・第六十一話「復古物語ラスト・マーセナリー アヴェンジャーズ・ファイルズ」
・第六十一話「
「ゼレイル……どうして、どうしてこんな事になったの。ゼレイルがあの姿の事を秘密にしていたはどうでもいいよ。どんな姿になっても貴方は貴方だもの。だけど一体、あいつらは何なの。何でテルーメアを殺したの」
鎧姿のボーイッシュな少女、『
「……それ、は。ああ、畜生、それはな……糞っ、糞っ……俺は……」
それに、ゼレイルはどう答えていいか分からなかった。レニューが言うとおり、完全に洗脳してしまうのでもなければ、これに関しては彼が語るしかなかったが……立ち竦み……崩れ落ちた。
「俺は、ただ。二人を危険から遠ざけたかった。ただそれだけだった。それだけだったんだ。その為なら……俺はただそれだけで……」
膝を突き頭を抱え、涙を零しゼレイルは呻いた。到底語る事は出来なかった。
幾つの嘘をついただろう。そして、それを肯定する言葉に何があるだろう。たった一つしか、ゼレイルには思い浮かばなかった。即ち、自分の幸せ。
ゼレイルは追い詰められた。必死に考えながらこの場に立った。対〈
(どう、すれば)
「……いいよ」
そのゼレイルをミアスラは逆に抱きしめた。ゼレイルは涙目を見開いた。
「いいの。言わなくて。全部許す。だって、ゼレイルだって許してくれるでしょ? だから、言わなくていいの。私はゼレイルの為だけの女でいい、ゼレイルだけの女になる。ゼレイルの敵は私の敵。私もテルーメアを殺した奴らを憎んで戦う。……ゼレイルは、そんな私は、嫌い?」
しっとりした情の篭った声で、愛と憎しみの感情をミアスラは囁いた。それが彼女の答えだった。それで、ゼレイルは言葉も無く泣き崩れた。嫌いな訳があるか、大好きだ、そう、涙の合間に言おうとしながら。そして、思った。
俺達は、俺達だ。それだけでいい。確信する。割り切る。決意する。この決意があれば負けないと思った。誓った。俺はミアスラの為の復讐者になると。それがゼレイルの答えだった。
そんな、愛し合う二人にとっては無関係な事柄に過ぎない、北方の戦場にて。
そう、覇者にとっては、それは采配の一振りに過ぎず。無力な現地の民にとっては、それは只管に蹂躙でしかなく。しかし抵抗者達にとっては、己が血を流し仲間との絆を思い命を懸ける戦場であった。
即ち『
「ごめん、防げなかった……!」
その地で、児童傭兵団〈無謀なる逸れ者団〉の副団長ミレミは、通信魔法の収められた護符に懸命に言葉を伝えていた。
エクタシフォンの戦いにミレミがこれまで姿を表さなかった理由はこれだ。戦いがエクタシフォンにおいて主に展開する事を考え各個撃破を恐れ戦力を集中させながらも、同時にそれ以外の場所で事が起こった時関与可能な様動いて貰っていた、各個撃破される可能性の比較的少ない隠密行動に長けた戦力として、〈無謀なる逸れ者団〉の団長とその直衛以外の戦力の大半を率いたミレミ、そしてガルン等が、北方で接触し協力構築に成功した反
彼ら善性
だがそれでも、ナアロ王国を止める事は出来なかった。あまりに一気呵成であり、戦力差も圧倒的であった。
(アレ自体はあくまで、強力であっても偽物でしかないのに! )
ナアロ王国が尖兵として用い、精悍にして剽悍にして屈強たる筈の狩闘の民の士気を一撃で瓦解させ潰走せしめた存在。《
その正体を、諜報活動でミレミは掴んでいた。それは各地でナアロ王国が行っていた
かつて
そして勿論、尖兵に過ぎなかった。それだけではなくその背後に控えるナアロ軍本隊は、
狩闘の民に〈
「……けど不幸中の幸い、皆を逃がす事は出来るかもしれない。ナアロ王国の奴等は皆を脅し過ぎた。抵抗する術も無く皆完全に逃げている。踏み留まって討ち死にする人すら発生する余地もない逃走だ。それを支援する……!」
即ち、一人でも多くを生かし、少しでも多くの戦力を保つ撤退戦だ。
それでも犠牲は多いと、同時にミレミは傭兵として理解してはいた。おおよそ戦いにおいて最も犠牲が出るのは、激闘の最中ではなく軍勢が崩壊した時の追撃だ。辛うじて、戦いから崩壊・潰走に至ったのではなく、あまりの状況に戦う前から逃げに入っていた事だけが、それをよりマシなものにしうる可能性だ。相手の軍勢との距離を失わないように支援できれば、潰走が終わった段階で何とか再編して
部隊において傭兵殺しの攻めに長ける
(それでも、出来る限りやるしかないけど、どこまで出来るか……)
雲雀羽色の長髪に縁取られた、少女としか見えない女装をした男の娘の横顔が、悲壮な美しい決意の表情に引き締まった。
「ごめんだなんて……!?」
悔しいけど、こんなのどうしようもなかった、だから謝る事なんて無いという、魔法通信に対する返事に対して。
「(……この、状況で)それでもごめん、見抜けなかった事が、あるから」
最後にそう言ってミレミは通信を切った。最早通信をしている暇も無い戦況になったからだ。そして、眼前に広がる絶望的戦況、諸部族の撤退を支援するどころか自分達の身も危ういこちらへの攻撃部隊の展開を噛み締めた。この諸部族領で出会ったナアロ王国に抗う者達。その力を結集し、諸部族を束ねる事が出来ればあるいは、と、思っていたのに。
「弟よ」
そこではガルンが唸る声で己が弟に、『
「……いつからだ。いつから、だった」
「……ずっと昔からだよ、生まれたときからだ。本当はずっと……」
「嘘をつけぇい!!」
「分からんと思うか、その嘘が」
「違う。嘘じゃ……」
「
「っ……!!」
ガルンには分かった。勇者に並び立たんと背伸びし、至らなかったとはいえ、その経験は無駄ではなかった。
「……だっ、て。この、
「勇気と言えるほど度胸胆力が無いのなら尚更、生まれた時から人を騙し続ける事など出来まい。愚かな俺相手でもな」
息詰まり、震え、言葉をわななかせるランゴに、ガルンは厳しく雄々しくも、優しい包容力で答えた。
愚かと自称したガルンであったが、その豊かな人生経験は正に知識無くして真実を捉えていた。
転生者・
「お前が逆らえなかったのなら、お前は脅された被害者だ。助けねばならぬ。俺にその苦労を強いまいと、憎まれよう討たれようと殊勝な嘘等つくな。この兄に任せておけ」
そしてガルンは歴戦によって、それを受け止め、受け入れる雄大な器を有する男となっていた。
「どうだとしても、結果は変わらない」
それに対し、上空から〈軍鬼〉が宣言した。ミレミが通信を切った理由。報告を躊躇った欄後の言い訳を見抜き、部隊を率いてこの地に展開する〈
「貴様らは死ぬ。敗北して終わる。何思っていようが、お前達の善も正義も愛も前時代の遺物として否定され消される、歴史から無かった事になるのだ」
冷徹な宣言が降り注ぐ。〈軍鬼〉率いるナアロ航空魔法士部隊は、規格化され高級とはいえ量産された装備を苛烈な訓練によって使いこなす航空魔法士に空戦型錬術兵を随伴させ、その戦闘能力は地球の自爆ドローンや無人攻撃機や対戦車ヘリに勝る奇襲性・飽和攻撃性・機動性・火力・防御力を併せ持つ。勝利は戦力を己に自由な権限で揃え得させた段階から自明だと〈軍鬼〉は宣言した。
「それがどうした。それはどうかな。どちらになろうが、俺は構わん。だからそう両方言ってやろう。俺は俺の弟の心を救った、お前達からな。お前達は俺達に一杯食わせた、一対一、引き分けだ。そしてお前達は俺の命を殺す事はできても、俺の心を折る事は出来ん。その下らん挑発を受け流された時点で、お前は言葉で負けた。俺の命を物理的に奪っても、やはり二勝二敗の引き分けよ。最早俺に負けは無いわ!」
泣き崩れたランゴを背に、ガルンは〈軍鬼〉に、空からの一方的な攻撃の構えを取る相手に堂々と受けて立った。多少詭弁かもしれなくとも、堂々とその言葉を一歩も引かず迎撃した。
「猿同然の蛮人の癖によくもまあ舌の回る事だ……だが、そんな武人の誇りなど無意味だ。人は、世界は、堕ちるものだ」
〈軍鬼〉は己の前世を回想しながら嘲笑した。祖国は自分に軍人としての護民どころか、自衛すらさせてくれなかった。それが、彼のいた地球における、日本共和国と彼の所属する防衛隊が辿った歴史の結果だった。悪の勝利を前にして、今更最早どうして正道が歩めよう。我は〈軍鬼〉、もう踏み躙られる正しい側でいる等沢山だ。思う存分勝って殺してやる、それこそが己の運命への復讐となるのだと。
「いかにも。堕ちてまた這い上がってきた俺だ。よく知っているぞ。飛んでいるのに堕ちっぱなしの小娘よ!俺は墜ちん、気高き
「堕ちる事こそ合理的で現代的な正解だ! 優勝劣敗弱肉強食、大衆は善悪の理ではなく損得の利に従い、勝者が利を得る以上手段を選ばぬ悪が勝つ! 貴様の墓の上で貴様の血族を殺し尽くし貴様の三敗目という最後の敗北を刻んでやる、蛮人!」
その怒りをガルンは己の過去故に射抜く。〈軍鬼〉はくわと目を見開いて牙を剥いた。その軍勢が空爆の構えを取る。全員が、ラトゥルハの指に装備されたものの簡易量産型と思しい
「皆! 走って! このまま行く!」
ガルンがランゴを片手で抱えながら片手一本で三又矛を対空投擲した。同時、ミレミが準備していた呪文を発動させながら、それでも尚諸部族領民を逃がす手を求め足掻くと決意した。更に同時、同じく此方側に同道していたミシーヤが
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