・第八話「乙女曰く。戦記モノなんてしてんじゃねえ!(後編)」
・第八話「乙女曰く。
その少し前。するすると、リアラは見咎められる事無く兵士達を掻い潜り敵陣深く潜入していた。『
((光は屈折以外では常に真っ直ぐ絶対的に速く進むという常識を捨てる事だ。そうすれば、この力をより自在に操れるようになる))
((それなら、大丈夫です。常識を捨てるのは得意ですから……ほら、出来ました! 【陽】の応用って、例えばこんな風ですよね!?))
((驚いた。予想外の使い方だ、見事。しかし常識を捨てるのが得意、とは?))
ルルヤは【息吹】の応用の仕方の基本を伝授され、そこからこの使い方を思いついてそして応用をやってのけた時のやりとりを思い出した。必要だったからだ。今、眼前にはいよいよ、助けるべき人々とそれを捕らえている敵達がいる。ルルヤの「常識を捨てる事が得意とは?」という問いへの答えは、小さな誇りであり、それをもって己を鼓舞する為に。
その誇りを以て、リアラはこの先を駆け抜けていく。その詳細は、また先の物語。ここより先において示される事になるだろう。
ともあれ今のリアラは歩哨を掻い潜り一気に間合いを詰める。戦闘が出来る程の力は無いが知識を共有し簡単な仕事をこなせる任意の姿の小さな遠隔操作魔法生物を作り出す《
「……落ち着いて、助けに来ました。この
行動、開始。リアラは姿を隠したまま静かに幌で覆われた軍用トラック荷台を覗き込み、一時的に消音を切って荷台内に繋がれ囚われていた人質に小声で囁いて。
「そのまま、荷台に伏せていて!」
《
「うおっ!? と、トラックが消えた!?」「
キイタ〔
ぶっ飛ぶ運転手、そして突然姿を現した、ルルヤの装備する故郷伝来の
「面白え。アタシの銃も通じないかどうか、やっと試せるってもんさ」
『
そしてこのリアラと『
「KEIIII!!!」
そして槍こそ百兵の秀、
だがルルヤは戦意の笑みを浮かべ、『
一転ルルヤが押し込んだ。竹に鉈を撃ち込む様に、槍を押さえ『
「HAII、がぁっ!? 、KI!!」
ルルヤの狙いが槍を掴む手指を削ぎ落とす事と察した『
(この餓鬼、何て技前だ。この歳で何年修行してんだ、生まれた時からか? !)
槍から剣に持ち替え、『
であるのに、ルルヤはそれに平然と対応している。幾らかの傷は刻んだが、こうして攻撃を止められた。主導権を奪い返される一瞬、『
「此迄の貴様の同類共は雑魚揃いとは言ったが、それとは別に強者と戦った経験が無いとは、言ったかな? 私は」
「~~~~~っ!!」
そして、囁くようにからかうようにルルヤは言った。使った技の数を偽るペテンをかけた『
「HAIYAAA!!!」
その怒りと共に『
ルルヤが半回転するように身を逸らした。直後『
「アイヤアアアアアッ!?」「KIEEEEEEEEE!! !」
人間の動体視力では蹴脚の影すら見る事の出来ぬ
「
回避の勢いで脚の間合から踏み込むルルヤに対し『
「らぁあああああああっ!!」
ルルヤの叫びがそれを吹き飛ばす。まるで螺子釘が木材を噛むように、踏み込みの威力を乗せた打撃と捻り込むような動きで、槍の間合と同じく
「ぐあっ!? っ、おおぁっ! FUNN-HAA!」
至近距離。両腕の構えを弾き飛ばされた『
「お前の武は、
その指突をルルヤは己が放つトドメの連撃の予備動作に絡め弾き飛ばした。
「っ……げぼおっ!? がぎっ! が、あ、ひっ」
武技を潰し尽くされ遂に闘志砕ける『
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああぁっ!!」
【
「PKSYLLLLLLLLLL!!」
それは電子音と無理に甲高くした管楽器を織り混ぜたような心持ち人の叫びの色を残す甲高く軋る音色。会得時ルルヤは〈若い猛禽の様な〉と例えたが、リアラとしては獰猛を超え荘厳、過去に
BLATATATATATATA!!
リアラが【咆哮】を放つと同時に敵兵数人が発砲。こいつはまだ【咆哮】を発していないのだから射撃が通るのではという欲に逸っての行為であるが、間一髪遅かった。しかし。
「ぐっ!」「うわっ!」
「くそ、やっぱり通じねえ!」
「けど……!!」
リアラの【咆哮】はルルヤの【咆哮】程の効果を発揮しなかった。弾丸は逸れ、跳弾化し他の兵に命中する弾もあったが、発砲者全員が暴発死する様な事は無かった。
「あいつよりは弱いぞ!」
「やっちまえっ!」
ルルヤより弱敵、と見てとって攻めかかる敵兵を、自分がルルヤより弱いと知るからこそ人質を守る為に手の込んだ行動をした様にリアラは覚悟の上だと迎え撃った。
「やらせ、ない! やぁああっ!」
リアラは戦闘術の地力に劣る部分を、【
(血を流す事が怖い訳じゃなかった。けど、改めてそう認めるのも、少し辛いな)
それはルルヤの戦いに感じたのと同じ高揚と悲嘆。舐めるな、これ以上やらせるかという高揚と、そして……そこより先を噛み締める間も無く、立ち上がった二人目と五人目が迫り来る。踏み込まれた。両手鉞を片手剣と盾に分割変形させ迎撃しようとする刹那。
「ヒャッハァ! タルいんだよ退いてろ雑魚共! Let‘sDanceだぜっ!!」
BLAMBLAMBLAMBLAM!!
「うあっ!?」「うっ!!」「っ!!?」
容赦ない味方ごと巻き添えの射撃で『
「Jack Pot!! Bull‘s Eye!! 見たか『
「痛ぅっ、(当てて、来たっ! やっぱり、僕の【咆哮】じゃ……)だけどっ!!」
手の甲を弾丸が叩く。腕鎧と【鱗棘】が受け止め貫通を防ぐが、鎧が砕け皮膚が破れ、血が散って剣を取り落とした。盾を構え回避機動に走り、再び分銅鎖を形成して片手で打ち振る。事前の調べで、大軍を動かすに面倒な森の民達の弓矢を悉く潜り抜け殺し尽くしたという話を聞いたが故に【息吹】での攻撃は避けたが、それでも尚己を後方に配した『
「(あれが、理由!)くううっ! あぐっ、くっうっ……!」
その理由をリアラは見破った。
「楽しいねえ、楽しいねえ! 映画みたいだ! 同じように銃を撃って、同じように殺してるのに、何であんなに痛快じゃないんだろうって、路地裏からいっつも見上げてた表通りの映画館みたいだよ! あは、やっぱりそうだ、唯の人間を撃ってるだけじゃダメだったんだな、いい敵を殺さないと、絵にならない、映画にならない、楽しくはならないってことか!」
BLAMBLAMBLAM!! 「あぐっ……んあああっ!! !」
乱射乱射乱射。更に二発、リアラの肌を抉り、骨身に響く苦痛が突き刺さる。反撃に振るう分銅鎖は、飛び退き横飛ぶ『
「くっ……貴方も、あっちで戦ってる『
「……何?」
だが血に酔い歌うように叫ぶ『
「そんな力が欲しいって思うほどに、その力のもとになった物語が好きなのに」
それは主人公の意義を履き違えた『
「どうして物語のように、
「何、を。言ってやがる。……ふざけるなよ
そして、その言葉は『
「弾に当たりゃ死ぬんだ! 百発百中に腕前を鍛えてもな!
BLAMBLAMBLAMBLAM!
「ッ……!!!」
『銃撃』は絶叫し、再びの銃火を放った。
「死にませんし、
回避より優先し、敵の心を穿ち隙を作る可能性に言葉と言う名の牙で食らいつく。
(何だ……何だコイツは!? 痛いだろうがよ、食らって
『
「僕は。
想定通りの否定に、リアラは狙いすまし言葉を突き刺した。物語への憧れで非暴力不服従を貫いた結果殉教の様に死んで見せたぞと。他の誰かへの苛めに加われば逃れられた結末を回想しながら、でも最後に助けようとした人を巻き込んだのだから聊か誇張が過ぎると自嘲しながら、『
その瞳を『
「!? て、めえ、転生者!?
「ごめんなさい。せめて、悩みながら死んでもらいます。貴方の罪と、僕の至らなさのせいで」
驚きと劣等感と恐れと認めたくない動揺。怒り以外の心で『
((弱そう? 私の様に逞しく立派な翼の方が良かった? 私は可愛いし綺麗で良いと思うが……【息吹】の属性と同じ様に、基本的な翼の形は変わらないからな。長さや角度、厚さや薄さといった要素は調整できるが、翼の印象までは変わらないぞ))
初めて翼を開いた時にあまりの少女的な
(こいつは本気で馬鹿みたいに物語を真に受けて生きてるのか? 馬鹿な、そんな奴現実に居て溜まるか。でもここは
『
「PKSYLLLLLLLLLL!!」
そして巻き添えを恐れて遠巻きにしていた敵兵数人が慌てて武器を振りかざそうとするのを、更に数人翼で胴切りにして。斬った敵の血と、『
……いずれ、
「こうなりたいか、貴様らっ! こう、なりたいかあっ!!」
そして戦場のド真ん中、爆炎を振り払ってルルヤは叫んだ。『
そこに食らいついてきた『
……爆発に飲み込まれたルルヤだったが、もし効かなかったら即座に離陸し逃げるべく回していたヘリのローターが吹き散らした煙の中から、彼女は姿を現した。同程度の爆発を巻き起こす呪文なら兎も角、やはり魔法を伴わぬ攻撃では、このくらいの爆発ならば耐え抜けたのだ。
それを見て驚愕と恐怖で喚きながら逃れようとヘリを発進させた『
「逃がしはしない! 貴様等の内誰一人として、この場を逃れ悪行を重ねられると思うな!」
天を光の翼が舞い、
「だから問う!
惨たらしい殺され方をした上に爆薬でウェルダンに焼かれた『
「「「「アイヤアアアアアアアアアア!? 降る、降伏するうううう!!!」」」」
……声にならない歓声を村人が上げるのを聞きながら、ルルヤは少し不安げに、空を見上げた。この山ほどの捕虜を、本当に扱いきれるのかと。
空にはリアラが居て、そのルルヤの不安を励ますように笑い手を振り、地平線を指差した。そこにいたのは……騎乗した者達と徒歩の者達に分かれるが、何れも武装した集団。何者で、これが如何なる事かは……それはまた別の物語。この話が
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