第43話 炎
『……うん、冷静さを失っていた私が悪かったとは思うわ』
街の出入り口に向かって走るリンの頭にルナはしがみついていた。
リンの機転により、先ほど迄パニックを起こしていたルナはすっかり冷静さを取り戻している。
しかしーーー
『でもね! いきなりデコピンは無いと思うわ! 目の前に星が出たわよ! 貴方のデコピンは大の男が吹っ飛ぶ程なのよ! ちょっとは遠慮とか無いわけ?!』
リンが取った機転、それはシンプルに衝撃を与える事だった。
「安心してくれ、手加減はしたから」
『あれで手加減したの?! 安心ってなに?! 首が取れるかと思ったわよ!』
そう言ってルナはリンの頭を翼で叩き抗議する。
「え? 野盗の話でしょ? 手加減してなかったら殺しちゃうって」
走りながら街の様子を確認していく。
最初の攻撃以降、目立った追撃は今のところ無い。
『野盗の話じゃ無いわよ!! え?! じゃあなに? 私には手加減無しだったわけ?!』
頭の上で喚く相棒に面倒くささを感じつつ、ようやく視界に街の入り口を捉えた。
「あーはいはい、悪かったよ、ごめんごめん」
『すごい適当に謝られたわ!』
街の入り口が近づくとその様子がよりはっきりと見えてきた。
(かなり暗いはずなのによく見えるな……これもスキルの恩恵か……)
リンはそんな事を考えつつ街の城壁に設置された門へとたどり着いた。
固く閉ざされた門の前には既に多数の騎士団員が集まっていた。
その中に、ライズの姿を見つけ駆け寄った。
「ライズさん!」
「リン殿! 良かった無事でしたか!」
リンの姿を確認して安堵の様子を見せる。
「大丈夫です。 それより、この攻撃はやっぱり…」
「はい、ほぼ間違い無く帝国軍でしょう。 このタイミングでの夜襲から見ても妨害が目的かとーー」
『リンくん!!』
ライズの言葉を遮りルナが叫ぶ、同時にリンも背中に走る悪寒に身構えた。
それはドラゴンのブレスにも感じた、言い知れぬ感覚ーー
直後街の外壁を越え、先ほどとは比べものにならない程の数の火炎弾がルフィアの街の闇を照らす。
「ーーーーっ!! 魔導師部隊!! 結界魔法展開せよ!!」
ライズの叫びに魔導師部隊が一斉に上空に手を掲げる。
我が望むは万難を排する光の盾!
一斉詠唱と共にルフィアの夜空のあちこちに透明に輝く光の壁が浮かび上がり、直後に多数の火炎弾が衝突、激しい轟音と共に昼と見紛うほどの光が辺りに降り注いだ。
一瞬ののち再び辺りに夜の闇が戻る。
だが、それは結界に守られたリンの周囲に限った事であった。
リンの背後から届いた怒号と悲鳴ーーー
振り返ったリンの視界に飛び込んできたのは、ルフィアの街が燃え盛る様子だった。
「くっ!! 数が多すぎる! 周囲に展開中の奇数番隊はすぐに住民の避難誘導だ! クリス!!」
ライズの呼びかけにクリスが駆け寄る。
「大至急ギルドに緊急応援要請と第一級緊急クエストの依頼だ!! 内容は住民の避難と救出及び帝国軍の応戦だ!!」
「はっ!!」
指示を聞いたクリスが走り去る。
言っていた内容から恐らく冒険者に応援を依頼するのが目的だろうとリンは推測した。
「魔導師部隊! 被害報告は!」
ライズは息をつく間も無く状況に対応していく、その様子をリンは黙って見ている事しか出来ないでいた。
「はっ! 部隊に被害はありません! ですが、敵部隊の攻撃の威力が極め高く、防げるのは同程度の攻撃で後二、三回が限界です」
「っく!! それでは街が壊滅する、だが街の外に展開する帝国軍に応戦する戦力も無い、万事休すか…っ」
籠城しようにも敵の攻撃を防ぐ手段は無く、かといって外の帝国軍に打って出る事も戦力的に不可能ーーー
ライズの言う通り、状況絶望的だった。
(なにか…なにか方法は無いのか!)
目まぐるしい展開に手を出す事も出来ず佇んでいたリンだったが、頭の中では何か出来ないかと必死に考えていた。
(いっそルナと一緒に打って出るか……だけど街に打ち込まれた炎を見る限り、恐らく帝国軍は街を包囲している可能性が高い、一個一個潰したんじゃ間に合わない…せめて、あのバリアみたいなのがもっとあれば…)
とはいえ、先ほどの話を聞く限り、そんなに大量に使える魔法ではない。
そんな事を考えている間に再び火炎弾が外壁を越えて飛んできた。
『!! リンくんっ!!』
「っっ?!」
しかもその内の一つが、死角からリンに襲いかかった。
目の前に迫る炎の塊にリンは回避を諦め、咄嗟に頭の上のルナを掴むとーーーー
『え?』
投げた。
直後に火炎弾がリンに直撃する。
その瞬間を見ていたライズは大声で叫んだ。
「リン殿!!!」
直撃ーーライズの脳裏に最悪の結果がよぎるーーー
「っな!!!」
だが、信じられない光景をライズは目にすることになる。
直撃したと思われた火炎弾を、リンはあろう事か突き出した左手で受け止めていた。
そしてーーーー
「うぉらああああ!!」
右手で殴り、弾き返した。
(流石に熱かったが、ドラゴンのブレスに比べれば大した事無かったな)
「リン殿!! 無事ですか?!」
慌てて駆け寄ってきたライズに気がつき、リンは笑顔で無事をアピールする。
「よかった、正直駄目かと思ってしまいました」
ライズは安堵の息をこぼした。
「ご心配をおかけしました。 この通りなんともーーぐふッッ!!」
「ドゴッ!」という、おおよそ人にぶつかってはいけない音と共にリンの鳩尾に謎の物体が突き刺さった。
『なぁにすのよぉぉぉ!!! いきなりぶん投げるとか殺す気?!』
その正体は先ほどリンが投げたルナだった。
「っっぐぅ…いや…ルナが炎に巻き込まれたらヤバいと思って…」
リンは火炎弾に関しては自分のスキルである全属性耐性でレジスト可能性だと考えていた。
ドラゴンのブレスにも耐えられた経験上、あの程度の炎に脅威は感じなかった。
だが、万が一を考えたリンは咄嗟にルナを避難させるべく、投げたのだ。
だが、ルナが片手で掴める大きさだったという事
、そして咄嗟の判断だった事もあり、
『ありえない勢いで瓦礫の山に突っ込んだわよ! そもそも竜である私にあんな炎効かないわよ! むしろリンくんに投げられた方が怪我するわよ!!』
「いや、ごめんごめん、力加減を間違えた」
未だ鈍痛の残る鳩尾をさすりながらリンがそう言うとーーー
『間違えたで済ます気だ!!』
「それより」
そう言ってライズへと向き直ると、呆然とした表情で固まっていた。
「ライズさん!」
『それより?! ーーーーーーー!!!』
余程怒りが収まらないのか、未だに騒ぐルナを無視してリンはライズへと声をかけた。
「え? あ、すみません」
「このままじゃ街の被害が広がる一方です! なにか方法はありませんか?!」
「………厳しいと言わざるをえません」
その言ったライズの表情には苦悶が見て取れた。
そんな状況に追い打ちをかける報告が飛び込んできた。
「団長!! 結界が持ちません! 後一回凌ぐのが限界です!」
状況は最悪の一途を辿っていた。
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