・第九十三話「人の光は全て物語(前編)」
・第九十三話「人の光は全て物語(前編)」
「ぬううううっ!」
グレートシャマシュラーを操縦しながら、己が
グレートシャマシュラーの全身から迎撃を発射する。〈日のシャマシュラー〉の融合光砲、〈月のシンナンナル〉の
複雑に屈折した軌道を空中に描くレーザーが、大爆発が、空中に突如発生する氷塊が、砲撃が、空間が歪んだかのように見える空気の振動が身長百数十メートルの巨体の全身が火を吹いたかのように炸裂。
更に〈月のシンナンナル〉の〈月の爪〉、〈金のイシュタール〉の超弾性金属打撃と超展性金属触手、〈土のニヌルタン〉の激震砕拳を起動。対空砲火を掻い潜って接近する相手を叩き落とすべく振りかざす。
そこに事前射出された機動攻撃端末型〈
その圧倒的な破壊力が再生
光球と射撃は次々ぶつかり合う。光球が軌道を変える……攻撃が直撃して吹き飛ばされたのだ。だが逆に言えば、対空砲火に使う程度の火力では、弾き飛ばす事は出来ても劣化コピーと量産型共でありながら、流石にリアラとルルヤをこれまで苦しめてきた平均的な普通の世界であれば単独で覆滅可能な悪神共、グレートシャマシュラーの武装が、機体を構成する星王機神の必殺技に相当する武装とそうでない武装では威力の差が大きいとはいえ超兵器をもってしても尚撃墜出来ていないという事だ。
(墜とそうとなれば準主力級必殺技副武装か、主力必殺技が必要か! それが数百! こちらの手駒はあっという間に解けていっているというのに……!)
『
この超セイオウ攻撃こそ『
ZDOM! ZGAN! BAMBAMBAM!
余裕は無い。『
「だがイレギュラーの可能性は排さねばならん!」
牽制の対空射撃を続けながら圧倒的攻撃力・防御力の代わりにその部分は並な機動性を補う、次元接続システムによる短距離テレポートを連続発動して『
量産型
「俺は勝つ、俺は滅ぼす、地球を、世界を! 何事にも何者にも揺らがず! どんな手を使ってでもっ!」
コクピットディスプレイの画像には『
それを砲火に巻き込む。女神と竜の苦悶が更に強まる。だがこの程度では死なぬだろう。
因縁の相手程度にペースを乱すというならば、リアラ、お前ら等俺の敵ではない。それを是として付き従うルルヤ等尚更だ。
そして、異世界転生で世界を救うのだという狂った神としての理に執着し続けている『
勝つのは己だと、『
TYDDDDDDDDDDDD!!
「うああああああああああっ!」「ぐ、うっ……!!」
リアラとルルヤは光の牢獄の中にいるも同然だった。天の星々よりも眩い大都会の明かりじみた、お前はどの明かりの中にいるのだ、お前が所属する明かりはどの程度の代物だ、それがつまりお前の存在の程度だと暴き立てるような、隠れるところのない世界。
未だ昼間の戦場でそうとすら思わせるのは、その凄まじいまでの閃光の密度と、意識を揺さぶり朦朧とさせる程の衝撃と苦痛だ。
「ハハーッ! 一方的だぜ!」「ブルってやがる!」「死ね死ね死ねーっ!」
『
基本理論自体はここまで何度か対処してきた機動攻撃端末のそれに近い。だが数が桁違いであり、一つの意思に導かれ動いているのではなく、駆り立てられ強化された野蛮で貪欲な自我が勝手に、強化された思考速度を以て飛び回っている。
異能の流れを読むリアラの【
相手の思考の真偽を読むルルヤの【
(煩い……見苦しい……!)
貴方の声が力になるという言葉、『
尤もそれらはあくまで攻防における確率をほんの数%ずらす布石とでも言うべきもので、そもそもの弾幕量が圧倒的だ。数百の量産型共が一匹あたり何百何千の攻撃を放ち、それは最早さながら『
加えて加えられる攻撃はそれだけではない。『
「あぐっ……!?」
痛撃を受けリアラの【巨躯】がよろめいた。【
「ぬうう……!!」
つんのめるリアラを広げた羽で覆うようにして庇うルルヤの【巨躯】。分厚く鱗で装甲された甲羅めいた翼がたちまちボロボロになっていく。
ギリ、と、リアラの、ルルヤの、食い縛る歯が音を立て、口腔に溢れる血が滲む。二人それぞれの二色の怒り。
(リアラ……!)
黒い【巨躯】でリアラを庇いながらルルヤが噛み締めるのはリアラへの想いだ。突きつけられる汚濁、踏みつけてくる現実、そして絡み付く因縁とリアラの過去。彼が自分を責め苛む源のそれら、何故リアラがそんな目に会わねばならないのか、何故そんな目にあわねばならなかったのか。それら全てから身を捧げ身を挺してもリアラを守りきれずまたそんな己の姿でリアラを傷つけてしまい、力不足に悩む事すら更にリアラを無力感で傷つけるかもしれない
(ルルヤさん……!)
【
既に核弾頭何発分どころの騒ぎではないような威力の攻撃を【
「さあ頑張って! 地球を守るのは君達自身! そして君達は自分自身を救うんだ!」
「ヒャッハーッ!」「おおーっ!」
「……お前は間違っている。地球に迷惑をかけるな。邪魔だ。害悪だ。死んでいるべきだったのだ、お前は」
「これ以上迷惑をかけず、大人しく死んでね!」
愉悦を隠そうともせず煽る『
異世界転生チートなど経ずとも、ただ一皮剥くだけで、これが人の望み、人の世、人が肯定する現実だと『
「ぐっ……うっ……!」「ッ……!」
故に、二人共通する想いとしての、
そうリアラに嘆かせる荒廃した世界は、かつてカイシャリアⅦで見た誇張された地球の断片とあまりにも類似した、ルルヤをして慨嘆せしめる地獄。神々亡き土地。ここまでの殺伐か。様々の物事を納得させられそうになる圧倒的なまでの、侵食してくるような荒廃。だが。
だが、だからといっての地球への己等の想い、これは真っ当か。これが正義か。これは……露にして良いものなのか。その想いが二人にのし掛かる。
現実という勝手の違う世界、地球人であり
その時。
HYKAAAAAANN!
「……アガッ!?」
「「!?」」
……大爆音の只中。凄まじい一矢がそれを鎮めた。……その矢は量産型
「あがああああああっ!?」
『
ZBDOOOONN!!
量産型
「何だ!?」「嘘だろ!?」
動揺する量産型
「数打ちのチンピラどもめ、相応しい無様さだな……だが……」
笑う『
だが、己のグレートシャマシュラーが打ち払う事に留めて他者の隙を伺っていたとはいえ、こちらがまだ撃破しきっていないものを撃破したのだ。
「何故お前達に、そんな力が」
「
故に『
故にリアラは叫ぶ。その強化された知覚能力で見つけた……お台場の催物展示場屋上に、かつてのリアラとルルヤのように立つ、
「ちょっ、えっ……ええーーーーー!?」
……リアラやルルヤと同じ様な
「っ、驚いてる場合でも細かいこと気にしてる場合でもないからっ! (
「きっ、気にはしない! というかそれどこじゃない!? 説明して!? ……そうしている構えは、懐かしいけど……!」
赤面し裏返りかけた声で
……気にしてる場合じゃないという〈細かいところ〉は、生成されたビキニアーマーにパットをいれる余地が無い為かリアラに対して張っていた見栄がバレたそこはルルヤもシャワールームで見た事を言わずにいたバストサイズの件かもしれないが、正直二人が前線に出た時点でリアラは胃袋がしめやかに爆発四散しそうな程痛かったのでそれどころではないが……胸部装甲が中身のボリュームの無さを全くもって隠さずぺたんとしているのは兎も角、そのデザインは、今の緑樹の姿勢と合わせると、弓道を思わせるもので。リアラの脳に前世の記憶を、弓道部員でもあった彼女の凛とした射の姿勢を思い出させてくれた。彼女は達人だった。
そう、
「説明するよ、お兄ちゃん」
冷静を保った
「お兄ちゃんたちが戦いにいった後、私達に、というか、
「っ!?」
「……勿論、断ったわ」
「……」
衝撃的な妹の発言にリアラが驚く暇もなく
「……勿論、断るわ」
「君はバカかい?」
あの時も、今のように即座に
「断って得るメリットなんて無いだろ?」
「それは一旦置いといて、受けてメリットを得る保証は?」
やや腹立ちの混じった『
「数十兆円の四散を持っている人間なら、1億ポンと放るくらい気軽に出来るだろ? それと同じさ、君程度の願いを叶える等捨て扶持に等しいし、私に害は無い」
「貴方が私にメリットを与える上でリスクが無いって事が問題なんじゃないわ。そのメリットとやらがホルマリン漬けの脳が見る夢だったり、
「その場合を君が識別できはしないと思うし、仮に識別できない嘘ならそれでも君は幸せを感じるだろうし、そもそもそれをいったら今こうしている瞬間だって夢の類じゃない保証も無いけど?」
「そこまで言い出したらキリが無いって事は分かってる。だから、都合のよすぎる話ってのはそれだけで疑わしいんだけど」
「……『
そういう『
「それは嘘ではないように思えるわ」
「そうかい」
「だが断る、わ」
「何故だい」
正直一生に一度くらい言ってみたかった台詞でもあるけどそれは兎も角、と
「理由は三つあるわ。一つは、
もしもあんたが善なる神として振る舞っても、私が嫌、とにべもなく。だけど、本気で誇りの為に、神の誘惑をさばさばと
「ごめん四つあったわ。四つ目は、インターネット小説投稿者
「その君の、いや君たち二人のもう一つの顔について話がある」
だがまだ話は続く。……その後に、後から思い付いて少々ばつ悪げに追加した三つに収まらない四つ目。、それに『
「【逆襲物語ネイキッド・ブレイド】。貴方たち二人が合作して
『
「ええ。私達が書いた小説は名前はごまかしてたけど、お兄ちゃんの、
「私達が何故お兄ちゃんの戦いを物語として受信出来たのか。何らかの奇跡なのか、私たちが実は微弱な異能者だったのか、世界と世界の間で稀に発生しうる事なのか、第二章で〈お前程
歩未と緑樹は二人で一つの【
「逆だとしたら?」
「逆?」
「貴方達が物語を書いたから
だが、神は楽園の蛇の笑みを浮かべ尚誘う。悪魔が変じた楽園の蛇ですら神が手作りした乙女を堕落させるのだ。神自らの誘惑の威力は如何程だろう。
「あるいはあれは
『全能』は二人の間に立ち、互いに向け合う視線を遮る。禍々しい蝕のように。
「そのどちらか知りたいと思わないかい? 彼を好きにしてしまう事を悔やむより、それを知れない方が一生後悔すると思わない?」
笑い、差し伸べられる手。舞い踊る古代の神像めいたポーズで、『
「……私はお兄ちゃんが私達が作った物語だとも、リアラ・ソアフ・シュム・パロンがお兄ちゃんを象った泥人形だとも思いません。だから、貴方に従いません」
「!」
「……何故? その言葉に、どういう意図が?」
決然
「……」「!」
「少なくとも私達が作った泥人形じゃないわ。だって、ルルヤが言ってたもの。戦いがなかった話での出来事を。そんな話、私達書いてないもの。伏線も存在しないもの、って事は、作り事じゃないわ、多分!」
「た、多分て。じゃあ、前者の説はどうなのさ。いや、大体、そんな多分は水掛け論だよ? 分かってる?」
そんな決然とした凛々しい表情で多分とか言うなよと若干驚き呆れつつ『
「書いたが先か転生が先か、それは世界五分前仮説や胡蝶の夢の類で、そして確かにそう言ってしまえば、これは水掛け論です。ですがだったら私は、私達は、好きな物語の方を選びます。シャーロック・ホームズがファンからの脅迫状と出版社からの札束でコナン・ドイルに往復ビンタを決めてライヘンバッハの滝つぼから這い上がってきたように、物語が現実の人間に影響を与える事等幾らでもあるのだから。好きな物語を貫いて現実に勝つに至ってみせます」
「お前……!」
「度しがたい面倒くさい選り好み激しいクソオタクめ! もっと安易に救われろよ、畜生が! いいだろう! お前達が何をしようとしているか分からないとでも思っているのか? そんなもので何とかなると思っているのか? やってみろ! やってお前達のファン諸共全員で地獄に落ちるがいい!」
「……そして『
そんな『
「ここまでやらかした以上来年度の私達の平穏の可能性はゼロね……来年度があるならだけど」
「それ昨晩見たドニラのダイジェストどうがで聞いた台詞だな!? 確かVSデスブラスタの奴だ! はっはは!」
堂々たる
そしてリアラは、二人の思わぬ力の存在に気づいていた。高い視覚能力で認識した、歩未が見せたスマートフォンの画面。幾つかに分割されて表示された、小説投稿サイトのページや、SNSやインターネット掲示板の反応。
そこには【逆襲物語ネイキッド・ブレイド】を通じて、この出来事の真相を語り、そして世間が報道する敵対の呼び掛けに従うのではなく、この物語を愛する者はリアラとルルヤの為に祈って欲しいという呼び掛けへの反応が記されていた。
無論ファンならざるものからの大量の反対もあった。
だが、そこには確かに、【逆襲物語ネイキッド・ブレイド】読者からの応援の力があった。……作品に感想を言い、応援をしてくれた。作者に続きを書き続けさせてくれた力が、同じように、今物語の主人公達を応援する。様々な、受け取る側にとっては宝石のように輝き燃料のように熱い言葉。それは、知らずの内にその登場人物となっていたリアラとルルヤの胸すら何故か熱くするものがあった。そして、魔法により、言葉は力になる。即ち……
「【
二人が量産型
「分かってる。うん、頑張って書いてるし有り難い感想も幾つも頂いてるけど、世界人口とか『
価千金の魔法力だ。作者たるもの、読者一人からの愛でも世界と戦える。心の底から
「ひょっとしたらそれだけじゃないかもしれない。私達が
「……理屈は説明できないけど多分そうなんだと思う。だから言うよ、ありがとう、読者の皆」
紛れもなく今この物語を読む君にそう言う。かつて己が綴る物語越しに兄の意思を受け取ってくれた時のように、君達に言葉を伝える。ありがとうと、第四の壁を越え貴方に。
「さあ! そういう訳で私達は覚悟を持ったわよ
GYARIIIINN! 鉄の弦が唸りめいて鳴り、歩未が続く!
「お父様、お母様! 生み、今日まで育ててくれた事、感謝しています、けど! お兄ちゃんを私は見捨てません、だから反抗させてもらいます。その覚悟をしました。世界を敵に回すような無茶をしますが……それでも、話がまだ出来るならしたいと思います。もしよければ、事が終わった後私が生きていたら、で。そして……」
「「私達は戦う、これが私達の命の使い方……だから
この世の残酷、その残酷のルールで戦わざるを得ない力不足、だが過去を完全に振り払いきれずとも一歩づつでも先へ進んでいる事、この戦いを否定させないという思い、そして、この戦いに懸かっているものへの改めての実感、皆の思いを、応援を背負った以上戦い抜かねばならぬ義務をリアラに伝える。
「ッ……ああ、分かった!!」
傷の痛みを振り払うように、リアラが背筋を伸ばす。伝わった!
「……
最後にもう一度だけ一言、噛み締めるように
「うむ……かたじけない、
ルルヤも立ち上がり、翼を広げ、雄々しく語る。リアラに伝われば、ルルヤにも伝わる。そんな二人だった。
「はい!」
リアラが答えた。物語の扉が開き、人の光たる物語が訪れんとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます