・第九十六話「逆襲物語ネイキッド・ブレイド(前編)」
・第九十六話「逆襲物語ネイキッド・ブレイド(前編)」
超セイオウ攻撃が終わった。否、途中で止められたのだ。本来の超セイオウ攻撃であれば、それが終わった後に残るものは何もない。
攻撃に巻き込まれた『
スウ、と、まるで書き直すかのように奇妙に無機質に、その両腕の損傷が回復していく。それを威圧的に見せつける『
ここまでリアラとルルヤの戦いは苦戦が続いていた。だが逆転と逆襲の手がかりも無く只管苦戦を続けていた訳ではない。逆転の布石は既に打たれ、逆襲物語の為に刃は既に抜き放たれていたのだ。
ZDOM……!!
「ッ……!!」
背後の爆発音を聞き、コックピットを解放し自ら戦っていた『
端末に視線を走らせる。予想通りの、『
即ち最早、グレートシャマシュラーは無限の攻撃力と無限の再生能力を失った。スーパーロボットたる所以、鋼の神たる拠って立つ超越性の根拠を失った、唯の兵器を満載した人型の機械に過ぎなくなった。
残る〈
「まさか、やってのけるとは……」
『
「僕は、考えて、手助けを頼んだだけです。殆ど全部、皆の力ですよ」
「ぬかしおる……」
そう答え、静かにそこに佇むのは、リアラでもルルヤでもなく、リアラでもルルヤでもあった。【巨躯】ではあるが、柔和なリアラの【巨躯】でも、竜そのもののルルヤの【巨躯】でも無かった。大きさは二者を足したサイズではなくリアラの【巨躯】より少し大きい程で、リアラの【巨躯】に似た、女神めいた姿ではあった。だが、何もかも違う。
真珠銀とシャンパンゴールドの薄く繊細なカラーリングは、白刃の如き銀の肌と、金と赤銅、二色の幾何学紋様に。
頼りなく無防備にすら見えた肢体には、ルルヤの【巨躯】の鱗を加工したような黒いビキニアーマーが装着されて。
その容姿はリアラのものでもルルヤのものでもなく、二人の印象を混ぜ合わせたような顔と二人の魅力を共に備えた肢体で、翼はルルヤの黒い竜の装甲皮膜でもリアラのステンドグラスめいた妖精の羽でもない、天使や女神のような白い鳥の翼、尾に相当する部位は尾針めいたリアラのそれより長く怪獣めいたルルヤのそれより短く、踝より手前辺り程までの長さのしなやかで細い尾となっている。
瞳は片方がリアラの金、片方がルルヤの紅。髪は、朝焼けの終わり際とも夕焼けの始まる手前とも見える、一部は薄青、一部は薄赤の入り交じった色で、金色の瞳がある頭の側の一房だけを細い三つ編みにして垂らし、後ろ髪はルルヤの髪型を思わせる奔放な長髪、長短細太の四本角が王冠のように生えていた。
その背後に非現実的な【
そしてリアラとルルヤ二人自身は、具体的にどうなっているのかは二人にとってもややあやふやなのだが、リアラはルルヤと共に、恐らくはこの言わば【融合巨躯】の中なのだろう空間にいた。不思議な光に満ちていて、二人とも裸なようなのだが、体自体がほんのりと発光し、更に【
言わば光のビキニアーマーというべきそれから同じく光で出来た糸のようなものが何本か伸びて【融合巨躯】と繋がり、周囲の空間と繋がりロボットを操縦桿を介して操縦するのと違うタイムロスの無い【融合巨躯】の制御を可能としている。光の糸は四肢を動かすのに支障はなく、二人とも、【融合巨躯】を己の肉体のようにも感じていて、二人の意思が共に【融合巨躯】を動かす。二人同じ場所にいるようでもあり、リアラとルルヤがそれぞれ自分の目と同じ色の瞳の中に外から見える事もあり……正直リアラも完全にどうなっているのかは把握しきれなかった。二人の【息吹】の効果を重ね合わせる事を勝算として考えてはいたが、ここまでの結果になるのは想定以上だったので、半分くらいはぶっつけ本番なのだ。半分予定して導いただけ十分凄いと言えるが。
その両腕は、先程までの『
その手にあったのは、ルルヤが攻撃を跳ね返すのに使う黒い円環だけではない。そこに光の円環が加わり、光と闇を備えた二色の円環。それはリアラの陽の【息吹】、今や光だけではない完全な陽の属性として、地球の太陽が象徴する熱量や核融合、太陽の質量の属性をも操り始めた力だ。
その両腕が、『
『
そしてグレートシャマシュラーに超セイオウ攻撃を使わせる為にはリアラ・ルルヤと『
それをここまでにリアラはほぼ成し遂げ、足りぬ部分は心理戦と舌戦で補った。だが如何にして〈別次元からエネルギーを取り込む流れそのもの〉を攻撃したのか。
行った事自体はシンプルだ。次元間のエネルギーの流れから無限の攻撃を引き出す超セイオウ攻撃。つまり、超セイオウ攻撃をたどれば次元間エネルギーの流れそのものである次元接続システムに行き着く。そして、
つまり後必要なのは、無限の攻撃を遡上してその根元を撃てる、そんな論理だ。
「もうやめようって言って、止めるようなら復讐者にも転生者にもなってないよね」
「勘違いも増上慢も甚だしいぞ。たかが超セイオウ攻撃が、俺の最後の切り札だとでも思っていたか?」
【融合巨躯】はリアラの声で語り、『
「そうだ。君達は好きに満足して好きに死ねばいいんだ、それができるかは君達次第だけど……生まれ変わってよかっただろう? さあ、これで満足して、最後の戦いに突撃しながら死ぬといい。尤も……」
ZDOOOONN……
そんな二人の関係を包括して抱きとめる形で残酷に無視し、『
「チッ……!」
未だ諦めていない『
「君は問題だな、
そんな『
「……その姿になって、強くなった。二人が重なって、力の密度が倍になったけど、重なった理屈はいい。それだけじゃ、あの超セイオウ攻撃とかいう兵器の威力は超えられない。問題はそれによって何を出来るようになったかだ。……お前。光の速度の限界を越えたね」
その理を見切る。
「ええ。この姿は、リアラさんの【
リアラは同意した。それは正に、現実への物語の勝利だった。まず、その光速の論理から語り始めると、以下のようになる。
超セイオウ攻撃にカウンターを入れて次元接続システムを破壊した理は単純だ。先程まで行っていた重力【息吹】による攻撃反射、それの極限だ。
無限の熱量をねじ曲げるには、同じく無限の力が要る。【
……
だがリアラは気づいた。己の傍らにはルルヤがいる。重力を操る彼女が。
後は原理は簡単だ。光に近づく程に増える質量をルルヤの力で相殺する。そうすればアインシュタインを欺く事が出来る。その状態で、光に至る瞬間の、本来無限に質量が増大するから光に辿り着けなくなる領域のエネルギーを解放すれば、無限に手が届く。それによる己と世界へのダメージは【
最後の切り札として、リアラは過去からそれを考え続けていた。そして辿り着いた。無論気付くだけで出来るだけの事ではなく様々な条件を揃え終わった結果だ。リアラの【世界】が無ければ周囲への被害が恐ろしくて使えないし、使えるようになっても【地脈】だけでは辿り着けない威力を出せるとはいえ光速に至る事自体には【地脈】等による莫大な魔法力が必要だ。
「今君は地球の物理法則をハックした訳だ、チート野郎め」
「語るに落ちてるよ、クラッカー」
ハッキングに準えてチートとお前と何が違うという『
「これは、
だが、リアラが当初想定していた【光速の限界を越える力】は、あくまで更に微細な、ぎりぎり1発撃てるか撃てないかの最後の切り札だった。それをこれほどまでの運用を可能としたのは、あくまでリアラの力ではない、皆の力だ。更なる追加の条件を揃えてくれた、皆の力。それが最終的にルルヤの【
リアラは、『
それは即ち、この地球における【逆襲物語ネイキッド・ブレイド】とは、即ちリアラが何らかの力で
即ち、この戦いの真っ最中に【逆襲物語ネイキッド・ブレイド】を更新出来るかどうか。それも
何故それが出来たのかは……繋がった時、二人は確信という程ではない何となくだが、直感的に理解した。恐らく、存在しないと思われていた魂が存在し輪廻転生していたように、魔法が今彼女達の傍らにあるように、そして何より、元々物語というものが本来決して直接繋がりえぬ他者の心を動かすように。
二人はそれを、【
その結果、【逆襲物語ネイキッド・ブレイド】を書く事が出来た。インスピレーションが湧いた。そしてそれが紛れも無く今の
そして、無言の内にそれに答えたものがいた。
既にここに展開する【
詳細はこの後二人が投稿し更新する
「何が起こった。何をした。それは『
「……少しの〈悪さ〉だよ。オレにしかできない、かどうかは分からないが、オレが思い付いた、ちょっとしたルール違反。それが、オレの【
『
それはとある悪役令嬢では無かった少女が、裏切り者達が、特に陳腐な転生者達のうちの一人が、最後に優しさを知って消えた信仰者が、ほんの少し残したものに起因していた。
今はこの
そしてラトゥルハの【世界】はそれだけでなくルルヤの心に変化を齎し、
「私の復讐の旅も漸く終わる」
ルルヤは静かな心境で呟いた。前者は、ルルヤの心に力を齎していた。
「憎しみを捨てるとか復讐を止めるとか、そういう悟った風な事を言う訳じゃない。ただ……」
それが、ルルヤの【
「私達の復讐は必要な事だったし、壊すより多くを救ったと言い続けよう。その上で、復讐より今は、助けたい人がいる。守りたいものがある。通したい理がある」
その結果が、今のルルヤとリアラの姿、【融合巨躯】だ。
「ラトゥルハはラトゥルハなりの形で、己の心を素直に表す事を教えてくれた。リアラの切なる願いを心の形にするあり方と併せて、私も漸く私の心の形を明らかにする事が出来た……意外と私は他人思いに尽くすタイプだったようだ」
自分への皮肉と誇らしさと穏やかな感情が混じった笑みをリアラは浮かべた。
「リアラの力になりたい。私達の物語を愛してくれた人々に報いたい。だから、リアラに、皆に、もっと寄り添って、作りたい、可能性を。救いを。その手助けをしたい……それが出来る世界であってほしい。それが私の【世界】だ」
皆を守りたかったリアラ。曰く所の【ルール違反】、
それがルルヤの【
「優しい世界だな、それは」
『
「だがそんな優しい世界を踏み潰して取り除けないと、俺が滅ぼしたい地球に届かないなら……それがどれだけ優しく美しい世界でも、踏み潰して進むだけだ。例え、その可能性がどれ程だろうとも」
それでも尚、止まれない、否止まらないと宣言する。
「それには、同意だね。私も、ああいう優しい世界は……許せない。君のその反逆を、地球への憎悪を、今は肯定しよう」
そして『
「分かっているさ……リアラ」
支配ではない優しい世界を望んで、それを形にしても尚、戦わなければならない。それをルルヤは受け止めた。その上で、優しさを捧げた愛する人を支える為、問う。
「はい、分かっています」
複雑な言葉は要らなかった。己に似て非なる形の物語と復讐に生きる『
「いくぞぉおおおおっ!!」「消えろ!!」
『
地球での最後の戦いが始まった。
「行きます!」「行け!」
阿吽の呼吸で二人は肉体を制御し、互いに魔法を掛け合い二人分の意識で一つの肉体を倍の回数動かす。光速行動は、まだ長時間は持たぬ。だが一瞬一瞬成長し続けている。リアラが【融合巨躯】を走らせた。まだ再度光速には至らない。
その現実より先に『
進路上に最後の〈
考え無しの連射ではなく全て効果を積み重ねての構築。雷が金属と金属の間に網を張り、放たれた衝撃が跳ね返り、隙間を回転する刀身が縫う。
「取ったッ!!」
傷を負いその間隙を馳せ抜けるリアラは追い詰められた。それは『
その射線を埋めるのは最後の最後に引っ張り出してきた切り札の〈
これは〈Destiny/Duel in the Dark〉最強の武器、〈地球王アルリム〉の〈
「伝えて、やれっ!」「はいっ!」
だがルルヤはリアラを信じて叫ぶ。リアラも真っ直ぐ『
空中戦! だが敵は無論『
「ふ、せっかくだから」
『
「少しは『
そう言うと『
「何のっ!」「勿論そうだろう、からねぇっ!」
【融合巨躯】の姿が一瞬霞んだ。弾幕がすり抜ける。幻や非実体化ではない、一瞬の光速行動による回避だ。
しかしそれを読んでいたからこその突進だ。同時に『
「そして諸共消えて貰おう、可哀想な『
DBANN!
「く、もう対応してきたか! ぐうっ!」
直後、再度の光速行動による回避を【融合巨躯】は行えなかった。衝撃に苦悶し叫ぶ。これまでの光弾ではなく『
それは同時に二重に【融合巨躯】の背後からも出現する二重の壁で、攻撃が発動した瞬間には前後左右どちらにも逃げ場なく塗り潰されていた。【融合巨躯】の光速行動があくまでテレポートではない事を見切ったのだ。
更に同時に背後から連続着弾する最後の〈
「どけぇえええええええっ!!」
全ての黒幕に対し今はどいてろ邪魔だお前の相手をしている暇はないと、これ以上無い挑発となる言葉と共に、【融合巨躯】は詰まった間合いを踏み込んで拳を叩きつける! 光速行動!
ZGGOGARANAAAAANNG!!
「ッ~~~~~~!!!!」
『
流石に一歩後退する『
「ううぉおああああああああああああああっ!!!!」
『
(諦めない! 絶対に! 殺す、殺し返す! 地球! 地球ぅうううっ!!)
地球を守るリアラ目掛けて。リアラ諸共地球を滅ぼそうという憎悪と殺意を宿した光の竜となる。装備も、転生後の肉体も、記憶も自我も魂そのものも全てこの一撃のエネルギーとする。これが終われば完全に消滅する。それでもいいから殺すと呪う。
「『三千』! 『大千』!!」
魂と成り果てながらも、『
『三千大千壊尽絶消』。
使えば、億の世界を滅ぼす力を得る。使用した物語がこの世界から完全に消滅するというデメリットを得る事で。
己が、自分の二次創作に使う程愛した世界が消える。だが構うものか。そもそも物語を生んだ地球を憎み、消そうとしていたのだ。地球を消せば物語も消える。何も、問題は、無い、筈だ。
それは複数の世界が爆発する無限の嵐。最早無限を幾つぶつけられるかの極限インフレ領域と化したこの戦闘において尚力で受け止める事は出来ない強大な力……どこかで『
「……〈とある矛盾の最低最弱〉」
それが発動せんとした正にその時。一瞬早く。
吐息がかかる距離で、リアラは『
「読んでた。僕も妹も。僕の生前は、本当に辛かったから、世間でどう言われても滅茶苦茶に全てを覆し突き進むあの荒唐無稽な物語が、無茶苦茶なのは承知の上だけど、あの時は……嫌いじゃなかった。それと君の前作品、〈冬のアイリとUFOクリスマス〉の二次創作、悲しいを通り越して丁寧に作られ過ぎたわざとらしい無力感が胸糞悪いと、少なくともあの時の悲しい世界に憤る僕達には感じられたエンディングを殴る為だけにアイリが人類を滅ぼす二次創作〈セカイ最後のクリスマス〉も、同じ理由で好きだった」
リアラは思い出を語った。荒々しく若い文章で、だけど、それでも、若さ故の鋭さに光る所があった。商業作品では出来ない無茶の魅力もあった。不完全さも沢山あったが、痛快さも、面白さも確かにあったのだと。
『
「それは」
震える少年の声がわなないた。暖かな胸に抱かれた驚きのように。
「ずるいぞ、お前、そんな……嘘じゃない証拠が、どこに」
「炎上した作品として知ってるんじゃなくて、愛着を持って読み込んで無けりゃ、ここまで貴方の攻撃に対応できる訳、無いでしょ。……君が
ちょっとずるだよね、ごめん、と、リアラは笑った。この言葉が
「……この世に地獄は無いだろうが、もし今後『
無論仮にお前が勝っても、んな都合のいい事は無いだろうがと、お互いそれは分かっていながら、冗談めかせて、ただ最後にリアラの心に幾らかの救いの対価を投げる事が出来たら、そう思って『
「地獄で『
リアラが目を見開き、震える息を呑んだ。直後轟風がリアラの傍らを通過した。はっとリアラはその向こうを見た。
「ッ、こんなもの……無駄だ……! 折角、満足いく死を、与えてやろうと……!」
背後で通常の光弾と違い自身の体程もある巨大光弾を掲げていた『
「があああああああああああああああっ!!!!!!」
『
はっとなって、リアラは『
リアラは一筋の涙を溢した。自分達によく似た復讐者の最後に。
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