第37話 王都制圧
ライズにその報告がもたらされたのは日付も変わった真夜中だった。
今後の動きを考えながら詰所で休憩を取っていると、見回りに出ていた騎士の一人が息を切らせながら詰所へと駆け込んできた。
その様子は明らかに只事では無い。
「報告します! 王都に、せんっ……潜入していた仲間が!」
余程急いでいたのだろう、息を詰まらせ、必死の形相でもたらしたその報告は、間違い無く緊急事態を告げるものだった。
ーーーーーーーーーーー
ライズは街の入り口へと全力で駆けていた。
部下よりもたらされた報告、それは王都へ極秘に潜入させていた部下が瀕死の重傷を負い、帰還したというものだった。
それだけでも異常事態の発生を告げるものだったが、更に衝撃的な報告がもたらされた。
それは王都が制圧され、国王が帝国軍の手に落ちたというものだった。
ライズが視界に街の入り口を捉える、真夜中にもかかわらず、大量の火が焚かれ、遠くからでも確認できる程慌ただしく騎士達が動き回っている。
その中にクリスの姿もあった。
「ーーーーーっ!!」
その様子は明らかに焦りが見て取れた。
「クリス!」
声が届く場所までたどり着くとライズは大声で叫んだ。
「団長!」
クリスだけでなく周りで慌ただしく動き回っていた他の騎士達もライズの到着に気がつく。
「団長! 詳しい事はこちらで! 時間がありません!」
クリスはそう言って、返事も聞かずに走り出した。
ライズもクリスの後を追って走る。
そうしてたどり着いたのは街の出入り口に設置された騎士の詰所だった。
中に入ると数名の騎士と騎士団に所属している治癒魔導師、そして長椅子に横になっている一人の男、その男はライズが王都に潜入させていた諜報専門の部下だった。
男は全身を血に染まった包帯に包まれ、表情は青白く、明らかに瀕死の状態だった。
「ルル…彼の容態は…」
ルルと呼ばれた治癒魔導師は小さく首を横に振った。
「治癒魔法を施しましたが…恐らく、なんらかの魔法をかけられているのか、殆ど効果がなく、原因の魔法もレジスト出来ません…このままだと…」
そう言って悔しそうに顔を伏せた。
「ライズ団長…報告します…」
本当ならば喋る事すら困難だろうに、男はライズに声をかけた。
「っ!」
『無理をするな!』ライズは喉まで出かかった言葉を歯を食いしばり飲み込む。
命がけで火急を知らせるべく、ルフィアへと帰還した部下。
ライズの目にも恐らく長くは持たない事が分かる。
それは本人も同じだろう、それでもなお最期の力を振り絞って使命を全うしようとしている。
その思いに報いる為にも、ここは騎士団長としての責務を果たす為に私情を捨てる。
「王都が制圧されたという報告は受けている、その時の状況や、報告を聞きたい」
周りにいた騎士達、そしてルルも口を挟む事はしない。
皆、分かっている。
だからこそ、一言たりとも聴き逃すまいと、耳を傾ける。
「はい…正午を過ぎた頃でした。 帝国軍が王都の四方より一斉に侵攻してきました。 王国騎士団は度重なる戦闘により歩哨が、満足に配置出来ず…気がついた時には……っぐ…」
男が苦悶の表情を浮かべる。
それでも男は報告を続けた。
「私達はすぐに報告の為にルフィアへの帰還を決め、王都を脱出しようと試みましたが、見つからずに帝国軍の包囲を抜けるのは困難と判断しました。 夜を待ち、闇に乗じて脱出する事にしたのですが、圧倒的な帝国軍の数を前に、疲弊した王国騎士団は夜を待たずに壊滅、帝国軍が王都制圧を宣言しました。 その宣言と共に、王族の処刑を明日の正午に執り行うと…」
正直なところ、半ば分かっていた事だった。
圧倒的な軍事力を持つ帝国軍が本腰を入れて侵攻してくれば、小国であるセントアメリアに勝ち目は無い。
言ってしまえばこれは負け戦なのだ。
当然、既に他国へと逃げ出した者も少なくない。
それを責める事など誰にも出来ない。
だが、それでも国を捨てず、今なお暮らしている国民は少なくない、だからこそ騎士達は諦める訳にはいかなかった。
「わかった…騎士ウェイン、よく知らせてくれた。 後は任せてゆっくり休んでくれ…」
その言葉にウェインはうっすらと笑みを浮かべ、
「ありがとうございます。 後はお願いします」
そう言って、目を閉じた。
「ーーっ! ウェイン!」
ライズは思わず声を上げてしまった。
ルルがウェインの脈を調べ、
「気を失った様です…ですが…」
そう言って再び悔しそうに顔を伏せた。
治癒魔法の効果が期待出来ないのだ、その意味など子供でもわかる事だった。
「ルル、ウェインの事は任せる、せめて安らかに眠れる様見てやってくれ……クリス、一緒に来てくれ」
その言葉にクリスは小さく頷いた。
どこに行くのか? とは聞かない、自分を連れて行くところなど今は一つしかない。
そうして二人は急ぎ、清風亭へと走り出した。
ーーーーーーーーーーーーーー
リンはその話を黙って聞いていた。
というより、何も言えなかった。
今までは漠然としか理解出来なかった戦争という言葉。
それが近づいて、自分の背後に迫っている事実に言葉が見つからなかった。
だが、もう迷っている時間は無い。
それはライズの話からも理解出来た。
なら、自分に出来ることをするだけだった。
「…事情はわかりました、そのウェインさんはまだ生きているんですね?」
突然の質問に、ライズは苦しそうな表情で頷いた。
「ああ…だが、もう話を聞く事は難しいーー」
そこまで言いかけたところでリンは勢い良く立ち上がった。
その突然の動きにライズはもちろんその場にいた全員が驚いた様にリンを見る。
「急いでそのウェインさんのところへ行きましょう!」
そう言って部屋を飛び出した。
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