第3話 初めての蘇生
「う…ぐ…」
途切れていた意識が戻る感覚、痛みは感じない
(あれ…俺は…寝てるのか…)
記憶が曖昧で
(あれ…確か…目が覚めたら突然知らない場所にいて、その後ゲームの様なメニューでいろんな事を試した後、マップを使って…)
そこで急激に意識が覚醒する。
「うわあああああ!!!」
叫び声を上げ跳ね起き、辺りを見回す
「あ、あれ…?? ここは…」
視界に飛び込んできたのは先程までいた草原だった。
「やっぱり…現実か…夢じゃ無いんだな…」
目覚めてもやはり見慣れた自分の部屋で無いことにショックを受けるも、流石に最初程の動揺は見られない
「流石に…夢って考えるのは無理があるか…あんなデカいドラゴンに襲われた挙句、腕まで…ッッッ!」
そしてそこまで至ってようやく先程までの出来事をはっきりと思い出す。
「そうだ!ドラゴンは?! あと腕! 腕…なんであるんだ?! 確かにさっき喰われた筈…」
意識が覚醒すると今度は別の混乱が押し寄せてくる
「え?あれ?どうなってるんだ?夢? いやいやいや、そんな筈無い、あれだけの痛みだ、夢って事は無いはず…」
確かにドラゴンに食いちぎられた腕は本来あるべき場所にきちんと付いていた、が、それが逆に混乱を招いた。
「腕以前に俺はドラゴンに食い殺された…それは間違いない…俺は死んだ筈だ…でも、生きてる…」
そう、そもそも凛は先程のドラゴンに左腕を喰われ、その上喰い殺された筈だった。
だが、目が覚めると凛の体は傷一つ無く、全く問題無い。
(どうなってるんだ…俺は死んだ筈じゃ…いや、生きてる事は素直に嬉しいんだけど…)
余りにも非常識な連続、混乱するのも無理が無かった。
(よし…落ち着こう…落ち着け…ヒッヒッフーだ…違う…深呼吸だ…」
大きく息を吸い込み吐き出す、何度か繰り返し少し落ち着きを取り戻した。
(まずは、状況の確認が最優先だ、またドラゴンに襲われたらシャレにならないし…)
そう思いマップを開く
(よし…やっぱりメニュー自体は使える、マップも問題無いな…)
意識をメニューに移しマップを確認する、表示されたマップに黄色の点は見当たらない。
(良かった…近くにドラゴンはいない様だな…これなら多少は落ち着いて考えられる)
まず確認したのは現在位置だった。
(この場所は、恐らくドラゴンに襲われた場所だ、目印になりそうなのはあまり特徴も無い街道だけど、多分間違い無い、とすると場所自体は動いていない、ゲームだったらセーブポイントとかタイトル画面に戻されそうだけど、その様子も無し。なら死んではいなかった?いや、それだと腕が元通りな事の説明がつかない、そもそもタイトル画面ってなんだよ!)
自分にツッコミを入れつつ考察を続ける、凛は既にこの状況に当たりをつけていた。
それはゲーマー的な思考
[死んだから、なんらかの理由でリトライ状態]
というものだった。
(まずリトライだとすればこの後またドラゴンに襲われる可能性があるって事か…冗談じゃ無いな…)
嫌な想像を振り払う。
(いや、それは無さそうだ、少なくともマップで確認出来る範囲に黄色い点は無い)
実際は何処からリトライなのかわからない為、この後再びドラゴンが襲ってくる可能性も十分あるがそれは考えない事にした。
(駄目だ…ただでさえ訳の分からないこの状況で色々考えたって分かる筈が無い…精々ゲームだったらって前提で考えるしか無いけど、それよりまずこの状況だ…いつ襲われるか分からないこの状況から脱する事を考えよう。)
凛は安全を確保する方法を考える。
(やっぱりまずはこのミトラの街って所に向かおう、安全かどうか分からないけど、このままここにいるよりはずっといい筈だ)
そう思いマップを開くとミトラの街を確認する。
(やっぱり一番近い場所で目標になりそうなのはこの街だけだ、それ以前に、これ以上広く表示出来ないみたいだ…)
実は最初にマップを確認した時に分かった事だが、マップは拡大縮小が自由に出来る、しかし一定以上の拡大縮小は出来なかった。
(より広範囲を確認出来れば良いんだけど、いや、この場合は目標になる場所が分かっただけでも十分幸運か…)
マップを最縮小しても街や村の様なものが見つからなければ、勘で歩くしか無かったと思えば、目的地があるのは精神的にも幸運だった。
(それにしても…ここは何処なんだろう、いやドラゴンとか居るくらいだから多分日本どころか地球ですら無いんだろうけど…地名の様なものとかきっとある筈、マップに表示されないから分からな…)
そう
[ドラゴンの草原]
(ははは…なるほど、思考で操作か…確かに試して無かったな…)
思わず乾いた笑いが溢れる。
(ドラゴンの草原とか、なんて物騒な名前だよ…最初から分かってればさっきみたいな事には…いや、無理だろうな、どうせ夢だしとか考えて結果は…)
ドラゴンに襲われた時を思い出し身震いがする。
確かに最初から場所の名前が分かって入れば、こんなストレートな名前だ、警戒くらいはしただろう。
だがそれだけだと思い至る。
警戒したところで、あの速度で襲いかかるドラゴンに対応出来たとは思えない、結果は変わらなかっただろう。
(所詮レベル1の初期ステータスだ、ドラゴンには敵わない…それよりどうやってこの後生き残るかだ…もうあんな目に遭うのはごめんだ…)
悪い事は押し並べて想像通りになる。
所謂お約束、フラグって奴だ。
「ガアアアアア!!!!」
お約束の登場に凛は金縛りにあった様に動けなくなった。
その鳴き声は先程よりは遠いが恐らく直ぐにやってくる。
その程度の距離しか無い。
(なんで!?マップにはなんの反応も無い!さっきはマップに表示されてたのになんであのドラゴンは表示されないんだ!なんなんだよアイツは?!)
凛は何の反応も無いマップと凄い速度で迫るドラゴンを交互にに見つめ、必死に考える【
(え?)
襲いくるドラゴンの横に
そこには
[グリーンドラゴン Lv48]
まるでゲームの様に名前が表示された。
(ッ! 何でいきなり…さっきはこんなの見えなかったのに…)
そんな事を考えている間にもドラゴンは眼前まで迫っていた。
「なんなんだよ!」
凛の意識がドラゴンに向けられた時には既に喰らいつかれていた。
「あああああああ!!!」
右腕を食いちぎられ、激痛が走る
「クソ!クソクソ、畜生!痛い!痛い!痛い!」
幸か不幸か腕を喰われたのは
走る
走る
考えて取った行動では無かった。
ただひたすら恐怖の対象から逃げ出したい。
そんな反射的な行動
「ググル…グチャ…」
ドラゴンは獲物が逃げ出したにも関わらず余裕の態度で咀嚼する。
それも当然だろう、ドラゴンから見れば獲物の逃げ足など遅い事この上無い、逃すつもりは無いがちょっと離れたくらい何でも無い。
「はッ!はッ!嫌だ!死にたく無い!」
凛はひたすら走る、逃げ出したい、その一心で
しかし、その恐怖の対象に容赦など無い
背後から翼のはためく音が耳に届いた時には背中に強烈な衝撃を受け地面に倒れる。
「ぐっ…!」
立ち上がって逃げ出したい。
だが立ち上がる事は出来なかった。
背を押さえつける巨大な力でもって地面に押し付けてられる。
「か…は…ッ…!」
押さえつける力はなお増す。
肺の空気が押し出され呼吸もままなら無い。
背骨が軋む、バキバキと耳に届く嫌な音
それは
呼吸が出来ず、更には折れた肋が身体の中を傷つけ、僅かに残った肺の中の空気と共に血を吐き出す。
(クソ!クソ!畜生!何でこんな目に…
俺にもっと
もっと
凛は薄れてゆく意識の中で強く願う。
もはや声は出ない。
それでも願う。
強く強く願う
(力が…欲しい!)
熱望する。
渇望する。
切望する。
(
薄れゆく意識の中で、目の前に表示されたステータスには
名前:リン クサカベ
HP:0
MP:9
Lv:2
(な…んで…)
凛の意識は闇に落ち、二度目の死を迎えた。
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