・第九十二話「物語への扉(後編)」
・第九十二話「物語への扉(後編)」
島を囲む
「「「これでも食らえっっっ!!!」」」
ガルンが背中に背負った全て魔法武器の大量の槍を、かつて砂海の戦士が用いたのと同じ連続投擲用装填補助機構を使いつつ次々連続投擲した。名無が新調した短剣を同じく連続投擲する。舞闘歌娼撃団もその特殊武器の内この日の為に特別誂えに強力にした投擲用のものを周囲を踊るようにしながら打ち込んでいく。それら全て、この戦いの為にかき集められた伝来のものもあれば新調のものもある魔法武器だ。同時にミレミが、『
猛烈な勢いで魔法武器が、魔法巻物が乱れ撃たれる。強度と使用回数を犠牲に軽量化され、一発きりの使いきりにして威力と燃費を追求し大量に打ち込まれた魔法巻物と新調魔法武器が轟然偽竜を消し飛ばし四体の
「ふん……! そらっ!」「きゃあっ!?」
しかしそれを、〈戴冠せるもの〉〈紅なるもの〉〈妹なる少女〉〈地球の姿〉、四つの顔にびん笑すら浮かべて『
魔法剣《
「はは、こんな何番煎じかも分からないようなファンタジーに出てくる武具なんかで、この『
「顔色の悪さよりも口の悪い化け物めっ!」
嘲笑に罵りを返し攻撃を加えるフェリアーラだが、降りは理解の上だった。ユカハが盾を使ったのは、剣で打ち合えば《
『
「はは、死んだ剣より弱い世界め! 数打ちの剣を使う数打ちの女共め!」
「くぁあっ!?」
剣の鍔競り、鎧や盾での受け反らし等の
かつて『
『
「このっ!」「はは、通じるものか! たかが分子切断など!」
『
「おおおっ!」「ふん!」
挟撃を防ぐ為敵の動きを束縛すべく白兵戦に転じ〈地球の姿〉を相手取り突きかかるガルンだが、作り出した『
「なら」「これで」「どうだっ!」
太刀打ちで叶わぬのであれば魔法と、ユカハ、フェリアーラ、ミシーヤが追撃する。ユカハとフェリアーラの鎧の一部に呪文が発光して浮き上がり攻撃魔法を発動させる。それは一ヶ所辺り1回限定の使いきりだが、その分大量の魔法力を込めた強大威力の魔法攻撃!
ZGDOOOOONN!!
大爆発! 発射した鎧の一部や追加パーツが焦げ付きパージされる! 『
「危ないよ!」「こっち!」「傷の確認と回復を……!」
舞闘歌娼撃団のルアエザ、エラル、ペムネがフェリアーラ、ユカハ、ミシーヤの手を引き後退させる。一瞬後こちらからの攻撃の爆発を飲み込み、奇妙な黒い宝石めいた魔法弾が爆発を喰らい切り裂いて飛翔し、〈絶え果て島〉の岩盤に大穴を開ける! 異界の魔法かあるいは呪具か、凄まじい威力、天まで届く噴煙!
「次だ次だ次だぁっ!」「今度はこっちが相手だよ、色男! 切ってみろ!」
「頑張って、まだ、始まったばかり……!」
噴火口の縁めいた惨状にも怖じずガルンとラルバエルルが応戦する中、ミレミが回復魔法を行使、それにより体勢を建て直すユカハ達。バックステップして間合いを取った
「っ、まだ、生きてるな!?」
「勿論!」「まだなんて! 最後までやるよ!」「大丈夫!」
その名無の言葉に口々答えるフェリアーラ、ユカハ、それとミシーヤ。何れもやはり噴煙と大小の傷による血で汚れ、防具の損傷も激しい。
「「「射てーーーっ!! !」」」「「行くぞぉおっっ!!」」
それでもキーカやララ達の様な比較的戦闘力の低い【
ZGDOOOOONN……!
どう考えても本来それしきで済む筈が無いのだ。今響いた轟音は、
「面倒くせえ、よくまあ、んな古くさい、B級の、深夜お色気アニメみたいな手を大々的に使うものだ……!」
ZVWON! PAN! PAN! QPAN!
衝撃波が飛ぶ。少年が、少女が、男が、女が吹き飛ばされる。戦う程に、傷を負う程に、その鎧が弾けて千切れていく。少しずつ肌の露出を増やしながら、しかし肌に衝撃飛礫や魔法爆風等による致命傷を刻まれる事無く戦い続ける。戦い続けられるその理由を『
それは《散華》、対象の破壊力を防具のみに限定する事で防具は確実に破壊されるがそれを犠牲に致命傷を避ける、舞闘歌娼撃団が愛用する芸霊術の防御の要。
「見たか、矛盾式逆鱗鎧! あんたの剣が良く切れるのは知ってるさ! せいぜい切って脱がすがいいさ、お耽美な殿方! 様無く安手の色気撃の悪役になりやがれ!
自身も『
この局面の為に新造された防具は、全てこの使い方を想定して作られたもの。ユカハの使う自由守護騎士団の新式鎧を例にとれば、一見して胸と腰の部分だけリアラのビキニアーマーに似た構造をしている以外はかつての自由守護騎士団の制式鎧に欲にているとみせかけ、さにあらず。
実はリアラ型ビキニアーマーに自由守護騎士団制式鎧に類似した構造の追加構造をつけたもので、その追加装甲に全て《散華》の霊術が織り込まれている。
つまり後方要員に至るまで全員が装備したこの追加装甲は全て防具としての硬度は無視した消費対象に過ぎぬ。故にこそ撃ちっぱなしを前提とした一発きりの攻撃魔法武装を平行して装備できる。躊躇い無く使い捨てる事が前提だからだ。
無論本来の『
「無駄な引き延ばし、長引くだけの戦闘だな。掠っただけでも吹き飛ぶ追加装甲が消えてなくなるまで後わずか、色気も糞もない屑肉になり、魂まで食われるにはそこから刹那の一瞬も必要無い……!」
「どうかな! オレは! そこまで弱くはない!」
『
「お前の場合は存在意義がどうかなだよ、この負けライバルキャラ! 敵の時は強いが味方になると弱いユニット! 引き立て役のキャラ立て失敗迷走用済み存在が!」
しかしそれでも所詮四分の一と、〈妹なる少女〉は余裕の悪口雑言を止めぬ。
「ん、だとぉっ!?」
「そーら、血を悲鳴を吹き上げろ!」
「ぐあああああっ!?」
「ら、ラトゥルハーっ!?」
だが子供じみた悪口雑言に反しその恐るべき実力は本物だ。ラトゥルハが激昂した瞬間、剣を持ったその腕がかき消えた、と見える程の一瞬の超高速連続攻撃! 〈妹なる少女〉が正面にいるままにも関わらず、全身の前後左右に傷を刻まれてどっと血を噴くラトゥルハ!
「もっと壮烈に死ね、雄々しく叫んで、激しく輝いて、悲嘆に嘆いて、悲しみを誘って、もっと劇的に死ねよ、お前ら」
『
「どいつもこいつも、最後まで生きようと戦って、最後まで戦い続けて槍を振り終えた瞬間に燃え尽きた蝋燭みたいにすぅっと死ぬ奴やら、後方に搬送されて回復魔法の限界を越えて眠るように死ぬ奴やら……おかげでこれまで死にざまのシーンはろくに描写されず……そんなんじゃお前らの物語に人気は出ないな! そんなんじゃお前達は負けて終わる側だな! ま、所詮は失敗のシーンだ、描写しても人気は出なかったかもしれんが、どっちにしろ数多の詰まらなかった世界みたいに、忘れられて、存在しなかった事になって、終わりだ! 」
どうしようもないメタメタな難癖を『
「俺達の死は! 失敗でも娯楽でもねえっ!」
嘲笑う剣嵐を、小さな反骨が飛び越えた。至近距離からの、殆ど斬撃に近い投剣。鍔迫り合いをしようとすれば一瞬で武器ごと両断される。であるからこその、さながら輪舞の如し、ぶつかりあわない零距離戦闘。相手の脇を潜り足元を潜り腕に一瞬だけ腕をぶつけ周囲を転げ回るようにして殆ど零距離から。
「リアラは! 俺達の死を! 悲しむ! あいつは! 最初から! 俺達を少しでも死なすもんかと! 戦ってる! 死ぬ覚悟は兎も角! 死を誇れるもんかよ!」
切れ切れのキレキレな言葉。
少年は劇的な死を見せろという『
「やれやれ、本当なら秒間一億回は攻撃が出来るんだが【
「フカシこいてんじゃねー!? ガキの言い合いか!?」
無茶苦茶なスペック自慢をする『
それを理解したうえで、それでもあくまで人を馬鹿にする為の自慢話にバカと言い返しただけだ。そんな出鱈目な力を、欲して得て押し通す世界観への抵抗。スペックだの、ステータスだの、そんなものが何だという叫び。戦って勝たねば否定される世界だからこそ、やむを得ず力を求めただけなのだから。そんなもの、本来、好んではいないのだ、と。
「そのガキの喧嘩にも届かず、お前らは死ぬ。何もかも、永遠の前には儚いもの」
DZOOOOOOU……!
「!」「!?」
後方沖合い、艦隊に爆発。軍艦の一隻を下から突き上げて粉砕しながら出現するのは、身長
衝撃。爆裂。
……そして地球の戦いでは、その《王神鎧》等遥かに上回る存在が動きだそうとしていた。サイズだけではない。存在格そのものが、『
「バッドエンドで終わる為のフラグは立て終わった? 死ぬ前に言いたい台詞は言い切った? 伏線を回収しきれずに叩かれる準備はいい?」
ZGGGGGGG……
お前達の物語は失敗に終わるのだと嘲笑し、海底を歩むのではなく水中を浮遊しているのか、足音ではなく不明な異音を立てながら滑るように『
皮肉げな声音に反してその仮面めいた顔は無表情で、組んだ両手と合わせ一見まるで戦闘的に見えないが、その実、既に用は済んだとばかりに中華ソヴィエト共和国軍を放置しているように、そしてまた中華ソヴィエト共和国軍が無力化されつつあった先の前哨戦の間に振るい始めた更なる力が存在するように、その動きと表情には、別段お前達を倒すのに殴り合いだの力みだの防御だのは必要無いというような余裕の誇示があった。
事実、最大出力でないとはいえ、『
「バカ言うな……! 勝つ準備に忙しくて、そんな事する暇無いや……!」
言い返すリアラだが、その結果が、グレートシャマシュラーの攻撃が弱かったからではないという事はリアラは『
「そう。なら、駄作として現実の中に消えなさい」
「ふん、兵器とかいう現実はもう根負けしたようだが……?」
哀れみめいた静かな『
「……それが次の現実とやらか?」
「その通り」
それを見て、ルルヤの反論が押し止められた。無表情の仮面から笑みを含んだ声を溢し、ルルヤのその問いを『
「『
リアラも驚愕する。地球に対する人工衛星のように『
数も、初期メンバーに加え後から追加された『
「徒労は繰り返してこそ徒労。追加メンバー程度で済むと思った?」
『
「思わないさ。けど、そいつらが昔ほど手強いとも思わない……お前はまだ自由に全ての転生者を再度転生できる訳じゃないと言った。それなら、そいつらはせいぜいが、力だけを再現した人形だ。それなら、厄介なだけだ、怖くはない」
『
自分の理想を求め続けたあの人はもういない。ならば、ここにいる彼らについても結果は揺るがない。『
「そうだ。そいつらは唯の
尊敬に値する戦士も、矮小だが必死だった男も、悲しい女もそこにはいない。ルルヤは思い返し、噛み締める。
「ああ、間違いない」
死んでいれば自分もそこに加えられていた『
「『
「止めろ!」
愚弄するように『
「そんな事はどうでもいい。そんな事はどうにでもなる。それで貴方達がどうなろうと誰も気にしない。どころか誰も彼も僅かな利か何気ない感情であなた達を踏み潰す。世界は貴方達を踏み躙る為にこそ徒党を組んで団結する、それが現実。見えているでしょう? もう一度言うよ、追加メンバーを加える程度で済むと思った?」
「……ああ、見えてるよ、思ってないさ、畜生……!」
リアラが唸る。『
そこに示されるのは、はっきりいってしまえば性質の悪い嫌がらせだ。
政府を力で取り込む事で示した、リアラとルルヤと『
それに補足し、『
程々にありそうで、手間がかからず、善意と英雄願望をくすぐり攻撃衝動を満たさせる言葉。それにまんまと乗せられた無知で傲慢な醜悪な心の排泄めいた蛮勇の、各地の集会映像で燃え上がりインターネット上でバズる憎悪が叩きつけられる。
『
ただの精神攻撃ではない。精神攻撃としても巨大だが、地球での【
「勿論見えているでしょう? 良い目をしているのだもの」
食い縛るようなリアラの言葉を煽る『
その光は鎧めいた外骨格を纏う鬼神の姿をしていた。『
「勧誘してきたのか! 地球人を地球で転生者に生まれ変わらせて……!」
「そういうこと。自力でエゴを
「タイトル長いのが流行だからってそれは流石に長すぎだろバカ!? 大体昨日一晩分身を世界中に出して一々OKした相手にトラックぶつけて回ってたのかバカ!?」
それはかつての『
自分が世界の救世主で主人公で世界の中心だと思い上がり傍らに自分と同じ存在が山程沢山居る事に気づけない程己に酔いしれた、醜悪で傲慢な、存在そのものが真の英雄の冒涜である赤子神。
「貴方の嗜好はどうでもいい。これが覇権と誰かが触れ回れば付和雷同し尻尾を振りそうでない奴は犬の群れに食い千切られ後ろ足で砂を掛けられる、それが世界。どうせ世界に伝わる映像は加工済みだし、それに」
『
「何と言っても私は人を救う女神だから、貴方の周囲で貴方のお陰で不快を被った人間達の無念も晴らしてあげないと」
「ごるぁああああああ
そして、仄めかしの直後にケダモノの咆哮じみた叫びが轟いた。リアラは息を呑んだ。その声、忘れもしない。
「よくもあん時反撃しやがったな
そいつらは、過去のリアラ即ち
「
「悪いけど貴方にかけたお金の元くらいとらせてよねー」
声が聞こえてきた。量産型
『
BBBBBBBBBBVGOOOOOOOONNNNNNN!! !! !!
再生
全てがこれまでに存在した欲能の効果の一側面を帯びた吹雪で嵐で噴火で流星群で山崩れで弾幕で毒煙で爆撃で死だった。全ての命を滅びるものとして産み落とす地球の歴史そのものと言うべき無数の死の雨だった。
「うあああああああああっ!?」「うおおおおおおおっ!!」
リアラが絶叫し、ルルヤがそれを庇い、『
現実という地獄が顕現した。だが……それに抗う者は、それでも尚存在した。現実に抗う物語への扉を開こうとする者達が。
一人は弓を引いた。一人は祈りを唱えた。そして二人は、物語を述べ伝えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます