・第三十九話「大悪夢! 恐怖の娘、強敵『反逆』の挑戦! (中編)」

・第三十九話「大悪夢! 恐怖の娘、強敵『反逆アンチヒーロー』の挑戦! (中編)」



 時間軸を少し遡る第三十八話末尾より前の描写を行う


 〈戦争戦災対策国際会議〉発足の為各国代表団が集合する夜の訪れ。昼の内に巻き起こった『旗操フラグ欲能チート』が起こした一連の争乱の内、錬術れんじゅつ兵等が起こした〈使節団護衛による他国使節団襲撃〉は、何れも阻止されたが当たり前だが深刻な混乱を引き起こしていた。


 本来であるならば夜にでも開かれていた会合はキャンセルされ、各国使節団は、これが偶発の事故でありそれぞれの国家の意図による敵対的行動ではない事について、互いに人を派遣しての意見交換に終始する事になった。


 また連合帝国においても、必然警備体制に関して政治的な混乱が発生した。



 その夜を翔る者有り。


 即ち蒼銀の髪を靡かせ凛々しい赤瞳煌めかせ、しなやかに引き締まった白い肢体に金色のビキニアーマーを纏う〈最後の真竜シュムシュの継嗣〉ルルヤ・マーナ・シュム・アマトと、夕日色の三つ編みに金色の瞳、健康的な肉体に黒鉄のビキニアーマーを纏う〈最新の真竜シュムシュの信徒〉リアラ・ソアフ・シュム・パロン。


 二人の真竜シュムシュの戦士。〈欲能を狩る者達チートスレイヤーズ〉。


 その夜に備える者達あり。


 四半森亜人クォーターエルフの反骨少年傭兵隊長、名無之権兵衛・傭兵・娼婦之子ジョン・ドゥ・マーセナリー・サノバビッチとその副官である森亜人エルフ女装の男の娘ミレミが女装時の名前ミレミミレミト・ヨシツ・チタタグ、渦巻く金髪を結った犯罪と戦う護民の組織自由守護騎士団を受け継ぐ爵姫騎士ユカハ・シャラ・ミティアニク、それに仕える鍛え上げられた褐色の長身をした銀髪の女屠竜者ドラゴンスレイヤーフェリアーラ・スィテス・タムシュロス。


 大猩々ゴリラ種獣人の諸島海提督ボルゾン・ボーン・ボロワーと諸島海海賊を束ねる小さな女神官、蒼髪の海森亜人シーエルフハリハルラ・ハンテ・ハレーティン。


 砂海の代表の座に収まったマルマルの街の首長アドブバ・ラド・デバルド、その護衛として同行しているルアエザら舞闘歌娼劇団。


 等々。即ち、反新天地玩想郷ネオファンタジーチートピアとして共に戦う仲間達だ。


 ちなみにこの反玩想郷チートピア同盟について、その名については今まで未定であったが、最終的にこの同盟もまた〈欲能を狩る者達チートスレイヤーズ〉とする事になった。


 リアラとルルヤの二人から始まった事を忘れない為。そして、国家や組織の同盟に個人も加わる、のではなくあくまで対等の同盟である事を示す為。


 旗は無い。強いて言えば団員に広く配られた竜術護符に刻まれた十六画の爪痕で描かれた牙剥く竜の顔である真竜シュムシュの印がそれに近いかもしれないが、教徒の集団ではない以上やはりそれは共通装備であっても旗ではなかった。


 そしてあくまで同盟であった。しかし、無理に組織である事を否定する訳でも無かった。組織による統一された上下関係である事を強要する必要はなかったが、大きな繋がりがある事を否定し個人である事に拘りすぎ依る辺無き人々への支えを絶やす事も理念の共有をしない事も、やはり余り良い事ではないと考えたからだ。



 ともあれその面々が動いたのは、まず迎撃であった。事が起こる可能性を予見し、皆備えていた。


 中でもリアラはエクタシフォンの空高く【真竜シュムシュの翼鰭】で舞い上がり、光を操る陽の属性の【真竜シュムシュの息吹】と音を操る白魔術《作音》の合わせ技で空中において消音光学迷彩状態となり、エクタシフォンの警備兵を騒がせる事なく、エクタシフォン全体を見張る目となった。そしてその見た事を魔法で仲間に伝える。力の行使による解決をすら地球風のやり方ではないかと憂うリアラからすればこれもまた地球の知恵から思い付いた作戦であり用いるにやや忸怩たる所もあるのだが、いわば人間哨戒機と化しての空中管制だ。


 とはいえ水騎以外の飛行乗騎を搭載した類の諸島海海軍・海賊が用いる港艦や、法獣や強力な魔法使いや魔法装備を有する英雄が所属する軍隊、潤沢な魔獣兵力を有する魔王軍等は古くから航空戦力を偵察等に用いており、混珠こんじゅにもそういった知識はある程度存在する。


 実際それ故にエクタシフォンの城壁搭にも対空弩砲や対空魔方陣等が設えられ、隠密魔法を使うのはその目を誤魔化す為でもあった程だ。


 生半な隠密魔法では探知されていただろうが、しかしここまでの戦いでリアラの魔法は鍛え上げられており、問題なく警戒を展開出来た。むしろ、航空戦術が必ずしも地球の軍事知識に限られる訳ではないという事からリアラの精神的な地球への嫌悪感も幸い和らいで、警戒がそういった意味で心の助けとなった程だ。更に空を飛ぶだけではなく、事前に派遣していた《使魔つかいま》を維持し、地表でのより詳細な警戒を実施し連絡網を構築する。


 それは玩想郷チートピアの手が回っている以上玩想郷チートピアの動きを警備兵は察知できまいという事でもあり、そしてその読みは当たっていた。リアラはたちまち、エクタシフォンの街の夜に蠢き出る様々な反応を捉えていた。


(地下下水網、戦闘レベル魔術反応複数。欲能チート反応の付与あり。帝国内の玩想郷チートピア勢力によって手引きされた魔族転生者とその配下。他同じく戦闘レベルの錬術れんじゅつ、法術、霊術、魔術反応多数。欲能チートを伴う者伴わざる者あり、また術式反応からして恐らく直接的非玩想郷勢力、つまり帝国内の玩想郷チートピアに利用されたあるいは独自判断で行動している帝国の治安・秘密兵力が混じっている可能性が大です)


 この段階で玩想郷チートピア内部の派閥争いによる勢力図の激動、それにより〈帝国派〉が魔王たりうる魔族の十弄卿テンアドミニスターを強引に〈王国派〉に奪われ失った結果、〈帝国派〉内の魔族転生者の政治的な立場が低下し、危険な尖兵を買って出ざるを得なかった事を、リアラは流石にまだ知らないが。


(皆さん、識別には用心を。まず第一に接触してくるのは魔族転生者とその手下共ですが……)

(分かってる。配置図は受け取った。ミスはしないし……リアラちゃんの知識の出番だな、こりゃ)


 通信用魔法で返答が帰ってくる。玩想郷チートピアが直接動かしたものであれ間接的に動かしたものであれ、己の意思で玩想郷に加わっているのではない混珠こんじゅ人の戦力との交戦は、よく状況を見定めなければ面倒なことになる。まして連合帝国の内この一夜の騒ぎに独自に呼応して出てきた戦力とうっかり交戦してしまっては事だ。それは皆、重々承知の上。


 それに加えて名無ナナシから返事が帰ってきたそれは、リアラが以前〈無謀なる逸れ者団〉にも教えた、かつてリアラが所属していたパーティの研究成果から引き継ぎ発展させた知識についてだ。何故今その話題が出るかについては、敵魔族の移動経路から、正にその知識の内の一部を活用すべき状況だと理解できるからだ。


 この分ならば、まず敵第一波の襲撃は大丈夫、と、リアラは安堵した。


(……追加反応あり。エクタシフォンの外から欲能チートないしそれに類する能力によって転送されてくる欲能行使者チーター反応各自展開中……っ!!)


 BYOU! (こちらも交戦に入ります!)


 発言途中でリアラが妖精の様な羽を大きく閃かせた。直後その頭のあった場所を猛烈な速度の矢が通り過ぎる……!戦闘は新たな局面に入った!



 かわした直後のリアラの至近距離で、威力は極めて高いが驚く程炸裂音と視認性の低い《怨弾》の魔術が炸裂した。純粋な怨念による純粋な精神衝撃を与える破壊力ではなく制圧力に全振りした高位魔術・隠秘術。味方は既に配置についたと直後にリアラは通信でそう宣言した後羽を畳み急降下。転移で出現した欲能行使者チーターによる対空攻撃だ。消音光学迷彩状態の此方に気づいてくる、しかも二度目の攻撃は魔法による索敵と組み合わせた攻撃だったが、一度目は魔法の要素の無い気配察知による狙撃。だが、微かに欲能チートの気配も感じた。いずれにせよ、転移で出現した勢力は精鋭だ。


 迎撃側はある程度の察知はあれど完全に知悉している訳ではない今夜の襲撃での全体的な絵図としては、この時〈帝国派〉は先に描写した様に〈帝国派〉が魔王を擁立する余地の無くなった結果派閥内における戦力的・政治的な値打ちと地位が低下した魔族転生者を尖兵として出撃させており、その他の玩想郷チートピア戦力であるかどうか微妙な連合帝国人による部隊を、〈帝国派〉欲能行使者チーター達が一部それを動かして支援する格好となっている。


 そして〈王国派〉は派閥内党派である〈超人党〉を多数繰り出していた。


 その目的はこの場に集った反玩想郷チートピア勢力の排除。戦力は抹殺で、政治指導者については確保し、欲能チートの力で洗脳する等して従え、反抗組織・反抗体勢の芽を摘む。政治指導者の洗脳に関しては、反玩想郷チートピア側に説得される余地のある中立勢力も狙いであり、必然現段階においては散らばる玩想郷チートピア相手にリアラとルルヤたちは仲間の力で迎撃網を構築しつつ接近する敵を激撃する、隠密裏の暗殺合戦という形になる。


 しかしこれが狙いの全てではない事は明白だ。リアラとルルヤが警戒している事は先方も承知だろう。二人が十弄卿テンアドミニスターも倒しうる事も、〈超人党〉が精鋭を自負しているとはいえ、リアラとルルヤが彼らにとっても危険な戦闘力である事は彼ら自身も承知している。警戒を誘うだけで本気で交戦する意図はない挑発か、勝つ為の何らかの話がありそこに誘い込む為の伏線か。


 HYOOOOO……!


 敵の第二矢、鏑矢の鳴る中、無音のまま大きく広げた夜気を切り裂くのが似合う蝙蝠に近い【真竜シュムシュの翼鰭】で重力を操り、リアラの隣にルルヤが下から浮かび上がり降下してきたリアラと並んで飛ぶ。


 迎撃網を構築する仲間達と、敵の意図を見抜くべく抑止に飛翔する者、そして迫り来る敵、その夜の戦いはこうして始まった。



 玩想郷チートピア側の第一陣を切ったのは、欲能チートによって強化された矮鬼ゴブリン達だ。知性と身体能力と手先の器用さを増強され更に複数の矮鬼ゴブリンが個別の命を惜しまずまるで一個の群体生命体じみて自殺的滅私奉公連携するようになり、更に混珠の通常であれば石器か木器がせいぜいの武装を高度な金属装備や魔法装備類を付与されている。


 威嚇の叫びも欲望本意の略奪も無い、生物というよりはTRPG等のゲームにおいて悪意あるGMゲームマスター製作者クリエイターによって群で生活する生物としての在り方より軍事的戦術的合理性を優先してPCにより多くの損害を与えるべく行動するNPCの様に完璧な軍事的連携で夜の街を這い目標に迫る欲能強化矮鬼チートゴブリン


「何!? バカな!?」


 それが狙われうる対象を護衛すべく周囲に展開していた自由守護騎士団や〈無謀なる逸れ者団〉に的確に捕捉殲滅されていく。


 〈七大罪〉ではないが『色欲アスモデウス』の同類というべきそれに準じる『残虐な目的や猥褻な目的に限って魔性を強大化させる』自らの欲能を付与した『邪化矮鬼チートゴブリン』が殺される事を知覚可能な魔族転生者『退廃エログロ欲能チート』は蜘蛛と陸棲巻貝が人型に合体したような魔族の肉体の頭部から長く飛び出した目を伸縮させて驚愕した。


 世界を歪める力に傲った欲能行使者チーターは世界を知らない。それは脈々と受け継がれてきた混珠の文明をハウラ・ソティアのパーティメンバーから受け継いだリアラの知恵と、使命に殉じて自ら鍛え続けた仲間達の知恵。


 これまでも折に触れて語ってきたが、ソティアやハウラは辺境の民を助ける冒険者として、時に農学の研究で可食物を増やして山村民を富ませ、時に生物学の知識で亜獣を山に追い返せるように、魔物魔族の襲撃を防ぐ為に戦うだけの対処ではなく周辺環境の分析からの対策を考える研究をしてきた。


 それは古くから〈一に矮鬼ゴブリン二に害獣〔魔獣亜獣含む〕、三四が耕作五が開拓〉という混珠こんじゅ世界の経験蓄積という元から存在した要素を更に洗練させ学問の領域にまで高めたものだ。天候と山林の環境、矮鬼ゴブリン豚鬼オークの巣となる洞窟の有無と村落からの距離、それらを操る事で従来から可能であった被害が出そうな気配を感じてからの迎撃体勢の構築だけではく、被害が出うる予兆の察知を越え被害が出る前に洞窟を崩したり獣の群を誘導したり植林地の適切な間伐を行ったり野良仕事における物資や火の管理を徹底したりといった対策で予防を高精度で行えるようにした程だ。


 そんなソティアとハウラの研究のなかでは都市部で繁殖する下級魔族についての研究もあった。塵芥処理施設、下水道、郊外の廃屋、港湾。潜みうる場所に対してのこれまでもある程度民間で知られ当然共有されていた対策をより理知的に研究したもの。それをリアラは受け継いで、そしてそれに追加の要素を加えた。即ち、欲能チート等〔欲能チート限定ではなく魔王や錬術れんじゅつ王による洗脳強化等の古例への研究も含んでいた〕の悪意によって通常と異なる動きをする魔族への対策である。


 そしてその助言を元に動くのは、辺境において国境線を跨ぐ犯罪や魔物と戦い続けてきた経験豊かな自由守護騎士団と、悪意ある戦術の裏をかく事に特化して自らを復讐心で律し鍛え続けてきた〈無謀なる逸れ者団〉なのだ。混珠こんじゅの歴史、受け継いだ知恵、その全てが効率的に使用されればどうなるか。


 未知という事はそれだけで奇襲効果を持つ。〈魔王が存在しないにも関わらず悪意に統率され個々の生命を無視して動く矮鬼ゴブリン〉は、正に相手がそういう存在でなければ混珠の冒険者や軍隊を奇襲的に蹂躙する事も出来るだろう。


 だけれども、通常の矮鬼ゴブリンにたいしてならば混珠の普通の冒険者や軍隊ならば問題なく対処できる事は文明を崩壊させる事なく継続させてきた事から明白であり……


(種さえ割れてしまえば外道の手品など何ほどの事も無いわ!)


 下馬市街戦なれど果敢に騎士を率い、決然無言無音にて敵を屠るユカハ。


「く、クソッ、畜生……服装や文化は兎も角、面は甘っちょろい和製ラノベファンタジー風の見た目の癖に生意気な……!」


 『退廃エログロ』は、呻きながらもだがまだ邪智を巡らせ抗う。『邪化矮鬼チートゴブリン』をいかにもあわてふためいた風に撤退させた。下水に引きずり込む為だ。下水道の中にある巣穴として用いている部分は日常移動するだけで死にそうになる程の不自然で非合理的なレベルの罠地獄にしてある。この巣穴での迎撃戦こそ真骨頂だと……


(こっから先は)


 追撃を名無ナナシは制止した。だが、打倒を諦めた訳ではない。


 敵が地下を進んでいるとリアラが認識した時から既に都市部における矮鬼ゴブリンの主要な生息場所である下水道を進行していると気づいていた。


 かの有名な〈蝦蟇の魔法使いトードナ割断の王ワレボー〉の故事の後、迷宮には不文律が存在するようになった。だが、ルールを無視する奴等に守る不文律はない。ルールを守らない者はルールに守ってもらえないのだ。


(頼んだぜ)

(了解)


 名無の通信魔法にミレミが答えた。その手にはハリハルラから預かった彼女の短杖。従えるのは、鍵開け等の技に長けた用兵団員と、公的期間と接触した時の為の自由守護騎士団の騎士。


 そしてハリハルラから借り受けた魔法で、下水道に中の生命体を溺死させるのに十分な大量の海水が流し込まれた。



 他にも敵手勢は様々に繰り出され、また玩想郷チートピア構成員ではないが動かされたものもそうでないものも含む連合帝国の戦力も絡み、状況は更に複雑化していく。


 その間、リアラとルルヤは〈王国派超人党〉とやや非積極的な交戦を行っていた。


「はっ!」


 超低空非行と屋根上の疾走、屋根から屋根、塔から塔、銅像から石像へと跳躍を繰り返しながら、ルルヤは【真竜シュムシュの息吹】を放つ。闇に紛れるような重力を操る月の【息吹】は、魔法を放つ『最大カンスト欲能チート』、目から赤色の光線を放つ『栄光アメコミ欲能チート』に何度も命中した。


 しかしそれぞれ『混珠こんじゅの人間として可能な限り最大限の英雄の身体能力と取得できる限りの魔法を得る』欲能チートの『最大カンスト』、『アメコミ・スーパーヒーローそのままのスーパーパワーを持つ』欲能チートの『栄光アメコミ』だ、あの『増大インフレ欲能チート』との戦いを乗り越えた今さらそんな奴等の力任せの攻撃等ものともしないルルヤだが、流石にタフな相手ではあり殺しきるまでには至らぬ。しかし同時に〈超人党〉の攻撃は限定的だ。当初暗殺を狙って出現し、迎撃を関知して即座にリアラとルルヤ等との交戦に切り替えたものの、生存を最優先し軽く交戦しては撤退していく。


(秘密裏の行動故か?否、それもあるがそれだけではない。それにしては何発か大っぴらに鏑矢を使っている。そしてある程度しか隠密に配慮していないにしては都の警備の動きが鈍い。狙いは……)


 考えながらも、ルルヤは空中で通常の翼では不可能な鋭角に背後に向かって進行方向を変えるギザギザの軌道をとった。


「せぇえいっ!」「ちっ!」


 幾度かの弓射の後、源義経の八艘跳びを思わせる大跳躍で太刀振りかざしリアラに襲いかかった『和風パトリオット欲能チート』。それを迎撃したルルヤに対し、横合いから襲いかかろうとした機人化欲能行使者サイボーグチーター虚無ウチキリ欲能チート』をルルヤは阻止。


 棍棒じみた頑丈な手斧を武器としその様々なものを打ち切る欲能で重力と慣性の法則を遮断する『虚無』と重力の【息吹】の力で重力と慣性を支配するルルヤは互角の機動性で一瞬ながら猛然と互いに食いつきあい打ち合う空中戦を行った。


「やるなあ! お前! 見抜いたなあ、俺の欲能チート!」

「チートで! 日本刀だろ!前殺した奴は別の地からだったけど、警戒はするさ!」


 その一瞬の間、撃ちかかった『和風パトリオット』とリアラはそう叫びあった。『和風パトリオット』の叫びは感嘆だ。彼の欲能チートは『物語で過剰に強調されて描写される強い日本風・日本人キャラそのままの力を得る事』。実際優れた説弾力や強度を持つ事を更に強調されたその太刀は古代の直剣に対する蕨手刀の優位を更に強調したように強化され特に直剣に対する特別強化を得て、剣で太刀打ちすれば剣ごと切り裂く。


 その力で切り捨てる心算が直前でリアラは【非現実の光線でアンリアルライト】の目眩ましと徒手で刀を持つ手を掴む防御に切り替え、それで防いで見せた。自分の欲能チートの効果を見切ったとしか思えんと言う『和風パトリオット』に、リアラは是と答えた。正に見抜いていた。


「欲の形としちゃ、ありがちだからね! 尤も、侍というには凶暴だな!」

「ははっ! 今更お上品な武士道などは流行るかよ! 面目の為に殺すを防ぐ為に貼り付けた礼儀作法等もう不要! 俺達は誰かを殺したい程むかついて生きてきた! 何でも奪いたい程の貧乏人よ! そうよ、俺らは蛮族よ!何が悪い、俺はその蛮を誇る! 武士道は怒って殺して奪う事こそが現実よ!」

「……それでも僕は意地を張る! 蛮にも品位の上下はある、お前は蛮でも何でもない、蛮を名乗る者に謝れ、お前は唯欲望に忠実な外道だ! それが現実の武者であれ……それとは別に人が理想の武士道を掲げた以上、人は本質的にそれは嫌だと思っているんだと僕は信じて戦う!」

「吼えよる! 相容れぬし腹は立つが、成る程噂どおり天晴れ頑固、良い敵よ!」


 ベタな欲望だとぶちかまし、理解は出来るが浅ましい・醜い、即ち格好悪いと言葉で殴りながら同時に蹴りをかますリアラの足に『和風パトリオット』は笑い返し蹴り足を合わせ、蹴り合う反動で再度跳躍しリアラから離れた。遠くの屋根に跳び移り、蚤か蝗の如くぴょんぴょんとあっという間に距離をとる。


「悪いが、俺達の戦いはこれからだ!」


 直後、『虚無ウチキリ』も戦闘行動を虚無ウチキって離脱。気がつけば一瞬の沈黙。


「多分、次が連中の狙い、ですね」

「恐らく、な。いっそ、すっぽかして帰るか?」


 息を弾ませながら勿論相手の真の狙いについて考え続けていたリアラが、ここで的の本命が仕掛けてくる事を察知し。ルルヤが要人を暗殺から守る関係上そうもいくまいがと知りながらも軽く笑ってみせて。


「うぼあああーっ……うぼあああーっ……うぼあああーっ……」


 鳴った、戦いのゴングが。それは都の建物の壁に格闘ゲームのKOシーンの過剰演出のように響き渡り木霊する、帰るわけにもいかない絶叫。暗殺阻止対象の一人、連合帝国将軍ダビンバ・ロス・ドバスの叫びで。


 そして時間軸は今に第三十八話の末尾に戻る。

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