・第八十八話「復古物語ラスト・マーセナリー 傭兵猟兵と青春の騎士物語(前編)」
・第八十八話「復古物語ラスト・マーセナリー 傭兵猟兵と青春の騎士物語(前編)」
ほんの少し前後し平行する同時間軸上、
決戦の舞台は北限の地〈絶え果て島〉。『
民を見捨てては
即ち現在リアラの護符による竜術付与、言わば【
つまり、これは全て取りこぼせぬ一つの戦いの一局面の開幕。
そしてここは観測結果を伺いつつ《大転移》で〈絶え果て島〉へ飛び込む為の拠点の一つ。前日までは人里の防戦に参加でき、かつ条件の厳しい《大転移》の設営を満たせる場所の一ヶ所たる結界をしつらえたとある山小屋、なのだが。
「やっちまったな……色んな意味で」
戦災孤児傭兵団〈無謀なる逸れ者団〉団長、
「……やっちまった、って言うような、嫌な事じゃないのがまた悩ましいンだが」
リアラが聞いたら驚くだろう、いつも堂々とした
「ったく……こちとらは、寧ろ気遣ってたってのに……気遣われても、いたか」
自分は初心ではないと認識していた。ややこしい人生経験は豊富だ。望まない事が沢山、望んだ事も結構な数。なのに、顔を覆っても少しだけ尖った耳が赤い。それは要するに、単純な関係や敵対的な関係、落ち着いた好意による関係の経験は山程あっても、これ程深く強く切実な事態は流石に初めてだからだ。己もまだまだ子供だったかと
「まさか全員纏めて一緒でいい、なんざ……受ける方も言う方も対外で、それを是とするなんて、我ながらこんなに節操無かったか、俺……いやまあ、世界を変えようとしてたな、俺。ある意味素で貪欲か……」
一人早起きした
要するに昨晩、三人全員に愛していると告白された。どれか一人を選ばなくてもいいと言われて、それにはいと答えて、三人全員の告白を受け入れた。つまりそういう事だったが、どういう感じだったかは省略せねばならぬとはいえ、どういう事だったかは語らぬ訳にはいかぬ。ここはあくまで地球ではなく
ともあれ。事の引き金になったのは、
その専誓唱吟は特定の魔法をアレンジするというものではなく、魔法の使い方のアレンジで、勇者がその勇気による莫大な魔法力で魔法の威力を爆発的に増大させる行為のアレンジと言うべきものだった。
魔法力とは気力と体力の総合であり、限界を越えて魔法を使えば意識を失うか肉体を内から損傷し血反吐を吐いたり血涙を流して死に至る事もある。普通は意識を失う方が先で後者となるのは稀だが、ぎりぎりに競り合っている状況で魔法力が尽きたら意識を失えば確実に死ぬ戦況は普通にあるし、魔法力が尽きてから意識を失うまでの一瞬でしに至る傷を追う事になる場合もあるだろう。
これは煎じ詰めれば自分の命をリソースにするという発想であり、知恵を働かせれ他人の命を使う等というのは言語道断の邪知とされ歴史上悪しき
他人を犠牲にしない自己犠牲の範疇の中でも、リソースとして使えるのは今この場の命だけなのか? という方向性の知恵も出てきて。
その結果がこの専誓詠吟、名を《
使えば全力のルルヤにも引けを取らぬ力を得られる。だが仮に生き延びたとしても戦後何年何ヵ月生きられるか翌日死ぬか、それは使用魔法力量次第。
「これで最後だ」
と
「そ、そんなのダメ!」
「
「命を張るのは大人の騎士が先だ、その専誓詠吟は私に預けろ、子供は使うな!」
ユカハ・ミレミ・フェリアーラに、バレて総スカンを食らったのだ。
「駄目じゃねえだろ!? 世界の命運掛かってんだぞ!? どっちにしろ死ぬ可能性すごく高いんだぞ!? これ使えなくて死んだら元も子も無いじゃん!」
三対一の猛抗議に、
「理屈じゃないのよ馬鹿ぁっ!」「ぶげらっ!?」
常ならば、何でもありの傭兵の〈戦争〉を騎士の〈合戦〉で制する学びの弟子でもあり、騎士としての民の為に命を投げ出さんとした事もあるユカハなら折れる余地もあるかもしれぬ言葉だったが、ユカハはこの日感情を爆発させそれを拒んだ。
……その結果が鉄拳制裁だった訳だが。
「籠手つけた状態でグーは止めろ姫さん!? 決戦前だぞ!?
「……む、確かに」
「拳振りかぶった状態でそういえばって顔すんのやめてくんねーかな!? 騎士さんの場合魔竜と真竜の【膂力】の能力強化が両方掛かってんじゃん!?」
ユカハが殴った後次に自分も殴る心算で構えていたフェリアーラ相手に戦支度してない時にモロに食らったら首がもげるわ!? と猛抗議する
だがそれでも
「いいか落ち着いて考えろ。まず前提条件からだ。俺の目的は傭兵制度を無くす事で、姫さんの目撃は騎士道が貫かれる世界を守り自由守護騎士団を残す事で、騎士さんはその姫さんに仕えてんだろ。二人は戦後まで生き残る必要はあるけど俺の目的は達成する為に必要な敵を倒し尽くしゃその後は姫さん達に維持されるだろうから戦後生き残る必要は必ずしも無いっていうか、ここで命張るんなら俺だろ!?」
「僕は!? 僕達はってのも背負った上で言うけど僕は!?
まずは落ち着かせんと論理でそもそも戦う理由について話す
「俺の目的は傭兵と〈戦争〉の根絶だ、っつったろ……お前ら、それにちゃんと付いてきてくれたじゃねえか。だから、報われてほしいんだよ……ちゃんと傭兵辞めて、それで、傭兵ってもんがこの世の中から無くなる、そうなって欲しいのさ」
「……僕達は、僕達の後に戦乱に追い立てられ食い詰め奴隷や傭兵になる子が出ないなら。傭兵の辞め方は生きて辞めても死んで辞めてもいいよ?
詰め寄るユカハに微笑む
「そいつぁ……お前と一緒が嫌って訳じゃない、お前らに死んで欲しくないのさ」
「死んで欲しくないんだよ。死んで欲しくないんだ、こんなもん使ってもいいってくらいにさ。死なないで済みゃ、それだけで御の字だ、この戦況はな。腕一本足一本で済んでもまだ儲けものってレベルだろ……」
それを考えれば寿命が縮むくらい何だ、と言う。それは確かに間違ってはいない、間違ってはいないが、と、続けて言い募ったのはユカハだ。
「それは私達も同じだよ。ルルヤさんたちと
一緒に戦うという事は一緒に死ぬ覚悟をする事だ、
「今更俺がいないとなんて言うなよ。姫さん達ぁ立派だ。俺の人生の大事な成果の一つだ。折角助けた大事なその命、俺が生きて成し遂げた事の証、散らして貰っちゃ困る……やるからには勝つ。勝った後の世界にゃ、戦争屋より姫さんが要るだろ」
そう言うユカハに対して、
「それは……でも、そんな無機質で〈不在の月〉的な言い方……」
そう言われると責任感の強いユカハは怯まざるを得ぬ。だがそういう冷たく非常に割り切り過ぎた考え方は暗黒社畜都市カイシャリアに代表される〈不在の月〉の文化だ、守るべき
「大体
そこに大声で割って入り、これまた前提条件からどんでん返ししてきたのはミレミ。確かに
「
種族間寿命格差というややこやしいところでアドバンテージを取ろうとしてくるミレミに焦る
「私の自由守護騎士団長としての時間が長くなくても、貴方と私が結婚して家が継がれてれば、その後をフェリアーラやミレミが補佐してくれれば絶対大丈夫よ!」
ぎゅっと名無の手を取って、どころか掴んだ手を自分の胸元に抱き締めて。内容こそ悲壮な覚悟ではあるが、要するにそれはこれまで
「ちょ、ちょっと待てユカハ!?」
「待てないわよ!? もう言っちゃったわよ!?」
「そ、それは……(
それも、物凄く直球な形で。あまりにもストレートな告白で。自分で火をつけた問題であるが、年齢の割に人生経験豊富な
「落ち着け……はしたないというには余りに切実だ。もう少し考えが必要だろう」
「……」
そこにフェリアーラが割り込み、いっぺんミレミとユカハから
酸いも甘いも人一倍噛み締めた大人の女の視線に、言われずともそういう意図を悟って、流石に一旦落ち着いてしゅんとするユカハ。
「そういう理由ならそもそも戦う事だけが得手の私が先陣を切るべきじゃないのか? 話がずれ始めているのは承知の上だが……私なら死んでも構わないだろう。無論ミレミの言も確かにその通りだ。何にせよ
それを見て頷くと、フェリアーラは覚悟を決めたように静かな口調で語った。
「騎士さん……」「フェリアーラ……」「フェリアーラさん……」
だが。
「「「落ち着かせ方と話の結びが微妙に結び付いて
BOOBS♪
「いや、戦後にユカハ様が
「ちょ、フェリアーラ!?」
「やべえ、一番落ち着いてると思った相手が一番欲望に正直になってきた!?」
一番控えめに落ち着いていると思われていたフェリアーラのまさかの暴走に別々の方向性ながら二人揃って泡を食うユカハと
「っていうか
「アホっ!? いくら何でもそんな事の為に死ねるか!?」
それを認識し批判的に割り込む、フラグ踏み倒す為に死ぬ気じゃないだろうねと心配して釘を刺すミレミの言葉に、んな訳あるかそんなギャグみてえな死に方してたまるかと叫ぶ
そしてミレミのその言葉と
「だったら」「私達」「どうすればいいの……?」「ううっ」
ずい、ずい、ずい、と、ユカハ、フェリアーラ、ミレミ、三人が纏めて詰め寄った。この人間関係をどうするの、と。……縋らざるを得なかった。この、世界が、自分の命が終わるかもしれない一瞬に。散々な過去を生きてきた三人は、欲さざるを得なかった。それは弱さであるが、人としての必然で。
戦場では恐れ知らずの
「……子供の頃からこの方、傭兵が憎い、〈戦争〉が憎いで走ってきて。幸せはそれを根絶する事、くらいに思ってたし。助けた奴を沢山巻き込んだ。誰かに求められる幸せなんて、最初は考えた事無かった」
戦にも色にも慣れた筈の少年に年頃の繊細と過去の心の傷が滲む。そうだ、傷だらけなのだ、少年も少女達も。だから強く迫り、寄り添いたいと思い、だから悩み、それでも離れられない。
「……俺は、俺を求めてくれる奴がいたら、皆、大好きだ。全員幸せになって欲しい。それが俺も幸せだ……リアラは俺と友達でいる事が幸せだからそうしたし、俺も、それで幸せだ。俺は、どうしたらいい……」
その答えの声色は、寧ろ切ない吐息めいていた。愛されることを不馴れながら愛する、何時も必死に恰好をつけて皆を励ます事で愛を表してきた、切実で繊細で戸惑った心。限界ぎりぎりで露わになった、剥き出しで裸の少年の心で。
それは喜劇めいて姦しくがっついていた三人を真面目にさせるものだったが……落ち着かせるというよりは、真面目にさせるものだった。彼女達の心も裸にならざるを得なかった。
「「「……」」」
三人は顔を見合わせ、
柄にも無くどきどきする
ともあれ、そんな事があった翌朝だ。
「……責任重大になっちまったなあ、おい。俺みたいな根無し草にゃあ、随分な重さだが……」
翌朝。諸島海のハリハルラから貰った火香枝を銜香炉に詰めてくゆらせ、一人早起きした
《
「……俺みたいな瘋癲にゃ、有り難い限りの重石だ。死ねねぇなあ、こりゃあ」
銜香炉を噛み締めて、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます