・第八十四話「混珠から遠く離れて(中編)」

・第八十四話「混珠から遠く離れてファー・フロム・コンジュ(中編)」



「さて、この融合偽竜、『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』とでも名付けようか……どう戦う、リアラ・ソアフ・シュム・パロン!」


 リアラは『交雑マルドゥク』操る融合偽竜、今名付けられたその名を『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』と対決する。


 元となった〈三大下僕〉の『天牛グガラナ』と『樹守フンババ』は共にその大きさは数十m、本来『泥人エルキド』は人間よりやや大きい猛獣程度のサイズだったが、『交雑マルドゥク』がその欲能チートによる強化か模倣した竜術の効果かで、『泥人エルキド』の泥も『天牛グガラナ』と『樹守フンババ』と同サイズに成長し両者に絡み付いて接着し、ルルヤの【真竜シュムシュの巨躯】に類似した背中等の部品を形作っている。数十m+数十m+数十m+百数十m、サイズもルルヤの【巨躯】にほぼ等しい。


 長い尻尾や圧倒的に頑強な肉体を含めれば、身長159cmのリアラと大きさの差は百倍、重さの差は万倍にもなるだろう!


 華奢や頼りないを通り越して羽虫の如く儚く見えるリアラ。だが。


「そこを、どいてもらう!」


 真っ向勝負! その先にいるルルヤに『全能ゴッド欲能チート』が向かっている。【真竜シュムシュの世界】の効果が守っているとはいえ、いかなる悪意が邪知がルルヤに絡み付くか、想像するだにおぞましい。避けて通る選択肢は無い。故にの直進。だが百倍万倍の差を如何にする!


 FLASH!!


 リアラの体を閃光が包む。太陽がその場にもう一つ出現したが如く。そして光の中少女の肉体のシルエットが躍り、変わっていく。その答えは一つ。リアラは【真竜シュムシュの巨躯】を使用した!


 その使い方を、リアラは既にルルヤから学んでいた。ルルヤはラトゥルハからコツを得たが、そのコツを心意気で満たしてみせた。そしてその心意気の力こそが本来竜術としての正しいやり方であり、その正しい道をリアラはルルヤから受け継いだのだから。その、心意気とは。


 天を支えられるものになる。天がそれを嵩に着て傲るならば天の横面を殴る拳となる。地を覆い庇える?となる。地がそれに甘えて腐るならば地を踏み潰せる?になる。天地を破壊あるいは従えんとするものあればこれを討つ。如何なる者にも上から目線の大きな顔をさせぬ為、如何なる者とも対峙できる大きさとなる。


 その為に、己を天地と向き合わせる。己を認識した上で尚超えんとする。即ちしゃんと背筋を伸ばす。要約すればそういう事だ。


 自他を律する為に。仰ぎ見る者の為に。相対する者の為に。そして己の為にも。


「【SYYYYYYY!!】」


 ぐんぐんと己の存在が大きくなっていくのを自らの新しい肉体を構成する材料になる魔法力光の奔流に包まれながら感じ、リアラは竜として吼えた。巨大化を完了した、即ち【真竜シュムシュの巨躯】の姿で、その【咆哮】がが響き渡る。そして。


「……これは。それが、お前の竜としての姿とはな」


 『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』から送信される『交雑マルドゥク』の映像が、困惑に近い程驚いて呟いた。現れたリアラの【真竜シュムシュの巨躯】。それは予想外の姿だった。


「え?」


 その反応に、リアラもまた驚き、困惑した。


 ……【真竜シュムシュの巨躯】となる時、翼は若干変容するがある程度その印象を保つ。


 ルルヤの翼は甲羅めいて頑丈になったが正当派の竜のそれであり続け、ラトゥルハの翼は羽から羽腕へと変わったが機械の要素を持ち続けた。『竜機兵ドラグーン』達の翼はエネルギーから実体へと変化したが、天使めいたイメージは保っていた。


 故にリアラは自分の【翼鰭】の虫めいた形から、恐らく自分は昆虫怪獣めいた竜に羽化するのだろうと思っていた。事実、その【翼鰭】は煌めく透明な昆虫じみた羽のまま同時に南洋蝶めいた極彩色を帯びる、要するに透明な羽のままステンドグラスめいて様々な色彩を帯びる形へと変化した。


 だが。


「え?」


 大きくなったリアラの知覚は、ざわめく声を拾った。それは遠くを飛ぶヘリの、湾岸一体の人々の、そしてそれらの映像を通じて見る人々の声の細片だ。その中には、応援と心配と愛情をもって映像情報を見守る歩未あゆみ緑樹みきもいただろう。


 それらの呟きはリアラが予想していたものと違っていた。予想外の事を言っていた。故にリアラは一瞬その意図を理解できず、いぶかしみ、己の姿を確かめた。


「ええーーーーーーーーー!?」


 そして衝撃を受けた。


「も、もっとちゃんと竜っぽい姿になると、思ってたんだけどな……!?」


 兜飾りを思わせる角はある。その兜飾りめいた角から、背筋にそって、ごく小さい、背骨を守るような装甲あるいは背鰭めいたパーツがついていて、それが尾てい骨の先まで続いて、ごく短い、戯画化された蜂の針のような尾と言えるような何かを形作ってはいる。


 だが全体の姿は、それこそ翼が人間時に【翼鰭】を使った時と同じようについているように、殆ど人間のままだ。体表がシルバーとパールホワイトが混じったような色の上に強めのシャンパンゴールドで人間の姿の時につけていたビキニアーマーの輪郭とは違う幾何学的でありながら同時に呪術的な模様が描かれた肌になっていて、胸部と腰部に空色の宝玉めいた器官があり、手と足がそれぞれグローブとブーツを履いたようになっている以外は、殆ど人間の肢体だ。顔も、肌色の変化と、髪が結われていないでそのまま長く波打ち溢れている以外は、少女リアラのそれだ。


 即ち所謂巨大ヒーロー、いや、女の子の肉体だから巨大ヒロインか、リアラはそんな姿になっていた。さながら、光輝く白い女神。


 これには流石のリアラも驚かざるを得なかった。自分の心のどこから、こんな姿が出てきたのかと。だが。


「下らない言い訳が出来ないよう、チュートリアルの時間でも取ってやろうか?」

「はん、まさか! そっちこそ、変わった姿にあっけにとられて見とれて負けたなんて言い訳するなよっ!」


 『交雑マルドゥク』の挑発に、キラリ煌めく表情でリアラは言い返した。


 意思は【巨躯】という器を巡り、滾り不撓不屈。であるならば何の支障も無し。


 リアラは構えた。ルルヤから習い覚えた【真竜シュムシュの武練】と、ハウラから仕込まれた護身術を組み合わせ実践で磨きあげた戦い方の、素手の構え方。ルルヤ程の武才の無い己でも、幸いにして人に極めて近い姿での巨大化ならば、巨大な武器を構築するのは魔法力の効率が悪いという問題はあっても、徒手で戦うなら戦技に一切の曇りは無いと。


「行け!」


 『交雑マルドゥク』の命令で、『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』が海を蹴立てて突撃。沿岸部、海水の深さは双方の膝下程。ルルヤの方に飛んでいった中華ソビエト共和国軍機は兎も角、沿岸部への【真竜シュムシュの世界】の効果は発動している。即ち、戦闘に一切の支障無し。


(【すぐ行きます、『全能ゴッド』は何か悪巧みをしてる様に見えます、気をつけて!】)


 こうなってしまえば地球の歴史の流れが本来あるべき筋からこの事実によって変転するのは避けられそうにないが、既に混珠こんじゅという一つの世界の運命を背負っている身、今更その事に揺らぐ事は無し。リアラ、ルルヤにそう呼び掛けながら駆ける!



(【分かっている! リアラこそ気を付けろ、『交雑マルドゥク』はそんな片手間めいた心で勝てる相手ではないぞ!】)


 同時ルルヤはそうリアラ相手に返信しながら、周囲を遊弋する兵器共を睨んだ。


混珠こんじゅで見た地球の平気、プロペラ式ドローンやヘリコプターとかいうものよりは余程早いな、だが)


 だが飛行するタイプの取神行ヘーロースやラトゥルハ程早くは無い、【真竜シュムシュの巨躯】の瞳を巡らせ観察しながら見切ると、ルルヤは【真竜シュムシュの咆哮】で話しかけた。


「【何の用だ、地球の軍隊。何の心算だ、『全能ゴッド欲能チート』。どうやったか知らんが、地球の軍隊等私達にけしかけても無駄だと分からないか。お前の取神行ヘーロースはどうした、怖じ気づいたか。今更何の策を用いんとする】」

「何、簡単な話さ」


 飛行するジェット戦闘機の上に平然と立ち『全能ゴッド』は答える。戦闘機を操縦する地球人、中華ソヴィエト共和国軍人は答えない。『全能ゴッド』の従順な家畜の如く。


「洗脳じゃない。あの子リアラの力は中々のものだ。だけど、まだまだ穴が多すぎる」


 くるくると『全能ゴッド』は笑った。幼子を笑う大人の傲慢な優しさ。


「簡単な話だ、洗脳はできなくても、取引して説得する事は幾らでも出来る。その為の時間を誤魔化す事程度なら、幾らでも出来るからね。後は前と同じさ」

「【取引だと? 兵達や将と……ではないな】」


 前。即ち、『常識プレッシャー欲能チート』を誘惑して取神行ヘーロース化した時と。そう語る『全能ゴッド』の、その行いの範囲をルルヤは察する。それだけの事をする相手だ。ましてその欲能チートで時間と空間を無視して説得して回っていたとするならば。


「勿論その通り。この一連の現象の理由、解決方法、そして何より利益! 支持率に武力、開拓すべき新天地に、何より権力者たる貴方だけに保証しましょう自我を保ったまま生まれ変わる特権! 目の前で奇跡を演じるのと合わせれば、幾らでも言いくるめる事は出来るさ。地球人なんて所詮欲という目の前に下げられた餌と死という尻尾を燃やす炎に突き動かされる本能の壊れた出来損ないの猿! 英雄や善良が当たり前の物語世界なんていう逃げ場所とは厳しさが違う!」


 きゃらきゃらひゃらひゃらと『全能ゴッド』は笑う。神聖から邪悪、飄々とした皮肉から俗悪な嘲笑まで、実によく表情が変わる。それは全てを内包する地球であるが故か、狂人故か、神であるが故か、バグっているが故か、真実は分かりはしないが。


「【私達に追いたてられ、社会的地位と縁故と資産で魂の質を幾らでも誤魔化せる下らない自称現実とやらにまで逃げ込んでおいて偉そうな事だ。お前自身の言う現実とやらの基準で言えば、貴様は一人ぼっちで都落ちの破産者だ。その化けの皮いつまで張れて、詐欺で集めた兵力がどれ程の役に立つか、やってみるといい】!」


 だが、毅然とルルヤはその全てを否定した。


「君の【息吹】って重力じゃなくて毒舌だったっけ? ともあれまあ、やってみるといいのはそっちの方だ。もし出来たら後で確かめるといい。君たちの実績は確かに事実だ。その事実なんかで、利得や欲望や浅ましさや疚しさを打ち砕けるかどうか! 地球人は転生者じゃない、だけど強化する事は出来る。欲能チートや魔法や気力を貸し与え、そちらの防御魔法に対して兵器を通用させる事が出来る。まあ、所詮玩具だけど……今度こそ孤立無援ってものを教えてあげるよ!」


 尚笑う『全能ゴッド』の顔には様々な色が見えた。『経済キャピタル』の我こそ世の理という傲慢が。『惨劇グランギニョル』の嗜虐が。『情報マスコミ』の狡猾が。他にも、様々な。


「【好きにしろ……かかって来い】!」


 ルルヤは唸り、【巨躯】の目が油断無く鋭くなる……!



「【GEOAAAAIAIAIAAAAAKYAAANNG】!」


 殆ど同時に戦いは始まった。一瞬早く、『交雑マルドゥク』とリアラの方で。水面上に招待を露にした『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』が、ルルヤの【咆哮】に似て非なる軋む様な雑音の混じったがらがらとした叫び声をあげて突進する。


「【SYYY】!」


 短く叫び【巨躯】を使用し巨大少女型竜と化したリアラがその柔らかで華奢な姿で身構える。『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』の大きさはルルヤの【巨躯】にほぼ等しいが、リアラの【巨躯】はそこから頭一つ小さい。ましてや竜らしい竜であるルルヤの【巨躯】やそれを巨大ロボットをスライムで繋ぎ合わせ模した『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』と比べれば、肩幅も胴回りも手足の太さも圧倒的に細い。太く長大な尾も加えれば、質量差は巨大化して尚圧倒的不利と言えよう。


 だが、リアラは怯まず立ち向かう!


「【GGYAAAIA】!!」


 『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』の二つ分の頭を融合させた頭部の目と口から、光線とミサイルが迸る。それぞれの前に光る魔法陣が展開し、攻撃に威力を付与する。


「【SY】!」


 鋭い呼気と共にリアラはそれを踏み込みつつ素手で払った。生身の体でチンピラの暴力を払った時と同じ動き。手刀の型とした手に【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】を刃めいて付与し、ミサイルを砕き光線に至っては光を操る【息吹】の力で絡め取り逆に己の力に!


 VON!


 続いて長く太い尾による攻撃。払った打撃の勢いを殺さないまま、踏み込みの流れを絶たないで、リアラはそれを屈みながら前進しつつかわした。


「【SYLL】!!」


 屈んだ体勢から飛び上がるようにアッパーカットに近い打撃を喉笛を潰すように見舞う。手刀に絡め取った光線と【守護バリアー】が逆に威力を増し体格差を補う。その一撃に威力を付与して光線と【守護バリアー】は消える。


「【GIII】!!」


 『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』が両腕の鉤爪を振り回す。リアラの両腕がよりコンパクトに円を描くように動き、振り回される腕の動きの内側に入り込んで間接を抉るように弾き飛ばす。ルルヤ本人の技量に比べれば、『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』のそれは力任せの単純な代物に過ぎない。


 DOMDOMDOMDOM!


 攻撃を払ってがら空きになった胴にリアラの拳が4連発! だが動きが単純とはいえ体格差は大きい、大したダメージにはならない。更に!


(触手!)


 体を繋ぐ『泥人エルキド』の泥が変形。打ち込む拳に触手が絡み付き両腕を絡めとらんとする。同時に再度口と目から攻撃の気配。絡め取った所で叩き込みに来る!


「【KIII】!!」


 リアラの両腕から【陽の息吹よ狙い撃つ鏃となれホーミングフォトンブレス】! 触手を切断! 身を捻ってミサイルを回避!


 GAN!


 その身を捻る動きの勢いを乗せた突き刺すような爪先蹴りをリアラは、『泥人エルキド』が触手化した事で剥がれた隙間、『樹守フンババ』『天牛グガラナ』を合体させた継ぎ目に叩き込んだ。手応えあり!


「【IAAAAA】!?」


 『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』が叫び、腕を滅茶苦茶に振り回すと同時に伸ばした翼も加えそれによる左右から挟み潰すが如き攻撃!


「【PKSYLLLLL】!!」


 叫びと共にリアラは跳躍していた。飛翔ではなく跳躍。それは【翼鰭】を飛行の為ではなく、その縁を単分子ブレードに変形させ斬撃を行う方を優先して動かす為だった。『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』の両翼が斬られた。同時リアラは新体操のエース選手めいて肢体を捻り回転しながら巨体を驚くほど軽やかに跳ばし『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』の直上! その回転で猛烈な勢いで伸び突き上げる『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』の角による攻撃も回避!


「『星なるかな智恵の天道ムル・アピン』!」


 ここで『交雑マルドゥク』が〈ニューエンジェル〉能力で頭部に光の輪を形成しながら叫ぶ。今のリアラの戦闘力は『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』では強化しても捉え切れぬと悟る。出現する星を象った高速飛行する端末。〈機械兵士ガンエース〉シリーズ由来の超知覚能力が〈Destiny/Duel in the Dark〉由来の神話超兵器を機動攻撃端末としてより精密に動かした。星を象った機動攻撃端末が衛星的周回軌道ではなく自由にジグザグに機動し、魔力を放ってリアラを激撃する。


「ッ……!」


 これは流石にリアラも回避不能。真珠銀の肌に幾筋もの焼け焦げが走り苦痛に表情が歪む。だが幾筋目かの魔力を光の壁が防ぐ。【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】。傷つきながらも回転を続けていた跳躍するリアラの肢体の周りに、降下しつつある足を中心に螺旋状に形成されるバリアは回転と二重に攻撃力を高めたドリルキック!


「〈オープンバビロン〉!」


 『交雑マルドゥク』が叫んだ。三体の合体である『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』が『泥人エルキド』『樹守フンババ』『天牛グガラナ』に分離する事でドリルキックを回避!


 直撃を受ければ纏めて激はされかねないと『交雑マルドゥク』がリアラの成長を悟ったのだ。だが『天牛グガラナ』は翼を損傷している。それもありまたリアラの攻撃それそのものの研ぎ澄まされぶりもあり、事態は『交雑マルドゥク』の予知を越える!


「KEEEEN!?」


 撃たれた雉のような悲鳴をあげて『天牛グガラナ』が吹き飛ばされ転倒した。既に損傷していた翼のうち一枚が、バリアドリルに巻き込まれて完全に吹っ飛んだのだ。ざんぶと波を立て水中につんのめる『天牛グガラナ』。最早飛べまい、好機!!


「!!」


 だがその瞬間リアラは不意にばっと別の方を向いた。


「【PKSYLLL】、!?」


 【真竜シュムシュの咆哮】! だが直後リアラは更に驚く。その瞬間に感じたのは『全能ゴッド』の視線だ! 天から下る災いの如き神の凝視!


「【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】!!」


 咄嗟に竜術を切り替えた直後に炸裂するのは無数のミサイル! だがそれらは全て唯のミサイルではなく、複数の欲能による強化が施されていた。非魔法武器によるダメージを低減する【鱗棘】を貫く為の強化と、意思力の比べ合いを強いる【咆哮】との競り合いを『全能ゴッド』が代わって行う為の強化。


 そのミサイルは『全能ゴッド』が直接発射した物ではない。『偽真竜・泥天樹バベル・ジッグラト』のミサイルと光線への『交雑マルドゥク』による強化と同じようなもので、『全能ゴッド』が配置した、ルルヤを囲む様に展開していた筈の中華ソヴィエト共和国軍の有人無人混成の戦闘機部隊によるものだ。


「『全能ゴッド』』……!」

「当然な話、他のものは君が守っている訳だからね」


 『全能ゴッド』が笑う。本来ならば最早通用する筈の無い地球の兵器を、防御せねば危ういレベルまで強化している。だが本来ならば自分で戦った方が余程強い筈なのに、態々こんな手の込んだ真似をする理由は。


「リアラ!」

「ダメですルルヤさん!」


 自分を包囲していた相手のまさかの自分をガン無視してのリアラへの攻撃に、リアラを攻撃された事と自分を無視された事に二重に怒り、即座にルルヤが【息吹】で戦闘機とドローンを駆逐せんとするのをリアラは止めた。その表情を見てルルヤも悟り、【息吹】の代わりに『全能ゴッド』に怒りの叫びを放つ。


「【姑息な真似を! そんなに地球を戦に巻き込みたいか】!」

「君達みたいな心を力に出来る奴等には、それが一番効く。だろ? 伊達にここまで戦いを見続けてきた訳じゃない」


 即ち、地球の軍隊を攻撃し死者を出させる事で恐らく『全能ゴッド』が言葉巧みに説得と言う名の元にたぶらかしたのであろう各国政府にリアラとルルヤが公敵であると信じさせ、孤立させる為。ルルヤを取り囲むように戦闘機や潜水艦を配置しておいて攻撃対象はリアラという作戦も、ルルヤにリアラを守ろうとさせる為だ。


 それもそれらの軍隊の力を当てにしているのではなく、ただただこちらに精神的負荷を与える為に。だが。


「【だったら】!」

 SYLLLL…ZDONZDONZDON!


 【月影天盾イルゴラギチイド】! 続くリアラへのミサイル攻撃と潜水艦からの魚雷を、ルルヤの防御竜術が阻む! そしてルルヤは叫んだ。


「【下らん汚名は行動で祓い、下らん策を練る軟弱者は戦いで殺すだけだ】!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る