・第七話「乙女曰く。戦記モノなんてしてんじゃねえ!(前編)」
・第七話「乙女曰く。
緑色の野戦軍服に身を包み、手に手に突撃銃や分隊支援火器、手榴弾等を装備した兵隊。
ここまで村々を次々と制圧し略奪し、辺境を轢き潰し軍閥領を作らんとしてきたこの軍は、その侵略に追い立てられ難民と化した村人達を進軍途上偶然発見した。老人子供を見捨てずそれに合わせた鈍い速度で逃げていた村人達に追いつく事は車両を有する彼等にとっては至極容易い事で、そして農具や棒等の粗末な武器を震えながらも掲げそれでも尚死を賭けて隷属に抗う村民自警団を蹂躙し奴隷狩りするのは、更に欠伸が出るほど容易い。
新たな地への侵略前の雑務に戸惑いが生じたのは、兵達と村人達の間に飄然と飛来し割り込んだ半裸の女を見て、彼等の指揮官……彼らを地球から
「あれは! 間違いない、〈ビキニアーマーの女戦士〉! 〈
兵達の後方、配下の兵達の大半〔一部は別種の軍服と装備を有し、混成である事がある程度見て取れた〕と同じ軍服を纏い大佐の階級章をつけた『
「馬鹿らしい、が、しかし……」
しかし、の後に、二つの感情を『
〈異世界で覇を唱える為の侵略戦争をし、自国民を守るのではなく無関係の住民を蹂躙する〉という行為に同意する兵卒とそれらが扱える兵器を召喚しなければならないという統率上の制限や、現状召喚出来る規模と行使による消耗という限界があり、故に戦略爆撃機を格納した空港一ヶ所やICBM基地丸ごと一つを召喚する等という事は現状においては不可能だが、山賊や傭兵の類と思い討伐に来た騎士団を一方的に粉砕した時や、部隊ごと死んで転生しても手緩い善良さと尊法精神が抜けきらず地元民と共存し魔物退治に弾丸を消耗していた日本の防衛隊の連中を数の差で踏み潰した時も、撃った弾薬も後者で生じた僅かな兵の損耗もたちまち補いそれ以上に数を増してきた。
転生前国際社会の目の届かぬ奥地の分離独立運動を踏み潰したように、殺すも懐を肥やすも容赦なく。不馴れな海外の任地で事故のように死んだが、一度の事故等でこの悦楽を捨てられるものか。そして、
だが、新天地幻想郷の集会でその情報を聞いた噂の〈
(だが
しかし最終的に『
(これは現実だ。自分を英雄だと思い込んで自己陶酔して、その夢を覚まされて絶望しながら死ぬ馬鹿はいても英雄なんてものは存在し得ない現実だという事を教育してやる、と、言いたいところだが。油断は禁物。奴は、あの『
数多の女を捕らえていた『
(そのお綺麗な体で何処まで庇えるかな? 勿体無いぜ、痣と内出血のミンチになるにしても、大砲で粉々になるにしても。まるで宝石で作った様な女だってのに)
そして第一の感情を処理した『
「うっ!? (目が合った!? 偶然!? 違う! 俺を、見ている……のか!)」
直後、驚愕。未だ最前線に展開する部隊がそろそろ火器の射程に捉えるかという距離。『
(兵数約
然り。村民達と約
「あ、あんたさんは、一体……」
背後から声。逃避行に疲れて最早これまでの自分達を守るように間に割って入った美しいが奇妙な出で立ちをした女性に、戸惑うように村長らしき老人がおずおずと声をかけたのだ。
「アタシは
ルルヤはそう現代語で名乗り、共に戦う、と鼓舞した。勇者。勇敢なる者。勇気を以て行う事困難な強きを挫き弱きを助け悪を懲らしめ義を体現する事を為す、正しき者。かつて
「勇者!? ……
「な、何と……」
「本当に? いや、冗談でこんな事する筈……」
「
そして、硬質なもの同士が激突し片方が弾かれる甲高い音を二、三響かせながら、ルルヤは古語で己が目的を端的に叫び宣戦とした。硬質な音は、先走った敵兵数人が発砲した、突撃銃弾や狙撃銃弾を、ルルヤの【鱗棘】が弾いた結果だ。僅かに火花が散り宝玉めいた障壁が煌めくが、その白肌に一筋の傷も無い、地球人にとってみれば驚くべき
(リアラが言うには、あの……中華ソビエト社会主義共和国とかいう連中は、匪賊同然の輩とのことだったが。舐めてくれる。ならば、思い知らせてやろう。リアラの助けにもなる)
見える、聞こえる、悪しき賊軍の暴力と欲望と驕りに歪んだ表情と呟きが。一つ、深呼吸。眼前の敵軍の向こうに、
(否。それは復讐心だ。正義に近いが、別のものだ。乗りこなせ、この怒りと復讐心という奔馬を。誇りの轡と、美学の手綱と、信念の鞍と、信仰の鐙を置け、私よ。せめて正義を目指せ)
猛り狂う己の怒りをルルヤは制御する。本来
(嗚呼。父様、母様、皆。一緒に居た頃には、こんな事は思わなかったのに。優しさを忘れないと誓っていたのに。私の正義はもう、憎悪を隠す建前だ。己はこんなに醜くはなかった。それともただ自分で知らなかっただけで、昔から私は本当はこんなにも醜かったのだろうか?)
こんな様では、何時信心を失ったと
そのリアラが今、予定の配置につきつつあることが同時に感じられる。敵が自分達が有すると考える三つの優位、即ち銃弾を弾き続けてもいずれ弾薬量と物量差そして更なる大口径火器の力で殴り潰せるという自信、背後に庇う民を守り身動きしにくかろうという期待、そして。
(『
敵の自信の源の三つ目、何時でも人質に使えるよう連れ回していた占領地から拉致した住民達。竜術の【眼光】【角鬣】を白魔術の《
(最悪人質とそれに武器を突きつける者を纏めて広範囲の【
あの時は少数人数であったから使えた『
「行くぞ、舐めるな、畏れよ! 【
嵩にかかり先走って乱射しながら近寄ってきた先発隊の散発的射撃に、ルルヤは遂に開戦の刃を抜いた。【息吹】を宿した足で地を一蹴りするだけで一気に銃撃の間合いを白兵距離へと詰め、竜法竜武十六種が一種、巨大な竜の長大な尾の如き軍勢を一度に薙ぎ払う力を己が武器に齎す【
「ぎゃああああっ!?」「ぐわっ!」「……!!?」
地表に現れた黒い三日月のような横薙ぎは、過たず勇み足で撃ちかかっていた敵兵先頭集団を部隊ごと切り払った。木っ端屑のように砕けた自動小銃と叩き斬られた兵達が吹っ飛ぶ。瞬間、驚愕と恐怖を叩き付ける!
「うおっ!?」
「畜生、本当に化物か!
「撃て撃て、先走った
「突入だと、
先走った者達の末路と絶対優位を確信していた銃の間合いを平然と無視する力を見せつけられ、それでもなお獰猛に射撃を続けようとしながらも、一瞬敵兵の士気が怯んだのをルルヤは見逃さなかった。むしろ、それをこそ狙った一撃。
もとより【息吹】を直接発射すれば射撃戦も出来たのを態々切り込んだのも、数発の弾丸を跳ね返したこのタイミングで一撃を見舞ったのも、狙いがある。細い体では村人を守る遮蔽物としては不足。この状況で村人を守るための竜術を展開する為、その為にルルヤは次の一手を知覚能力を総動員してタイミングを見計らい放った。一撃を受けた敵軍がそれに脅威を覚え、驚きと恐怖を怒号で隠しながらこの段階で可能な限りの全力で射撃を行うタイミングを!
「【GEOAAAAAAAAAAFAAAAAAANNN!!!】」
「ひ!?」「アイ……!?」「あ、あ」「うわぁーっ!?」
ルルヤは、吼えた! 発狂した弦楽器が鉄板を削る様な音色で天地を震わす【
……鉛の死が迫らんとする中、威圧を叩き付けた直後、一転、一瞬ルルヤは心を鎮め回想した。過去の己の発言を。己自身の心を乗りこなし、怒りと憎悪と殺意に飲まれない為に。何故ならば
((正義とは〈何ではない〉か。多数決ではない、数の大小で事の善悪が決まってたまるか。五十人の元老院議員の内四十人が汚職者も、汚職は悪だ。利益ではない、万の金貨を持つ者が、もう千枚金貨を儲けるために金貨十枚しか持たぬ人を無一文にして飢え死にさせるのは差額九百九十の金貨を積んでも正義にはできない。世人は意外と言おうが命でもない、命と正義が等価か命が上なら、生かしておけば十人でも二十人でも人の精神を破壊し不幸を撒き散らす魔が居たとして、殺す以外に止まらず拘束しても脱出する能力がそいつにある時、命が正義なら止められない。自由でもない、何をしてもいいという事とやってはならぬ事があるという事はむしろ正反対。法律でもない、悪法は正されねばならない。秩序でもない、秩序を守るために弱者を切り捨て生贄を容認するのは正義ではない。理想でもない、誤った理想もあるし、正しい理想でもその為に犠牲を強いるのは正義とは言い難い。覚悟でもない、覚悟をすれば何をやってもいいという事はない。論理でもない、少なくともそれだけではない、情も配慮も無い論理だけで正義を構築すると色々と切り捨てて痛いものを切り捨てねばならなくなる。優しさもそれだけでは正義には手段が足りない、厳しさも必要だ。平等はやや正義に近いが、少数の不幸を多数の為を理由に圧殺する事は許されないが、皆が不幸な悪平等という言葉もある。幸せは正義か? そうである時もそうでない時もあるため、正義とは言い切れない、正しい事をするために幸せを我慢せねばならぬこともある。愛は正義か? 愛と正義が両立している時もあるだろうし論理で言ったように愛なき正義は凶悪だ、けど愛単体と正義とは別、愛の為に正義に逆らう者もいる。因果応報、復讐は、正義に近いが完全に一致はしない。
そう自分自身に戒められ放たれた怒りは、守護の為の力。その結果は、即ち……
暴発! 暴発! 暴発! 爆発! 爆発!
「っぎゃああああああ!?」「げばっ!?」「がああああっ、じゅ、銃がああ!?」
侵略者達は己が相手に押し付けるはずだった地獄に呑まれた。咆哮するルルヤに対し銃撃砲撃を行った刹那。逆に彼らの銃が暴発し、彼らの砲は爆発したのだ!
「教えてやろう、地球の賊共。これが竜術【
爆煙の向こう、堂々と立つルルヤは、猛々しい笑みで告げた。
「只の叫びではない、己が戦意を敵が攻撃に込める相手を害さんとする意志力にぶつける魔法だ。此方の怒りを恐れれば、我が戦意に怯めば、そんな心の弱さに不相応の武は剣槍の類であれば振り刺しの軌道が逸れ、弓矢投槍等の飛道具であればそれは撃ち手の元に返る。攻撃であれば例外はなく、銃とやらも射撃攻撃の一種に代わりはない。一人前の戦士には効果が鈍く雑兵の隊列を乱すのが主だが、咆哮に対抗する為の攻撃に籠る意は、一方的に攻撃しようと距離を置き、己の心技体以外の機構に頼る程その臆病さに薄められる。己の筋力で弦発条を撓め装填する弩でも複雑さ故一流射手でも相当の減衰影響を受ける程だ。機械に頼り、火薬とやらに頼り、遠くから撃ちかけては、傷一つ付けられぬと知るがいい! ……私にも、私が守る者達にもな。【咆哮】は、恐れた者を退散させる獣避けの効果もある。貴様等を逃がす心算は無いので加減したが、私より先に行く事も、私より先を狙う事も、私を倒さねば叶わんぞ」
つまり、放たれた銃砲弾は、弾道を遡って銃口砲門に返り、銃は暴発し、砲弾は砲を巻き込み炸裂した。その結果の地獄絵図。そして【長尾】で先制の一撃を見舞ったのは、敵の夜郎自大を砕き、より恐怖を抱き【咆哮】にかかりやすくする為の必然の一手。そして一度効果を発揮してしまえばルルヤを乗り越え背後の相手を襲おうという行為そのものを阻止する暗示の効果もある故庇った民の安全も万全、と。タイミングを完璧に読んだのは、幾度かの実戦で急激に戦士として完成しつつあるルルヤのセンスと、思考速度の加速・記憶の保存・指定した内容での自動反応等様々な効果を持つ財宝にも勝る
「理不尽、め! ふざけるな! なんだ、その、一方的な宣言は……大体、此方が銃に付与できる魔法がないのに魔法で跳ね返せる攻撃に銃弾が含まれるだと!?」
「理不尽に欲が侭蹂躙した者に言う資格のある言葉ではないな。お前が誇りある戦士や護民の騎士よりその銃とかいう穢らわしい
地球のそれとは、全く違う力による違う戦い方での勝利であった。成る程、武装に驕る一方的殺戮者と、自分の生存ではなく他者の救済を目指し戦う者、覚悟の度合いが違わぬ筈が無い!
((正義は……遠い。ただ悪を倒し、悪となるな、良くあれと人に示すだけの正義すら、あまりにも遠い。それでも忘れまいと私は思う。お前も忘れないでくれ。正義について考え続け、目指すことを。それでも目指し続ける事が、果ても無く遠い正義というものに、成れなくても幾らかは近づいていける道なのではなかろうかと、私は思うのだ。そして。平和や優しさはもっと遠いが……その先に辿り着く事を、私達が戦って平和を知る人を守れる事を、祈ってる))
その証拠に、ルルヤは圧倒しながらあくまで己を戒める。己は鍛錬の最中、リアラにそう語ったと。復讐の炎に心が焼かれる前、信じていた正義のあり方を、忘れかけた平和への祈りを。リアラはそれを是としてくれた。一人になってしまった私を、古い理想を、己自身体現しきれぬ
……その上で、曲射の迫撃砲ですら弾道を逆に辿って砲弾が返され、意志持たぬ軍用ドローン等は遠隔操作者の武器と見なされたか操縦者目掛け墜落の有様。耐弾性とかそんな段階ではない、事実上の銃砲と村人の人質利用の完全封印に言葉が
「さあどうした、絶望するにはまだ早いだろう! 私には竜術があるが、貴様等にも数の力がまだ残っている。白兵戦には【咆哮】の効果は薄い。突いて来い、斬って来い、殴って来い! この鎧を引き剥がし、切っ先を突き立てて見せろ! 或いは、我が【鱗棘】を破ってみせるか?
「っ、総員着剣! 総員着剣だ! 歩兵隊、銃剣突撃!
機関銃陣地や塹壕をしつらえた大規模な戦闘が減り不正規戦が増加した結果、時代遅れになった筈の銃剣突撃が遭遇戦で効果を発揮する事が皮肉にも21世紀になった地球で稀にだが観測されているという。少なくとも
「車両集まれ、工兵隊、爆薬準備! 奴隷共を乗せた車を回せ! それと……!」
指令を叫ぶ『
「いよいよとなれば、お前にも働いてもらうぞ!」
「委細承知だ、
『
「うおおおっ!!」
「きぃええっ!!」
「
「
口々に雄叫びを上げ突貫する兵士達。遠くから最新兵器で古代人を射殺するだけの楽な仕事と思っていた状況から一気に肌身に死が近づく状況に追いつめられ、皆必死の形相。とはいえ銃に頼る地球の人間で、真面目な訓練より違法行為に手慣れた
銃剣突撃全盛時代から比べれば著しく銃身が短いとはいえこれだけの数に任せて突っ込めば銃剣の穂先は十分に槍衾の有様を備え、マチェーテ、縁を研いだスコップ等、それ以外の凶器を持つ男共が、肉の津波の如く【咆哮】には劣るものの殺気の籠った凄まじい怒号と共に殺到する。ただ一人の剣士であればそれがいかに達人であろうとも、質量差に押し倒され、将棋倒しに圧し潰されてビキニアーマーを引き毟られ滅多刺しにされてしまうであろう。
神秘無き地球の剣士なら。ルルヤは違う。
「はぁああああああっ!! !」
質量差が、覆った! 叫びと共に、超人の踏み込みを旋回速度に乗せて舞うように回転しながら放った再びの黒三日月が、槍衾諸共敵兵群を吹き飛ばす、岩礁や舳先が波濤を砕くように、爆裂のように、木っ端めいて男共の体が吹き飛ぶ! 俗悪な手等、触れる事叶わず!
遥かに冶金技術が進んでいる筈の地球の金属で出来た銃身を無数に切り飛ばし、バラバラ舞い散るその残骸の中でルルヤは猛々しい表情と裏腹の優美さで身を翻していた。精錬に魔法が加わった高品位の
「「「「「ぎゃああああっ!」」」」」
存分に斬り込み、銃剣を砕き兵士達を薙ぎ払い吹き飛ばし、一群の最奥にいた一人の鳩尾を剣を振りぬいた反動を乗せ【吐息】を付与した爪先で突き刺し、腹を踏み潰すように崩れ落ちる相手を足場に跳躍。宙返りし後背を取ろうとしていた相手を空中から見下ろす。死角を狙うマチェーテやスコップが空を切り、兵士達は驚愕の表情で、宙を軽々と舞う少女の戦意と憤怒の奔馬を乗りこなす戦女神の如き
後は最早荒れ狂う嵐の如し。着地で屈めた足を爆発的に開放、駆け抜けながら切り捨て。切り上げながら身を翻し、四方八方から突き出される切っ先を全て見切り掻い潜り。蛇の様にしなやかに刃を翻し、大胆に踏み込んで剣に加え【息吹】を纏わせ手足に武器並の強度を与える【
……歴代の
「
「
「うおお、やっちまってくれぇっ!!」
散々蹴散らされた敵兵が、逃げ腰になりかけながらも歓呼の声を上げた。タイヤを唸らせ無限軌道を軋ませ、この世界に存在しなかった兵器が疾駆する。機関砲や機銃、ミサイルや滑腔砲の類は【咆哮】により使用不能だが、時速数十
「
突進する戦車に、対戦車火器を持たぬ人間に何ができるだろう。
GOUOAAAAAAA……!!
「ふんっ!! !」GWAANNNN!!!
次の瞬間、IFVは尖ったフロントを砕け散らせながら宙を舞った。車体がぐるりと裏返り、同じく突進していたもう一両のIFVに激突し、諸共に爆発。それを行ったのは、【月】の闇宿すルルヤのアッパーカット! 拳の一撃が、装甲車両を砕いて宙に舞わせたのだ!
……【月】の属性は重力を操る。その強弱も、その方向も。ルルヤの拳はそれを振る方向に瞬間的に通常のそれより爆発的に増大した重力加速度を得、即ち敵に目掛けて通常より極大化された重力に導かれて落ちるように加速し、激突時に拳はその重さを爆発的に増大。同時に拳を撃ち込んだ敵の重さを相手が不利を受ける魔法付与への抵抗に失敗した場合打撃の効果が最大化する程度に打撃の間だけ軽量化。それらが自らに齎す反動・反作用は、あくまで〈自分の体が極度に重くなったり極端な速度で振り回された事による物理的な結果〉なので、【鱗棘】で防げる。彼我の質量差や反動を無視し極大の破壊力を叩き込める、それが【月】の特性。
破砕音、轟音が響き渡る。宙を舞う間の攻撃を受けた車両とそれが落下する迄の巻き込まれた車両の操縦者、周囲の歩兵、他の操縦者の間に事実を認識できない一瞬、事実を認識しての恐怖と驚愕と混乱の感情が流れる瞬間。ルルヤは既に次の動きに入っており、そして車は急には止まれなかった。ましてや、装甲を纏った大質量だ。
「っはぁっ!! !」ZGAN!!
もう一両のIFVに対し、今度は身を捻り掬い上げる様な蹴り上げ。巨獣がもんどりうつように周囲を巻き込みながら派手に横転するそれを後目に、向き直る、既に間近の戦車!
「捕っ、まえたぁ!!」
そのフロントを鷲掴み、ルルヤは戦車を止めた! 【月】の打撃力増大は、逆に用いれば無論自分へのダメージへの低減にも使用可能なのだ。そして、IFVの時もそうだったが、雑兵を乗せた単なる物体である装甲車両には、軽量化の付与がほぼ確実に効く。故に。
「せええええええいっ!!」「アイヤアアア80~90年代OVA的怪力娘!!?」
戦車はルルヤの両腕で、頭の上まで持ち上げられる。何か隠れオタクだったらしい兵の一人が絶叫する。そんなズレた発言に周りの兵士は突っ込みを入れる暇も無い。ルルヤはぎろりと周囲を見回すと……敵兵群目掛けて、戦車を投げ飛ばした!!
ZDOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNN!!!!
宙を舞う間は軽々と高く飛び、着地の瞬間トン単位の重量を取り戻した戦車が轟音を立てて敵兵群諸共粉砕!
爆音の後、静寂が訪れた。ルルヤが戦場に君臨し、四方を睥睨し空間を支配する。
「FUNN-HAAA!!!!!!!!!」「!! 【息吹】よ!!」
空気が轟いた。緑の輝きを纏う疾風が渦を巻き、明らかな破壊的威力を示しルルヤへと飛んだ。だが、ルルヤは即座にそれに反応。否、何事かに期待するような敵兵の視線の動き、空気のざわめきから、一瞬前にその発動を既に呼んでいたか。即座に漆黒の【息吹】をぶつけ相殺!
「ATYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!」
しかし新たなる敵は己が放った霊的衝撃波を追いかけるよう次の一撃を放っていた。それを見て、ルルヤは紅の眼を細めた。それは跳び蹴りであったが、明らかに異常であった。
(驚いた、が、それだけだ!)
即座にルルヤは反応した。篭手に覆われた前腕で受け、受けると同時に肘から前腕を回転。脚と踵に絡め、梃子を効かせアキレス腱と足首を捻じ切りにいこうとした。だが。
「AAAATATATATATATATATATATA!!」「ちっ!」
相手の左足を圧し折る前に、相手の右足が動いていた。空中で片足を押さえられているというのにまるで地に脚をついたような安定感から放たれる、機関砲の如き
GAGAGAGAGAGA!
「KEI!!」「フン……!!」
機関砲の掃射に勝るとも劣らぬ敵の連撃を、ルルヤは左手で捌ききる。が、その隙をついて、相手はルルヤの右手にホールドされた左足を引き抜いていた。直後、ルルヤの腕に最後に打ち込んだ一際強い一発を足がかりに、敵は後方宙返り! まるで
「
「掌風遠当てと軽功をその程度の手傷で凌ぐとはやるな。やはり異世界は素晴らしい、闇試合や道場破りとは違う、地球と違い殺し甲斐のある奴で溢れている! 屠竜の偉業まで為せるとは!!」
「出来る心算か、舐めてくれる。だが少しは心得があるようだな。
貴様を俺が殺すと、牙を剥くような表情で呵々と笑い槍を地面から抜き構える『
(さて、『
その様子を観察しながら、『
「トラックを回せ。万一『
故に確実に巻き込む為の手段が第二の準備である村々から拉致した奴隷達の人質としての使用である。トラックのハンドルとアクセルを固定、人質と爆薬を載せて突っ込ませる、人質を助けるなら車を投げ飛ばすわけにも殴り飛ばす訳にも行くまい。受け止めて車輪を砕こうとでもした瞬間に遠隔起爆してやれば、確実に巻き込める。充分な量の爆薬なら、銃砲など通じぬと嘯くハッタリも気力の篭った攻撃なら貫ける等という戯言も無意味だろう。それでもダメな場合は部下には言えぬ第三の準備をしているが、ここまでやれば。そう、『
「大変だ! トラックが乗っ取られた、奴隷女共が!
「何だと!?」
しかし直後に飛び込んできたのが動転した兵からのこの報告。『
(奇襲を敵が仕掛けてきたのは問題ではない。何故奇襲が通った!?)
『
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