・第五話(誤字ではない)「僕、ビキニアーマーになりました(前編)」
・
先立つ不幸を致しました、虐めにあった僕を社会の中を生き抜く力のない出来損ないとしてお見捨てになられたお父様お母様。そしてそんな僕をそれでも敬愛してくれた、僕の転生を知らず死を悲しんでくれているだろう妹よ、ダメなお兄ちゃんでごめん。あれから、
「ひゅー! ひゅー!」「うおお、可愛いぞーっ!」「すげえ音楽だな!」
……ビキニアーマーを着て可愛くセクシーに歌い踊ってます。ルルヤさんのが金色で、僕のは黒鉄色。旅人、伝令、行商人、護衛、冒険者が皆揃って大盛況。神話時代に〈人類国家〉が築いた、街道に沿って掘り進められた地下水道の一定間隔毎にある小規模浄化結界で汚されないよう守られた井戸、旅程の標を兼ねた野宿の拠点として機能する場、〈旅の泉〉がお祭り騒ぎです。
うん、復讐の思いも怒りも悲しみも忘れて無いし、世を欺く仮の姿として旅芸人をするのはルルヤさんと相談して決めたことだけど。それでも一応ちょっと言わせて。
……男に生まれたのに女の子になってビキニアーマー姿で踊る事になるというのは、動物だの魔物だのに生まれ変わるのも勿論大変なんだろうけど、女の子になった時点で身綺麗にするのに一際気を遣わないとって思ったのに、ますます大変な……
そうルルヤが内心呟いたのと、同時刻。
(
同じ言葉を内心思う者がいた。ざわ……ざわ……と、不安げでいぶかしげな囁きと噂が満ちるその場所、
(まあそれも、詮無いこと)
元の自我と記憶を保ったまま転生するのはその魂の濃さ・極端さ故であり、その在り方が余りにも煮詰まって歪みの域に達している者は突然変異の如き魂故に世界を渡る時に周囲の世界法則をかき混ぜ、結果として周囲の世界法則を上書きする全く新たな己だけの世界法則『
何故ならば
彼等は玩ぶ者であり、一方的に貪り奪う者であり、無敵の狩猟者だったのだが。
古代信仰が残る結界に守られた地というウルカディク山を((ハイエルフとかいたら複製を作って高く売ってやるぜ))と言い自己の
「面白い事ですね。油断していたら原住民共の奇襲でも死にかねない他の連中はともかくとして、『
『
何となれば、この空間を作り出し
……その時の光景は実に素晴らしいものだったと『
((救いに来た世界の泥に額をつき土下座して命乞いする気分はいかが?))
泥の中に叩き落した己が迎撃した相手を玩んだ時の己の発言、嗜虐的記憶を心地よく思い返しながら、新しい余興を吟味する如く『
「『
答えたのは、鞣し革じみた分厚さを感じる濃褐色の肌に剣山じみて逆立った金髪、〈喰らう〉と例える闘争にだけ興味を持つ酷薄な碧眼、橙色の簡素な装束から誇張されたかのようなバキバキに割れた筋肉を押し付けがましく晒す、ただ現れるだけで、どん! とした威圧感を放つ傷顔の男。海を事実上支配する海上帝国じみた巨大海賊団の頭目という表の顔を持つ『
その位階は第四位、
「あの、負け犬たちに興味はないっつうか、そっちはいいから」
これといった特徴のない青年の姿の
「貴様のような屑に同意すること自体が穢らわしいが」
その『
「成しえぬ筈の事を為したのは何者だ? 未確認の
転生前の出自を考えれば酷く自嘲と皮肉の混じった『
「ああ。調査結果が一先ず纏まったんだったな? 『
それを受けて議事進行を纏める形で二人に問うは、第一・二位に代わり
「きひひひひ! いかにも! まだ不十分で不完全じゃが、ま、そのほうが面白い!」
「素直すぎますよ、ご老人」
瞳がグルグルと螺旋状に渦巻く異貌、爆裂した白髪白鬚に白衣の老人……正直ジャンルが違うだろうという程絵に描いたようなマッドサイエンティストじみた『
「〈ビキニアーマーの女戦士〉。そんな馬鹿らしくも面白おかしい存在ですよ。どの件においても、事の前後において〈ビキニアーマーの女戦士〉の情報が散見されています。そんな馬鹿なと思ったんですがね、死んだ連中の死に際のその周囲の履歴を見てみると、皆〈ビキニアーマーの女戦士〉を見て驚愕している。しかも『
『
(個々人の在り方がでるものね、こんなもの相手に)
「気に食いませんねえ。まるで、馬鹿な
『
ともあれ、『
「この世界の神話に、精霊を神へと変え神に殺された〈古代竜〉なる者がおってな。そやつは〈人から古代竜になった存在〉であり、まだ地上に生きて在った頃、竜になるまで、また竜になってからも人間の姿を取っていた時は、いわゆるビキニアーマー姿だったようじゃ。その信徒のうち戦闘の技を会得した女達もな。何でそんな姿なのか、何でこいつらが儂らと戦えるのか。その理由を、この天才マッドサイエンティストたる儂は見事に解き明かした。きひひ、解き明かしはしたが、それに対処できるかどうかはお主ら次第じゃがのう!」
マッドサイエンティストを演じる事を好む『
「古代竜とは古の世界法則じゃ。神を生み出し神に
『
「TRPGで例えれば、儂らは我侭放題の追加ハウスルールを基本ルールに勝手に繋げ公式NPCをファックする存在じゃが、奴らは基本ルール版上げ前の旧ルールを使っておって、古いルールじゃから色々粗があり尖った無茶なデータがある上に厄介な事に一部用語の定義づけ等も違うからこっちの追加ハウスルールが適用されんのじゃな。何? 今日日の若人はTRPGでの例えじゃ分からぬ? プレイ動画位見ておかんか! ええい、MMORPGやスマホゲーで例えるとじゃな、儂等はチートをしておるが奴らはパッチが当たる前の今じゃ仕様上使えないデータを使ってるんじゃ。そのせいでチートで何とかしようとしてもエラーが出るんじゃよ」
「言わば、私達がチートならばそれはバグというわけね。バグ。ふふ、古風な竜の呼び方で、大長虫という言葉がありましたね。正にそれは不愉快な虫。それの事は今後、〈
「バグ! デバッグしなければいけませんね! デバッグはいい、正に労働です!」
『
「きひ! ちなみに、彼奴らがビキニアーマーを纏うのは、要するに古代竜の力でその身を竜並に強化しているが故そもそも素肌が普通の鎧なんぞよりはるかに強靭な竜の鱗並の防御力を得るから普通の鎧はいらず、じゃが、ほれ、
「聊か格好の付かない説明ですけどね」
ビキニアーマーの理由について肩をすくめて苦笑する『
「直接必殺の『
「具体的に言や、竜の鱗でも斬れる竜殺の魔剣か何かで肌をぶった切るか、何とかビキニアーマーを剥がしてその下を貫くか、って訳だってばよ。面白えなあ、オラ、ワクワクしちまうぞ!」
『
(だけど大半の者にとっては、言うは易く行うは難しね、これは)
自分はその〈大半〉には含まれない。そう判断しながら、『
単に『
実際下位の転生者たちの中には絶望的に呻く者も何人かおり、自分より直接戦闘に対する適性の高い他の転生者に泣きつく者も散見され、既に数人の転生者で組んでいる者達も深刻な表情で作戦会議を内々に始めていた。一方
「遭遇したときの対処は分かった。問題は相手の位置だ。奴らは今どこにいる?」
「それが、さっぱりでして」
『
「知っての通り、私の
繰り返されたその説明を、(どうだかな)と、冷ややかに『
「はいはい分かりました。要は各自警戒すりゃいいんでしょ、ビキニアーマーを」
(だが、今はこれまでか)
『
(中々、やるじゃないか)
『
「……ぷっ」
ざわめきが続く中、不意に。それら全てを嘲笑し憫笑するような、挑発的な笑みが零れた。小さく意地悪な、しかし喧々諤々としていた全員に否応もなく聞こえた、矛盾した美声。
「……何、でしょうか? 『
それを発したのは、それまで上座にあって沈黙を保っていた者。『
((はいはい、一度転生した程度で調子にのってカワイイでちゅねー。私は数えきれない回数転生したけどね))
((ま、一回転生坊主にしちゃ頑張った背徳っぷりじゃねーの? このっくらいなら、転生繰り返す間に何度も見たけど。ベタだねえ))
((ま、お前らの転生の原理だと、所詮一回しか転生できないから? この世界で好き勝手するのが精一杯程度っていうか、ここで死んだらはい終わりだし? プロ転生者の私とはなんていうか、そもそもレベルが違うから))
過去、口を開くとこのようなクッソうっざい腐れ先輩風びゅーびゅーの言動しかしてこなかったので、その言が事実で転生に関しては大先輩であったとしても、正直関わり合いになりたくない存在でもあった。……ただ佇んでいるだけで底知れぬ実力を感じさせる気配をまとい、その腰に帯びる
(不死で魂が立ち腐れた存在の生ける見本め。だが、これは)
『
「あっはっは、ずいぶん珍しいじゃん。筋肉もりもり剣ぶんぶんで美女を抱くマッチョマンや私みたいな宿命を背負う私はなんて苦難の人生よよよっていうようなお耽美も銃弾と傲慢渦巻く現代じゃとっくの昔に陳腐もいいとこ、お人好しだけど悩みも苦しみもするから持てる普通の高校生もやっかみとあら探しで瀕死の有り様、そこから新機軸を模索したあげくが速攻腐って世界まるごとからちやほやマンセーされたがる屑共が大量生産される草生えるこの状況で、臆面もなく性懲りもなく新しく冒険をおっぱじめようっていうのが、だけどさ。 」
だがそんな『
「時代遅れの自立したオンナノコしてる武装戦闘美少女か? そんなでもお前ら程度なら幾らか
(『
転生者が互いの転生前の在り方を知るには本人が言わねば判らぬが故に、それを知るにはその者が生前の経歴を必要に迫られてか己誇りしてか自ら明かした場合に限られる。だがこの自分達とは経路の違う転生者であると主張する『
「まーこんな話お前らなんかじゃ理解できないだろうけどさー。はは、わかるような単純な業務連絡もしてやるから、ありがたがれよ。我が同盟者、第一位『
「ええ。此方でも承っております。我らが長、第一位『
だがそれはそれとして、話は進む。『
「「
ぴしゃりとした、鞭を一打ちくれるような、短く簡素な預言。だが、その短さが、場を静めた。不安を、欲望と野心と軽蔑が塗り潰す。
(まーまーな手を打ったつもりかねえ、
会議が終わり参加者が次々異空間から退出する中、『
(ま、期待させといて結局ぽしゃる話なんていくらでもあるけどねー、さあて、何話まで見れる出来かね。早く次の話が見たいトコだけど)
だが。そんな『
……
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