第38話 治癒魔法
ルフィア騎士団所属の治癒魔導師の一人であるルルは、これまで数多くの怪我や病気を治してきた。
騎士団にいる者なら誰しも一度はルルのお世話になっている。
それだけでは無く、ルフィアに住む者も彼女に救われた者は少なくない。
その為、騎士に限らずルフィアに住む人々の信頼は大きかった。
本人は謙虚な性格の為、口に出したりはしないが、ルフィア騎士団の治癒魔導師ではエース的存在だった。
そんな彼女をもってしてもウェインの傷を癒す事は出来なかった。
だが、諦める事など出来るはずもなく、目の前で消えそうな命を救いたい一心で治癒魔法をかけ続ける。
だが何度かけても、どれだけ魔力を込めようとも、傷は塞がらない。
「どうして…っ!」
遂には魔力も底をついてしまった。
「……ルル、もうよせ…それ以上すれば、今度は君が倒れてしまう」
ルルの必死な姿に止める事が出来なかった騎士達も魔力が切れた様子に、とうとう止めに入った。
「どうしてっ! なんでこんな事……」
遂には両手で顔を覆い、耐え切れずに嗚咽を漏らしてしまった。
「う…なんで…どうして…」
誰かに問いかけた訳では無い。
ただ、己の無力さを嘆く言葉がルルの口から溢れる。
その様子に騎士達は何も答える事は出来なかった。
彼らもまた、何も出来ない自分達が歯痒く、悔しかった。
そんな息苦しい空気が漂い始めた時、複数の足音と声が聞こえてきた。
その声はその場の誰もが知る人物、騎士団長ライズだった。
そのままライズを含む複数の足音はルル達がいる詰所へなだれ込む。
その慌ただしい様子にルル達は驚いた様に部屋の扉へと視線が集中した。
現れたのはやはりライズだったが、その場の誰もが真っ先に飛び込んできた見知らぬ一人の少年と、その横に浮かぶ一匹の生物へと視線が釘付けになった。
「そこに横になっているのが先ほど話したウェインだよ、だが、先ほど伝えたい通りもう…」
リンの後ろで息を切らせながらライズがそう告げる。
その言葉に再び部屋の中に重苦しい空気が漂う。
しかし、リンはウェインに近づき、僅かな間ののち、驚く言葉を発した。
「大丈夫です、 俺が治します」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
清風館を飛び出してリンは全速力で街の入り口へと走り出した。
『ちょっと、何をするつもりかは分かるけど、本当に大丈夫なの?』
ルナはリンの迷いの無さに若干の心配していた。
『わかんないけど、多分大丈夫。 それに何もしないって訳にはいかないだろ? 』
多分と言ってはいるが、その顔には自信が見て取れた。
『それならいいけど、とりあえず一回止まったら? ライズもクリスもついてこれてないわよ、流石にリン君一人じゃ騎士に止められるんじゃ無い?』
マップがあるリンは既にウェインがどこにいるか分かっているので迷う心配は無いと思っていたが、確かに言われてみればその通りだった。
リンがマップを確認すると、二人は完全に置いてきぼりだった。
慌てて引き返し、二人と合流すると、今度は二人がついて来られる速度で再び走り出す。
突然の行動に理解が追いついていないライズ達はリンに声をかけようと思ったが、リンのあまりの脚の速さについて行くのが精一杯だった。
そして気がつけば、ウェインのいる詰所まで全力疾走する事になってしまった。
部外者であるリンを止めようとした騎士達にライズが声を掛ける。
それを確認したリンはそのまま詰所の扉を開け、中へと飛び込んだ。
中に入ると数名の騎士と一人の女性が驚いた様子でリンを見つめていたが、リンは構わずウェインを視界に収め、すぐにアナライズでウェインの状態を調べる。
名前:ウェイン
レベル:17
状態:瀕死 魔毒
「そこに横になっているのが先ほど話したウェインだよ、だが、先ほど伝えたい通りもう…」
後ろにいたライズが悔しそうにそう声をかけてきた。
だが、リンはその言葉に返事をせずにルナにテレパシーを送る。
『ルナ、魔毒ってなにか分かる?』
『魔毒? 確か呪術の一種よ、魔法で出来た毒って言えば分かりやすい? 普通の解毒方法じゃ回復は無理で、かなり高位の治癒魔法が必要よ、とは言え、リン君のオールキュアなら余裕で治るわね』
ルナの言葉にリンは内心ガッツポーズした。
ルナのお墨付きをもらうまで、若干の不安もあったが、そうと分かれば後は治すだけだった。
リンは後ろにいたライズへ声をかけた。
「大丈夫です、 俺が治します」
その言葉に部屋の中にいた者たちが息を飲んだ。
リンはそのままウェインへと手をかざし、以前ルナの一件で習得した治癒魔法を唱えた。
《オールキュア》
魔法の発動と同時にウェインの全身を柔らかい光が包んだ。
「……え、今の魔法…」
リンが魔法を間近で見ていた女性はそう呟いたかと思うと、弾かれた様にウェインへと視線を移すと、驚愕の表情を浮かべた。
「う…そ…」
そこには先ほどまでの傷が嘘の様に塞がり、呼吸の安定したウェインがいた。
「い、今のは…まさか…」
事態が飲み込めていないのか、ブツブツと独り言を呟く女性を横目にリンはライズへと声を掛けた。
「なんとか治せたと思います。 ただ、失った血は戻せないみたいなので輸血とか出来るならした方が良いと思います」
だが、ライズとその場にいた者達は呆然としたまま、リンを見つめていた。
「……あれ?」
『どうしたの?』
二人はまだ知らない。
リンの使った治癒魔法がどういうものであるのかを……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます