第7話 異世界転移のお約束

 

「それで?何度も死んでるってどう言う事ですか?」


 完全に不貞腐れた様子のドラゴンがようやく口を開いた。

 あの特大の爆発の後、ドラゴンは一言


「少し待って下さい。」


 と言われた。

 その言葉には有無を言わさぬ迫力があり、凛は首を縦に振るしか無かった。


「どう言う事と言われてもな…そのままの意味だよ。」


 そして凛はここまでの転移からの経緯をドラゴンに話した。


「…ちょっと信じられない、と言いたいところですが、実際にわたしもこの目で見ていますし…ね、随分ととんでもない異能に目覚めましたね。」


 気になる言葉、


「一つ聞いていいか?」


「え?どうぞ」


「その異能ってなんだ?」


「そうですね、異世界人アナザーの人が必ず目覚める力と言われています。それ以上の事は殆どわかっていません、私が知っているのは、異世界人アナザーしか得る事が出来ず、この世界に存在しない技能スキルです。異世界人アナザー毎に違いが有り、必ずしも有用な力とは限らないそうです。」


 そこで改めて凛は思い出す、最初にこの世界に飛ばされた時に確認した、メニューの中のスキルの項目


「そう言えばこの世界に飛ばされた時、最初に自分のスキルを見たけど、その中のどれかが異能だったって事か?」


 何気無い質問だった。


「はい?見た?見たって何を見たんですか?」


 会話が噛み合わない、


「え?だから、この目の前のやつで見たんだけど、俺はメニューとか勝手に呼んでるけど」


「え?ちょっと待って、目の前のやつ?見る?メニュー?何を言ってるのかわからないけど、異能や技能スキルは見えるものじゃ無いわよ。

 生きている中で自然と理解するもので、名称だって本人だけに理解し得るものよ。」


「え?」

「え?」


 お互い間の抜けた反応を取ってしまう。


「ちょっと待ってくれ、こうこの辺の視界に何か映されてそこで色々操作するのは普通じゃ無いのか?」


 凛は慌てて身振りで視界に映るメニューの位置を伝えようとする


「いや…聞いた事無いわよ…かれこれ3000年くらい生きてるけど、これまで一度も無いわね」

「3000年?!」


 思わず聞き返してしまう。


「いや、竜族なら当たり前よ、むしろまだ若いくらいよ!というかそんな事も知らないの?ひょっとして貴方の住んでた世界では竜族は転生しないの?」


「色々と気になる点があるけど、そもそも俺のいた世界にドラゴンなんていないよ、ドラゴンだけじゃ無い、モンスターとか魔物とかは全部空想上の生き物だし、言葉を喋るのも人間だけだよ」


「はぁあ?!嘘でしょ?そんな世界があるの?!

 はあ…まぁいいけど、それよりそのドラゴンって呼び方はやめて欲しいんだけど。」


「え?あぁ、ごめん、それなら名前を教えてくれないか?」


 そう聞いた凛の視界に目の前のドラゴンの名称が表示された。


 [月竜 Lv⁇ 状態異常 カース]


「名前は…もう無いけど…ドラゴン扱いはやめてくれればいいわ…あぁ、そっか成る程ね、知らないのか」


 名前が無いと言う所に違和感を感じたが、あえて触れずにおく。


「じゃあ月竜げつりゅうでいいか?」

「??!! なによ知ってるんじゃない!馬鹿にしてんの?!」


 月竜の突然の怒りに驚き、思わずたじろぐ


「ちょ!ちょっと待ってくれ!なんでいきなり怒るんだよ!俺はただあんたを調べたら月竜って表示出たからそう呼んだだけだって!」


「はぁあ?!また訳の分からない事を!……いいわ、聞いてあげる、調べたら表示ってどう言う意味?」


 なんとか話を聞いてもらう事が出来そうな雰囲気に慌てて説明する。

 今にも襲いかかってきそうな恐怖を感じつつなんとか聞いてもらう事が出来た。


「ふーん…そんな技能スキル聞いた事無い、嘘くさいわね」


 一体何が原因でここまで怒らせたか分からず、凛は困惑する。


「なら他に分かる事は?その内容次第では信じてあげてもいいわ」


「他に分かる事?!え、えーっとLvは??って表示だから分からない、後は状態異常カース?呪いって意味か?それぐらいしか…」


 そう言った瞬間、目の前の威圧感が消えた。


「な…んで…その事を…お爺様以外知らないはずなのに!」


 見た目には分からないが、その声は明らかに動揺が見られた。


「え…えっと…不味かったか?」


 また知らないうちに地雷を踏み抜いたかと思い恐る恐る問いかける。


「…いえ、大丈夫よ…わかった信じてあげる。

 ついでに教えておいてあげる、ドラゴンと竜は確かに近い種族だけど竜は全てにおいてドラゴンを上回るわ、竜種をドラゴン呼ばわりする事は最大の侮蔑に当たるの、それこそ私みたいに温厚な竜で無ければ問答無用で殺されるわよ」


 冷や汗が流れる、そして理解する。

 知らないと言いながら、メニューの力で得た情報を口にしたが為に、、と受け取られた訳だ。

 怒るのも無理ない事だった。


「それと、さっきの話だけど、メニュー?だっけ?それも信じてあげる、その上で教えてあげる。、秘密にしておいた方がいいわ。

 特にヒュームには絶対に警戒される。」


 そう言って月竜はその大きな口からため息を吐いた。


「ありがとう、後本当にごめん、知らなかったとは言えかなり失礼な事を言っていた。」


 本当に申し訳ない気持ちになり謝罪する。


「いいわよ、成る程ね、だから最初に会った時、私に襲いかかってきた訳か。

 貴方には草原の奴らの仲間に映ってたのね、考えてみれば明らかに強い敵意が見えたし、言葉は分からなかったけど怒りだけは伝わってきたもの、必死に話し掛けても全然止まらないし、最初は言葉が通じないだけだと思ったけど、怒りで聞こえなかった訳ね」


 また言葉に引っかかりを覚える


「ちょっと待ってくれ、話し掛けた?全然何言ってるか分からなかったぞ!」


 凛には話しかけられた覚えなど無かった。


「だから怒りで聞こえて無かったんでしょ?結構必死に止めたんだから」


 凛の中の違和感が強くなる


「イヤイヤ、月竜から聞こえたのは唸り声だけだったぞ」


「そんな筈無いでしょ、私は最初も今もわよ、貴方こそ最初はヒューム語で喋ってたでしょ。

 生き返っていきなり竜語になったのは驚いたけど、冷静になって話し合う気になったんだと思って…」


「イヤイヤ!そもそも俺はヒューム語だとか竜語だとか聞いた事も無い、自慢じゃ無いが日本語しか喋れないぞ!俺は最初からずっと日本語で…」


 その時、凛にある予感が芽生える。

 思考が加速し、飛ばされる前の知識と異世界での出来事、そして月竜に教えられた異能と言う力、それらがピースとなって組み上がる


「ま、さか…」


 慌ててメニューを操作する、


 確認するのは《スキル一覧》


 月竜が話し掛けてくる


「ちょっと、いきなり黙り込まな…」

「ちょっと待ってくれ!今確認してる」


 言葉を遮り、スキルを確認する。


 最初に確認し無かった部分も含めて、思考を飛ばす


 そして


「ははは…そう言う事か…本当に…非常識極まりないお約束だよ…」


 凛の視界に映ったそれは《スキル一覧》とその《スキル詳細》


 それはラノベではお約束のチートスキル満載の内容だった。






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