・第八十一話「ふるさと地球へ来て(中編)」
・第八十一話「
TVは引き続き騒ぎ続けている。レポーターやアナウンサーは皆一様に限界といった表情だ。恐らく朝から空に浮かぶ謎の星の一件で大騒ぎしていた所に更にこれだからだろう。現実がキャパシティを越えつつあるのだ。
そして画面の中にも外にもスマホを振りかざす人々が大勢いる。およそ現代の物語において怪獣の類をスマホで撮りに行って死ぬだの、動画投稿の為に封印を壊して妖怪に食われる等は愚かな人間への風刺として色々な物語で取り上げられている筈だが、そういった輩はそもそもそういう風刺のある物語をみない者か我が身に反映する思考力の欠落した人間が大半なのだろう。台風が来た時の田んぼの水門を開閉し水量を調整しなければ一年の収入に切実な影響が出る農家とは必死さが違うというのに。
政治的なリアルさを重視した怪獣映画の冒頭めいた状態だ。果たして映画のように政治家の内の有能な者がしゃきしゃきと動き出しているのかどうか。中々期待するのは難しい。稀だからこそ人は憧れるし憧れるものが物語となるのだから。
(でも、どうして……!?)
とはいえ、TVの中の町並みと比較して、ここ秋葉原は比較的落ち着いていた。現実と物語をごっちゃにする程頭のネジが外れてはいないか、色々な物語を知っているが故に、そして物語で物事を知った積もりの奴が失敗する物語もうんざりするほどみているが故に、ある意味両面から場数を踏んでいるのがちゃんとした一人前のオタクというものだからだ。そうでないものは偽オタクとでも言うべきか? とリアラは思った。ともあれ、SNSは豪雨最中の川とでも言える勢いで流れているが現実の秋葉原住民は比較的落ち着いている中、実は一番驚いているのはリアラかもしれない。
(ルルヤさん、もしもし、ルルヤさん!?)
【
(現場に直接行くしかない)
急転直下だけどそうリアラは決断する。準備の類が整っているとは到底言えないが、それでも。急いで【
(もう抜けた……まるで痩せ細ったみたいだ)
ざわつく人混みをリアラはすぐに駆け抜けた。魔法強化無しでも2年の
かつての秋葉原と言えば、両親と対立し妹の歩未を庇い女友達の和柴緑樹以外の学生に虐められひっそりとオタクしていた神永正透にとっては〔年齢的問題と当時の本人の性的な物事への苦手さから来る実際には赴けない問題も併せ〕ガンダーラめいた遠い憧れの地というイメージがあったので、寂しく思った。
それは小規模なパリ症候群めいた心理的な問題ではない。事実の荒廃だ。
「おー、どーしたのよ? なんか新しいヤバすぎ! なニュースあったん?」
「こーゆー時ぁ一人にならないに限るぜ? 災害時のテッソク! 絆しようじゃん?」
路地裏に回ったリアラの前にのっそりと出てきたのは、リアラが地球にいた頃には見た事の無いブランドのファストフード店の裏に屯していた、アキバ系とは全く違う雰囲気の、というか半グレめいた二人連れだ。
「昔居たオタク狩りとかって奴? それとも復興ボランティア装って空き巣や婦女暴行する類?」
「オイオイいつの話だって、俺等ただ……あー」
冷ややかなリアラの言葉。今更地球人の半グレなんて魔法一個も使わずとも素の武術だけでどうにでもなる。オタク狩りという聞いた事も無い昔の言葉に軽そうな首を傾げる男たちは、続く冷たい言葉に本音を言い当てられたか言葉に詰まった。
(満更馬鹿でもない心算の馬鹿、って所かな)
リアラは頭から馬鹿にしている心算は無い。騒ぎの裏で悪さができるかと浮き足だった、ひっくり返した石の裏の虫けらめいた小物たちとはいえ、増えてきているが全てを多い尽くすまでにはなっていない監視カメラの無い場所を求めて移動したリアラとバッティングしたという事は、バレにくい場所に巣食って獲物を引き寄せようとしていたという事なわけだから。
「……イラついたな」「ああ」
人間は浅ましい生き物だ。誰でも取れる普通自動車免許一つで気を大きくして、煽り運転で喧嘩を売り人を殺す、そういう下衆が何処にでもいる。唯の車でもそうなのだ。異世界にチートなんぞもって転生すれば、駆除するしかない毒虫の類は絶対必然大量に繁殖する。そして地球の法則として、悪貨が良貨を駆逐するのだ。
「っらっ!」PAN! 「ア……!?」
男が振り抜こうとした、中華武器の鉄鞭風のデザインが施された香港自治区軍警制式伸縮警棒レプリカを、リアラは斜めに動きながら腕ごと払った。驚きよろめく男だが、もう一度伸縮警棒を振り上げようとする。それをリアラは冷静に見る。
(急いでこの馬鹿何とかして行こう)
あくまで必要最小限火の粉を払うだけに留めようと思う。己の鍛錬で得た武術とはいえ、昔自分を虐めてきた相手を思わせる奴等相手とはいえ異世界で得てきた力をひけらかすように振るうのは下品というもの……
FOOFOO! FOOFOO! 「トマリナサイ、トマリナサイ!」
「おわっ!」「っち……!」「え?」
そうしようとした時。不意に、サイレンと声!
(いやこれは録音!?)
警察のサイレンと音声だ。だが、リアラには分かった。これはオリジナルのサイレンとスピーカーを使った肉声ではなく、それを録音したな何か。恐らく本来は交通警察用の奴だろうが、そこまで頭が働かなかったか……あるいは一瞬リアラが見せた平然とした排除の気配に獣らしく慄いたか、慌てて男たちは去っていった。
「えっと……」
手間が省けたと言えるかは、微妙な所だ。叩きのめす必要は無くなったが、このサイレンを鳴らした相手もいなくならないと、飛ぶ訳には。
「大丈夫? さっきの様子、武術の心得とかもあるかもしれないですけど……」
「でもやっぱり、危ないから。最近はこの辺も物騒で……」
そのサイレンを鳴らした人達が物陰から出てきた。紙製の買い物袋をそれぞれぶら下げた少女二人。一人は眼鏡で高校生程の年齢、もう一人は中学生程の……
「な、あ」
その姿を見た瞬間、リアラの思考は停止した。声が溢れたが、完全に棒立ちになって目を驚愕に見開いた。
高校生の方の女子は、髪型も髪飾りをつけ眼鏡のデザインもより軽やかになって、清楚さを失わぬまましっかりした大人びた華を得て背も伸びた文学美少女。
中学生の方の女子は、ショートヘアもツンとした目に負けない優しい雰囲気も昔通りで、昔より美しく余裕ある成長をした優雅で気高い若猫の様な少女。
どちらも、リアラの記憶にある姿よりは成長しているが。
「え? ……あの……どこかで、いや、まさか……」
眼鏡の少女は、一瞬不思議そうな表情を浮かべた。思い出そうとした。昔会った? と問おうとした。どこかで見たような気がすると思ったからだ。
それに対して、中学生程の年の少女はより迷わなかった。それは思いの差ではなく年の差か。外れた時の事を思わずに言葉にした。
「え? ……お兄ちゃん? え、でも、女の人で、あれ、でも……でも……」
最初顔を見て、思わず、魂が体を動かしたように呟いて。その後改めて体を見て、そんな筈、有り得る筈が無いと理性が当たり前にあるはずがないと思って、でも、どうしても、どうしても魂が否定できなくて。
そしてそう言われては、リアラも止まったままではいられなかった。元より二年の成長という違いはあるが見間違う筈も無い。何度も夢に見た。忘れるものか。
「……
「その、口調……やっぱり、お兄ちゃん……!?」
リアラは、
……
………
…………
……あまりの衝撃に、エンディングテーマのイントロ部分が流れ始めて画面が引き、エンディングアニメの場面に切り替わる展開を幻視したが……それもどうも相手もそんな感じだったらしく暫くお互いに凝固していたが……切り替わらなかった。
即ち、唐突にして意外な、それは再会だった。
「えっちょっ、
「前世前世詐欺、てか〈君と僕〉って何!? 僕が死んでた間に公開されてた映画!? い、いやそれ以前に僕女の子の体だよ!? 僕から二人は兎も角二人が僕をそう思う理由なんて……」
一拍置いて半信半疑だけどそうあって欲しいけどそんな馬鹿なという常識を捨てられない生真面目委員長な
「……お顔も、前髪をさっぱりさせたお兄ちゃんが女の子になったらこうかなって感じだし。それに、たった二人の兄妹だもの、雰囲気、わかるよ、感じられるよ」
実質リアラから白状したとはいえ確信をもって語る
「……ああ、そうだよ。話せば、大体
巻き込む危険も、一瞬リアラは考えた。だが、名乗らずにはいられなかった。恐らく隠し通そうとしても無駄だとも思ったが、同じくらい思いが迸っていた。
「二人とも、無事で……無事で本当にっ……ごめん、悲しませて……」
あの日、虐めと暴力の果てに緑樹が巻き込まれ、暴行に抵抗し、殺され、川に流されて。その後
ぼろぼろと、リアラは涙をこぼした。
「本当、なの……? でも……でもやっぱり、喋ってみても、
「お、お兄ちゃん……お願い……~~~~~っ……!!」
常識的に半信半疑でいようとした筈の
暫く、三人は声を圧し殺して泣いた。
「っていうか、二人なんで一緒に?」「あの事があった後」「仲良くなって……」
落ち着いた後、連れ立って秋葉原に居たの何で? と問うリアラ。それに答える二人だったが……
「っ!! 危ないっ!」CRASH! GGONN! 「え!?」「きゃっ!?」
直後咄嗟にリアラが叫んだ。閃光、衝撃音!
「……な、な、あの、正直まだ、貴方が生きてた事も、女の子になってる事も混乱してる最中なんだけど……」
「嘘、これって……」
リアラは一瞬で偽装を解いて
それをリアラは知っていた。
「〈ジャケット・パニック!〉の〈マライカ〉…… 『
それはロボものラノベ〈ジャケット・パニック!〉に出てくる有人式人型機動兵器ジャケットの一種、例外的な人間サイズの特殊工作任務用無人ジャケット=機械兵士マライカだ。即ちそれは、『
「滅ぼすべき典型的な地球の馬鹿に絡まれていると思ったら、こっちが抑えようとしていた人質候補と合流とは……どんな幸運だ? ていうか、一か八かダメか試してみたけど、やっぱりもうダメか」
その『
「……ちょっと前声聞いた
侮れないと思いつつ己の【世界】を感覚で確かめつつ軽口を叩くリアラだが。
「他は兎も角、オタクの神の加護って、何それ」
「『
それに別方向から返事が帰ってきたのには驚いた。その場に突然、『
「要するに同じ目的だった訳だけど……迂闊ね、
『
しかしそれは阻止された。地球への出現時間がずれたのもあるが、それ自体がリアラの【
「人の事言えてないだろうが」
「お前の時空奔流のせいもあるんだよ、この前座」
「『
油断無く身構えるリアラ、説明される暇もなく混乱しつつも二人とも物語を知る者であるが故に漠然と状況を察する
一瞬。そして。
「まあどっちにしろ」「殺せればいいさ!」
〈マライカ〉の装甲が展開する。そこには本来ありえない〈
「二人とも!」
そしてリアラは、手を伸ばし羽を広げた!
ZDOOOOOOOOOOOOMM!
数秒後。
「飛んで、飛んでるぅううううああああああぁっ!?」
「……実のお兄ちゃんに、胸の大きさで負ける、この衝撃」
腰にしがみ付く体勢で割りと凄い顔で悲鳴をあげる
「えっあっホントだ、めちゃでかい!?」「ちょ、今それ!?」
それに気づいた
「え、えっとその!? だ、大丈夫!
その発言に嘘偽りは無い。
「私は!? Aカップ寄りのBカップで成長止まったんだけど!?」
「ど、同率一位です! 清楚な
女として突っ込まざるを得ない
「(
「ともあれ、落とす心算は無いですけどもう暫く捕まってて下さい! 訳あって、事情話しながらこのまま湾岸方向に向かわせて下さい……!」
心のどこかで「じゃ私のバストは清純じゃないってのか!?」と怒るリアラさんを想像して焦りながらも、
少々どたばたしながらも、リアラは飛び続……
「
……途中、ビキニアーマーの金具に引っ掻けたのか、
その中身の少年・少女問わぬ漫画ラノベの類に混じった
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