ハイエルフが暮らしていたシルベストル王国と共に滅んだと言われている。


 僅かな生き残りの子孫がエルフと言われている。


「なので厳密にハイエルフとエルフの違いを知る者はいません」


 ウェインの話を聞いてリンは少しだけ冷静に考える事が出来るようになった。


 自分の様に正確に種族を見分ける事が出来る者がいるかは分からないが、そもそもエルフとハイエルフの区別が出来ていないのなら、実はそれほど珍しくないのかもしれないと思ったのだがーー


「その可能性は低いと思うわよ、ウェインの言う通りハイエルフはとんでもない魔力を持っていたわ、それこそエルフとは比べものにならない程ね」


 ルナの言葉によりリンの希望的観測は打ち砕かれた。


「あのさ、そもそもミク……セーラがエルフでもハイエルフでもどっちでもいいんじゃないかな?」


 遊里が事も無げにそう言ってのける。


「確かにそうね、今何か問題がある訳でも無いし、何かあってもリンくんがなんとかしてくれるでしょ」


「ちょっと待て、なんでそうなるんだ……いや、助けるのは構わないんだが、なんで当たり前の事の様に……」


 実際何かあれば、放っておくことなど出来ないが、当たり前の様に言われてはイマイチ釈然としない。


 だが、ルナはそんなリンの胸の内すらお見通しと言わんばかりにーー


「放っておくなんて出来ないでしょ? 何だかんだ文句を言いつつも助けちゃうのがリンくんよ」


「やっぱり凛は相変わらずお節介なんだね」


『……困ってた私にも声をかけてくれた、リンさんは人がいい』


「せめていい人って言ってくれ……」


 リンはそれ以上、言い返す気も起きなかった。


 ――――――――――


「ところでさ、凛の方はどうなの? こっちの世界に来てから色々あったんでしょ?」


「ん……まぁそうだな」


 別に隠す必要は無いのだが、何となくはぐらかしてしまう。


「俺も遊里と似たようなもんだよ、転移して早々にルナに出会って、ルフィアって街で生活してた」


「ふーん、ちょっと意外、どうせトラブルに首を突っ込んで、大変な目にあってるんだとばっかり思ってた」


 まさにその通りであり、完全に図星を突かれた。

 だが、それを正直に言うのは何となく抵抗があり、やはり誤魔化してしまう。


「いや……まぁ多少トラブルはあったけど……それに別に首を突っ込んだ訳じゃない」


「え……なに平然と嘘ついてるのよ……」

「ははは……多少のトラブルですか」


 ルナとウェインの視線が痛い。


「……素直に話す気はないようね、まぁいいけど、後で二人に聞く事にするから」


「いや、だから……」


「それで? なんでドールに来たの? 観光って事は無いわよね、それぐらい話してくれてもいいんじゃない?」


 遊里の視線が真剣味を帯びる、どうやら異能はこういった部分でも発揮されるようだ。

 正直に話すか悩むリンだったが――


「リンくん、ここは正直に話しましょ、協力してもらえればユーリの異能は間違いなく役立つわ」


 ルナがそんな事を言い出す。

 確かにこのままウェインにばかり調査を任せていては負担が大きいし、何より時間がかかるかもしれない。


 出来れば巻き込みたくはなかったが、遊里の様子からも下手に誤魔化すよりいいかもしれない。


 ウェインにアイコンタクトを取ると、ルナと同じ意見なのか小さく頷いた。


「はぁ……わかった、少し長くなるけどいいか?」


 リンがそう言うとウェインが「念のため、周囲を警戒しておきます」とだけ言って、部屋から出て行った。


「はぁ……やっぱりなんか首突っ込んでるんじゃない」


 遊里は大きくため息をついた。


 ―――――――


「と、言う訳なんだ」


 戦争の真っ只中に飛び込んだ事や、叙爵の件などの話は避け、孤児院の件だけに絞って話をした。

 どうしてそうなったのか、という疑問が湧くだろうが、そこは適当に誤魔化して話をする。

 言えば間違いなく色々と突っ込まれるのが目に見えていたし、先ほど誤魔化してしまった手前言いづらかったのもあった。

 

話を終えると遊里は再び大きなため息をついた。


「はぁ……色々言いたい事はあるけど、まぁ事情は分かった。 そういう事なら任せてくれていいよ、何かを探すのは私の力と相性がいいの」


 なんでもギルドの依頼でも探し物や探し人で苦労した事は無いらしい。


「協力してくれるのはありがたいんだが、危険な事に変わりはない、アドバイスだけ貰えればそれで――」


 そう言いかけたところで遊里が不機嫌そうに言葉を遮った。


「そういうところ、直した方がいいって前にも言ったよね? 凛は心配してくれてるつもりかもしれないけど、なんでも一人で抱え込もうとするの悪い癖だよ」


「そんなつもりはない」と言い返そうとしたリンだったが、遊里はそれを許さない。


「はいはい、聞く耳持ちません。 とにかく私も協力するし、自分の身は自分で守る」


「自分で守るって、本当に危ないかもしれないんだぞ、最悪殺されるかもしれない」


「そんな危ない事を凛はするんでしょ? 自分は良くて私はダメって、勝手じゃない? 私の事は私が決める」


 こうなったらテコでも動かないことをリンは長年の付き合いで知っている。


(もともと話す前からこうなる気はしていたけどな……)


 色々と不安はあるが、遊里は昔から自分に出来る事と出来ない事をきちんと判断できる。

 何よりこれ以上なにか言ったところで、逆に自分が怒られるだけなのを理解している為、リンは仕方なく遊里にも全面的に協力してもらう事にした。


 その後ウェインを交え、今後の動きを相談する。

 遊里曰く、北エリアのどこかに潜んでいる気がするらしい。

 とは言え、調査に関してはウェイン以外は完全に素人なので、リン達に出来るのはおとなしく報告を待つ事になった。


「じゃあ申し訳ないけど任せました」


「ええ、任せて下さい」


 ―――――――


「さて、俺たちはどうするかな」


 今後の動きが決まったはいいが、ウェインの調査が進まない事にはする事が無い事に気が付いた。


「あのさ、もしよかったら手伝ってほしい事があるんだけど」


 遊里が遠慮がちにそんなことを言う。


「出来る事ならいいけど」


 本人が言い出した事とはいえ、先に協力してもらってる以上、よほどの事でない限り断るつもりはない。


「ギルドの依頼なんだけど、魔物の討伐依頼なんだよね」


 遊里曰く、倒すのはさほど難しくないらしいのだが、倒した魔物は素材を回収する為にも持ち帰る必要がある。

 だが、ターゲットとなる魔物と言うのが、巨体であり、さらには街から比較的離れた場所にいる為、一体倒す事に街に戻ってくるらしい。


「倒した分報酬は貰えるんだけど、素材も一緒に売ればその分収入も増えるから、頼んでいい?」


「ああ、いいよ」


 二つ返事で引き受ける。


「ありがと、夜までには戻らないといけないし、すぐに動きますか」


 こうしてリンは初めての魔物討伐へと繰り出す事になった。

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