・断章第二話「よくわか……らない混珠言語」
・断章第二話「よくわか……らない
猛烈な激戦だった。辺境諸国群の一国、ガインバ爵国を襲ったのは、かつてルトア王国を滅ぼした『
かつての『
その軍は主に『
ならばこの場にて繰り広げられるのは、再びの悲劇であろうか。
否、断じて否! 何故ならば、〈
「させるかぁああっ!!」
「ぎひぃっ!?」「ふごぉおっ!?」
ルルヤが先陣切って突貫する。【
嘗てルルヤの戦闘力を『
「『
「ブギイイイッ!」
並の
何故ならば、タフな
この四
ベルフェゴールが時にアスモデウスと変わり色欲の大罪を司るとされる事もあるように堕落し鈍重だがその内に邪欲をたぎらせる『
だが、【
それにより【
DOBABABANN! CRASH!
「敵射撃通過! 集合! よし、いくわよ、砕け散りなさいっ!」
「ギギャッ!?」「キッギイイッ!?」
かつて『
「《焼討》! 《餓顎》! 《踊拷問具》!」
「うあああっ!?」「きゃああっ!」
『
無論本来ここまでの連携や装備・魔法の使用は
それがここまでの軍となるのは、
だが。
「皆、大丈夫かっ!」
「はいっ、フェリアーラ卿……!」「馬はもう、けど、私はまだ……!」
攻撃魔法が使えないハンデ如きで
「ケッ、『
「……過去の否定はしない。だが、私達が、その前提を満たさせはしない。死ぬのはそちらだ……まだ行けますね、団長!」
「勿論よっ!
今は風も炎も無き魔法剣をそれでも構え、斬り進むフェリアーラとユカハ。
そしてユカハの言う通り、魔法に使用制限のかかる事は、少年傭兵団である〈逸れ者達〉と
「《軽業》効果強化三倍継続、効果時間倍増継続……《活気》効果強化五倍継続っ、効果時間倍増継続……皆、勝手違うだろけど、頑張って、負けないでっ……げぼ、ぜえ、ああもう、可愛くないなっ……喉も頬も血でべたべただよ……!」
普段は魔法を得手としない仲間からリソースを護符を使い譲り受けて大規模魔法を行使するミレミは今、限界を越えた極度の魔法行使で自らを傷つけ、血涙と血反吐に溺れそうになるのを痩せ我慢しながら長杖を振るっていた。
……魔法の他者行使を封じる『
卑劣な戦法を理解しそれを逆手にとる対傭兵戦と異なり、単純至極の力押しでくる
だが、自分にかける魔法、既にかかっている魔法は【鱗棘】の護符でそれから守られる。つまり身体強化系の魔法ならば、事前に近いミレミから団員という他者への付与であっても【鱗棘】に守られて効果が残り続ける。ならばそのようにして、普段なら戦闘中に使うリソースまで全部身体強化系魔法の効果増加と長時間維持の為に突っ込むしか、
様々な魔法を戦況に合わせ使い分ける事に比べれば遥かに効率が悪く、すでに発動住みならば効果を維持する事に問題はないが、倍率を極度にあげた負担の大きい魔法を団員全員分維持し続けるのは、本来あくまで団員同士で力を融通しあわなければ大規模魔法を易々行使とはいかぬミレミにかくも苦しい負担を強いるが。
「けど、それでも役立たずでいるよりは、ずっとずっとましだっ……!」
そう、ミレミは己を強いて呟き、戦う。自らにも付与した身体強化魔法の力で増した速さと力〔速さはともかく力はそこまで得意とする魔法を会得している訳ではないので限定的なものだが〕を振るい、迫る
「でやぁっ!」「このぉっ!」
BOU!! VIIIIIINNN!!
「プギャアッ!?」「ピギッ!?」
消耗しているミレミを助けるべく、投紐で対火縄銃には火を遠くに飛ばすために軽くしている精油壺に目一杯油を積めて点火し
「ええいっ!」「やぁっ! 強いのは
「フゴオッ!?」「ブギイ、チョコマカトッ!」
故に傭兵団主力の前衛は、人間の少年達は鎌槍や矛を振るい、獣人の少年は銜剣を装備し転がるように地を駆け、正当派の対
即ち、分厚い筋肉と脂肪で覆われた太さの半分程まで切り込まねば致命傷にならぬ胴を避け、目、口腔、頸椎、気管や太い血管や腱が走る首・手首・足首、内股付け根、脇下、股間を狙う事。十分な打撃力があるなら頭蓋を狙うも可能。子供達には最後の急所は背丈の差もあり狙い難いがそれ以外の急所は、力任せで雑な動きで長は邪知狡猾だが雑兵は連携する程賢くない
とはいえ
「よくも! 去勢してやらぁこの腐れ豚肉がぁぁっ!!」
「ぴぎいいいいいいっ!!」
そういった相手には、このような攻撃をしていく。あるいは手先足先や膝を砕いて動きを封じたり、内股や脇の血管を狙って倒す。だがいずれにせよ、普段の傭兵相手の巧みな戦いよりは、どうしても消耗の激しい出血戦を強いられる〈逸れ者〉達。
故にこそ突撃を選択したルルヤだったが……
ZDOM! SWASH! GRAP!
「っ、しぶといっ! (仕留め損ねた!)」
「ブギイイイッ! オノレ、ヨクモ、ッ、殺、レィッ!」
護衛
だが、その一撃を急所から逸らしルルヤの手を掴む事に成功した。そして河馬の様に巨大で通常種と違いイボイノシシを凶暴にしたような特長を持つ顔を引き攣らせ叫び呼ぶ。
それは元々独立していた『
「ああ、やってやるさ!」
SLASH!
「何っ……あごぼっ!?」「腐れ
ならば絆結んだ戦友同士の真のチームワークに勝てよう筈無し! 『
「行けぇえっ!!」
出血も骨折も省みず跳躍し、
「「ああ!」」
リアラとルルヤの声が揃う。リアラもまたこの時すでに、それぞれ炎と雷で妨害射撃を行う魔犬二匹を仕留め突破していた。『
「畜生ッ!? 別動隊何ヤッテヤガル!? 街モ襲ワズ俺モ守ラズ! 畜生ガ!」
悲鳴をあげて部下の不始末らしき事に当たり散らしながら、『
「畜生なのは貴様の心だ、そして……何匹いようがどのみち無駄だっ!」
豚を何千何万匹積み重ねても、天舞う竜に届く筈無し! ルルヤの叫びと共に『
「こマ!? はー! 怠カス恵体の癖にほんまつっかえ!? 熱い掌返し不可避! アカンわ魔猪あるやんけ逃げたろ、『
……この珍妙な口調の言葉は、飛ぶ『
『
「ッ手前ェッ!? ギャアアアアッ!?」
「
『
「……何で
故郷のインターネットスラングへの当惑と怒りとインターネット交流を愛していたが故に同類を殺す事への少しの悲嘆を帯びて、リアラはバットじみた棍棒で防戦する暇も与えず『
「グェー、死、死んだンゴ……せやかて、魔族になってもうたら、ぐう畜せえへんと生き残れへんやん……」
「……」
そんなじわりとした悲嘆故に、『
「ちな、しゃあないんでとりま最後に自爆するもよう」
「えっ」
それ故に、次のその言葉と自爆が、ほぼ完全に奇襲として入った。閃光が、唐突極まりない展開にあっけにとられたリアラが見せた酷く間抜けな表情を照らして。
KA―BTOOOOOOOONMM!!
「リアラーーーーーーーッ!!?」
……
…………
………………その後、数十分から数時間の後。
「……うう、ぜんぶ実況ジャパンは……日本のインターネット掲示板……Nチャンネルの……で……」
気絶前のインパクトを思わず譫言し、(……もしかして〈する造〉とか〈しないだ郎〉みたいな姿の魔族転生者もいるんだろうか……もし居たら、出来れば、戦う相手ではあってほしくないな……)と、夢と内言の中間を思うともなく抱いて。
「っ!」
意識を取り戻し、リアラはがばと身を起こした。ベッドの上。窓の外に見える風景からして、ガインバ爵国。気絶して、治療されたのか。気絶前の状況からして、戦闘は終わったのだろう。敵の別動隊が行方不明になったのはどうなったのだろうか。そこまでリアラはすぐに把握し、自分を心配そうに見守っていたルルヤを見て。
「リアラ コ ン キイヘヒ チ ナチササ。フツ マ ムチヲシフ ネムバハ ン フソソフソ シワペフヌヒガ」
「……えっ、る、ルルヤさん、今一体何を、言って……」
「リアラ リアラ!? ネムバハ ダ シアソソシフゲ」
直後……リアラとルルヤの顔から血の気が引いた。
「まさか」
「イキチ 」
「ビノチ ルソテノ リアラ ヂ ヒフロワ ビ!」
「……
リアラは未経験の窮地に立たされる事となった。さながら『
「ラワシラハ チ イキチ」
「ミフセ マ ホフ ブヂテ マ?」
「ルルヤ ケホゾソフヒ ワジャ? ナテマネ リ」
「サマ リゲビ シマス シワゴ」
「ユカハ、フェリアーラ ザネ アタネ イガテ ハヌソマ マネショテ チ?」
「タセ ラモネ マ マネショテ ン ヒヌチス ホワキヂワドセ イガテ リ」
「サノハソ ケホゾエ マゴリ シフマチ シュネジュシ シニ?」
「サマリゲビ シマス シワゴ」
負傷者の治療をしていたと思しい騎士団と傭兵団の皆の内手空きの者が集まって、リアラのベッドサイドで混乱の態で騒がしく相談していた。……その中に囲まれながら、リアラは心底心細かった。言っている事が、分からない。誰の言う事も。
「どうしよう……どうすれば……あの自爆の、何が、一体どうして……」
思わずリアラは呟くが、それを聞いた皆は、やはり悲しげな表情を浮かべるが答える事はできない。通じないのだ。
(……考えろ。考えるんだ)
これは
考えなければ。……ルルヤさんが、さっきから、同じ言葉を繰り返し、とても、混乱して……怯えたように辛そうだ。このままだったらどうしようと思う、けど。
「ルルヤ」
「リリ、リアラ!」
名を、呼んだ。名を、呼び返してくれた。……強く思った結果、分かったことが一つある。先ほどからのやりとり、固有名詞は少なくとも聞き取れている。つまりこれは、
「ミレミ」
「ミ ネワ!」
「フェリアーラ、ユカハ」
「シイト リ! ムチエ ワビシ! サネチ!」「ジャミ セイウ……」
ユカハも同じ考えに達したらしくうなずき、それをルルヤに向き直り説明する。少し、ルルヤさんの表情が明るくなったと見てとって、リアラは力付けられた。
「……ビハヘシャ チズチ ミエフウ アウ マ シイト ヂ」
「
「シシヌマバワドト ナノロフ ギョネケマラ」
リアラが言うと、
「……大丈夫。頑張る。ありがとう、皆」
リアラはそう言って微笑んだ。大丈夫ではない。何を頑張ればいいのかもまだわからない。けれども。少しでも皆を安心させたくて。言葉の意味が伝わらないだろうけれど……ありがとうといいたくて、少しでも。
「リアラ」「リアラジャワ」「リアラ」「リアラキワ」
それに、皆もその心に感じ入った表情になって、健気なと思う様子のフェリアーラ、頑張って何とかしないとという様子のユカハ、良かったと思うリアラだったが。全くお前って女? は大した奴だよ、というようの
「ヲホホツナネ ヲエビヨ チフケヨイヤネ チヨノエビヨマ ン チヨエワビ ザノチ ルテ チタ クハ ジョネキイヤネ ス ヒヨソフエ タ ナゼワビ ソノハ ジョネヒフ ン ヌニドカ ヘラヌゴタ」
(僕もそう思う)
だから、何とかしなければ。……思い立ってリアラは【
後はそれと、それを伝える手段だ。【宝玉】にアクセスできれば、かつて読んだ文献を見る事が出来る。その中には自分で入力したソティアさんの研究資料もあれば、読んで内容を暗記した
【宝玉】の閲覧利益を開く。
【入手物・39】。今見る表示は【〒■●▼★∴■●∵★▽★・#^】。
(前に謎解の時に知ったけど、
それから数日の間、実に様々な検査調査が行われた。また、少しづつ、かつ断片的ながら、リアラにも
「リアラ ムチヒヒ ラネフネラハ チ フイ」
「リアラ バコワ シアホシフ イビ」
「リアラ バコワ シチチウヌソフレヂ タハハ ラワシラハスリ ムヒホ ヂ」
「ツシン ソセビトヒマス タハハ ミヒイ ヂ ナヨノヂ ムヒホ ヂ」
その間ルルヤはずっとリアラの側に居て……終始悲しげに詫び続けていた。戦場での猛々しさと正反対の、戦いよりも別の事に心を砕いている時の彼女は、こんなにも繊細なのかと思わせる表情で。
「そんな事、ないです。ルルヤさんは、自分を卑下するような事は、何も、ない。……あー、ええと……ルルヤ クゾ ヘエシ テビキフ ヘル」
思わず日本語で言った後、苦労して何とか
「リアラ ヂ キブチフヒ ヒヒテ ヤニ ヘエシナ ブギャテ ミワイヌ アミセフオ ヒューヒュー」
過ぎた自虐はよくないぜと同じくルルヤを諭していた
「ミウイヘ ヤネラテ ヂ ミマ」
「……ゼヒアス ヂ? ルカホソ ラハ ザネフネ?」
それが大きく変化し、状況が解決したのは……魔族軍別動隊の壊滅を調査していた調査隊からの報告に始まる。
リアラはそれを状況が解決してから改めて聞く事になったのだが、聞いた時は随分と驚く羽目になった。曰く……
〈魔族軍別動隊は、唯一匹の魔族軍に所属しない別の
世にも珍しいその手紙には、こう書かれていた。日本語で。
「魔法の力は、心の力。気力、精神、心の修養が無くば揺らぐのは、相撲の取り組みと同じ。恐らくその戦いの時、自分に近しいかもしれない存在を殺めた事で、心が一瞬弱った事で
「……ああ。って、
言われて、リアラは改めて気づいたのだ。あの時感じた、じくじくとした罪悪感。転生前は善人だったのではないか、やむを得ずああなったのではないか、それを殺したのではないかという胸の閊え。それを無意識に抱え、それが原因だった事にその瞬間思い当たり、そして、敵が真に悪であった事を改めて教えられたことで、その閊えが取れた瞬間『
「……うっかりしていた! 基本中の基本を!」
「……悪い意味で、そういう葛藤は慣れちまってたが故、ってやつだな」
そして後からその理由をリアラから聞かされ、ぴしゃと額に手をやってルルヤと
「……団長は、気づいていて? だから偵察隊にその
「薄々だけど。フェリアーラも、そう思っていたのじゃない?」
「ある程度調べがついた段階でそうではないか、とは。ただ、だとすると、当人の心の問題ですから、ある程度の時間で何とかなるかと……まさか、こんな突拍子もない展開で解決するとは、さすがに思いませんでしたが」
そして騎士としては未熟な面もあったが姫として人の心に細やかであったユカハと、それに接してきたフェリアーラが逆に気づき、上手く手を打ってこの事態を招き寄せていたという事を知るのであった。
「いずれにせよ、これでリアラさんに改めてお礼が言えるわね。『
そんな騎士主従の会話は、今はまだ待った方がいいわね、というユカハの表情で打ち切られた。その視線の先には、感極まってリアラに抱きつくルルヤの姿。
「リアラ、ここ数日何を言っていたのか、改めて教えて貰うぞ。それにしても」
ともあれ暫く胸の谷間でリアラを溺れかけさせたあと、無事の落着にほっとして、ルルヤはリアラに笑いかけ。
「やはりリアラの心は、優しいじゃないか。それが繊細さという形で出たとしても、私は今回の事、別に何も迷惑したとは思わんぞ。そういうリアラでいてくれ」
「……~~~っ……!!」
「な、何だ、どうした!?」
カイシャリアⅦとの戦いで直面した己の醜さとの対峙を救ってくれた過去を思い起こさせる言葉に、リアラが涙を思わず零して、ルルヤが笑顔から一転またあわあわと慌て、心配が止まらないリアラへの豊かな愛情を示して……
それがこの一件の最後の一幕だった。
何時の日か、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます