・第六十五話「竜の帰還(中編)」
・第六十五話「竜の帰還(中編)」
そして、決闘裁判ならぬ包囲私刑となった場で、リアラは。
「《破砕》! 魔法力収束・追加充填! 収束収束収束収束!」「えぇいっ!」
『
『
SWASH! GRINN!
「通じるかよぉっ! そんな誤魔化しがぁっ!!」
だがその幻惑の強烈なフェイントを『旗操』は完全に無視し実際の攻撃を防御!
「今の俺には誤魔化しは通じねえ緩さねえ! 例え百万に一つの本物だろうが一発で『偶然』当てて見せるぜっ! 発動っ! 『
運命操作の欲能の面目躍如、どれが本物の一撃か見切りもせぬまま偶然
「くっ!」「最大出力っ! 『
極太黒蛇めいた破壊の波動が、電流爆破有刺鉄線ケージデスマッチのリングめいた雷の檻で飛行ままならぬリアラに直撃! 『
「【光よ】っ!」
しかしこれはリアラが防御。光を操る陽の【息吹】の追うようで、防ぐのみならずねじ曲げて逆に『
ZDOMZDOMZDOM!
「ッ!?」「残念だったなぁっ! これが絆の力って奴だぁっ!」
跳ね返し『
しかしそれはあまりにも粗雑な皮肉! 攻撃魔法を先程のリングの例えで言えばその外から放った『
「~~~~っ……!!」
ZZZZZZ! DOMDOMDOMDOM!
更にそこに意思無き雷の檻と化した『
意思無き傀儡達の連続攻撃。それを絆の力だと『
「数の多い方が勝つ、『常識的に』。包囲してる側が勝つ、『常識的に』。今迄私の前でゼレイルは負けた事無い、だから勝つ、『常識的に』!」
それは『
本来彼女の
自我に衝撃を受け魂の形が転生前より更に変貌し、それにより
「っ……っ……!!」「へっ、そいつが手前の運命だ、おい」
爆煙が晴れる。何とか雷の触手から身をもぎ離したリアラだったが、あっという間にまたボロボロになっていた。煤で汚れ、鎧に罅が入り肌を傷と血と火傷が覆い、さながら先の戦いの続きの如く。爆風に吹っ飛ばされ。雷の檻から身をもぎ離す際に地面を転がり、ぼろぼろのリアラは地面に片膝をついて俯く状態。
だがリアラは己が身を襲う苦痛を受け続け、耐え続ける。苦しみながらも退かぬ。
「地獄に堕ちなぁ!」
哄笑と共に、『
(最早、勝ったも同然)
何か策があるのかという事も無しかと、一方的優勢に『
そう思い、改めて勝利を確かめようと、『
「何?……何故です?」
眉をしかめた。定刻の正式命令・公的情報・報道という権威。誹謗中傷と戦況という世間の雰囲気。握った醜聞による恐怖という圧力。欲能を完全に行使する準備等不要と思える程の、それは『
だが、周囲の動きはそれとは別な向きに流れていた。
帝国各地方軍の動きが鈍い。宮廷騎士団等以前から掌握していた戦力を代表として即座に従った者も勿論多いが、情報の確認要求や質問、問い合わせ等を行うという形で即応しなかった地方軍が幾つか存在していた。
アヴェンタバーナの大神官と太子が出した布告とで情報が錯綜した為だ。それは分かる。だが、情勢を読んで此方側に就くものが大半だろうという予想を、即応した部隊の数は下回った。
帝国軍ですらそうだったのだ。魂消て震え上がった狩闘の民達を見せつけられた筈の各国代表達は、本国にナアロ・連合帝国同盟に逆らえないと伝えず、その国々もまた擬義を持って返答した。使節団をテロリストと指名され帝都破壊の冤罪を着せられた国々すら、帝国との国力差を知りながらもあくまで状況に対抗調査を行うと宣言し事件の報道に従う事をしなかった。
どころか、公式報道による表からの手回しと平行して醜聞を使って裏から操りにかかった者達までも、大半が大人しく自首する事を選んだ程だった。
かつて
「
……人間は情報に従い打算で判断するという『
「……〈王国派〉の手抜かりのせいですか? 何を引っ掻き回されているのやら」
理由を探し求め別の場所の戦況を分析する。
「?」
目を滑らせ、一度見過ごして、その後違和感をも地、改めて確認して妙な情報に気づき、『
(
この情報は何だ。一匹はこの場にいる。もう一匹があまりに速い速度で動いた為の誤認か? いや違う、アヴェンタバーナから始まるルルヤの移動記録もナアロ王国領に食い込んでいたが、この情報の発せられた地点はあまりに遠く離れている。
「どういう事ですか、これは……!?」
『
その情報の真偽とそれが誰の如何なる意図かを語る為にはまずルルヤの戦いを語らねばならず、その為には時間を少し巻き戻さなければならない。時間軸はルルヤがラトゥルハを挑発しその脇を潜って飛翔した少し後にまで遡る……
「待て、こら! くそ、このっ!」
飛ぶルルヤを追いながら、ラトゥルハは準備や使用タイミングの判断が面倒な核の【息吹】を除く、全身に仕込まれた魔法兵器で猛烈な攻撃を行った。ラトゥルハ本体だけではない。前回撃墜されたものを補充した《水銀瞳》も展開し、更に随伴する〈光芒〉〈碧血〉も、艦船を人型ロボット化したような姿の全身に搭載された魚雷発射管や旋回砲塔を象った様な魔法兵器を乱射した。
しかし、それらの魔法攻撃が眼下の都市を庇う必要も無くまたあえて逃げに徹するルルヤを捉える事は無かった。大半は【
加えて何より機動性差が大きい。そもそも突破を許した様に、重力を自在に操るルルヤの機動性はベクターノズルを用いるラトゥルハのそれを上回る。ある程度自由に三次元機動が可能な《水銀瞳》は速度で遥か劣り、撃墜されずとも置いていかれる物すら多数。〈光芒〉〈碧血〉は速度こそラトゥルハに追随できるものの機動性で劣る為ルルヤの機動性とは比べ物にならぬ。多数の武器を備えて弾幕を張れるが故に辛うじてルルヤを射界に捉えるチャンスこそあるがルルヤにはそれを十分に凌ぎ、自身の目的を達する事が出来た。第一の戦略目標への接敵に成功したのだ。
「居た……!」
紅の瞳が見据える音速を越えた勢いで距離が縮まるそれは、鳥も通らぬ程の
即ちナアロ王国空軍核爆弾搭載戦略爆撃飛行
(核攻撃阻止が最初の目的です。ブラフが含まれている可能性もありますが、ブラフを有効にする為には誇示が必要です。少なくとも一発二発は確実に実際に使用する心算の筈……それを阻止しないと。虚空の黒い宇宙に浮かぶ地球と違い青い水の宇宙に浮かぶ泡の中の世界である
戦いの前、リアラはそう告げた。決闘裁判の話だけではない。リアラは気力を取り戻し、色々な事を話していた。
「【GEOAAAAFAAAAAANN】!!」
ルルヤが【息吹】を両手で連写! 機銃を廃した地球の爆撃機とは戦場の状況が異なる為防御火器を有し応戦する《
「迎撃に来おったか、じゃが……」
己が『
《
「何じゃとーっ!?」
という『
「このこのこのこのこのこのぉおっ!!」
ZDDDDDDDDDDDDDDDDDD!!
編隊を突っ切るルルヤを追うラトゥルハと〈光芒〉〈碧血〉……ルルヤを狙い猛烈な弾幕を放ちながら。その弾幕が《
さながらこれはMMORPGの外道技、
「馬鹿者、やめんか!? お前が《
「
エクタシフォンの戦いで巻き込みによる犠牲者が【
「この親不孝者が! 少しは作ってやった恩を有り難がって言う事をきかんか!」
「ハ、
「その欲望による命が無ければそんな口も叩けぬ癖に何たる生意気じゃ!」
「楽しい事もあるが辛い事もある!
通信口論中に《
即ち自我の目覚めであった。彼女の胸の中で、欲望の炎に狂奔し戦いの炎に突入し焼かれ消えていく
(エノニールは豊かだったのにいつも劣等感で苦しんでいた。追い詰められても戦う
ラトゥルハの両親と違って平坦な胸の内を、生まれたばかりの自我の中を、感情の嵐が掻き乱す。出会った人々の命が、ラトゥルハに影響を与える。
「(俺の何が劣っている? 何が足りない!)【KISYAAGOWAANN】!」
【咆哮】をあげながら、ラトゥルハは無茶苦茶にルルヤを追った。そしてルルヤはそのラトゥルハを連れて超音速で空を駆け回り……狙い済ましたタイミングで急行下した。となれば、それを撃とうとするラトゥルハの射角も下がる、外れた攻撃が地上を掃射する……超音速飛行によって早くも進入していたナアロ王国領内を移動するナアロ王国領内を移動するナアロ王国陸戦強化
(だがそろそろ、凌ぎ切れなくなってきたか……急がねば!)
視界の片隅に戦の光を捉えながら、ルルヤは急旋回しつつそう答えた。実際戦闘開始時から片手と脇腹の古傷を抱えていたが、ここまでの戦闘の結果も完全に無傷と言う訳ではない。それに、そろそろラトゥルハが焦れてきているのを感じる。攻撃を核の【息吹】に切り替えようとする気配も。
だが戦の光は、『
リアラの考えた作戦通りに。
(リアラは生きる為の戦いをしている、だから私はそれを信じて戦うだけだ!)
そう考える事で最愛の人の苦闘を感じながらも苦渋をのりこなし、ルルヤは飛翔する。ラトゥルハと戦うに良しと作戦が想定した場所へ。
この時、時間軸はリアラと『
故にここからは、再びリアラの戦いの物語だ。
片膝をついて斬首刑執行対象者めいてうなだれた傷だらけのリアラに、報復の歓喜にぎらぎらと笑んだ『
「!」「!?」ZBAN!
バッとリアラは顔を上げた。それは処刑を待つ罪人の目でも、生命の危機に猛り狂う獣の目でも、悪足掻きをする者の目でもなかった。凛として、寧ろ『
そして直後。振り下ろされる曲刀二振りに、リアラは光剣を振り上げぶつけていた。力負けしそうな体勢を補うのは剣の形に圧縮されていたエネルギーの自爆。それはリアラ自身の手をも傷だらけにしながらもゼレイルの処刑刀を弾き飛ばした!
「がぼっ!?」
直後、リアラの反撃! 膝立ちの姿勢から立ち上がり大きく踏み出しながら、【爪牙】をかけた血塗れの拳で殴りかかったのだ。武器を失ったゼレイルのガードを居合いめいた拳使いで殴り崩し……リアラの体格を遥かに勝るゼレイルの鳩尾に直撃拳! 予想外の威力に噎せるゼレイル!
「ちいっ!」
「貴方の復讐に、僕が出来る事は……!」
跳び下がるゼレイル、前に出るリアラ。そしてリアラは叫んだ。
「せいぜいこうして憎しみの籠った攻撃を受ける事だけだ、ここに呼び出した時言った通り、死ねない理由があるから……だけど!」
「うるせぇ死ね!」「死になさい!」(させませんよ!)
ZAPZAPZAP!
ゼレイルとミアスラが叫び返す中、『
「だけどそしてだからこそ問います! 貴方達が復讐者として生きるに値すると言う理由は何ですか!」
攻撃を食らいながらもリアラは吼えた。食らいながらクロスカウンターを行った。苦痛に躊躇いも無く、『
「何だと!?」
問い返しであるが質問に質問を返してはいない。更に、攻撃を食らった上で一歩も譲らず、決闘を無視した相手に対して尚も語っている。傷も厭わず。
その異様な迫力に、思わずゼレイルは問い返しに応じてしまった。
「僕を憎むのはいいです! じゃあ、自分達への気持ちはどうなんですか! 貴方達が
リアラは叫んだ。リアラは自身の罪について思い悩んでいたが、忘れてはならない、言うまでもなくゼレイルもまた己の権勢と安楽の為に大勢の命を殺めた人間である。その事に、その罪の上で復讐者として振る舞う事にどう向き合うのかと。
「あ!? 無えよそんなもん!!」
ゼレイルは叫び返した。その叫びでリアラに更に罪悪感を植え付けその心を傷つけられると信じて。報復の欲望を燃やし、
「殺して伸し上がらなきゃ
愛故に己に罪は無い、必然の中に身を置いているのだから、命を失った失敗の悲しみと怒り以外罪悪感も葛藤も無い。穢れ無い復讐者だと胸を張って言える己を恐れよと。だがその言葉は全く逆の効果を生んだ。リアラはゼレイルの
「
「っ、う、るせぇっ!? お前なんか!お前がぁ!」
リアラは負けなかった人達を叫んだ。ゼレイルはリアラを否定しようとした。
「分かってる。でも! そんな僕に許されてほしい、救われてほしいと言ってくれる人がいた。僕の為に償いをしようと、僕を救おうと言ってくれる人がいた。皆躊躇って、迷って、悩んでいた。それでもと言う事に、どれだけ苦しんだか!」
故に、『
その瞳は、己の敵を見据えていた。
「あぁ、そうかよ……!」「僕達と貴方達は少し似てる」
ゼレイルが拳を振り上げた。リアラが血塗れの拳を握った。
「そんならつまり迷うお前とそれを庇う奴等の方が不完全で!」「でも!」
ゼレイルの拳に風と砂塵がグラインダーめいて渦巻く。
「俺達が勝つって事だぁっ!!」「だからこそ!!」
対峙する二人がぶつかり合う。だが、唯一つ明確に差異は存在する。雲母の一片の様に、薄いが煌めく明確な差異が。
ゼレイルの顔に憎悪はあったが迷いも罪悪感も無かった。ミアスラの顔にも悲痛はあったが迷いも罪悪感も無かった。己等は罰を与える側で与えられる側ではないという、餓鬼の駄々の様な醜悪な確信の矢があった。リアラの苦悩を、
「っがああああああっ!?」「ゼレイルっ!?」
だからこそ、小さなリアラの拳が大きなゼレイルの拳を砕き払い、尚突き進みその顎を砕いた。ゼレイルとミアスラ、二人のセカイを砕く鉄拳。
「がっ、なっ、何っ……!?」
ゼレイルは己を貫く激痛に悶絶し混乱した。何故だ、何故、と。
それは【
それは知恵の力でもあった。《復讐》。己の負傷を反撃の威力に乗せる白魔術。
だがそれ以上に心と絆の、即ちゼレイルとミアスラの恋愛に勝るエゴと愛との、そして失格者であると思い惑った正義故の力であった。
己を疑わぬ、言わば漠然とした鍛えていないエゴと、己を疑い、迷い、否定し、それでも再び戦えるようになるように悩み探し鍛え直さんとしたエゴと。
唯只管に互いを肯定しあう愛と、互いに相手に相応しくあらんと成長し続けようとする愛と。
我に罪無しと驕り疑う事無き正義と、我に罪有りとしながら世の為人の為相応しからずと己を疑いながらも尚進み、そして何よりそのあり方で人を救いそのあり方故にその救われし人に報いたいと思わせる正義と。
説明せねばなるまい。運命はリアラに試練を課し、リアラは支えと共にそれを乗り越えた。それは考える知恵と支えあう絆と愛、そして克己する勇気の力だった。
そして、乗り越えた故に再起動したリアラの頭脳が、戦闘の為の策をあれから今日がこうして始まるまでの間に磨き上げた。苦行僧めいたここまでの堪え忍ぶような戦いも、ゼレイルの怨念を少しでも晴らす贖罪であり、それにより気力を研ぎ直す為でもあり、そしてまた《復讐》の魔法の準備でもあり、リアラの考えだった。そして。
そもそもリアラとルルヤは
「貴方達に負ける訳にはいかない。僕も又殺めた身だけど、だからこそ今度こそ! 貴方達に、人を踏み躙り尚罪を思わず咲く愛に負ける訳にはいかない! こんな僕にも、踏み躙られちゃ駄目な人の盾にはなれると言ってくれる人がいるからこそ!」
そしてリアラが己の罪深さを噛み締める悲しい勇気を振り絞って放つのは、二人のセカイを砕く言葉。古の賢者曰く、己を愚者と知る者が賢者、己を愚者と知らざるが愚者、ならば。それは仏法の一派においても曰く、己を悪と知る者こそが、と。未だ戦いは続くが、反撃と反論が、始まった。
同時、それはルルヤとラトゥルハの戦いでも、また。
「ここまでか。出来る限りの事はしたが……」
「流石にここまで来ちゃ、逃げる訳にはいかないよなあ!」
「そのようだな」
空中で静止したルルヤと向かい合うラトゥルハは吼え、ルルヤは頷いた。
そこは《
空を駆け回り、《
だが、流石に全ての敵の動きを牽制する事は出来ず、ここに追い詰められた。これ以上撹乱を行うようであれば、味方の地上部隊を巻き込むだろう位置取りへ。
「それじゃあ……!」
牙を剥くラトゥルハの口元で、ちら、と吐息が炎と燃えた。同時に《水銀瞳》を使い尽くした竜髑髏型肩鎧の眼窩が、【眼光】による攻撃を止めた。照準モード。航空から発射する核の【息吹】の予備動作。
KGIII!!!!
「いくぞっ!」(ちいっ!)
それが開戦の号砲となった。核の【息吹】の発射。回避してルルヤがラトゥルハの懐に飛び込む。核の【息吹】が空を切る。ごく短時間の放射。地上を薙ぐ暇は無い。追跡を行っている時にも思い知らされたルルヤの速度と機動性だが、ルルヤがラトゥルハの攻撃兆候を読んだように、ラトゥルハもここまでで再度それを読んでいた。
「〈光芒〉! 〈碧血〉!」
即座に己の下僕達をけしかける。《水銀瞳》はここまでに撃墜と脱落で失ったがこの二体は健在だ。機動性に劣る事が証明された二体だが、突っ込んでくるルルヤに対し弾幕と
「見切ったっ!」ZDDOMN! PAW! 「なっ!?」
だが、螺旋を描くように猛射と共に突貫する二体の間に飛び込んだルルヤは、〈碧血〉の顔面を最大出力の【息吹】で撃ち抜いて殺し、その反動を生かすようにして〈光芒〉に突っ込むと【息吹】を乗せて強化した【爪牙】を使った拳・肘・蹴り! 撲殺し最後の蹴りでその体を蹴って加速する事で、核の【息吹】の第二射すらかわす! 無敵を否定する真竜の力が、『
……周囲からの【地脈】による魔法力吸収はラトゥルハ自身によって封じられている。この力は遠隔【地脈】によるものか? だが『情報』は醜聞をばらまきそれを封じたと言ってなかったか? なのに何て強く鋭い力だ、と、ラトゥルハは一瞬驚嘆した。
「お互いの弾幕を予知系の
傷隠しの腰帯に挿した剣をルルヤは抜き放つ。戦いは遂に空中白兵戦の間合いに! ……先の戦いで最終局面まで使用されなかった様に桁外れの破壊力を持つラトゥルハの核の【息吹】は、あまりに威力が大きすぎて空対空の短時間の照射に留めるか周囲を巻き込む際は確実に相手を仕留めなければ【
だが『
「専誓詠吟! 【
リアラと同じタイプの専誓詠吟で、【息吹】を剣と化したのだ。これこそがラトゥルハが
「上等! 全力全開、食らいやがれ!」
その凄まじく癖のありそうな武装を踊りの小道具の様に軽々扱い、ラトゥルハも自分から間合いを詰めて斬りかかってきた!
「来いっ!」
ルルヤも突撃を止めず、退かず、真っ向から激突する!
VZ! VZZ! VZ! VZZZ!!
唸りをあげて襲いかかる【
建物と大地を貫通して焦がした核の【息吹】を剣としたものだ、本来かすっただけで受けようとした武器諸共腕どころか胴まで両断されるだろう…
それに対して、だがルルヤは防御を成立させた!
その原因は、遠隔【地脈】で得た魔法力を鋭く集中した【息吹】として剣に付与、陰なる月の【息吹】で剣をコーティングしたからに他ならない。即ち受け損ない避けられねば五体バラバラ切断あるのみ。
しかしそれを、一振りに対し左右上下から迫り来る刃の嵐を、ましてラトゥルハは機械の手首が360度自在に回転するという特性を最大限利用してプロペラの如く猛烈に振り回す事の可能だと言うのに。
ルルヤは防ぐ! 一太刀目を受ける、その瞬間には双刃の下が手首の捻りで太股を切断せんと迫る。それをルルヤは双刃の上と鍔競り合いを行う事で相手の剣を捻り上げ、軌道に干渉する事で空振らせる。更にその鍔競りの勢いを利用し刃を滑らせると続いて襲い来る反対側の手に握られた双刃に打ち付けてそれを逸らし、逸らした双刃を再度振りかぶられた最初に襲ってきた双刃の軌道に割り込ませる事で、
「なっ!?」「ハァッ!」
相手の動きを一瞬拘束、絡んだ左右の双刃を纏めて一撃で払う事によって、手数で圧倒的に勝るラトゥルハに対し逆に隙をこじ開ける!
「舐めるなぁっ!」「それはこっちの台詞だっ!」
だが尚ラトゥルハの反撃は終わらぬ。両目からの殺人破壊【眼光】、両膝からのマジカルパイルバンカー!
パイルバンカーが捩る身を掠める! 下から突き上げる切っ先がビキニアーマーのブラ部分を引っ掻き火花を散らす! ルルヤの頬を【眼光】が切り裂く!
ZAN!
身を捩る回避の動きの遠心力がそのまま斬撃速度に転化する【
「ぎあっ……!? (何で、だっ!?)」
袈裟懸けに切り裂かれ悶絶するラトゥルハ。ここまでの長距離高速飛行、これまでの疲弊、そも前の戦いでは遠隔【地脈】を用いても尚此方に力負けしていた筈。
「がぁああああっ!」VONVONVONVOVOVOVOVVOOOONN!
なのに何故と疑問に混乱しながらも、尚ラトゥルハは体勢を建て直し再度の回転斬撃を連続して仕掛ける。叫び、全身を躍動させ、破壊の嵐となる!
「るぁあああああああっ!! !!」JYRRRRRRRRR!
だがルルヤも吼えた! 更なる強壮、更なる勇壮の叫びを! その手の剣が黒く輝くと同時に……伸びる! 伸びる!
思い出していただきたい! この剣は普段のそれと違いその場で【
地球ではあくまでファンタジーの産物、実際にはあのような構造で自在に操る事も剣としての形にする事も出来ないとされている。
だが
プロペラの様に高速回転する【
GGYGGGGGKKKKGGG!?
「あっ!?」「せぇえいっ!!」VAGIIIINN! 「ああああああっ!?」
回転が仕掛鞭剣を巻き込んだ! ラトゥルハの手首がワイヤーを噛み刃が食い込んで異音を発す! ラトゥルハの動揺と同時にルルヤが仕掛鞭剣に込めた竜術を操りながら振り抜く! 【長尾】と【息吹】が刃と鋼線を食い込ませ……歯車と機械油をぶちまけながらラトゥルハの手首が破断!
「ぁああっ!?」「ハァッ!」
尚もう一振りの双刃回転斬撃を繰り出すラトゥルハ! 仕掛鞭剣は一振り、そして半ば鋼の己の肉体は、腕一本程度で戦闘不能になりはせぬと!
だが剣が無くても手もある! ルルヤは即座に回転斬撃の中心であるラトゥルハの拳に掌底を衝突させ衝撃を与える! 更に深く突き込み、此方の手首の回転機構まで破損させる! ラトゥルハ、両手損傷!
「~~~~~~~~っ!? な、何だって……!?」
ラトゥルハは驚愕した。激痛より驚愕が勝った。この回転斬撃は初めて見せた技だ。【
それにルルヤは端的に答えた。
「知恵と! 勇気だっ!!」
……再び語らなければなるまい。同じ事だ。運命はリアラを愛するルルヤに試練を課し、二人でそれを乗り越えた。それは考える知恵と支えあう絆と愛の力であり、そして克己する勇気の源であった。
そして、乗り越えた先に再起動したリアラの頭脳が、戦闘の為の策をあれから今日がこうして始まるまでの間に磨き上げた。仕掛鞭剣は、ラトゥルハの内蔵武装に対策する為に、その武装傾向を物語知識で見切ったリアラが捧げたものだ。そして。勇者がいかなる存在かは先に改めて語った通り。今やルルヤは【
その力を込めてルルヤは、【翼鰭】の最大出力を乗せた痛烈な蹴撃を放つ!
「(勇、者……)あぁああああっ!!??」
それを燃え輝くようなルルヤの姿から本能的に理解した直後、ボディスーツビキニアーマーの胸部装甲に皹を入れられながらラトゥルハは撃墜され墜落! 地面にクレーターが刻まれ巨大な粉塵柱が立ち昇った……!
「……そして泥と血に塗れた正義でも……愛してくれる人がいるという奇跡だ」
そしてそう言葉を続け、ルルヤは天を見回した。空を飛ぶ光が増えていく。それは『
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