・第九十四話「人の光は全て物語(中編)」
・第九十四話「人の光は全て物語(中編)」
「ふ、ふっはっはっはっはっはっは……」
リアラ達が得た、【逆襲物語ネイキッド・ブレイド】という物語を愛する人間達の力。。それに対する八割様々な怒りの複雑極まりない感情で、『
そして。それを許さないのは『
「行けよ、救いが欲しいんだろ? ほら、冒険、しなくちゃ」
「「「「「う、うおおおおおお!!」」」」」
静かな怒気を込めた『
「【GEOAAAAFAAAANNN!!】」
それを迎え撃ったのはルルヤの【咆哮】だ。【息吹】と同時発動し、ルルヤの【巨躯】の全身から黒紫の波動が迸る。それは、物語を通じて彼女を愛し応援する人々の心の力を【
「「「「「うわぁああああっ!?」」」」」
海面が爆裂する。それは心を砕く威嚇と物理的に弾き飛ばす重力攻撃の二重奏。光弾と化した量産型
「【感謝する、
竜は吼えた。友への感謝を。そこには邪悪を退ける作業に消耗する音色は無かった。それは現実を越えて高らかと響く勇気であった。
「【そして感謝する! 吟遊詩人としての
竜はその巨大な翼を羽ばたかせた。轟く風が、怯んだ量産型
「【そして、改めて言おう。私の愛するリアラを虐めた者達よ……お前達が立ちはだかるというのならば、私には願ったり叶ったりだ】」
竜は牙を剥き唸る。その鋭い牙の向こうから、準備運動めいてちらちら【息吹】が黒く揺れた。
「【かかってくるなら、我が愛する人の報仇が出来るというもの! さあ、この牙を、この爪を、恐れずかかってくるがいい! 出来るのならな!】」
牙を鳴らし、爪を剥いて、黒き竜は無数の光に対し宣言した。何者にも揺るがせにさせないという愛を。
それは、物語が、現実に敗れず、物語が生む絆を力として、この地球で生きて見せるという宣言であった。
「僕は別に、
それだけ隙があればリアラが陽の【息吹】を操るには十二分過ぎる。両手に光。【
何よりリアラの心が、堂々と立ち上がっていた。
「けど、喧嘩がしたいのならするよ。君達がその姿を凶器として振り上げるんなら、僕も魔法という凶器を使う。お互い凶器を振り上げる以上……勿論死ぬ覚悟で喧嘩してるよね。僕は、してる」
敵に対してはあくまで静かに。復讐者であると同時に救う事を望む正義の味方であり、復讐者としても正義の味方としても不完全であるが、そのどちらでもあるが故にあくまでもしなやかに軽やかに。
「「「「「……ひ……!?」」」」」
しかし確かな決意に、量産型
「……」
無表情の『
「
「……お兄ちゃんたちの事もよ、皆が愛してるのはね」
「それと勿論貴方もよ、新しい親友」
覚悟を決めた微笑が、相互を繋いだ。リアラが覚悟を決めた以上、読者全員、友も妹も、心も体も砕け散っても守る。物語と友情とが、地球にも負けない力をリアラに齎す。即ち、物語と友情は、地球人の魂をそこまで強く出来るのだと、リアラはその身でだらしない世界に歪み無く示し、世界に染まらぬその姿を以て読者を……己を愛してくれた人々を勇気づける。となれば
即ち、心理戦におけるリアラとルルヤの守りは固まった。敵はそれでも攻め立てるだろうが、跳ね除け、抗い、逆襲に繋げるだけだ。
「『
「……はっ!」
リアラの言葉を『
「「「「「「ひぎゃ……!!!???」」」」」」
同時に『
「「「「っ……!」」」」
リアラもルルヤも、
「リアラ! 下らん戯れ言は止めろ!」
そして『
戦ろう。戦ろう。そういう事になった。
「行け」「食らえっ!!」
警戒感と不快感から『
ZDDDDDD!
「【陽の息吹よ】!」「【
しかし最早リアラもルルヤも撃たれてはいない。拡げた羽から【
リアラは飛来する量産型
ルルヤはグレートシャマシュラーの段幕を、最低限度の被弾で済むように掻い潜り、被弾には【
(これほど全方位でなければ掻い潜れるのだがな!)
既に中華ソヴィエト軍の投入させた戦力は無効化した。地球らしい打算と保身と不安が皮肉にも追加戦力の投入を一旦打ち止めとした為でもある。
そのリアラを守る為に戦うルルヤは、リアラへ飛びうる攻撃の射線を遮る以上リアラを守るが故に【
「私の身がリアラの為に傷つく事が出来ないのであれば、私の心が傷つく。私がリアラの為に死ねないのであれば、私の心が死ぬ。何、勝つさ。故に実際に死にはしない。だから気にするな」
と。それを、リアラは是とした。言葉では語りつくせない絆と共に。故に二人は共に戦う。その防御と機動の竜術は、【逆襲物語ネイキッド・ブレイド】を愛する人々の応援で、【巨躯】となってからの最高潮を更新し続けている。
だがそんな全開の機動力を以てしても尚完全回避をさせないのは、グレートシャマシュラーの強さと限界を『
『
そしてそれは無数の
故に無数の火器を、ルルヤを狙って、ルルヤの未来位置を狙って、それに反応してのルルヤの回避機動を狙ってと、全方位を事実上塗り潰すように分散させて放たなければならない。それは必然面積単位の火力の低下をもたらす。絶対零度領域とテラフレイムを同時に打ち込む事による一人合体攻撃・矛盾領域等を使う余裕は無い。そして、それでも尚テラフレイムや〈木のマルドラブル〉のプラズマブレイクサンダー等はそもそも『
つまりリアラから知識を得ているルルヤからすれば、当たってもある程度耐えられる攻撃と当たれば危険な攻撃がそれぞれ相手が塗り潰す全方位においてどこからどこまでを担当しているのかを見分けられる。そうなれば当たってもある程度耐えられる攻撃の方向へ逃げる事で、事実上相手の火力を一番低い武器のレベルに限定できる。
故にルルヤは耐えながら、反撃の手を織り上げる。
ZGDOOOONN!
同時にリアラの【息吹】の嵐が量産型
「地球世界の宇宙の力を使うか!」
「愛する妹のアイディアでもあるし、崖っぷちも二重三重の意味で
その理由を瞬時に『
そもそも、リアラは陽の【息吹】を事実上光属性として扱ってきていた。光を操る事で様々な応用を使いこなしていたが、それは光と熱という太陽の力の前者によるものであり、そして何より、それは〈泡の世界の内側をめぐる光の塊〉である
リアラの魂である
そしてそれに成功した。核の力を弄ぶのではなく、太陽の力で戦う地球の物語の正義のヒーローの必殺技を象る形とする事で周囲への被害負担を極限した、敵の体内に太陽の熱をぶちこむという形で!
それは物語の力で戦う戦士としては極めて際どい境地である事は、発案者の
だが今、それを遂に解禁する。それが崖っぷちである事を承知の上で。その崖っぷちと対峙する事が今自分達の物語に必要だと感じながら、それでも尚踏み留まり警戒しながら、重なる善と悪、守護と殺害、罪と罰。その境界線を探る。
共産主義時代のソ連のジョークであるアネクドートで、資本主義者は崖っぷちにいると批判する共産主義者が我々は資本主義者より一歩先へ進んでいると言うが、それはつまり共産主義者は崖から落ちているのでは? というものがある。逆に言えば一歩進んで崖に落ちた奴を他人事と思うべきではない。それを見る奴もまた崖にいる事に代わりはない。足元が崩れたら死ぬのだ。
リアラは思う。自分達もこの物語も同じだ。崖っぷちを認識しなければならない。落ちないように……それは誰でも同じ様に、心がけねばならない事だけど。
極限の集中と思考加速の中で奇妙な境地に至りながら、リアラは状況の変化を認識分析し続ける。
量産型
「【GEOAAAAAAAFAAAAAANN!!】」
分厚い翼で重力を打ち宙に抗い飛翔するルルヤの【巨躯】が【咆哮】し【息吹】を放つ。東京湾に水柱をあげながら黒い【息吹】がグレートシャマシュラーのバリアに激突する中、ルルヤは【骨幹】の効果で【巨躯】の姿を一部変化させた。
【息吹】と共に練り上げられ、鉄合金の極限どころかその限界をすら越え行く硬度の金属骨格がめりめりと形成され、その体を更に武装させる。頭に、剣か槍の穂先か、鋭い一本角。右手首から先は三日月を思わせる鎌となり、左手首から先は巨大鉄球となる。ハイパーマンアルファが戦った怪獣兵器、処刑改獣ヘロデラスを思わせるゴテゴテの攻撃的異形。だがそれよりもそれは更に洗練されていた。
ZDGAM! ZDGAM!
両腕から発射音! 腕と繋がる鎖を引いて鎌と鉄球と化した両手首射出!
ラトゥルハの機械化されていた肉体と組み合わせて得た発想。だがそれは発想元よりも更に能力を巧妙に組み合わせていた。鎌と鉄球が黒く燃え上がる。ルルヤの重力の【息吹】の付与。鎌は三日月、鉄球は満月。月を象ったそれは月の【息吹】の効率を跳ね上げ、読者達の思いと【巨躯】の体重と飛翔の速度を乗せ絶大破壊力をもってグレートシャマシュラーを攻撃!
DOBAAAAAAAAAANN!
「ぬううっ!! !!」
短距離テレポートで鎌をかわしたグレートシャマシュラーだったが、テレポート完了の隙を絶妙に突いて鉄球が激突!
【息吹】とバリアーが競り合って相殺するが、勢いのついた鉄球は止まらず相殺して消えたバリアーの奥の機体に直撃、胸部装甲がひしゃげ、その部分に合体していた〈火のネルガリオン〉の武装が使用不能となる!
「小癪なっ!」
大威力兵器を一つ、一時的に失った。だが、一時的にだ。〈日のシャマシュラー〉が、そしてその発展系であるグレートシャマシュラーが最強の一角とされる所以は次元接続システムによる無限のエネルギーと、それによる無限の自己再生だ。この程度の損傷は短期間で回復する。
「激震砕拳ッ!」
『
「ちいっ!!」
DOBAAAAAANN!!
共振現象による破壊を起こす狙いだったが、鉄を含んだ合金を理論上最高値の頑丈さとなるよう最適化して複雑にミルフィーユ状に重ね、【真竜の鱗棘】や混珠のその他魔法金属まで複雑に鍛造しカーボンナノチューブ構造まで入ったそれは極めて複雑な重積層構造体、共振周波数を取得し完全破壊する前に先にかわした鎌が打ち振れて追撃で〈土のニヌルタン〉で構成された腕に叩き込まれ絡み付く!
「この程度、何でもないわぁっ!!」
〈土のニヌルタン〉で構成された腕を破壊されながらも強引に鎌と鉄球も破壊!
「ならば追撃だっ!!」
「それならお返しだっ!!」
頭部に生やした角刃を更に射出しつつ突貫するルルヤ! 〈金のイシュタール〉の超展性金属触手でそれを絡めとり投げ返す『
(それは、読んでいた!)
だがそれは相手の手を一手潰す為の牽制。ルルヤの狙い通りだ。
投げ返されてきた角刃を口で咥えてそのまま白兵距離の間合いに激突! 口に咥えた刃から物語への応援による【
PIGAAAAAAA!!
グレートシャマシュラーの頭が切飛ばされた。無表情なアイカメラが消灯する。
「【GEOAAAAFAAANN!!】」
「止まれ、ケダモノがっ!!」
だがグレートシャマシュラーの腕が動く。飛びかける頭を捕まえ、兜を被る様に強引に首を据え直す。次元接続システムが作動し、首が繋がる。
故に【咆哮】と共に飛びかかるルルヤの【巨躯】を迎撃する、グレートシャマシュラーから放たれる氷結と雷。そして再構築され城壁めいて激突しエネルギー奔流で焼きに掛かるバリアーを、ルルヤも【
「ッ……!!」
DOON!!
動きを止めさせたルルヤに振り上げた〈月のシンナンナル〉で構成された健在な方の腕の〈月の爪〉が爆発四散! リアラが量産型
「【OOOOONN!!】」
ZDDDM!
その機を活かし氷を踏み潰し雷を握り砕きながら着水してのルルヤの【巨躯】の尾撃! 重厚なグレートシャマシュラーの腰がひしゃげ皹入り、機体を構成する〈水のエンキナー〉の部分にダメージ!
(このまま押し通す……いや!)
「そぉれぇがぁっ! どぉおおしたぁああああっ!!」
だが既に〈火のネルガリオン〉の部分が回復している! テラフレイム!
「【GAAAAANN!?】」
若干修復途中で照準が甘かったが、それでも絶大な威力を持つそれは、回避したが取り残され遅れたルルヤの尾を途中から吹き飛ばし引き千切る! ルルヤとて【血潮】で傷は癒えていくが……
「【千日手だな……!】」
幻肢痛めいた尾の痛みに耐えるルルヤ。分かっていた事だが凄まじい再生速度だ。リアラは策があると言う。だが、そのリアラも『
「一つ良い事を教えてやろう。お前は私がスカウトした量産型
TYDDDDDDDDDDDDDD!
「あああああああああああああっ!?!?」
「
光。全て埋め尽くす光。
身も蓋もなく例えれば弾幕シューティングゲームを絶対クリア不可能にする自機の当たり判定よりも隙間が狭い弾幕とでも言うべき、『
仮に【巨躯】を解除しても尚避けようもなく、そうなれば人の体では耐えきれず消し飛ばされるだろう弾幕。【
「あれは単なる嫌がらせで、別段お前が嫌がらせが聞かない非情の鉄面皮であるというのならば、最早不要だ。同等の攻撃は幾らでも出来る」
『
「後はお前が死んで、この物語をバッドエンドで打ち切るだけだな」
「ッ……!!」
リアラは戦いの呼吸を止めない。非情の鉄面皮。そうであったら苦労はしない。だがそうでないとも言い切れない。あれは敵だ、と戦えてしまう人間だ。それでも、己がそうである事を受け止める。
「リアラ!……勝ち筋は、まだ掴んでいるな!?」
それに加え、リアラの心に、ルルヤの声が活力を与えた。ハッ、と、黄金色の目が見開かれる。
「ッ、はい……!」
誓い立ち上がる。ざあと滝めいて【巨躯】から海水と血が流れ落ちた。それ程の大傷もルルヤより得意な【血潮】の効果で既に塞がっているが、『
臨死したせいか、一瞬、また
《王神鎧》の攻撃で起きる大爆発。吹き飛ばされる船と人。
ギデドスが《王神鎧》によじ登り、そのコックピットを『
中にいる生体コンロトーラーと化した『
ルマが悲痛の絶叫を上げる。兄ギデドスは竜術を以てしても致命傷だ。だが自分が背後から刺される事も覚悟の上で、『
ルマに視線を向けた後〈紅なるもの〉諸共落下するギデドス。ルマが兄に代わり【
ギリ、と、吐血と歯を噛み鳴らすリアラ。世界二つ分の全てが圧し掛かる重圧で、奥歯を噛み砕きそうになる。
「無駄だよ。何度6面ダイスを振ろうと、7の出目は出ない」
だが、そう挑発する『
「出るさ。ダイスを両断し3と4の出目が両方上を向いた状態にすればいい」
見えてきた、と、リアラは判断する。量産型取神行の撃墜、M10クレインクインPと『
「屁理屈を」
少なくとも最初にルルヤに請け負った通り『
「頓知と言ってもらいたいね。出せばいいのさ……それを遊戯に使えば唯の反則だけど、人の心を傷つける言葉を挫く為に使えば叡知になると僕は信じる」
思考を回しながら、言葉も続ける。
「大体、君達と私達、何が違う。何処が違う。私は異世界転生という物語で地球人類を救っているんだよ? 『
ああ、そうだ、と、それをリアラは内心一部肯定する。僕は命を嫌っている。人界の理を嫌い、物語を肯定している。けれど同時に、誰かの神様にならなきゃ生きていけない訳でも誰かに神様になってほしい訳でもない。物語が人を救うのではなく物語を愛する事で人は自分を救う事が出来るんだと、僕達という物語を通じて皆に述べ伝えているだけだと、それに抗う。それが難しい事なのは分かっている。自分が中途半端な事も。けど、世界を救う少年少女を貶める言葉は、物語を愛する者として認められない。たとえ自分が王道の少年少女主人公のような真っ直ぐではないとしても……
(【ルルヤさん、
【
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