異世界転移したら不死身になってた

第45話 ルフィア大結界

「避難に関しては承知しましたが、リン殿が結界を張るというのはどういう事なのですか？」

「先ほども言いましたが、何しろ初めてなんで成功する保証は無いんですよ。 とりあえずいつまた攻撃が再開するかわかりませんから、ライズさん達避難の準備を進めて下さい」

　そう言ってリンはその場で大きく深呼吸をした。

　ルナにはああ言ったが、やはり不安は小さく無い、だがなにもしないでいる事は出来なかった。

　何よりーー

(あくまで最終目標はアリス達の救出だ、これ以上時間をかけていられない)

　本来なら既に出発していてもおかしくない程には時間を使わされている。

(いくぞ……！)

　意を決して魔法を発動するーー

　意識すると同時に足元に魔方陣が出現する。

(イメージ……この街全体を覆う巨大なドーム型の結界だ…)

　リンにとって結界の形のイメージ自体は簡単だった。

　日本のアニメや漫画ではよく見る形だ。

　表面はダイヤモンドのブリリアントカットの様な多面体で強度もリンが知る限り最も硬い物質ーー

　それを明確により強固に魔法に込めるーー

　《我が望むは絶対強固な金剛石の盾ーーあらゆる力、これを傷つける事能わずーーあらゆる衝撃、これを破壊する事能わずーー》

　リンは願いを込めた詠唱を口にする。

　直後、経験した事がない程の虚脱感が襲いかかってきた。

　全身に力が入らず、立っている事すら辛くなる。

　だが、必死に踏ん張る。

　直感が告げる、ここで倒れれば魔法は失敗に終わるーー

　使った魔力も戻らず、動く事も出来なくなる。

　ここで倒れれば目覚めた時には全てが終わってしまう。

　それだけは絶対に許せなかった。

　故に唱える、己が願いを言葉に乗せる。

　《ーーーこれは永遠なる輝きを持つ守護の庭！！》

　巻き起こる魔力の奔流、目がくらむほど輝きが迸った。

(やった、か……多分、上手くいった…な、あ（・）と（・）は（・）…)

　リンの意識はそこで闇に落ちた。

　ーーーーーーーーーーーーーーーー

　結界魔法、初歩的な魔法として知られるが、身を守る基本的な魔法でもあり、魔術師を志す者なら誰でも身につける魔法だ。

　そして基礎の魔法だからこそ実力の差がはっきりとでる。

　ルルはもちろん、魔法を使う機会の少ないライズやクリスも知っている。

　だがーーー

　目の前のそ（・）れ（・）はその範疇から外れていた。

『冗談じゃないわね……私のご主事様は…』

　目の前のリンが放つは圧倒的な魔力、それはさながら局所的な嵐の如く吹き荒れる。

「なに…これ…」

　放たれる圧倒的な魔力にルルは腰が抜け座り込んでしまった。

　クリスとライズですらその場に座り込みたい程に圧倒されてしまう。

「こんな…事が…団長、私は夢でも見てるんでしょうか？」

「奇遇だな、私もちょうど同じことを思っていたよ…」

　誰もが見ている事しか出来ない、動く事も叶わず立ち尽くす。

　そんな中、唯一冷静なままで見守るルナは、ただひたすらに無事を祈る。

(死んだら許さないわよ、リンくん…)

　時間にすれば僅か１分足らずの時間であったが、その場にいた者たちははるかに長い時間を体感していた。

　だが、それは突然の激しい光と共に終わる。

　徐々に収まった光に目を開いたライズ達に信じられない光景が飛び込んだ。

「こ……これは……」

　天上に輝く結界ーー

　それは、ルフィアの街を外壁に沿うように隙間なく存在した。

「すごい綺麗…これが結界？ 信じられないほどに高密度な魔力…それにこの大きさって…」

「ははは…」

　ただ呆然とその光景に目を奪われた。

『ライズ！』

　突然響いたその声に我に返ったライズが声の主を探すと、そこには倒れ臥すリンの姿が視界に入った。

「っ！！ リン殿！！」

　すぐに駆け寄りリンの様子を確認する。

　その様子に気がついたクリスとルルが遅れてリンの元にたどり着く。

「ッッ！！」

「リンさん！！」

　倒れたリンを見てルルは声にならない悲鳴を上げた。

『騒がないで！ リンくんなら大丈夫！ 事情は後で話すから今はリンくんを運ぶのを手伝って！』

　ルナの言葉にすぐに反応できたのは二人ーー

　しかしルルだけは聞き覚えのない声に困惑したまま悲痛な叫びをあげる。

「何ですかこの声は？！ 一体どこから聴こえて…」

『いいからいう通りにしなさい！ クリス！ その小娘は任せたわよ！』

　構っていられないとばかりにルナが叫んだ。

「こ、小娘？！」

「ルル！ いいから今は言われた通りにするんだ！」

　クリスはルナに言われた通りにルルの手を引くとそのまま騎士達の元へ走り出した。

『ライズ！ リンくんは任せたわよ！』

「わかりました。 今は言われた通りにしましょう」

　ライズはリンを抱え、クリスを追う。

　騎士達の元に着くとすぐに撤退の準備を急ぐよう指示を出した。

　騎士達に動揺はあったものの、団長の指示とあってすぐに撤退の準備を再開した。

　ライズはクリスとルルを呼ぶとそのまま詰所へとリンを運び込みとベッドにその身体を横たえた。

　その時ライズはリンの体温から、既に事切れている事に気がついてしまった。

「団長！ リンさんの容態は…」

　クリスの言葉にライズは力無く首を振った。

「そんな…」

　クリスは余りのショックに思わず膝をついてしまった。

　リンの事を報告し、ライズに協力を進言したのはクリスだった。

「私が…私の責任だっ…！」

　クリスは苛立ちと悔しさから床を殴りつけた。

　何度も繰り返し床を殴った事でその拳が裂け血が溢れる。

「クリス！ やめて！」

　ルルはクリスの腕に飛びつくと、そのまま治癒魔法で裂けた拳を治療する。

「やめろ！ リンさんは私のせいでっ…！」

　そう言ってルルを振りほどくと今度は壁に拳を振りかぶった。

　その瞬間、「ゴツっ！」 という音を立ててルナがクリスの後頭部に体当たりした。

　その衝撃に思わずクリスは蹲った。

『やめなさいっての！！ 見苦しい！』

　そう言ったルナはリンの身体の上に降り立った。

『さっきも言ったでしょ、リンくんは大丈夫よ』

　その言葉に三人は思わず顔を見合わせた。

　ルルが無言でリンに近づくとその手を取り、表情を暗くした。

「えっと、ルナさん…ですよね、こんな事言いたくはないですが、リン様はもう…」

　ルルはその先を口にすることが出来ず、俯いてしまった。

『……そうね、普通なら完全に死んでるわね。 でも、リンくんは普通じゃ無いのよ』

　その言葉をルルは使い魔が主人の死を受け入れられず、そう思いたい気持ちから出た言葉だと思ってしまった。

「……ルナさん、主人を亡くした事を認めたくない気持ち、痛い程わかります、ですがーー」

『しつこいわね、大丈夫って言ってるでしょ』

　ルナは既にリンの蘇生を確信していた。

　その理由はリンとの主従契約だった。

　本来なら主従契約はどちらかの死によって解除される。

　しかし、リンとの契約は解除されていない。

『……これから話す事はリンくんにとって重要な秘密なの、だから絶対他言無用よ、もし、守れなければ私が貴方達を殺すわ』

　その言葉と共にルナは三人を威圧する。

　その小さな身体から発したとは思えない程の殺気が三人に突き刺さる。

　その殺気は三人の中でも頭一つ抜けた実力を持つライズですら無意識に後ずさる程だった。

「ルナ、もうやめろって」

　その声にその場の三人が驚愕の表情を浮かべる。

　それも当然の事だろう、その声の主は先ほどまで死んでいたのだから。