最終第四章

・第八十話「ふるさと地球へ来て(前編)」

・第八十話「ふるさと地球へ来てアース・カミング(前編)」



 GG……GGGG……GG……


 地に落ちた、死にかけた蝉の羽音。それを聞いて、最初はそう思った。


 それが自分の背中から出ている事に気づいて……リアラ・ソアフ・シュム・パロンは、自分が背中を上にした状態であまり清浄とは言い難い水に浮かんでいる事に気づいた。


「ぶわはっ!? げほっ!? えほっ!? 何っ、うぇっ、何処だ、ここ!?」


 噎せながら水音をさせて起き上がる。混珠こんじゅの都市においてはそれ専用下水的な用途の運河とそれ以外の用途の運河は元からある自然の川と分けられ浄化魔法の付与がされた蓋をされている。故にこういうあまり良くない水の臭いは久しく感じる事は無く、リアラは混乱しながら顔を上げて。


 それを、見た。


 〈肉の来世〉。


 看板だ。肉屋の。このタイミングでなんて屋号だ、というか。


「え、〈肉の来世〉って、日本語で……」


 2年も混珠にいたせいで、一瞬日本語に違和感を覚えた。だが、直ぐに感覚が蘇り理解する。つまりここは。


「日本だ!? ってここ秋葉原かよ!? じゃこれ神田川か!? えほっ、げほっ!?」


 電器とオタクの町。見回せば看板の群れ。水音を上げ立ち上がり、叫び噎せ……


 思えば、混珠こんじゅへ転生する切っ掛けとなったのも故郷の町の川だ。我ながらよくよく三途の川に縁があるものだ、と思った瞬間、思いきり酒を呑んだ次の朝のように、徐々に記憶が戻ってきた。



 『交雑クロスオーバー欲能チート』が強引に繋げた地球への次元奔流。その中で自分達は揉みくちゃになりながら尚激しく争った。『全能ゴッド』が全方位に攻撃を乱射。ルルヤさんが一旦【巨躯】を解除しすり抜ける、突撃する『交雑クロスオーバー』を僕が止める、『交雑クロスオーバー』が自分は短距離テレポートで離脱しながら〈青騎士ブルーサマーズ〉と装備していた〈傑証けっしょう〉を全て自爆させる、それをリアラさんが反撃を入れながら【巨躯】を再展開して受け止めようとする……そのタイミングで、次元奔流が地球の大気圏を越える。そして地球の空に放り出されて……



「最後にルルヤさんが、飛べ、って、そう言ってくれて。それで【翼鰭】を開いた記憶はあるけど……」


 半ば気絶しかけていた中、爆発を受け止めた反動によって次元奔流から地球に落下するタイミングが僅かに遅くなったルルヤがそう言っていたのを思い出す。ルルヤに庇われながらも、尚〈青騎士ブルーサマーズ〉と〈傑証けっしょう〉の自爆によるダメージが相当大きかったか。クレーターを作った様子はないので、意識が朦朧とした状態で【翼鰭】を展開し、滑空してこの川に不時着したようだ。その為か、今リアラの居る川を覗き混んで注目する人は居ない。


 そして【翼鰭】が展開している事から地球でも竜術がちゃんと使えるのが分かる。皮肉にも『交雑クロスオーバー』の発言はやはり正しかったのは幸いだが……


「……ルルヤさんに【真竜シュムシュの宝珠】が通じない……」


 ざわめく心を必死で抑える。過去の記憶にはアクセスできるし思考加速も出来る以上機能は停止していない。だが、これまでの戦訓を思い出す。【宝珠】は、気絶や打撃で一瞬意識が飛んだという時にも【宝珠】へのアクセスが途絶え、その状態の相手の存在が確認できなくなる時がある。過去に、実際それで何度も第一章や第二章の決戦等でどきっとしたとルルヤさんも言っていた。


 だから、大丈夫だと思う事にする。そして。


「……どうしよう……」


 そしてリアラは色々な事に途方に暮れた。



 だが途方に暮れっぱなしという訳にもいかないので兎に角何とかどうにかした。


 先ず第一に身繕いが必要だった。流石に神田川の水まみれは嫌な上に、混珠こんじゅでも上からマントを羽織らなければ少々奇異だが、少々で済んでいた混珠こんじゅと血がって幾ら秋葉原でも端からはコスプレにしか見えなくともビキニアーマーは拙いだろう。


 そしてそうなると困るのがお金だ。戦闘真っ最中だったから財布や日用品を持っていないというレベルではない、そもそも日本の通貨が無い……中々にヤバかった。



 最終的に魔法で何とかした。


 実際、竜術は使えるが白魔術が使えるかどうかは怪しいところもあったので確かめる必要があった訳だが、竜術を有する事で【複数の世界に跨がる存在である】条件は満たしている為か、一つの世界の力である白魔術を別の世界に持ち込む事も問題なく可能だ、という事らしかった。あるいは、言わば自分自身が複数の世界の複合体となっている為に、その中に格納されている、白魔術の根源である法術等でこの場合竜術で制御されている魔が保護されている、というべきか。


 安堵する。幾つかの専誓詠吟は、白魔術も組み合わせて発動する。この局面で弱体化している暇は無い。


 そしてそういう事であれば、この状況を何とかする事も容易だ。下位の日常的な事柄に使う魔法は、魔法使用者の基本的な願いに直結する為かある程度共通している。故に旅人であれば魔法を使えるものであれば荷物量の低減の為に覚える事が多い浄化系の魔法で、体に付着した水を浄化させる事で洗う事は出来た。


 服に関しては【真竜シュムシュの息吹】で誤魔化す。光学迷彩で姿自体を消す事が出来るのだ、服装を幻の服を作って体に重ね誤魔化す程度なら問題は無い。カイシャリアⅦに潜入した時は服をわざわざ用意したが、あの時は用意する余裕があったのと今より魔法力が低く長時間の使用は辛かったからという違いがある。


 ……直接触れられれば気づかれるだろうし、また人混みの中では見た目は誤魔化せても見えない尖った肩鎧が他の人にぶつかって相手が困惑する可能性があるのでそちらは【真竜シュムシュの骨幹】で肩鎧を小さく全体を薄く変形させて誤魔化す。待機形態と言った所か。


 ともあれそんな感じで、川から這い上がり、隠れて身繕いを整えた。【息吹】による偽装で、季節感ある白くふわりとしたセーターに紺色のスカート、黒いストッキングにブラウンのブーツという出で立ちに。


 【角鬣】による知覚能力強化で警戒する事で、変身じみた服装偽装の途中を見られる事も無い。


(思えば、もう、白月の頃合い……冬か)


 変装の参考にする為に道を行く人達を見、混珠こんじゅで言うところの時間感覚で認識し、改めて自分がもう混珠こんじゅの人間になっていたのだなと理解しながら、リアラは改めて秋葉原に立つ。少女の肉体のままで。


「っ……(帰って、来たんだ)」


 混珠こんじゅの人間になっていたんだな、という感慨と同時に、追憶が爆発する。流石に、胸や目元がツンと来た。物語を思い出とする青春を過ごした身として、家庭の事情等で実際には来る事は無かったが、懐かしいアニメ・漫画等の姿がチラつく秋葉原は、よい思い出の少ない実家より寧ろ故郷という思いを強くする。


(会い、たいなあ。話したい、なあ)


 ツンとくる、だけではなかった。ズキリと、胸が剣に刺されたように痛んだ。


 愛する妹の歩未あゆみと、一番の友人、和芝緑樹わしばみき


 共に生死も分からない。だが、生きているなら、会いたい。会って、話がしたい。僕の死で心を悲しませなくていいんだと伝えたい。


 だが残念ながら時間も無ければスマホも無く、今時数を減らした公衆電話も十円玉も無いのだ。


 故にリアラは、思いを置いて活動を開始せざるを得なかった。



(まずは、情報収集)


 ビルの隙間裏通りに入り、缶入りおでんを売る自販機とケバブ屋台が上手い具合に作った影、屋台のおっさんが余所を向いている隙に《使魔つかいま》を使用、地球では多少奇異に見えるだろうけどまあ目撃されても少し様子の変わった野良猫か何か程度に見間違えるだろうと、混珠こんじゅの動物キイタの姿をした《使魔つかいま》を放つ。


 《使魔つかいま》を通じて欲能の気配の察知偵察を行わせながら、自分は一先ず【宝珠】でルルヤとの通信が回復していないか定期的に確認しつつ、地球の現状の把握を行う事にするリアラ。


 幸い、ここならではの手っ取り早い情報収集手段というものがある。


「うわー、やっぱり二年ぶりだと知らない漫画やラノベめっちゃ増えてる……連載追ってた作品も途中どうしてこうなったんだか……ええっ!? 何この展開!? 何でそんな事になってんの!?」


 例えば本屋での立ち読みとか……


「って、ちっがーう!」


 胸の痛みをごまかす為ついふらふら本屋に吸い込まれてしまったがこれは違う。


(((何だあのセルフ突っ込み美少女)))


 ちょっと人目を集めてしまったのもあり慌てて移動。本屋から電器店。あちこちで売ってる時計を見るだに、そろそろ時間的にニュース番組が多いタイミング。


(一先ず今の雰囲気と、何か異常が起きているか起きてないか、第一報があったらざっと掴めるかな)


 TVを販売するコーナーへ。色々なチャンネルを写し出してるTVの中、ニュースをやってる幾つかのチャンネルをざっと見る。


 次にPCパソコン・スマートフォン等の売場へ。買うのを迷っている体で、ネットに繋がっているものを少し触らせてもらう。さっとニュースサイトをチェック……



 軽い接触なので、つつがなくすぐ済んだ。


 店を出る。……記憶の中より濃くなっている地球の冬の空気を改めて感じる。


 地球人はどうせ滅ぶ、という『全能ゴッド欲能チート』の言葉が胸の内少し蘇った。


(悪くなってる……いや、単純にそう言うのは老人子供の感想だ。だけどまあ……相変わらずか、そのままじわりと続いた、くらいはいってもいいかな。良くなったのはせいぜい……いや、せいぜいというにはとても重大な事だけど……)


 リアラ・ソアフ・シュム・パロン、転生前の名を神永正透かみながまさと彼の生まれた地球この逆襲物語ネイキッド・ブレイドの日本である日本共和国は、中華ソヴィエト共和国との短期間の戦争に敗北、それに伴う原子力事故、同盟国アメリカ合州国の弱体化と、衰亡の歴史を歩んでいた。


 思えば父母が過剰に優秀である事を重んじ、非情な家庭環境で彼を虐げたのも、そんな社会の反映なのかもしれないが……そのどこまでが間違った厳しい愛情で、どこまでが自分の老後の介護等を心配した打算だったのかは兎も角。


 この地球ではその世相はその後も続いていた。戦災や原子力災害からの復興については、ある程度進んでいた。景気も、就職はましになったようだ。だが。


 この日本共和国においては、中華ソヴィエト共和国の影響が増大し政治に影響を受ける事になり、敗戦時の民衆党政権がそのまま傀儡めいた影響を受け存続、中華ソヴィエト共和国の軍事基地が国内に設置され、中国地方が債務の代価としての租借という名の事実上の割譲、中国領中国地方というブラックジョークめいた俗称で呼ばれる始末。更にこれに乗じてその後、新羅共和国、高句麗ソヴィエト共和国、ロシア第二帝国に相次いで島嶼等小規模なものだが領土を割譲させられていた。


 そして混乱状態にあるのは日本共和国だけではない。ヨーロッパもまたロシア第二帝国による大ウクライナ共和国征服と移民問題でヨーロッパ連邦が東西に分裂、当初の東連邦のイタリア王国が西側に寝返るのではという予想と裏腹に英連王国イングユナイダムが東に寝返る番狂わせで事態の収拾がつかなくなり、退潮著しいアメリカ合州国は日本共和国からその影響力を撤退させ、その後大統領選挙で人民党候補クリス・ヒルトンが州民党候補マイク・タロット暗殺事件に関与した疑惑を切っ掛けに更なる政治的混乱状態に陥っていた。


 中近東では、かつて『神仰クルセイド欲能チート』が命を懸けず一方的に敵を嬲る先進国の傲慢と忌み嫌ったドローン兵器が中近東の民自身の手で乱用され、破壊の限りを尽くしていた。……その『神仰クルセイド』がテロに用いた出血熱とその病状進行を遅延する薬が、その薬から治療法の研究が進み不治の死病では無くなった事は僅かにリアラに微笑を浮かべさせたが。


 そして何より災害だ。海外では既に南太平洋とインド洋の複数の国が海に沈み、インド洋の島嶼国家の国民は耐えかねて国家を畳みインドに国を挙げて移民、東パキスタン・ビルマ扮装に並ぶ新たな火種となっていた。


 そして日本も。西日本大水害、紀伊半島大水害、横浜大水害、お台場地沈災……台風の度、線状降雨帯が出来る度、要するにほぼ毎年一回以上の頻度で都市一つに打撃を与える以上の規模の災害が起こっている。仮設住宅で暮らす人が居なくなる年が一年も無い。


 世相は暗い。故に人心も暗いか。


(実際、ここに来るまでも違和感はあった……)


 自分は何しろ神永正透かみながまさととしては享年14歳だったから、その、そういうのには詳しくは無いけれど、かつての秋葉原は色々と自由におっぴろげていたという話は聞いている。そういうものが一切無い、だけではない。それに加え、電器に加えゲームもホビーも漫画もアニメもライトノベルもフィギュアもミュージックもグッズもオタク的なもの一切を揃えた町という体裁は変わっていなかったが……同人誌というものが、そこから一切無くなっていた。二次創作が著作権に関する法制変更によって規制されたか。


 更に商業商品についても、他国の歴史や伝説や神話を元ネタにしつつ派手に改編した設定を持つ作品や歴史改変等の幾つかのジャンルも減り、全体的に何となく海外っぽくなっていた。意味もなく特定の富裕なお金を出す国が舞台になったり人種配役上優遇されたり、逆に過剰な程に諸々に配慮されている設定上そこにいないはずの人種が無理やりねじ込まれる様子が露骨に見え見えだったり、代々CGでもアニメ絵寄りだったシリーズの最新作が過度にリアルな実写寄りな感じになっていたり、出来映えより製作体制の政治的バランスが売りになっていたり。ゲームや映画といった大作の類いにおいては特に顕著に。自主規制の類いが多いのか、小規模な作品ではそうでもないものもあるが……


(……僕やルルヤさんみたいな露出度の高いビキニアーマーみたいなヒロインもいなくなったな)


 この日本共和国において捕鯨や相撲や残っていた神道の幾つかの聖域や古墳が無くなったように、じわじわとした声の力で消されてしまったのだろう。


 それに比べれば、『全能ゴッド』が自らが隠然と世界を操った結果だと豪語する、平積みされているライトノベルの三分の二以上に〈異世界〉〈転生〉〈チート〉〈Sランク〉〈おっさん〉〈Fランクなのに〉〈追放〉〈スローライフ〉〈悪役令嬢〉〈ハーレム〉〈オンライン〉〈無双〉〈しちゃいました〉〈なわけ〉等の単語が必ず含まれる、稚拙な人工知能に組まれたまとめスレかネット動画かというワンパターンなタイトルが踊る事等、はっきり言えば些事かもしれなかった程だ。


(まあ、オタクとしてもある程度は慎んだ方がいいんじゃないかみたいなものもどうもある程度改善されてるっぽかったけど……酷い確率のガチャわるいぶんめいとか。けどついでにそうなったからといって、他の事は全く別だ)


 そして監視カメラが増えている。流石に全てを多い尽くす程ではないが、確実に。先に《使魔つかいま》を放つのも、ケバブ屋の親父がぼけっと明後日の方向を向いていなければ中々危なかった程だ。増えたスマホ決済にも、信用度評価という名前の監視社会が怪しく輝く。


(兎も角)


 ここまでの情報は、実はそこまで、少なくともリアラの現状に直結する物では無かった。現状においてまず対峙する必要がある情報は……


(地球に帰ってきた。ここは混珠こんじゅじゃない。でも異世界ファンタジーは続くジャンル設定は異世界ファンタジーのまま、か)


 リアラは空を見上げる。今までの情報、過去の話は、寧ろ拾うのに苦労した。なぜならば、今は正に全世界が混乱する一大ニュースがあるからだ。


「知らない、天上そらだ……」


 ここは混珠こんじゅではないが既に地球でもない。次元奔流が通り抜けた空は侵食されていた。空に穴が空いたかの様に歪み、その向こうに浮かぶのは月や太陽と同じ程のサイズの、泡の浮こうに透けて見える表面における海の割合が宇宙から見た地球より多いが似てはいる世界。


 混珠こんじゅだ。混珠こんじゅにおける〈不在の月ちきゅう〉の如く、地球の空に混珠こんじゅが浮かんでいる。


 地球全土で大混乱の大ニュースになっていた。科学的に観測できず存在する筈のない、にもかかわらず人間には認識できる不可思議な幻想異世界ファンタジー。リアラは既に《使魔つかいま》と魔法的知覚で察知していたが、それに地球諸国の政府が何か反応したというニュースは無かった。他にも、隕石が複数個降ったというニュースもあったが、それが放り出されて完全に続報が無くなっている程だ。恐らくはこれが自分やルルヤさん等だと思われるので落下位置を詳しく知りたかったので、残念だが。


(だけど当たり前だ。あの空の混珠こんじゅは、科学によらない現象なのだから)


 世界は変わった。


 既にこの世界での戦いは地球を舞台にしたとは言えなくなっているジャンル設定は異世界ファンタジーのままの理由はある


 世界はこれからどうなるかすら分からぬ異世界である混珠の描写もされ視点は地球に留まらないし


(……それでも)


 ここではないどこかにいる人を思う。


 空に浮かぶ混珠こんじゅにいる皆を思う。


 この星のどこかで今も生きていると信じている妹を思う。


 この星のどこかで今も生きていてくれればと祈る友を思う。


 インターネットを通じて繋がった、顔は知らないが趣味嗜好やそこから明らかになる価値観は知っている、言葉を交わした事は無いが文章は声が届く範囲の他人との会話なんて比べ物にもならない程の量と濃さと熱さで交わした友人達の事を思う。ちっぽけで普通すぎる意識の向け方かもしれないが、漠然としたどこかの誰かではない人々を思う。


 この星のどこかにたどり着いているだろうルルヤさんを思う。


(戦う、だけだ)


 誓いを新たにする。


(それにしても、ルルヤさんは何処に……『交雑クロスオーバー』も『全能ゴッド』もだけど。ともあれ現状は大体わかった、混珠こんじゅの為にも急がないと……)


「こ、ここで新しい臨時ニュースです!」「え!?」


 もう一度、【真竜シュムシュの宝珠】にアクセスし、ルルヤさんへの通信。通じず。心のそこにじわりと沸く冷たい不安を圧し殺し、状況把握を終えたのだから行動に出るべきかと判断した正にその時。不意に街頭を向いて設置されている店頭のTVの映像が、空に写る幻の星に対して首を捻る自称識者やだらだらと愚にもつかない誰でも言えるようなだべりを垂れ流している芸人コメンテーターから一斉に切り替わった。テレ都テレビ東京都もだ。そしてリアラは、目を丸くした。


「か、怪獣です! 怪獣、いえ正確には未確認移動物体ですがどう見ても怪獣らしいものが、特撮映画じゃなく、実際に怪獣らしきものが! 東京湾に!」

「えええええええええええええええええ!?」


 TVの中、海面から跳ね上がるは紛れもなくルルヤの【真竜シュムシュの巨躯】の尾!

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