第29話 黒幕の目的
それは突然だった。
視界に映されたマップからその反応が消えたーー
それまではほとんど動かなかったが、それまでいた場所から移動したかと思ったら、消えてしまったのだ。
リン自身、未だにマップの仕様を正確に理解出来ておらず、反応が消えた原因が分からなかった。
だが、反応が消える=死、という図式が最初に浮かんでしまった。
『アリスの反応が消えたって、なんで消えたの? ……まさか……』
『分からない……反応が消える条件とか一切知らないんだ』
この世界に来て突然与えられた能力、スキルに関してはある程度説明があるので理解出来るが、マップの機能はまるで説明など無い、これまでも手探り状態だったのだ、今回の様に突然発生する未知には困惑するほか無かった。
『分からない、のね? なら多分無事よ』
ルナが多分とはつけたが、ほとんど確信を持って言った。
『なんでわかるんだ?』
『奴隷が死ぬと主人に感覚で伝わるの、だからリンくんが分からないなら、死んではいないわ』
それを聞いてリンは思わずその場に座り込んでしまった。
「……っはー、そうか、生きてるのか……うん、アリスが死んだって感覚は無いな、とりあえず安心したよ」
思わず声に出してしまうほどリンは安堵した。
そんなリンを見てルナは忠告する。
『安心するのは早いんじゃない? 死んで無いだけで問題は起きている可能性はあるのよ?』
そう言われてリンはハッとした。
確かにルナの言う通り、マップから反応が消えた原因は分からないのだ、であればアリスの身になにか起きている可能性を考えるべきだった。
『とにかく一旦宿に戻りましょう? ここじゃ落ち着いて考える事も出来ないわ、まさかこのまま公爵の館に突入する訳にもいかないでしょ?』
リンは思わず唸ってしまった。
何故ならそのまさかで、リンは公爵の館に突撃する気だったのだ。
その様子を見てルナが呆れたように言った。
『ーーーはぁ……リンくん、いくらなんでもそれは後先考えてなさ過ぎるわ』
アリスが生きていると分かって冷静になったリン自身、確かに無謀な事をしようとしていたと反省していた。
そこにトドメの様なルナの言葉で更に自己嫌悪に苛まれた。
『はぁ……リンくんって冷静なのか短絡的なのか分かんないわね、とにかく今は出来るだけ正確な情報が必要よ、それまでは不用意に動かない事! わかった?』
『はい……』
ルナの提案に従って清風館に戻る事にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お帰りなさいませ、リン様、ルナ様」
清風館に戻るとすぐにシンが出迎えてくれた。
アリスが居ない事に気がついた筈だが、特に何も言わずに部屋へと案内された。
部屋に入ると普段なら一言挨拶をしてすぐに退室する筈のシンだが、今回違った。
「少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
おそらくアリスの件だろうと思い、了承する。
するとシンは飲み物を用意すると言って一旦部屋を出て行った。
『話って、やっぱりアリスの事だよな……』
『状況的にそれ以外無いでしょうね、でもこっちとしては助かるんじゃない? シンみたいな熟練者の知識を借りる事も出来るかも知れないし、現状唯一相談出来る相手だしね』
ルナの言う事はもっともだった。
アリスの事を相談出来る相手など他にいないし、とにかく情報も知識も不足している。
その点で考えるとシンの様な相手に相談出来るのは幸運だった。
「お待たせいたしました」
そう言ってシンが戻ってきた。
部屋に置かれたテーブルへと座ると手際よく飲み物を配ってくれた。
ちなみにルナは小さな身体で器用にカップを使って飲む、その事を知っているのかシンは極自然にルナの前にもカップを並べた。
「ふむ、なにやら聞きたい事がありそうですが、先に私の話をさせて頂いてもよろしいですか?」
シンにそう言われ、リンは無言で頷いた。
「ありがとうございます。 まず、状況を見る限りではやはり殿下は公爵様に保護されたのですね?」
やはりというか、シンは最初から想定していたのだろう、どこか確信を持ってそう聞いてきた。
「はい、半ば強引に……」
正確には脅された様なものだったが、なんとなく当たり障り無い返事をしたのだが、
「強引に、ですか? てっきり王女誘拐の罪を着せる等、脅迫まがいの方法だと思いましたが……違いますか?」
リンはその言葉に驚いた。
それも無理ないだろう、シンはその場にいた訳では無い、にも関わらずまるで見ていたかと思うほど正確に言い当てられたのだから驚くのは当然だった。
「……確かにその通りです。 しかしなんでそこまで……」
リンがそう言うとシンの目に鋭さが増した。
「まず、この部屋は人払いを済ませています。 念の為見張りもおりますので安心して話してもらって構いません」
そう言って一旦間を取り、言葉を続けた。
「リン様もお気づきでしょう、今回の襲撃は帝国の手の者では無く、身内側の仕業だと、そしてその黒幕が誰なのかももうお察しでしょう」
やはりシンも今回の黒幕が公爵だと考えている様だった。
「しかし、理由まではおそらくリン様には思い当たる節が無いでしょう」
「いや……あくまで推測というか憶測程度であれば思い当たる節がない訳では無い」
リンの言葉にシンが僅かに驚いた様な気配を発するがリンの話を聞く姿勢を見せていたのでリンは話を続けた。
「一番可能性が高いのが、王位を狙っての事じゃ無いかと思っている」
リンの言葉にシンは感心した様に頷いた。
「驚きましたな、
『確かに言われてみればその可能性は高そうね、よくわかったわねリンくん』
ルナもシンと同じく感心した様に言ってきたが、リンにとってはそれほど難しい事では無かった。
なにしろ元いた世界の小説やマンガでは比較的ありふれた理由だった。
アリスは第一王女であり、王位継承権を持っている、その上で公爵が現国王の弟とくればある意味ではテンプレとも言える設定だった。
更にそこから現状と照らし合わせて考えるとーーー
「その上、おそらく公爵は帝国と繋がっていると俺は考えています」
なにしろセントアメリアは現在帝国と戦争中だ。
しかも負け戦と言われているにも関わらず、王位を狙っているーーー
となればなんらかの密約の元、帝国と繋がっていると考えなければ、辻褄が合わなくなる。
誰が好き好んで敗戦国の王などになりたがるだろうか。
おそらくは公爵が国王の座に就いた後、帝国との戦争をなんらかの形で終わらせる所まで織り込んでいるのだろうと考えていた。
そんな事をシンとルナに話すと、
「ますます驚きましたな、よくそこまで……」
『リンくん……さっきの剣術と言い、貴方本当に平和な異世界から来たの?』
二人ともかなり驚いた様子だった。
「それよりシンさん、先ほど私達、と言っていましたが、ひょっとしてそれがシンさんの話したい事ですか?」
その言葉にシンの表情が僅かに揺れた。
リンは先ほどシンが
シンにはアリスの件は他言無用とお願いしていた。
シンが無闇に他者に漏らすとは考えづらい、であれば今回の件に何者かが絡んでいると考えるのが自然だった。
そしてその何者かもおおよそ察しがついていた。
そしてその考えの元、マップを確認すればその考えは正しかった。
「という訳ですから、どうぞ入ってくださいーーーークリスさん」
その言葉にシンが驚愕の表情を浮かべた。
そして一瞬の間を置いて部屋の扉が開かれると、そこにはバツの悪そうな表情を浮かべたクリスと、見知らぬ一人の騎士が立っていた。
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