第106話 どうやって止めるんだ?

 宿に戻ったリンはすぐに夕食の手配を依頼した。

 リン一行やメグミ達は元々部屋を取っているので問題ないが、テリー親子は宿泊者ではない。


 料理だけ依頼できるか分からなかったが、ダメならダメでその時は宿の外で食事をとればいいと考えていた。

 幸い、その心配はいらず、別料金を払えば食事の用意はしてくれるとの事だった。


 十人は多いが、幸いリンの部屋は広い。

 多少、窮屈だろうが何とかなるだろうという事で、食事はすべて部屋に運んでもらう事にした。


 テリー親子の食事代を払い、部屋に戻ると、ルナは既にベッドで丸くなっていた。

 遊里と姉妹はお茶を飲みながら談笑していた。


「あ、お帰り、ウェインさんどうだった?」


「ああ、とりあえずひと段落したみたいだ、テリー親子も落ち着いた様だったし、食事に誘って俺だけ先に戻らせてもらったよ」


「そっか、完全に解決って訳にはいかないけど、ようやく落ち着いたならよかったね」


 遊里の言う通り、とりあえずは解決と言っていいだろう。

 しかしそうなると今度は今後の事を考えなければならない。

 本音を言えば少しはドールでゆっくりしたいところだが、そうも言ってはいられない。


 対策してきたとは言え、ルフィアの事も気になる。

 シンとライズがいる以上万が一は心配していないが、孤児院の子供たちの事も心配だし、セリナにも事情伝えなければならない。


 例の組織を潰した事もアルファ伯爵をはじめとした貴族達に伝わるだろう。

 色々小細工する時間を与えるつもりなど無かった。


 そんなことを色々考えているリンを見て、遊里が不満げな声を上げた。


「まったく、また難しい顔してる。 どうせ今すぐ出来る事なんてないんだから、少しは休む事を考えたら?」


「ん? ああ」


 確かにその通りだとリンも思い直す。

 だが、この場で解決できる問題も多少はあった。


「遊里は、これからどうするんだ? 本当に俺たちと一緒にルフィアにくるか?」


 リンの言葉に遊里はポカンとした表情を浮かべたが、すぐに満面の笑みで頷いた。

 リンとしては、その事はまったく問題にしていない。

 むしろ、近くにいてくれた方が、何かと安心だった。


 だが、そうなると問題になるのは――


「二人はどうするんだ? セーラは記憶も戻ったし、姉であるステファニアにも再会できた。 とは言え、二人にとってはいきなり千年後の世界に飛ばされたんだ、二人さえよければ一緒に来てもらって構わないんだが――」


 話を聞くに、二人に頼る者などいないだろう。

 自分が異世界に飛ばされて来た境遇と重なる部分もあり、他人ごとには思えない。

 なにより、ここまで事情を知って、はいさようならと言えないのが、お人よしの性だった。


「玉の輿……」


 セーラが表情を変えず、ポツリと呟いた声に、リンと遊里は思わず目を丸くした。


「冗談、確かに記憶は戻ったけど、ユーリさんと一緒に居たいって思いは変わってない」


 その言葉に遊里は顔を綻ばせ、セーラに抱きついた。


「お姉様はどこへなりとも好きにすればいい」

「「辛辣?!」」


 すっかり仲直りしたのかと思っていたが、どうやらセーラはまだ姉に対して若干思うところがあるのかもしれない。

 妹の塩対応にステファニアは肩を落としてうなだれてしまった。


「あー……あれだ、ステファニアさんも良かったら一緒に来ないか?」


 あまりにも気の毒で、そう声をかける事しか出来ない。


「……はい、よろしくお願いします」


 しょんぼりと肩を落としながらも、小さく頭を下げた。


「えーっと、それで凛はいつ戻るつもりなの?」


 微妙な空気に耐えられなかったのか悠里が不自然なくらいの明るい声を上げた。


「そうだな、出来るだけ早く戻るつもりだ。 それこそ都合さえつけば明日にでも戻りたいと思ってる」


「随分急ぐんだね、まぁ事情を考えれば仕方ないのかぁ」


 とは言え、悠里自身それで困る訳ではない。

 身体一つで異世界に来て、それは今も変わらない。

 大きなカバン一つあれば済む話だった。


「そういう訳だ、問題は移動方法だな……」


 来た時と同じようにルナに乗れれば早いのだが、流石に五人というのは無理がある。


「凛のどこでも○アは?」


「あれは危ないからやめておけって言われてるしな」


 確かに転移魔法が使えれば一瞬で戻れる。

 なにかいい方法がないかメグミに相談してみようかと思ったのだがーー


「転移魔法の事ですか? それでしたらいい方法がありますわ!」


 すっかり落ち込んでいたはずのステファニアが突然力強くそう宣言したのだ。


「いい方法?」

「はい!」


 ステファニアが食い気味にそう答える。

 なんとなくだが、セーラにいい所を見せようと必死な気がしてしまうのだが、とりあえず話を聞いてみる事にした。


 ーーーーーー


「魔術補助用の魔石かい? それなら相応サイズの魔石さえあればなんとかなるけど、なにに使うつもりなんだい?」


「転移魔法の補助に使うらしいんですが、詳しい事は彼女に聞いてください」


 ステファニアの話を聞いたリンはメグミの部屋を訪ねていた。

 彼女も転移魔法を単独で使うのは危険だと言う。

 それは、転移魔法に必要な魔力が莫大だからだ。

 だが、そういう場合でも魔力を外部から補填する方法さえ確保すれば危険は各段に下げられると言うのだ。


「確かにそれなら危険は減ると思うけど、転移魔法、それもセントアメリアまでとなると普通の魔石じゃとても足りないと思うんだがーー」


「そこはご心配には及びませんわ、特殊な方法で魔石に魔力を補充いたしますから、充分な魔力を確保出来ます」


 ステファニアはそう自信満々で断言すると、リンから預かっていた拳サイズの魔石をメグミに手渡した。


 メグミは半信半疑といった様子だったが、受け取った魔石を以前見せてくれたのと同じ様に魔力を補充出来る状態にしてくれた。


「これでいいかい? でも、そのサイズの魔石じゃ到底転移魔法の補助には使えないと思うんだが、せめてそれと同じものが数十個あれば話は別だけどーー」


「いえ、これで充分ですわ」


 ステファニアはそう言って魔石を受け取ると、小さな声で何かを呟き始めた。

 それと同時に、受け取った魔石が淡い光を放った。


「これで準備オッケーですわ」


 そう言ってリンに差し出した魔石は既に淡い光を消し、メグミから渡された時と同じ状態だった。


「これに魔力を込めればいいんだよな?」


「はい、思いっきりやって下さい」


 リンは言われた通り、思いっきり魔力を込める。

 すると魔石は眩しい程の強い光を放ち始める。


「ちょ! ストップ! ダメだリン君!」


「ご安心なさって下さい、大丈夫ですわ」


 そんなやりとりをなんとなく聞きながらリンはひたすら魔力を魔石に流し続ける。

 ステファニアには事前に身体が怠くなり始めた所で魔力を流すのをやめるよう言われていた。

 だが、一向にその気配が訪れる様子は無い。

 実は、カプトに殺され、蘇生した際にリンの魔力量は跳ね上がっていた。

 だが、この時点でそれに気がついている者は本人を含めて誰もいなかった。


「ちょ、ちょっとその辺で止めましょうか……というか一体どれだけの魔力量なんですの!?」


 ステファニアの焦ったような声にリンは慌てて魔力を止めようとしたのだがーー


「えーっと……これどうやって止めるんだ?」


 魔力量は上がっても、相変わらず操作の方は全く成長していなかった。

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