第75話 魔導銃と魔法
【魔法】
魔術とも呼ばれ、主に魔力を用いて使う技。
炎や水、風や雷と言った自然現象を操り攻撃に用いたり、体力や怪我、果ては病気の回復、その他にも様々存在し、その種類は多岐にわたる。
通常であれば素養を持つものが相応の努力と修練を持って習得する技法であり、才の無いものが使う事は出来ない。
だが、魔法の才が無くとも魔力は万人が大なり小なり持っている。
そして、そういった才能が無い者でも魔力を用いて利用する事が出来るのが魔導具と呼ばれる。
魔導銃もその一つで、利用者の魔力を弾として利用する事で魔力を用いた戦闘が可能になる武器である。
「なるほどな、魔法が使えない遊里にうってつけの武器って訳か」
茂みに隠れつつ、遊里に魔導銃の説明を聞くリン。
細かい仕組みは分からなかったが、概ね想像通りの武器だった。
リンは遊里が持つ魔導銃に目を落とした。
外観はいわゆるリボルバーと言われるタイプの銃をモデルにしたと思われる形状だが、その大きさはリンが知る物よりふた回りは大きかった。
その中でも目を引いたのがグリップ部分で、透明な大きな宝石が埋め込まれている。
「まぁ魔導具は魔法ほど万能じゃ無いわよ、出来る事は基本的に一つの魔導具につき一種類だけだから、属性を使い分けたり出来ないのよ」
ルナの説明を聞いた遊里が得意げな笑みを浮かべる。
「ふっふっふ、普通の魔導具ならそうらしいけど、コレは違うんだよ。 まぁ見てて」
そう言って遊里は茂みから飛び出すと魔導銃を構えた。
魔導銃が淡い光を放ち、
驚くことに発砲音が響く事は無く、ほぼ無音で放たれた光弾は一直線にレッドオーガを襲う。
100メートルは離れているであろうレッドオーガに一瞬で到達すると、頭部を貫いた。
その間、約一秒。
レッドオーガはこちらに気が付く事も、おそらく己の死にすら理解せずその巨体を横たえた。
「……とんでもない武器だな」
「確かに想像以上の威力ね、
素直に驚くリン達に遊里は得意げに胸を張る。
「すごいでしょ、でもこれだけじゃないんだなぁ」
そう言って遊里は魔導銃のシリンダーを横に振りだすと、シリンダーに装填されている弾を見せてくれた。
そこにはリンがイメージする銃弾とは大きく異なり、筒状の宝石の様なものだった。
それぞれが異なる色をしており、一目で意味がある事が理解できた。
「これ、魔石よね? それもとんでもない純度の魔石だわ」
「魔石? 魔石ってあれか、魔物の核で魔力を帯びているってやつだよな? これがそうなのか、初めてみたな」
以前、ライズにエデンの常識や教養を教えてもらっている時に聞いたことがあった。
エデンで使われる通貨に代わるほどの物だと聞いていた。
「確かにそうだけど、ここまでハッキリ属性が出る魔石見た事ないわよ……信じられないけど、そんなものを使っているって事は、その武器、属性が切り替わるって事ね?」
「正解、無制限って訳にはいかないけど、このシリンダーっていうのを回して弾を選べば属性を切り替える事が出来るの、ちなみにシリンダーが空になっても無属性の状態で使う事は出来るから、弾切れを起こすのは私の魔力が切れる時だけってメグミさんは言ってたよ」
リンはいまいちピンと来なかったが、ルナ曰く、単体で複数の属性を使い分ける事が出来る魔導具というのは極めて希少らしい。
そんな事を話していると不意にセーラの声が頭に響いた。
『もう一体きた……』
その場にいた全員が一斉に倒れたレッドオーガへて視線を向けると、確かに先ほどまではいなかった別のレッドオーガが目に入る。
同族が倒されている事を理解しているのか、あたりを警戒している様子が見て取れた。
依頼内容はレッドオーガを一体以上討伐する事なのでこれ以上無理に倒す必要は無いのだが、先ほど倒したレッドオーガを回収しない事にはギルドに報告出来ないらしい。
「仕方ない……なら今度は俺が倒すよ」
遊里としては自分で倒しても良かった。
先ほどと同じ様に、遠距離から一撃で仕留めるのは簡単だ。
だが、遊里はあえてリンに任せる事にする。
リンの実力を確かめたいなどと考えた訳ではない、その点については一切心配していなかった。
もともと相当な実力がある事を知っている。
リンは怪しい道場に通い剣術を学んでいた。
嫌がるリンに頼み込んで何度か見学した事があるが、その実力は当時ですら人間離れしていたのだ。
あの時見た衝撃的な光景は今でもはっきり覚えている。
だからあの程度の魔物に後れを取る心配など微塵も無い。
ただ単純に、興味があったのだ。
あまり褒められたものではないが、気になるものは仕方がない。
「それなら魔法にしたら? この子にお手本を見せる意味でもいい機会よ。 でも絶対に手加減しなさい、お手本にならないし、なにより辺り一面焼け野原になるわ」
「わかってる、その辺はシンさんやルルにしっかり鍛えられたよ」
リンは茂みから抜け出すと、右手を突き出し精神を集中する。
初めて魔法を使った時と違い、時間を見つけては訓練を積んだ事もあり、単純な魔法であれば詠唱は必要なくなっていた。
本当は詠唱を伴う方がイメージが安定し、威力も上がるらしいのだが、正直恥ずかしかった。
リンの足元に魔法陣が浮かび上がる。
(陣の数は一つで十分だろう、後は威力の調整をして――)
リンは
「……ん? ちょ! 待ちなさいリンく――」
魔法は込める魔力を上げれ当然威力も上がる。
魔法陣を二重、三重と増やせば範囲が広がる。
言葉にすれば単純だが、実際はそこまで単純ではない。
込める魔力を増やすのは繊細な魔力制御を必要とし、陣を増やすのは高度な技術と高い魔力が必要になる。
それが少しでも欠ければ魔法は不発に終わるか、場合によっては最悪暴走し、術者諸共周囲を吹き飛ばす可能性すらあるのだ。
だが、リンの持つ
世の魔導士が聞けば卒倒ものである。
だが、魔法はそれ以上にセンスを求められる。
ここで言うセンスとはすなわち最適な魔法の行使である。
薪に火を点けるのにあらゆる物を焼き尽くす炎は必要ない。
擦り傷を癒すのにあらゆるケガや病気を治す治癒魔法は必要ない。
リンが魔法を発動する。
イメージしたのは炎の槍――
まっすぐにターゲットを貫く音速の赤き炎槍を――
ルナの制止も聞かずに投擲した――
――――――
「「…………」」
遊里とルナの冷たい視線がリンに突き刺さる。
『リンさんすごい! 魔物が
セーラはリンの魔法の威力に目を輝かせながら、純粋な眼差しで称賛を送る。
「……あれだ、これは――」
リンが言い訳がましく言葉を発しようしたのだが――
「バカなの!? リンくんあたしの話聞いてた!?」
「魔石諸共全部消し飛んでるんだけど……」
リンは魔法の才能も魔力も十二分に備わっていた。
だが、センスが絶望的なまでに無い事が判明した。
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