・第九十七話「逆襲物語ネイキッド・ブレイド(中編1)」
・第九十七話「逆襲物語ネイキッド・ブレイド(中編1)」
ほぼ同時、
ZDDOOOOONN! DZBAAAANN!!
「小世界のガラクタが……『刻呪の杖』の前には無力と知れ!」
「……!!」
《王神鎧》が爆発した。『
だが〈紅なるもの〉はギデドスが刺し違えた筈では? 嗚呼、何と言う事か。その体は胴が脊髄まで切り裂かれているのに平然と立ち上がっている。『
「貴様らの様なオリジナルだかパロディだかオマージュだかの区別もつかぬ、雑多な寄せ集めの世界等に、私を止められると思ったか! 我こそは〈
『
「嗚呼……」
ラトゥルハが噛み締める。不毛な苦い過去を。教え込まれセッティングされた敵愾心で戦いに酔っていた頃、己はこれと同じ事をしていたのか。これ程の罪を犯していたのか。これに気付けず生きてきたのか。戦場に溢れる死者の魂を感じ取り、それを教えられる。涙が止まらない。
この時、地球側からの【
「ああ……!」
だがラトゥルハが噛み締めるのは罪だけではない。……この選挙区と己の運命への逆転と逆襲の布石もだ。罪を犯し、敗れ、その果てにここに辿り着いていなければ見えなかったものだ。
「成程、負ける訳にはいかないよな……
【
そう、ラトゥルハの【
「……オレにも出来たぜ、本当の、戦う理由……!」
「ふん? ……トドメだよ!!」
既に重傷のラトゥルハが尚足掻く、その意味に気付き、『
「この悲しい戦いに……この転生の掟に……!」
そして、ラトゥルハは己の【世界】を叫んだ。
「少しだけルール違反を許してくれよ! 【世界】!!」
少しだけルールが変わった。
「何が起こった。何をした。それは『
「……少しの〈悪さ〉だよ。オレにしかできない、かどうかは分からないが、オレが思い付いた、ちょっとしたルール違反。それが、オレの【
『
それはとある悪役令嬢ではなかった少女が、裏切り者達が、特に陳腐な転生者達のうちの一人が、最後に優しさを知って消えた信仰者が、ほんの少し残したものに起因していた。
「ッ!? 何だ……!?」
『
「術式を変えてもらったのさ!」
「がッ……!?」
ラトゥルハが反撃! 『
「……対
「そういう事!」
瞬時に『
そのルールを少しだけ曲げたのだ。曖昧にしたのだ。
そしてそれをラトゥルハが通信魔法で艦隊に伝え、神官であるハリハルラが艦隊全体で展開していた〈
「偽竜の数は十分減った!射撃武器に後は任せて魔法使いは全て浄化に回れ!」
「《大いなる海よ、命の輪廻で死を清めよ……》!!」
ボルゾン提督の巧みな指揮が既に『
「ッ……!?」
『
〈紅なるもの〉顔面に攻撃魔法が炸裂すると同時に、再びその胴が深々と切り裂かれた。今度は、完全に両断される!
「馬鹿な……!?」
背後。《王神鎧》の操縦席から振り落とされて倒れ付したまま攻撃魔法を放ったルマと。その攻撃魔法を目晦ましに〈紅なるもの〉を両断し、立ち上がったのはその〈紅なるもの〉の背後からの攻撃と切腹じみた自身の反撃で二重に串刺しとなり瀕死だった筈のギデドスと。
「ええ。馬鹿みたいな話でしょ? ……それでもね、私の最後の些細な未練はね。この人を救ってあげたかったのよ。唯の私として。悪役令嬢でも何でもない私として」
その傍らに、居る筈が無い者。いや、居るのではない、ひと時、ギデドスに宿っているだけだ。半透明の、それは霊魂。かつて『
死者が生者に手を貸す。それは【
ありえない。
故にギデドスを放っておいても死ぬと判断し〈紅なるもの〉は《王神鎧》への攻撃を優先……《王神鎧》をガラクタと罵り事実一撃で破壊しながらも、《王神鎧》を意識した結果、《王神鎧》の影響もあって〈紅なるもの〉は斬られた。この奇跡めいた例外事象だけが原因ではない、様々の要素が組み合わさった結果だった。
「……それを変えたいと思った。ほんの少しだけ。救いたいって思える奴だけ。ほんのちっぽけさ、あくまで効果は【地脈】に転生者の死者の魂も乗るってだけ、この一戦が終われば今度こそ消える。それ以上は無理だったし、【地脈】でも救えない生者も救えない」
『
「
「それでもこれが、オレがやれる、オレだけが出来る事だ……! この戦いを終わらせる為に! オレ達として!」
主たる『
「誰が馬鹿だと笑うもんかよ、俺が馬鹿だと笑わせるもんかよ。俺の、妃をな」
「……ちょろい人。だけど、大好きよ」
ギデドスの剣の切っ先が、『
「俺はそれでも、力を貸さねえ」
全てへの救いではない。ラトゥルハの体は、同時に無数の
「俺の死も俺の恨みも俺だけのものだ。俺はそれでも許せない。ミアスラも同じだ。例え『
だがな、と、そいつは言った。
「……だからこいつは御都合主義じゃねえ。これで勝てたら、御都合主義のハッピーエンドじゃねえ。勝ち取った成果だ」
そいつはそう言って消えていく。その背中に、気力を使い果たして意識を失う間際のルマが、生前彼と縁のあった女の生き残りである彼女が、小さく囁いた。
それは声にもならない祈りで、だけど、霊である彼には感じ取る事が出来た。彼が死者だからこそ聞く事が出来た、彼が死者にならなければ言ってもらえない奇跡の言葉だった。
「貴方と正しい道を歩んだ上で一緒のままだったら、死んでもよかった……死んでも納得できた。皆、そう思ってた」
死にたくもなく、何も手放したくもないからこそ、悪に組し、悪を成し、秘密を作り、結果すべてを失った彼、即ち『
「ああ……ああ……」
静かに、今度こそ穏やかな表情でゼレイルは消失した。それは正に、ただ一度の尊い死も正しかろうが、少しでも悲しみを削げれば、という、ラトゥルハの、ラトゥルハが皆から学んだ祈りの結実だった。
そしてそれとは別に、ラトゥルハにもう一つ、ほんの少しの力が加わる。何も分からずに死んだのを自覚して恐れ慄き、己が知らなかった自分達の行いの真実にショックを受け……悪人で終わりたくないし、ゼレイルを悪人で終わらせたくないからと言って力を授けたゼレイルの最初に死んだ仲間、テルーメアがラトゥルハの中にいた。
戦局は逆転を起こしていた。ルマもギデドスも力を使いつくし〈紅なるもの〉を倒した直後精魂尽き果て気絶し倒れたが、彼より先へ、敵の元へ、戦士達が進む。直接対峙する者以外も、ある者は艦隊の支援魔法が浄化魔法に切り替わった分を補うために支援を飛ばし、ある者は援護射撃で突撃血路を開き、また戦場を分断する事で『
「らぁああああっ!」「はっ! はっ! はっ! はっ!」「さあ、酔おう、リズムに、そして、心おきなく……《夢葬》!」「《情矢》!」
『
「『闇の多面体』よ!」「~~~~~っ……!!」
「むうううんっ!」「ちいっ!」
〈地球の姿〉の体の分解が加速する。それでも尚攻撃を全て剣で切り払い抗いながら、更に迫るペムネの攻撃魔術に黒い宝石を飛ばす異界の攻撃魔法を放ち迎撃する〈地球の姿〉。《情矢》を『闇の多面体』が打ち砕き、ペムネの肩を射抜いた。だがペムネは舞を止めぬ。血の糸を引き舞い続け、霊術を維持し連携を維持する。
それにガルンが食らいつく。更に『闇の多面体』を連射せんとする〈地球の姿〉に猛然と突きかかり殴りかかる。
「なら貴様から死ね! こっちの命はまだまだある! 死目掛けて突っ込んで来い!」
GAGAGAGAGAGAGAGA!!
猛然と翻る〈地球の姿〉が振るう『
「望むところだぁっ!!」
SMASH! ZUNN!! CRAASH!! !
その刃はガルンの身も刻んでいく。武器は既に使い果たした。鎧もあらかた砕け散った。だが、木っ端微塵となる最後の瞬間、シャークオリハルコニウムトライデントだったものをガルンは猛然と振るった。
「がっ! ごっ!? このっ……!」
石突が〈地球の姿〉の腹を撃った。穂先を切り落とされた切断面が竹槍めいて〈地球の姿〉の肩を突いた。反撃の刃が最早根めいた状態となっていたそれを両断した、だがその二本になった棒を硬鞭めいて更に叩き付ける!
「
〈地球の姿〉の、先に突きを受けていた方の肩が砕け散った。だが尚片腕は健在。この時、ガルンの体にはラトゥルハの【世界】により、轡を並べて戦いここまでの戦いで散っていった
届かぬと〈地球の姿〉は攻撃を繰り出した。『
BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!
「【おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお】っっ!! !!」
BLAMBLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!
「「【【あああああああああああああああああああああああ】】っっ!! !!」」
火を噴く魔法銃。轟く雄叫びと突撃と女達の叫びと。
ガルンは叫んでいた。今の彼の身には竜術が宿っている。【
ガルンは、射撃を跳ねのけて進んだ。
だが、更なる射撃が襲い掛かった。
ルアエザとエラルが前に出て叫んだ。【
だが発射を終えた瞬間、〈地球の姿〉は『
「「!!?」」
男二人の驚きが交錯した。斬られたのはガルンではなくラルバエルルだった。濃褐色の長身が血を噴き上げる。だがラルバエルルの表情は満足げだった。砂海での戦いで、彼女達を庇って散っていった男達が居た。……ガルンはその彼等ではない。その借りを、返したかったのだ。
「むううんっ!!」
ガルンが雄叫びと共に、振り抜かれた『
〈地球の姿〉の腕にその無限に等しい時間が積み上げた魔力が流れた。ガルンのその倍の太さもあろうという腕の筋力と、無限ならざる有限な存在達の幾つもの魂、全存在、即ち一つの小世界が複数抗った。
一瞬の拮抗の中。
「~~~~~~!!」
斬られたラルバエルルが声にならぬ声で尚抗う。馬鹿な、と〈地球の姿〉。確かに両断した筈、既に防御のまやかしは全て切り飛ばした。『
叫びながらラルバエルルは掲げた。その体が完全に切り裂かれなかった原因を。
それは一振りの剣だった。かつてラルバエルル達が戦った……
「『
『
ラルバエルルの手から《神剣》が飛ぶ。ガルンが、〈地球の姿〉の腕を抑えるのと逆の手を掲げそれを掴んだ。高らかと掲げる如く。その剣に如何なる謂れがあろうと、神秘にも物質にも縛られる事無く自由に振るう刃。その光に血と汗で光るガルンの筋肉が荘厳な陰影を作る。それはさながら英雄の青銅像。
「違う……お前等が〈
〈地球の姿〉はそれをどこかで見た筈だという思いを否定した。己より古い、地球神話のヘラクレス等の偉丈夫と直結したが如き古の、悪しき理外の力を鋼の剣と鋼の如く鍛え上げた野生の肉体で打ち祓う鋼の男。
「知るか、違うも違わぬも……!!」
ガルンは力の限り剣を振るう。その背には担う魂達の姿があった。その身にはあるいはその瞬間、ラトゥルハが僅かに【世界】の法則に融通を効かせた結果、何時の時代にもいた普遍的な英雄達との繋がりが生まれていたかもしれなかった。
「俺は唯俺として勇み生きる! だけだっ!! !!」
だがそれより何より、その心には勇気が燃えていた。動きを封じられた〈地球の姿〉の頭を、《神剣》が叩き割った。
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