・第六話(誤字ではない)「僕、ビキニアーマーになりました(後編)」
・
……どうしてかなた、と、故郷の古いネットスラング風に思ったリアラだったが。
(まあさっきも思ったように、分かってるっていうか自分達で決めたんだけどさ)
それはあくまでここに至るまでに対してで。リアラの思いは続く。
「♪剣を取ろう、それでいいの? 誰が死ぬかが、変わるだけじゃない? ♪」
ルルヤさんが歌い踊る。ステップを踏み、回り、手足を翻す。今こうして、ルルヤさんと一緒に歌い踊っている事は、あくまで嬉しく愛おしい。踊るルルヤさんのステップは、そのしなやかに引き締まった体は、正直あれだ。〈美女は三日で飽きる、醜女は三日で慣れる〉というが、とりあえず僕の場合は自分がビキニアーマーを自分で着るのは三日で恥ずかしくなくなって、むしろルルヤさんから教わった竜術で自分用のビキニアーマーを作る事になって〈分解可能で、裏地と繋ぎ紐だけを変えれば清潔に使用できる上に、竜術の【
(ああ、あの日聞いたように美しくて、あの日とは全然違う)
……彼女の歌を初めて聞いた日を、また一瞬思い出す。彼女と初めて出会い、『
死せる者に、この世の素晴らしきは貴方が生きて為してくれた事で出来ている、だから私達があり私達が貴方を愛している、故安心して眠ってほしい、貴方に私達が愛の毛布をかける、貴方と共に私達も眠り、目覚め貴方の様に生きる、死を忘れずされど臥所を伴にして死を恐れまい、死せる貴方の為より良く生きると語る、星座の弦を月の弓が奏でる様な美しく神聖で天上を思わせる声で歌ったのだ。
「♪勿論良くない、愛しい
今はそれとはまた別の歌に答えるように僕も歌い、踊る。ステップを踏み、回り、手足を翻す。鳴り響くのは、アイテムを媒介して魔を制御する隠秘術から改めて
((竜術には向き不向きがある。
ルルヤさんがそう褒めてくれたのは嬉しかったけど、それでもまだまだ僕は未熟。こうして歌い踊るのも、実はこれがルルヤさんの会得している武術、【
「ヒューッ! 見ろよあの体を……まるで宝石みてえだ! こいつはたまらねえ……」
「まじだぜ。こいつぁかなわねえ。……そら嬢ちゃん、触られまくってるぞー!」
「がんばれ、触り返せ! いやでもそのほうが色っぽいから今のままでいいかも!?」
お客さんには大好評で、四肢が踊り絡むたびに観客がわいわいと沸く。とはいえ娼婦に対するようなどろっとした感情ではなく、あくまでさばさばとした歓声だ。エロアニメとお色気アニメ程にも違う。それもある意味ビキニアーマーのお蔭だろうと、リアラは思う。ビキニアーマーというものはそれ単体では存外エロくないと。何故ならこれ以上脱げないからだ。チラリズムも脱衣も破れも濡れ透けもパンティも無い、さらっとした素肌。これ以上剥いたらR18だから、そうならない時のビキニアーマーをむしろ強固に〈ライトな色気〉にとどめていると。
(前回の……『
それに留まれないかもしれなかった前回の戦いを思い出しながら、もっともっと鍛錬しなければ、と、踊る手足に力を籠める。腕前の差からすれば当たり前なのだが、リアラが繰り出した手も足も、全部ルルヤに絡めとられている。せめて、いつか一発くらいは返したいものだが。
((武とは、可能性だ))
教えを始めるに当たって、ルルヤさんが言ったことを忘れまい。他者を躊躇なく傷つける屑を忌み、故に暴力を嫌い、結果的に無力であったリアラに、彼女は告げた。
((娘一人が暮らす家に賊が入り込んだとしよう。娘に武無くば、賊の好きにされてしまうだろう。だが娘に少しの武があれば、賊に抗うことができるやもしれん。ある程度の武があれば、返り討ちにも出来よう。手加減しても問題ないほど賊を上回る武を持っていれば殺さず召し捕る事も出来るだろうし、無論。手加減せずに討つ事も選べる。更にそれ以上の武を持っていれば賊を召し捕り仲間を吐かせその仲間達をも成敗できようし、極まれば威風だけで相手を平伏改心せしめられよう))
武が害するものか守るものかは心得次第、あくまで道具であり手段。己の心を己が良し正しとするよう保ち続けられるならば、他人の心や武に負けぬように、手段を確保し可能性を広げておくことは悪いことじゃない、と、ルルヤは教えてくれた。
((可能性を増やそう。暴力からお前の心を、守るべき者達を守れるように))
そして、これは世界の統合を夢見た
((全てが争いあう古い世界のあり方と
心を誇りを尊厳を貫く意地の為の力として、お前自身の心のために必要な事だと言うルルヤの言葉に、蒙は啓かれた。故に、日々リアラの舞は切れを増してゆく。
(それにしても何でその評価は一致するんだよ。ルルヤさん凄い綺麗じゃないか!)
自分の方が色気があるという客の感想に、リアラは困惑しルルヤはむくれた。((美しいのとエロいのは別だ。あっちの方が美しいが、お前のほうがエロい))と、同じ様な事をこの間倒した『
((色目で見られるのは寧ろ嫌だが、それはそれこれはこれで何となく腹が立つ))
そんなルルヤの欲情されるのは嫌だが女の魅力に欠けると言うのも許さんという大分我儘な怒りに共感するあたり、僕もすっかり女の子になったという事だろうか? と、リアラは思った。
「わっはっは、色っぽい
「いや、いいだろ、色っぽい
「はは、かもしれねえな!」
この歌は、ハウラから聞いた物に更にルルヤからの知識を加えた
……故あって冒険者ではなく旅芸人として生計を立てる事になった時、彼女の歌がそのためになると、リアラはその美しさを知るが故に提案した。だがそのままではルルヤの歌は旅芸人としてはあまりに荘厳すぎるので、ルルヤが覚え易い古典を基に、音楽はリアラが作った。
((任せてください。白魔術の《作音》を使えば伴奏をつけられますし、こう見えても物語を書くことは不得手でしたけど、昔作曲の真似事を囓った事はあるんです。僕が昔居た地球界には、ソングノイドっていう楽譜通りに人間みたいな声で歌ってくれる楽器みたいなものがあって、まあそれを少々……作った曲の人気は、その、Hな隠喩を限界まで捩じ込んだ冗談猥歌の百分の一程だったんで、ルルヤさんの歌声の足手纏いにしかならないかもですけど))
((はは。何処の世界でも男は色を好むからな、それは仕方が無いさ))
昔とった杵柄を持ち出しつつ杵柄への自信は無くて言い出してから凹むリアラを、ルルヤはからりと笑って、構わない、それは私にはできないことだ、一緒に頑張ろうと答えた。
……ちなみにリアラが転生者であることは即日ルルヤにバレていた。最初、((立ち居振舞いや話し方、認識の仕方の癖で解る))と言って、後から((嘘だ、実は竜術【
((隠す事は無い。お前の血筋とお前の人格は全くの別だ。お前の仲間達もあるいは薄々気づいていたかもしれんが、お前が転生者である事を理由に憎みはすまい、私も同じだ。転生者が転生者であるというだけで憎めば、
……そんな風にリアラを優しく受け入れてくれたルルヤのようにこの世界は美しいが、しかし勿論完璧というわけではない。様々な入り組んだ過去とそれが齎す因縁と悲劇があった、神話時代の記憶だ。実際、
……
いずれにせよ、この世界の空は泡の外の海の色だ。泡の中の海が、泡の中を巡る太陽と月に従って昼は青く夜は暗いように、宙海も、昼は青く夜は暗い……宙海のどこかに宙海を照らし明滅する宙海太陽があるのか宙海自身が時を刻んでいるのか、その理由は定かではないが。だがそれを映して昼と夜が生じ、そして、夜の空に見える星は他の泡界なのだと言われている。それはこの世界の天文学で観測され確認された事柄であり、故にそんな世界のありようと並行して語り継がれている神話は、地球の神話と異なり、現実に起きた事象、〈神様が地上に実体をもって存在していた時代やそれ以前の歴史〉だ。歴史の如く事実であり、歴史の如く不完全だ。
神話は語る。宙海も泡界も、在り、包むだけで何事も為さぬ。原初の
意識は世界が入り混じった中でも己を思い世界を思い己と世界を作り変える事が出来る力。後に精霊、神となるもの。意識は世界と一体のままに様々に思いを巡らせた。世界と一体であるが故に、意識が思うたびに世界は形を変え、思いを巡らせるたび、好きと嫌いが別れるように、思いは次々と分化し、思いが別れるたびに、思いと一緒に固まっていた
そうして世界と生命と人が形作られ、意識はそれぞれに独立し、己が気に入った宿る要素をそれが象徴する事象やトーテムの獣や指導開祖たる人に宿り嘉する精霊となった。人は世界と精霊を己の意思で捉え、精霊と崇拝という形で結びつき発展していった。採探の民、狩闘の民、牧騎の民、耕拓の民、航漁の民、他にも居り、また細かい分派もあり、様々な民が各々精霊を崇め……そして、様々に分かれたが故に、争った。農耕の場を広げようとすれば狩猟や牧畜の場は減り、獣への接し方で牧畜と狩猟は異なり、民同士の間で力の強弱もあった。そして、信仰される事で彼ら民と深く結び付いていた精霊は、宿る実体を失っても滅ばぬが己が崇める民が滅びれば共に滅んだ。故に精霊は己が民に己が有する霊的に世界を動かす力を分け与え盛り立てた。魔法の始まりであった。争いは激化し、更に二つの勢力が争いに加わる。
戦の時代に適応して金属の秘密を解き明かし、狩りの道具や開拓の道具の応用ではない剣等の武器と
そして死せる民と死せる精霊の怨念の化身、この世に恨みを抱いて死んだ人間の魂や悪を為した者の魂を被害者の怨念が歪め輪廻転生させた存在である魔族魔獣。悪人は魔族魔獣の間でも虐げられる下級魔に、恨む魂は恨みを晴らすまで止まらぬ上級魔に生まれ変わる歪んだ怨念の因果応報。
そう、
そんな鋳鍛の民と文明への怒りから、文明に対し抑制的な信仰をする者の中から
そして魔はこの世の否定者であり、しかし同時に浅ましく愚かしいことにこの世の悪しき理の体現者に成り果てた存在であった。蹂躙された者の、蹂躙し返したいという欲望の具現であった。故に魔は恨みで異形の種族となり、あらゆる命に対する敵対者となった。
一部の精霊たちは、善悪を知りそれを尊ぶ事にしつつも様々な理由から精霊のままであり続けることを選んだが、いずれにせよ、諸々の民の争いは治められ、魔の大半は討たれ、世界は平和に向かったが……そうはならなかった。
鋳鍛の民より生まれ諸民の知識を束ね都市と文明と国を興した諸神の主導者、神々全員の母たる
((
その後の〈魔神大戦〉で神々が後の魔王を上回る魔を統合する魔神を倒す代償に実体を失い霊的存在となっても尚信仰する人々に加護を与え続けている様に、この一件で
((それなのに、下界の人達を守るのですか?))
((それだからこそ、だ。そもそも我らの伝承が完全な真実だという保証もないし、それに。我等の伝承において
その歴史を知り問うたリアラに、ルルヤは毅然と憮然の混じった表情で答えた。
((憎いと思ったのが
眉をひそめてつんと頬を指でつついてルルヤは言った。お前はそれをもう知っている、己の中で明文化していないだけだ、と。
そうだったとしても、それを改めて告げてくれる事が。武の話にしても、自分が地球で悶々と悩んでいた事を形にしてくれる彼女と、((大体我等の里の伝承が完全な真実であるという保証も無し、信じ守るに値すると判断した
そのように、心身共にリアラに修行をつけるルルヤであったが。
「ぷはーっ! あっはっはーのーはー! はい、お代わりもらい! アタシのお尻の値段、まだまだこんなもんじゃないぞー! 腕に覚えの奴はいないかー!」
「よおおっし次は俺だぁっ! 成功したらそっちの子にも挑んでいいダブルチャンスにゃ酒と飯両方賭けろ、だったな!?」
「アタシの
……ひとしきりの踊りが終わった今は、お客さんに一緒に踊って触れたら触って良し、一曲終わる迄の間に触れなかったら料理か酒を一品奢り、という勝負で次々と勝ちまくり、行商達が旅人相手に輸送する食品の一部を売り食わす為ちょっとした即席屋台街となる〈旅の泉〉を、思う存分堪能していた。
ちなみに、え、お前誰? というくらい口調が変わっているのは、初めてリアラ達の前に姿を表した時は
(あの摂取カロリーを平然と消費する鍛練を、仕事以外にも毎日してるんだもんなあ。どんなに早起きしても先に起きてるし)
さらっとルルヤにお触りを賭けられているリアラであるが、平然と踊りが終わった後炊事と給仕を手伝っていた、ビキニアーマーの上にエプロンつけた姿で。まだ成長途中のリアラでは万が一さわられる可能性があるじゃないかとアンコールは自分一人で受け、竜卵という発言が真意であることを示すようにルルヤは自分の段階でもう、絶対にさわらせず、リアラへのタッチをシャットアウトするのだ。一度ルルヤをすっ飛ばしてリアラに手を出そうとした不埒者をうっかり脱臼させてしまい、リアラが手当てをする事になったほど。
(『
大事にされているのは、嬉しく心暖まる事。故にリアラは安心して、アンコールの代価で酒代と食費を節約するルルヤと同じく料理人兼ウェイトレスとして追加で生計に貢献している。
実際リアラは料理が上手い。だがそれは基礎こそリアラ自身転生前から素で家庭的だった故だが、地球の料理の力ではない。そもそも食材も違えば民の嗜好も違うし、
貴族出身として民の生活を知恵で安んじることを重んじたソティアは、ハウラから
ソティア、ハウラと一緒にいた時は冒険者として活動していたのに現状においてこのような暮らしをしているのには、幾つかの理由がある。
一つは、冒険者として登録を行っているのはリアラであり、ルルヤは登録していないという事。だがこれは些細な事だ。
二つ目は、
竜術【
事実、リアラ達が行っていた冒険においてはソティアは
二つ目に関しても加減は可能だ。 実際冒険者が予想外の強敵出現で敗北し逆に要救助者となったとを聞き、依頼ではなく自主的にだがルルヤが助けた事もある。
三つ目で最大の理由は、
「たっだいまー! ふぁー、お腹一杯。リアラはご飯食べた?」
「はい、作る合間合間に」
そんな二人の新しい日常家業を終えて、ようやくアンコールを止めたルルヤが此方もラストオーダーを済ませたリアラの所へやって来た。酔っているように見えて結局ルルヤは誰にも指一本触れさせなかったのは【
そうして二人は立て置いた
(女の子の体に慣れてて良かった)
それ故に共に水浴びする事を好むルルヤに対し元男のリアラであるが、女に転生しソティアとハウラとで女だけで旅する事二年、自分の体もそうでない体も、女の裸を見る事に慣れ自然に女として生きられるようになったことに内心感謝していた。
なぜならばルルヤは水浴びの後。「さ、寝ようか」と言うや、リアラを押し倒すからだ。これは毎晩の事であり、リアラも「うん」と二つ返事で従う。彼女は決まって眠る時、リアラを覆い被さるように抱き締めて眠るのだ。彼女曰く、((
(あれはあれで、かわいかったけど)
そう回想しながらリアラは、でもやっぱり今の寝方がいいやと思った。滑らかな頬、繊細な睫、目を瞑ったルルヤの顔がすぐ近くにある。それをリアラは見つめた。
それを、純粋に愛おしく美しいと思えることが嬉しかった。男の身のままで転生していればやれ恋愛だ、やれ興奮だと、こんなにも穏やかに、純粋にこの人に接する事は出来なかっただろう……ちなみに、男のままだった場合でも竜術は行使可能で、その場合【
元々生前から同年代の男子と違い、がつがつ争うように女を惹き付けようと競いあう事が浅ましく思えて、男と女で性別が違うならそこにある関係は必ず恋愛だという風潮を強制的と感じて、容姿や人気や下半身や本能に基づく欲望が序列を作るのがどうにも疎ましかった。今の自分がかつて男性であった記憶を持つ純粋な女性で男性を好きになる事もあるのか、あるいは一種の性同一性障害や同性愛者のような状態でこのルルヤに対する感情は穏やかな恋慕なのか、恋愛をしたことはないリアラにはハッキリとは分からなかったが……自分の内心はそもそも彼女が期待する程美しくないのだから、せめて関係だけは美しく、純粋なままで居たいと祈った。
そんな風に心穏やかに、リアラがルルヤを見つめていた時。
「……気づいているか?」
不意に、ルルヤが目を見開き言った。二人で話す時、戦の時、活気在る踊り子ではなく、彼女は古風で戦士的な本来の口調に戻る。その言葉に、リアラは頷いた。
「はい。様子を伺ってる気配が一つ。鎧無し。手に短剣状武器。襲撃気配有り」
それは【
「うん、良くできた。踊ってる最中から此方の様子を伺っていたが、皆火を消し始めたから仕掛ける気になったか。逆に言えば、冒険者が商人の護衛をしている事を知っていても仕掛ける気になる程の腕前か。私達の歌を聞いてくれた者達に、怪我はさせられんな」
ルルヤの言葉にリアラは内心舌を巻いた。リアラがそれを察知したのは寝転がってからだ。ルルヤはそれよりはるか前から、徐々に接近してきたより遠くに居た相手を、激しく踊りながら感知し続けていたのか。
(まだまだ、全然追い付けないや)「行くぞ」「はいっ」
驚嘆しながら、静かに身を起こすルルヤにリアラは従って。
「はぁああああっ!」「ぐわあぁっ!?」
暫時後、ルルヤの鋭い気合と同時に、野太い男の苦悶が夜の原野に響いた。宿営を襲おうとして居たのは、腰布と革帯、僅かな獣の爪牙の飾りを帯びた、ルルヤに負けず劣らずの露出度をした筋骨隆々の大男であったが、その手の得物がリアラの探知通り片手に握った短い刃一つであると見て取るや、ルルヤは徒手で戦を挑んだ。自らの身体能力を【
「やあーっ!」
ルルヤがそのまま戦えば後一打で昏倒させただろうが、それは丁度母獣が子獣に狩りを教えるのと同じ稽古だった。ルルヤから教えられた【
よろめきながらも腕で防ごうとした男は支えきれず打たれ地面に倒れ、同時にリアラはこれ以上の抵抗は無駄だと知らせる為に、【竜の息吹】を放った。【息吹】は本来竜ならば文字通り口から吐くが、竜術使いは狙い易さから手で口を象り放つ。ルルヤが指を牙の如くして掌から放つのに対し、リアラは人差し指と中指で口吻を象りそこから放つ。それはリアラの【息吹】の属性がルルヤの【月】と並び希少な、光を司る【陽】の属性を持つ言わばレーザーブレスであるが故と、元地球人のリアラには感覚的に拳銃めいたこの手つきが狙いやすい事が理由であったが。
「っ!! ひいっ、ひいいいっ!?」「えっ!?」
閃光と、その構えが、思わぬ劇的な効果を齎した。倒れた身の回りに威嚇攻撃を受けた男は、豪胆そうな顔をくしゃくしゃに歪め、冒険者が護衛する宿営から略奪を行おうという無謀をルルヤなくば成せたやもしれぬ逞しい体を震わせて怯えたのだ。
「これ、は……」
驚くリアラ。同時にルルヤは見た。男が取り落とした武器は短剣では無く穂先の根本を魔法でも唯の武器でもない何かに穿たれ折れた槍の穂先。男の四肢にも幾つか穿たれた傷痕があった。それを成す悍ましい異界の武器をルルヤは知っていた。隠れ里故に戦闘用の竜術も会得せず平和に暮らしていた一族を、
「銃か!」「うぉっ!?」
男は驚愕した。己を迎え撃った踊子風の女が己を片手で引きずり起こしたからだけではない。
「狩闘の民、虎羆の一族が裔よ、汝が武勇の誇りを砕き、夜盗に貶めたは銃か!」
故郷の神官の如き古語による叱咤下問。その爛とした瞳。初めは踊子と見誤ったが、その額飾は逆立った角ではないか。その肩鎧は怒る翼ではないか。これは、伝承に語られたる……
「銃とは異界の卑劣なる武具。それにより
男は恐懼し、平伏した。再び
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