・第五十一話「糾弾対峙の転生者(3)」
・第五十一話「糾弾対峙の
『
「馬鹿な、奇襲に近いとはいえ……!?」
前回の戦いで自分達〈超人党〉とやりあった時は、そう長時間でないとはいえ戦力は拮抗しこちらを〈
(〈帝国派〉についたのは早まったか?)
『
「はは、凄え……が、呑まれるんじゃねえ。戦は、首数稼ぎはここからだ」
尚も飄々と『
「そう、だな」
それに同意する『
「うあああああっ!!?」
毒を盛られ血を吐き倒れた当代
「く……」
「殿下は回復に専念を!あとは私達が!」
起き上がろうとするリンシアと〈
「ひゃは!弱者の盾になるのが正義の誉ってもんでしょ!じっくり炙り焼きになっていってねっ!」
「対魔法防御システムは『
「オイラ達も思う存分暴れられるってもんさ!」
加えて、そもそもリンシアと〈
道化師の姿をした『
〈タロット〉の欲能行使者達だ。
暗殺防止用に帝宮のあちこちに仕掛けられた攻撃魔法を抑止する為の魔法装置がカットされていて、『
「《
「おうりゃあああ!」
「むんっ!」
敵はフェリアーラに勝る身体能力を持つ、肉体硬度を操る『
「こっちも見なっ!!」
「見てあげるわよっ!」
その脇を転がるように駆け抜け、
「ありがたいくらいに視線が多すぎらぁ! クソ!」
「
「ぐおおお! 顔! 身分! 『嫉妬沸騰』ぉおおおっ!!」
「ええい、またアンタかい!?」
〈タロット〉だけではなく〈七大罪〉、魔族転生者の『
「寝ているわけには、いかないだろう……!」
「はい!」
故にリンシアは最低限の回復魔法を受け再び立ち上がる。彼女に従う〈
……その光景を見て『
ZZZZDOOOOOOOONNNN!!
と、そこまで戦況を見ていた『
「どうやら、お偉方も動き始めた。全く、先陣を切ると見得を切った割りに鈍臭いこったぜ。それに合わせて動くぞ」
「OK」
そして、更に二人の
その、『
「さて、今日まではぐらかされたけど。残念ながら〆切ですわ、殿下」
帝宮の一室。『
かつて末端の
「貴方は欲していた。
『
「その為に。いいえ、それ以上の戦いを行う為に。真に殺し食らう側となる為の爪と牙を欲して私達の仲間となり、世界を貪り食らう側となる。そして、それを抑止しようとする側と殺しあう。それは、正に貴方らしい。間違っていないわ」
彼の、己の力で勝ち取りたいという気持ちは分かる。転生者で、
「そう思ったから、私は貴方に爪牙を持った手を差し伸べる。さあ、貴方らしく生きましょう、ありのままで、少しも怖くないわ、と」
(今だからこそ、分かるわね)
生来の反骨者として、正しい勇者たる〈
だからこそ、この男は仲間へ引き入れたい。
「貴方は連合帝国を、
だからこそ『
……一方、『
「……だから、頼む。
『
すなわち、各地で起こった発展と繁栄、
その為には連合帝国が決然偽
ルマしかいないんだ、と、『
「ゼレイル……」
「ルマが俺達に色々な以来をしてきたのは。俺達がそれを叶えてきたのは。連合帝国を、
そう語りながら、ゼレイルはルマに
憂い顔で悩むルマは、ゼレイルに同意する。己の好感度が、信頼性が、絆が、最大となるようにフラグを管理してきた。……ゼレイルはそう信じていた。
「ゼレイル。それは違うわ」「なっ」
ルマの反応は違った。ゼレイルの驚愕の表情に、ルマは憂慮深く言葉を続けた。
「私は確かに
ルマの声は、あくまでゼレイルを否定するものではなかった。敵対するものでもなかった。寧ろその普段は勝ち気な声は震えるようであった。ゼレイルへの恐れではない。ゼレイルへの心配で、気遣いで、労りで、癒したいという思いだった。
「私は私が主役でなければなんて思わない。……私は貴方の事、嫌いじゃないわゼレイル。きっと好き、本当は」
『
「でもねゼレイル。
それはゼレイルと出会うずっと前から守ると誓っていた事、ゼレイルは知る由もない事もあるんだから仕方がないんだけど、と、ルマはゼレイルを消沈させぬよう、傷つけぬよう必死に言葉を加えながら、否定する訳じゃなくて思いを伝えようとした。好意を抱いているからこそずっと言わねばと思っていた事を。
「ゼレイル。貴方は、英雄的な冒険者であろうといつもとても頑張ってる。飄々としてるけど私には分かる。私も
しかし世界というゲームのイベントのスイッチを自在にオンオフできるとはいえ、オンオフを行うのは、どうオンオフするかを選ぶのはゼレイル自身だ。
「ごめんなさい、ゼレイル。貴方に隠し事とか、貴方を裏切るとか、そういうつもりは無かったの。ただ、四人兄妹で、お互いが見聞きした事についてちゃんと伝えあって考えようと思って。何もかも話せたわけじゃない、お兄様も御姉様も隠している事はある。けど、分かった事もあるの。ゼレイルは凄いわ、いつもへらへらしているのに、何でも何だかんだうまく収めちゃう。ゼレイルはただ運がいいだけのふりをしてるけど、皆そう見てるけど、私には分かる。あれはゼレイルの実力だって気づくよ。でも、今回はゼレイル、違うと思う。無理を通そうとしているように思う。その方が都合がいいからって、誰かに言われたの? そうしろって。だったら……」
それはゼレイルにとって計算外だった。生きてる人間をサブヒロインの一人程度に認識していた祟りとでも言おうか?
ルマにはゼレイルの知らない過去が色々あった。一人の複雑で独立した人間だ。
秘密結社の幹部たる陰謀者を気取り、
「ゼレイル。私は
ルマはゼレイルが思っていたよりゼレイルに好意を抱いていた。『
だから、ルマは寧ろゼレイルを救おうとしていた。恋する女ならではの奇跡で、巨大秘密結社の見えざる管理の意図を無視して、理解をすっ飛ばしてゼレイルの背後の状況の本質に直感的に迫っていた。そして、それは良くないといった。ただの人間だからこそ、そう言えた。だが、しかし。
(選択を、誤った?)
ルマの声を聞きながら、ショックを受けたゼレイルが思ったのはただその一言であった。自分を愚か者と嘲笑う声が何処かから聞こえた気がした。選択を謝ってはならないのに。全てに成功し続けないといけないのに。思い通りに事を進めないといけないのに。そうしなければ、認められない、意味がない。斉賀 和人というこの己自身が、ゼレイル・ファーコーンという異世界人として輪廻転生した意味がないと。
「ゼレ、イル……?」
俺が否定される。否定されてしまう。見向きもされず埋もれ踏み潰されてしまう。
ゼレイルの心はそんな思いで一杯になり、ルマの言葉の入る余地が無かった。ルマの不安の声は聞こえなかった。だから……
「……臆病で、愚かな犬だったのかしら?」
……同時。『
「所詮他人の為の帝国を維持する為に自分の人生を捨てる愚か者なの? それとも自分の願いを叶え自分の人生を生きる為にすら命を惜しむ臆病者なの? どっち?」
「いい面構えになったじゃねえか。本音が、漸く見えた」
抜剣したギデドスが、決死の表情で笑う。
「正直、俺にそこまで腹割って話して、そこまで熱烈に俺に自由になれって言ってくれた奴ぁお前が初めてだよ。言っておく。嬉しかったぜ。強い女が好きでそういう女にちょくちょくプロポーズしてたが、あれだ、タイプの女を口説くのと、惚れるってな、こんなに違うもんなんだなって知れたのは嬉しいぜ。こんな時に言うのはなんだし唐突な一目惚れなのは承知の上だが、お前に惚れたぜ、エノニール」
「これから始末されるって時に何言ってんのよ」
無力化後ルマが有望であれば殺される。ルマがダメであった場合でも『
『
だがそんなもの『
「勝ち取るべきものが何なのかも分からない無知な馬鹿にはなれないからな」
「何ですって?」
だがギデドスは不敵にそう宣言し。思わず柳眉を逆立て『
「確かに、お前にも一理ある。俺は俺の人生を自分で切り開く戦士でありたかったと夢見ながら、そんな俺の恵まれた体格だの充実した装備や教育だの
「諦めるの? 仰ぎ見るだけで終わるの? そういうご大層な物への恨みはないの?」
VVVVVV……!
唸るような振動音がした途端、『
「未練だの不満だのが無い訳じゃないさ。だが、その度に殺ってちゃ何度戦ったらいいか分かったもんじゃない。命懸けの復讐戦ってな、それに値する相手達にするもんさ。第一なあ」
ギデドスは笑った。猛々しく、皮肉げで、でも恥ずかしげで、励ますようでもあり、悲しそうな……何と言ったらいいか、少なくとも『
「犬小屋から豚飼いに逃がして貰って、豚小屋の餌を食うのもな。そいつぁ、得ようと目指す物もその為の手段も間違ってる。その為にくたばっていいって生き方は、憧れて目刺し、恥じず誇れるもんじゃなきゃな。例え、ほんのちょっとだけしか近づけなくても、おい、俺は1回だけでも出来たんだぜ、一人をちゃんと救えたんだぜ、誰にも踊らせられずに自分の選んだ人生を生きたんだぜ、って、そんな風に言えるようじゃなきゃなって、思ったんだよ、お前に誘われた時な。だから、俺ぁお前に逆に言うぜ。なあおい、エノニール」
剣ではなく、ギデドスは手を差し出した。がらじゃないと恥ずかしげに、だけど、胸を張って。
「
「っ……」
その言葉に、エノニールは……
ZZZZDOOOOOOOONNNN!!
「「やれやれ全く、何をしているのですかお二人共。〈
……数秒後、それぞれ別室にいる『
「……分かってる。頼む。少しだけ巻き戻して、俺の説得を受け入れたように」
「はいー、お任せくださいー。あちらの、私の本体の所へ連れてきて下さいね」
『
故に、たった今轟音と共に出来た壁の穴の向こうを、本体の方を向き。分身はそう告げた。
「ぐっ……無粋にも程があるぜ、ヘボ詩人……!」
「SHHHHHH……吟遊詩人は、それしか当てはまる仕事が無かったから名乗っているだけですからね……」
同時に『
「それでどうします? 『
「……それは……」
そして『
『
「っ、それどころじゃない! 来たわよ!?」「おや!」「何!?」
『
「そこまでだぁっ!!!!」
……少なくとも先のギデドスの一撃は無駄ではなかったのだ。
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