・第四十話「大悪夢! 恐怖の娘、強敵『反逆』の挑戦! (中編2)」

・第四十話「大悪夢! 恐怖の娘、強敵『反逆アンチヒーロー』の挑戦! (中編2)」



 何れも機械で金属の、膝と踵が鋭い棘の脚甲、爪の尖った手甲。


 それと同材質の肩鎧が竜の頭蓋骨を一直線に尖らせた様なビキニアーマー以外の部分を透けるような暗青色のストッキングじみたボディスーツで覆った細身の肢体。


 両側頭部から水平に生え垂直に上に曲がった角を付けたヘッドギアじみた鉢金と、翼の様な耳と、後ろ髪を纏める髪飾りに縁取られた、踝まで届く後ろ髪一房を除けばギザギザしたショートヘアの紫髪。


 細い首に嵌ったチョーカーというにはごつく首輪と言うには機械的メカニカルな金属。


 猫科の猛獣と妖精を足した様な愛らしい容姿と狂暴で獰猛な笑みが露にする蛇の様に縦に裂けた瞳孔と尖った牙。


 新天地玩想郷ネオファンタジーチートピア十弄卿テンアドミニスター新第五位『反逆アンチヒーロー欲能チート』、ラトゥルハ・ソアフ・シュム・アマト、真竜シュムシュの力を持つ娘と、そいつは名乗った。


「新しい十弄卿テンアドミニスターが、真竜シュムシュで、娘だと? ……どういう事だ?」


 理解しがたい事態に眉を潜め眉間に皺が寄る程目付きを鋭くするルルヤだったが、困惑を混乱にはしない。欠片も隙も油断も無く、既に【真竜シュムシュの骨幹】で剣を形成し、その未知の敵と対峙する。


「単純な事さ。オレは十弄卿テンアドミニスター第九位『文明サイエンス欲能チート』の『発明品マクガフィン』、人造転生者だ。クク、この説明を初めて聞かされた他の転生者みたいな面食らった顔するなよ。欲能チート持ちの転生者、欲能行使者チーターってのは要するに、地球からこっちに流れてくる魂の中でとりわけ歪んでる奴が歪んだ人格を保ったままその歪みで世界法則を歪めてその魂に相応しい欲能チートを得て生まれるものだろう?」


 自然体に、隙だらけとすら言える立ち姿で、『反逆アンチヒーロー』ラトゥルハは鷹揚とすら言える口調で返答する。最初に見せた好戦的な笑みはやはり『惨劇グランギニョル欲能チート』に似ていたが、その強者の余裕はまた別の過去に戦った転生者達を思わせた。


「まさか。けど、それは……それは転生者って、言っていい……のか?」

「その反応も聞き飽きたな。けどまあ、説明されるまで察せなかった玩想郷チートピアの旧式共よりは察しが良い」


 自分の【真竜シュムシュの眼光】の固有追加効果である【見えざるものを見る力】で魔法力の分析を行っていたリアラが呻く。その体を巡るのは、間違いなく真竜シュムシュの力。そしてそれ以外にも魔竜ラハルムの力と魔術・法術・霊術・錬術れんじゅつ等、その五体の各部からそれを使用する為の信仰等の前提条件を無視した様々な魔法力反応が更に多数感じられた。


 その凄まじい違和感、有り得なさからくる推測を、ラトゥルハは中性的で荒々しい口調で肯定した。


「本来欲能行使者チーターどころか転生者にも成らない、漂白された歪みのない真っ新な魂を捕まえて、望んだ欲能チートを得られるように人工に歪みを与えるのさ。『文明サイエンス欲能チート』は、『現象を大雑把に理解できれば大雑把に利用できる』欲能だからな。転生と欲能チートの理論を知ればそれを悪用できる。後は言った通り歪みを元に人格を作り、それを誂えた肉体で生まれさせれば、狙い通りの肉体と欲能を持った欲能行使者チーターが生まれてくる。お前らお父様お母様が戦場で流した血の遺伝子を掛け合わせて培養した体をベースに、各地でナアロ王国が狩った魔竜ラハルムの死骸とそこから得たデータを継ぎ接ぎして、魔竜ラハルムの竜術に変化する前の真竜シュムシュの竜術って奴を逆算して肉体の他に細々とした細工と共に付与し、『本来の使用条件を無視して取り込んだ力を使えるようになる、物語に逆らう欲能チート』を得た魂がそれを制御する。前世の無い、欲能チートだけの転生者。それがオレだ」

「な……な……」

「なんて、無茶苦茶な……!」


 それは確かに『金の力で相手を屈服させた時にキャピタルのチートのちから』や『他者を否定する為に限りアンチのチートのちから』といった、『特定の条件で様々な制限を無視し力を己のものとする』類のこれまでに戦った欲能チートの類と類似した力だ。それ自体は驚くものではない、が。


 ルルヤは己とリアラの血を混ぜ合わせたものから自分達の複製が作られたという地球由来の技術にも驚いたが、それとは別にそしてそれ以上に、そのあまりの禍々しくおぞましい魂への冒涜に流石に唖然とした。生命倫理が問われるような技術が開発されている地球から転生してきたリアラ神永 正透も、その世界法則の蹂躙ぶり、それを可能とする『文明サイエンス欲能チート』の力には流石に驚嘆せざるを得ない。それでも意識の冷静な部分は、そこから得られる輪廻転生に関する情報を懸命に咀嚼していたが。


「ま、どうせ転生者なんて、前世が妄想でない保証もなければ、今が末期の幻想でない保証もなし。そういう訳で一応遺伝子的に二人共血の繋がりはある、つまり遺伝子的には親子関係だと言えるが、気にするな。オレは気にしない。オレからすりゃオレの自我を構築する材料は魔竜ラハルムが生来持つこの世への怨念と、魂そのものはとっくに消え失せたがオレも竜術が使えるからそっちが被害者の無念をかき集めた様に吸収した、殺された欲能行使者チーターの怨念の影響の方が強い。怨念の幾らかは『否定アンチ』の奴が無駄遣いしたが……」


 再びラトゥルハは先ほど感じた通りこれまで戦い倒してきた欲能行使者達クリティカルやカンフーやアンチやグランギニョルなどに似た凶悪な笑みを浮かべて……宣言する!


「お前らお父様お母様ふたりを殺したくて仕方がねえ。さ、やろうか!」


 直後ラトゥルハは叫びと共に両肘を曲げ、両手指を真正面に突き出した!


「!!」


 その瞬間リアラの思考がスパークした。目の前の彼女ラトゥルハの意図、その奥にあるその設計・作成者たる『文明サイエンス欲能チート』ドシ・ファファエスの設計思想を理解したのだ。


(ルルヤさん相手の目と口と指先と膝と爪先に注意して! あと胸、じゃない肩!)

(なっ!? それじゃ殆ど全身……!?)


 閃きはニューロンの速度で【真竜シュムシュの宝玉】を用いルルヤに伝えられた。内容の無茶苦茶ぶりに驚愕するルルヤだが、その伝達は正しかった。


「食らえっ!!」


 直後、正に全身に近いそれらの部位から一斉に、火山の大爆発か燃える嵐の如くラトゥルハの攻撃が火を吹いた!


 爪先から迸るのは地面の上を突っ走る衝撃波・地割れ・結晶散弾・溶岩! 高位土属性霊術! 機械脚甲の膝に生えた棘からは電撃が走る! 強力な雷の霊術あるいは取神法術! 恐らくそのどちらも、機械で出来た膝から下に霊術魔法武器を組み込み、使用前提条件を『反逆アンチヒーロー欲能チート』で無視して支配しているのだ!


 正面に向けられた両手、その手首が回転するや鋭く尖った指先が全て開きそこから放たれる攻撃魔法の連射! 連射! 連射! 籠手から排出されるのは生身のそれより一回り太い機械指の内側を通る程に小型化された弾丸薬莢サイズの極薄フィルム巻物型攻撃魔法発動媒体の巻物芯! さながら魔法のガトリングガンだ!


 更にラトゥルハの両目と、竜の頭蓋骨を象った肩鎧の眼窩に相当する部位が輝く……【真竜シュムシュの眼光】には、それぞれ視覚の強化だけではなく使用者の個性による様々な固有の追加効果がある。ルルヤのそれは【観察眼強化による真意看破】、リアラのそれは【魔法や欲能といった見えざる力の感知】、何れも便利だが補助的な力だ。しかし呪詛や石化や麻痺や魅了等、より直接的な力を持つ【眼光】の使い手は過去の記録に存在した。ラトゥルハの目はそれと同じだ。その目に宿すのは極めて純粋な破壊の力。即ち彼女の目と彼女が操る目を象った部位から放たれるのは、レーザーともメーサーとも荷電粒子とも異なる科学考証無視の純粋な破壊光線!


 そしてその口からは、殆ど爆発と言っていいレベルの強烈な炎!


 ……平穏な町の路地裏で炸裂して良いレベルを遥かに越えた破壊力が炸裂する!


 KYU!DDOOOOOOOOOOONNNN……!!!!!!!!!


「きゃあっ!?」「うわああああっ!?」「何だ何だ!?」「ひ、火消衆総員起こし!」「非番の神官を呼べ、今のは何だ!?」


 二、三区画は軽く消し飛ばしそうなレベルの大爆発。忽ち街に溢れる悲鳴と絶叫。


「ば、馬鹿野郎!?」


 その有り様に、不意に物陰から飛び出す声。何時の間にか戻ってきていた〈超人党〉の面々の一人、『最大カンスト』が咄嗟にラトゥルハを怒鳴りつけたのだ。


「今夜は暗殺任務と試運転だ、暗闘の範囲に留めろって言われてたろうが!? こんな大爆発……まだ、夜明けまでに仕留めきれなかったら暗闘が衆目に晒される前に退けって言われてるだろ!?」


 だがその出現も叫びもガン無視し、ラトゥルハは爆煙の向こうを目を見開いて見つめていた。そちらはどうでもよいと実際暫く其方の描写は後回しだ。その口許には、牙を剥く様な笑顔が浮かぶ。


「【……GEOAAAAAFAAAAAAANNNN!!】」

「【……PKSYURRRRRRRRRRRRRRR!!】」


 爆煙が晴れる。その向こうにあるのは吹き飛んだ区画の焼け野原ではない! そこから響き渡るは二人の【真竜シュムシュの咆哮】!光輝くは【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】! 咄嗟に発動させ、リアラが街を守ったのだ。しかし、ならばリアラを誰が守ったのか。


「【月影天盾イルゴラギチイド】……初実践でいきなりこれか……だが……!!」


 勿論ルルヤだ。その掲げた掌の先、ラトゥルハとの間に立ちはだかるのは、揺らめく月影に月光の金環縁を付けた様な防御障壁。これまでの戦いにおける経験に学び、休息の中で編み出したリアラの【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】のルルヤ版とでも言うべき新たな専誓詠吟、言わば重力と斥力の盾グラビトンバリアー。それを張ったルルヤが街を守るリアラを守った。


 飛び道具を威圧する【真竜シュムシュの咆哮】と併用したにも関わらず、【月影天盾イルゴラギチイド】はラトゥルハの攻撃の余りの凄まじさに月が欠けた様に食い破られ、【真竜シュムシュの鱗棘】をも貫いて翳したルルヤの掌を焦がし腕を大きく切り裂き、祖竜の鱗で出来た黄金色の手甲と肩鎧を打ち砕いて、その額と鉢金にまで大きな傷を作っていた。


(やっぱり、女の子の外見で【咆哮】対策に実体弾じゃなく魔法攻撃になってるけど、武装は殆ど昔の特撮映画のメカ怪獣! ネタ元のメカ怪獣なら胴体部分にあった武装は肩に回してそこは宇宙騎士テックナイトまた別の僕の居た地球のアニメみたいになってるけど、火力が尋常じゃない……! )


 過去の十弄卿の中でも『惨劇グランギニョル』や『経済キャピタル』を上回り、『神仰クルセイド』と互角かそれ以上、全力発揮かどうかはわからない為『増大インフレ』との比較はまだ出来ない。それに加えてリアラ達からすれば第五位と名乗った倒した相手の位階順位を名乗ったのも気になるが……


「クク、やるな! ああ! それでこそだ! 【KSYAGOWAAAANN!!】」


 ともあれその圧倒的な火力を防いだ。それをラトゥルハは寧ろ大いに喜び、そして吼えた。リアラともルルヤとも違う、高いが獰猛な獣の如き【真竜シュムシュの咆哮】! それは先の全身噴火砲撃にも劣らず帝都の空気と建物を揺らし……!


「「「「「「「「「!!!!!!!!!!??????????」」」」」」」」」


 ……〈超人党〉の面々に返答もせぬまま、彼らが危惧した爆音に反応した帝都の人々の叫びと騒ぎを、あたかも酸素を絶った火の如く一瞬で沈静化させた。


「……これで暫く邪魔は入らない。楽しい殺し合いが出来そうだ」


 咆哮を響かせ終えた後、晴れ晴れとした表情でラトゥルハは告げる。対してルルヤとリアラは、とてもそんな戦闘に集中した表情は出来ぬ。


「邪魔は入らないだと? 動けぬよう恐怖で縛っただけだろうが。これでは戦闘範囲が広がった時守護を怠ればどっちみち巻き込む! 貴様、そんなに私達に気を使わせないと怖いか?」

「それに今の破壊力。魔法武器を両手両足に埋め込んだり、【眼光】に攻撃力があるだけじゃ説明がつかない。なにより、その魔法力の流れ……!」


 ルルヤが指摘する。単に戦場から追い返しただけの絶妙に嫌らしい【咆哮】。人質をとって戦うも同然、全身に武器を仕込み真竜の力を持ちながら臆病なものだな、という挑発を込めて。実際少しでも相手のペースを乱せばしめたものというよりは、少しでも乱せないとやばい。何故ならリアラの危惧が当たっているならば……こいつは最強かどうかは兎も角最悪の敵だ。


「オレにとっての邪魔は入らないが、オレが邪魔をしない訳じゃないからな。勝負とか兵法軍略というのはそういうものだろ。にしても、流石に勘が良いな、


 ラトゥルハは笑う。傲慢に、平然と、乱れる事なくルルヤの挑発を受け流して、そしてリアラの危惧を肯定する、が……


「え、ちょっ!? お母様僕の事なの!?」

「まて、父親枠は私か!?」

「リアアラの方が背が小さい。リアラの方が体が柔らかい。リアラの方が胸がでかい。ルルヤの方が顔立ちが凛々しい。ルルヤの方が力が強い。何か間違ってるか?」


 少しばかり別の意味で場の空気が乱れた。転生前男だったにも関わらず母親扱いされたリアラが驚き、生粋の女なのに父親扱いされたルルヤが慌て、そしてラトゥルハが、え、何かおかしいか? とでもいうように、首に嵌まった金具が少し邪魔そうに小首を傾げた。


「「それは……」」

「ま、それは兎も角、だ」


 困り顔で一瞬横目を合わせるリアラとルルヤに、首をこきっと鳴らして改めて正面に顔を向けてラトゥルハは本題に戻った。


「いい勘してる。当たりだ。オレは【真竜シュムシュの地脈】を使ってる。『反逆アンチヒーロー欲能チート』で相手の了解だの制限だのを無視して、強制的に住民や土地や精霊や地に留まる無念の霊魂から力を吸い上げられる。さっきの攻撃にも幾らか使った。つまり、だ」


 ひひひ、と、先程姿を現した『最大カンスト』だけでなく、何時の間にか三人の戦いの周囲を包囲する様に集結していた〈超人党〉の欲能行使者達チーターたちも笑う。これこそ『文明サイエンス欲能チート』がラトゥルハを造りそして十弄卿テンアドミニスターに据えた理由。『文明サイエンス』が研究しこれだと結論付けた真竜シュムシュを殺す手段。


「この上お前らまで【真竜シュムシュの地脈】を盛大に使ったら……吸い取られ過ぎて、何がどれだけ死ぬかな、って事だ!」

「「…………!! !!」」


 それ即ち【地脈】封じ! リアラとルルヤが十弄卿テンアドミニスターに抗えるのは【真竜シュムシュの鱗棘】の対欲能チート防御故だが、勝てるのは力の差を補える【真竜シュムシュの地脈】でかき集める大量の魔法力あればこそ! 『増大インフレ欲能チート』等はそれでも尚危うかった。その力の差を補う手段を封じるというのだ!


「これさえあれば」「最早勝ったも同然っ!」「後は誰が首を拾うかの勝負!」「首は二つ……」「どっちかは必ず貰うぜっ!」「お偉方が出てくる前になーっ!」


 血の臭いを嗅いだ肉食獣のように、周囲を取り囲む『栄光ヒーロー』『最大カンスト』『暴走ツッパリ』『虚無ウチキリ』『和風パトリオット』が目をぎらつかせ牙を剥く。【地脈】による大量の魔法力さえ無ければ相手の力は十弄卿に劣る。試運転で討ち取れればそれでよし、そうでなくとも結果が良好であれば次は〈帝国派〉の十弄卿テンアドミニスターまでも繰り出して完全殲滅するが玩想郷チートピアの計画。だが試運転で討ち取れるなら討ち取っても構わないと言われている。ならば十弄卿テンアドミニスターに次ぐ自分達が数的有利状況下で囲んで攻め立てれば、金星キンボシが手に入ると!


「使わないなら使わないで、死ぬし、巻き添えで大勢死ぬな。せいぜい悩め。オレは好きに暴れるだけだ……!」


 GYRRRRR……!


 そんな中、周囲の様子を超然と無視して、嗜虐的な笑みを含んだ唸り声の様な音を立て再びラトゥルハの手首が旋回。


「折角オレはその為に生まれてきたんだ! 楽しませろ!」


 そして再びその両腕が火を吹いた!



 その光景を、遥か彼方から十弄卿テンアドミニスター達は観測する。


 『交雑クロスオーバー』『文明サイエンス』等〈王国派〉は、『反逆アンチヒーロー』ラトゥルハのバイタルデータを観測しながらナアロ王国王都コロンビヤード・ワンの作戦司令室で。


 一方〈帝国派〉の面々は、『情報ネット』がその欲能を使い各自に情報を伝達していた。それを『旗操フラグ』は『常識プレッシャー』ミアスラと『同化ドラッグダウン』テルーメアが傍らで眠るベッドの上に身を起こし、恐ろしく真剣な、殺気すら籠った表情で観察する。己が守るべき少女達を庇う様に。


 『悪嬢アボミネーション』は、豪邸の窓際で『恋僕ファンメル』達を従えながら眺める。己が伏せ札たる男とその視覚を共有しながら。


 そして『大人ビッグブラザー欲能チート』その名をゼタ・ラ・ブイムと、『正義ロウ欲能チート』その名をマシナ・ミム・カタは、それぞれ『』をしながら見守っていた。


「ああそうだ、全て気にする事は無い。『』。ここでこれ以上の混乱が起これば、〈戦争戦災対策国際会議〉はどうなる? 揉み消せ、いいな」


 ZIZI、ZIZIZIZI……!


 『大人ビッグブラザー』の重厚で酷薄な壮年男性の顔が、電光で照らされる。その欲能チートの効果が行使され、彼の部下を『大人ビッグブラザー』の指先から放たれる電光が捉えていた。操り人形に繋がる糸の様に。……この街を戦場とする為に操っているのだ。


「そうだ。筆頭大臣閣下のご許可も得ている。『』。手向かう者は排除せよ」


 全身鎧を纏う騎士姿の『正義ロウ』もまた光輝き、欲能チートの行使を行っていた。


 何れもそれは各々の欲能チートの一端に過ぎず……


((さあ、見せてもらおうか))


 それぞれ秘めた力を使う機会を、使う相手を、虎視眈々と見定め続けていた。

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