第123話 歪
鬱蒼とした森をリンとオーグを先頭に進む。
薄暗く見通しの悪い森は普通なら簡単に迷い、遭難しかねない。
迷う事なく進めるのはリンの力によるものだ。
これまでリンは極力自身の能力について他人に話してこなかった。
だが、今回は最初から危険な事が分かっている。
その為、リンは森を進みながらオーグとフェイに自身の力を伝えていた。
オーグは最初こそ半信半疑だったが、ステファニアやアリス、ユーリも事実であると、自身が証人であると言われては信じざるを得なかった。
ちなみにフェイはまるで疑う事なく信じ切っていた。
一応、二人には他言しないよう口止めしておく。
仮に話したとしても眉唾ものなのでさほど心配してはいなかった。
リンが一通り話終えた辺りで周囲の様子に変化が現れ始めた。
「こいつは……」
「カースドラゴンの影響でしょうか?」
先程まで鬱蒼と生い茂っていた樹々が枯れ果て、朽ちているものが目立ち始めた。
それは進む程に増え、程なくして枯れ木だけになってしまった。
「……瘴気の影響ですわね、かなり濃くなってきましたし無理もありませんわ」
「え? それって私たちは大丈夫なの?」
心配するユーリにステファニアはニッコリ笑顔を浮かべ——
「大丈夫な訳ありませんわ」
平然とそう言ってのけた。
「いやいやいや! 顔と言ってる事が全然一致してないから」
焦るユーリをステファニアが手で制する。
「分かっていますわ『נקה את הזוהמה』」
ステファニアが聞き取る事が出来ない言葉を発する。
それは以前カプトとの戦闘中に一度だけ聞いた言葉とどこか雰囲気が似ていた。
そして意味は分からずとも、それが何かの魔法であり、瘴気に対する対策であろう事も理解できた。
「これで完全とは言えませんが瘴気の対策は問題ありませんわ」
「ありがと! ちなみに今のって魔法だよね? なんか聞いたこと無い言葉だったけど……」
「ええ、ハイエルフに伝わる古い言語ですわ。 言葉自体が力を持ち、大幅に詠唱を短縮できるので重宝していますの。 詳しい事は秘密ですけれど」
そこでリンはふと疑問に思った。
スキルのお陰でリンとユーリはこの世界の言葉を理解出来る。
読んだり書いたりは出来なかったのでそこは覚えたのだが、言葉自体は自然と理解できるのだ。
だが、ステファニアの言う古い言語は理解出来ない。
とはいえ、そもそも言葉が理解出来るスキル自体、何故あるのか分からない以上、考えても意味はない。
それにしてもまたか、そうリンは内心ため息を吐いた。
どうにもステファニアは隠し事が多い。
言えない理由があるのだろうが、わざわざ隠している事を匂わせるのだ。
嘘が下手という訳でも無いように思えて、ますます意味が分からない。
そんな理解し難い行動を取るものだからどうしても言動が気になってしまう。
(何を聞いても雑にはぐらかすばかりだしな……今回も聞くだけ無意味だろう、考えても無駄か)
ふとユーリを見るとリンと同じようになんとも言えない顔をしている。
多分同じことを考えていたのだろう。
リンの視線に気がついたユーリが力なく首を横に振る。
『聞くだけ無駄だろうね』
言葉にしなくても容易に理解できた。
そんなやりとりを交えつつ、慎重に進んでいると唐突にリンとオーグの足が止まった。
視界の先に捉えたソレ——
「……ダンナ、あれで間違いなさそうか?」
「ああ、どうやら間違いないな」
まだ距離はあるものの、枯れ果てた森の中でソレは強い存在感を放っている。
日の光を反射し黒光りする巨大な体躯の生物——
ターゲットであるカースドラゴンの姿だ。
「うーん……でもこれじゃ作戦通り行くのは難しそうだね」
カースドラゴン討伐において主軸になるのはアリスの浄化魔法だ。
作戦では発見次第、気づかれる前に先制するつもりだったのだが、隠れて近づこうにも樹々は枯れ果て、茂みの一つもないこの状況では難しい。
とは言え、不意打ち一発で終わるなどと楽観的には考えていなかったし、そもそも不意打ちが出来ない事も想定内だった。
「まぁ最善がダメになっただけだ、ある程度正面からぶつかる可能性の方が遥かに高かったんだ。 気にするような事じゃないさ」
「そういうこった、最終的に勝てばいいだけだからな」
なんにしても遠くから眺めていても始まらない。
なにより、こうしている間にカースドラゴンが移動しては元も子もない。
「じゃあ行くぞ、ここからはいつ戦闘になってもおかしくない、全員集中していくぞ」
リンの合図に全員がしっかりと頷く。
いよいよカースドラゴンとの戦いが始まろうとしていた。
————
(カースドラゴンを見つけたようだね)
日竜はリン達をはるか上空から観察していた。
その理由はもちろんリンとルナがきちんとカースドラゴンを始末するか見張る為——
などではない。
(強力な個体ではあるけど、まぁ負ける事はないね。 お仲間達はどうだか知らないけど)
日竜が監視するのはあくまでリンとルナだけであり、他の者たちはその対象ではない。
有り体に言えばどうなろうと関係ない。
重要なのはリンとその力、そしてそんなリンと契約を結んだルナだ。
カースドラゴンというほどよく強力な個体とぶつかる事で二人の現時点での実力を確認して竜王に報告する事、そして
それが日竜に与えられた本当の使命だった。
(正直、現時点では微妙だよねぇ……なんというか危ういし)
日竜の目から見たリンに対する印象はあまり良いものではなかった。
(あの子……ユーリっていったっけ、彼女の話だと色々トラウマを抱えてるっぽいけど、それを乗り越えるだけの器があるかってところだけど)
ユーリから聞けた話は決して多くはない。
両親を亡くしている事、お節介でトラブルに自ら首を突っ込んでいくタイプである事。
現実主義を自称しているが、実際の行動は極めて理想主義である事。
(なーんか言動と行動が歪だよねぇ……
ユーロとセントアメリアの戦争——
ドールでの行動——
それまで見てきたリンの行動が日竜の目には歪で不安定なものにしか映っていなかった。
(どちらにしても
あれこれ思案しているうちに、気がつけばリン達がカースドラゴンと戦闘を開始していた。
(あー……アイツちょっと見ない間に急激に強くなってない? 契約者は死なないから良いけど、お仲間達はちょっとヤバいかもね……まぁ僕には関係ないけど)
日竜の役目はあくまでリンとルナの監視だ。
(竜王に命じられたのは二人の監視だ、余計な手出しは禁じられてるしね……)
日竜は眼下で繰り広げられる戦いを見守りつつ、少しだけ高度を落とした。
異世界転移したら不死身になってた にゃる @nyaru0215
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