第74話 魔法の才能
ニコニコと本当に嬉しそうなメグミの表情で魔導銃をユーリに手渡した。
「ユーリさん! 本当にありがとう、まだまだ改良の余地はあるけれど完成と言って問題ないものが出来たよ! すべてはユーリさんの協力のおかげだよ!」
よほど嬉しかったのか、場の空気など意にも介さないメグミのおかげで緊張していた空気が霧散していく。
「うふふ、みんなも疲れた様だし何か飲み物でも用意しますね」
気を利かせたイーリスが用意してくれた飲み物を口にしたところで、ようやく全員が落ち着きを取り戻した。
「さて、ユーリさんこれで依頼は完了です。 この書類をギルドに提出してもらえれば報酬を受け取れます。 それと――」
「あ、あの!」
メグミの言葉を遮るように遊里が声を上げた。
「え? どうしたの? なにかまずかったかな?」
「いえ、そうじゃないんですけど……」
なにやら言い淀む遊里だったが、突然頭を下げた。
「その魔導銃を売ってくれませんか?」
突然の申し出にメグミは一瞬キョトンとするが、すぐに表情を崩すと、一枚の書類と一緒に革製の何かを取り出した。
それが何か、リンはすぐに気が付く。
「これって、ホルスターってやつか?」
「正解だよ、僕も知識としてしか知らないけれど、試しに作ってみたんだ。 魔導銃が武器である以上、ある程度の携帯性は必要だと思ってね」
そう言って、メグミはその手作りのホルスターに魔導銃をしまうと遊里の手に握らせた。
「はじめから魔導銃が完成したら譲るつもりだったんですよ、それに依頼はこれで完了ですが、まだまだ改善の余地はありますし、よかったらこれからも協力してもらえませんか?」
「は、はい! ありがとうございます!」
遊里は深々と頭を下げた。
「ところでーーリン君も冒険者として活動しているのかい?」
「いや……冒険者登録自体はしていますけど、実際依頼を受けた事はないですね」
質問の意図が分からなかったが、リンはとりあえず正直に答えた。
「戦う手段はあるのかい? 武器もそうだが、魔術や異能とか、この世界に来て間もないなら困っているんじゃないかと思ったんだがーー」
異能ーーその言葉に場の空気が凍りついた。
メグミに悪気は一切無いのだが、先ほどの出来事に全く気がついていなかった為、飛び出した言葉だった。
「メ、メグミさん! その話はーー」
遊里が慌ててメグミの話を止めようとしたが、リンはあっさりとその質問に答えた。
「魔法は使える様になったし、近接戦も特に問題無いと思いますよ。 だだ、自分の異能に関してはよく分からないんですよ」
先ほどのの出来事が嘘の様にあっさりと答えたリンに遊里とセーラは驚いた様子を見せた。
実際、リンは遊里の様に異能というものを自覚出来ていない。
不死の力や生き返る度に自分に都合よく強化される力も異能だとは感じていないのだ。
「そうなのかい? でも異能も無しに魔術も近接戦闘もこなせるなんてすごいね、僕の異能は戦闘には向かないから少し羨ましいよ」
「羨ましい……ですか?」
リンはその言葉が少し不思議だった。
まだ少し言葉を交わした程度だが、温厚な雰囲気をまとった人が戦える事を羨むというのは少し違和感を感じたのだ。
「このエデンではある程度の力が無いと街の外に出る事すら出来ないからね、僕の夢はこの世界を自分の足で旅する事なんだ! 知っているかい? このーー」
そこから一時間、何がスイッチになったのか分からないままに、メグミの熱い演説を聞かされる事になってしまった。
ーーーーーーーー
「……研究者って、ああいう人が多いのかしら……」
ルナが疲れ切ったようにそんなことを言う。
それにはリンも同感だった。
「思ったより時間を食ったな、急がないと暗くなりそうだ」
そこからリン達は急いで街を出ると、標的となる魔物が生息しているところまで急いで移動する。
ルナに乗って移動する事も考えたが、どちらにせよ街の近くで元の姿に戻るわけにもいかない為、結局徒歩で移動する事にした。
「本当に馬借りなくて大丈夫なの?」
街を出る前に遊里は移動と狩った魔物を運ぶ為の馬を借りる予定だった。
「ああ、大丈夫だと思う」
試した事はないが、まず問題無いとリンは考えていた。
「ふーん、なら任せるね」
そんな話をしていると不意にリンの服をセーラが引いた。
「ん? どうした?」
『リンさんは魔法が使えるの?』
「うーん、まぁ使えるな」
リンがそう言うとーー
『魔法、教えて欲しい』
セーラは真剣な表情でそう言った。
ーーーーーー
「ーーだから、魔法はとにかくイメージよ、どれだけ正確に自身が使いたい魔法をイメージ出来るかが鍵になるわ」
ルナが移動しながらセーラに魔法の使い方を指導する。
最初はリンが教えようと思ったのだがーー
「リンくんみたいなデタラメ過ぎる使い方は危険だからダメ」
というごもっともな意見もあり、ルナが教える事になった。
「魔法はまず才能、これが無ければお話にならないわ。 次に魔力、そしてイメージ。 これが揃えば魔法は使えるわ、セーラは才能と魔力は問題なさそうだから、練習すればすぐ使えるようになるわね」
ルナ曰く、セーラは魔法を使う条件に関しては問題無いらしい。
厄介なのが、記憶が無い故にイメージの部分が全く出来ていない事だと言う。
「まずは簡単な事から始めたら? 自分がイメージしやすくて、シンプルなのが良いと思うわよ」
『ん、わかりました』
セーラはそう言って、難しい顔をしながらひたすら掌を見つめていた。
「いいなー、私も練習してみようかなぁ」
遊里がそんな事を言い出した。
「あー……ユーリ、残念だけど貴女は無理ね」
ルナが躊躇いがちにそんな事を言った。
「う……ルナもそんな事言うの?」
「ユーリ、貴女は絶望的なくらいに魔法の才能が無いわ……多分、どれだけ頑張っても初歩の魔法も使えないわよ」
残酷過ぎるほどにはっきりとルナが告げた。
「というか、ルナはなんでそんな事分かるんだ?」
「竜眼って言ってね、まぁ詳しい事は省くけど私はそういうのが分かるのよ。 リンくんみたいになんでもかんでも分かる訳じゃないから、そこまですごい力じゃないわよ」
「いや、俺もなんでも分かる訳じゃないけどな」
そもそも、リンは自分のスキルがよく分かっていない。
発動する範囲など、不明なものがほとんどなのだ。
中には一度も使ってないスキルもあるが、別段困っていないので放置している状況だった。
「でもユーリは自分を強化する事には長けてるみたいだし、魔力量も多いから、単独で長期戦も可能だと思うわよ」
「ん? どういう事だ? 魔力があっても魔法が使えないんじゃ意味無いんじゃないのか?」
魔力があっても魔法が使えなければ意味が無いと思ったリンだったが、ルナの話ではそれは違うらしい。
魔法が使えなくても、いわゆる身体強化や自然治癒力、他にも体力強化など、自身を強化する事は出来るらしい。
要は魔力を内に向けるか外に向けるかの違いで、普通はどちらかに偏るらしい。
「ユーリは無意識でそういった事が出来てるから自覚してないみたいだけど、かなりの強化が出来てる。 リンくんみたいなのは例外中の例外で、言ってしまえば異常よ」
もはや言われ慣れたとは言え、人のことを異常扱いするのは如何なものだろうと内心思うリンだった。
「そっかぁ、ならやっぱり私は
メグミに貰ったホルスターに差してある魔導銃をポンポンと叩いた。
「そういえば、それってどう言う武器なんだ?」
銃と言うくらいなんだから、なんとなくイメージは出来る。
「それは、実施使ってるところを見れば分かるよ。 ちょうど、ターゲットも見つかったしね」
そう話す遊里の視線の先には赤黒い皮膚を持つ巨体の魔物がいた。
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