・第四十一話「大悪夢!恐怖の娘、強敵『反逆』の挑戦!(後編)」

・第四十一話「大悪夢!恐怖の娘、強敵『反逆アンチヒーロー』の挑戦!(後編)」



 ZDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDD!!!!!!!!!


 獰猛な笑みと共に『反逆アンチヒーロー欲能チート』ラトゥルハ・ソアフ・シュム・アマトは攻撃を再開した。これまで〈欲能を狩る者達チートスレイヤーズ〉の最大の武器であった【真竜シュムシュの地脈】を逆に用い、全身に仕込まれた魔法兵器を連射連射連射!


(って感じです!)(分かった!)


 だが、その一瞬前にリアラとルルヤは、【真竜シュムシュの宝珠】で最小限度の情報交換を終えていた。幾つかの符丁を使い、極短のメッセージで互いに情報を共有。


 そして連射開始直前にリアラとルルヤは左右に走っていた! ラトゥルハを左右から挟むような機動!


 ルルヤは同時に手傷より竜術使用効率回復の為ビキニアーマーの手甲と肩鎧の自己修復に【真竜シュムシュの血潮】の効果リソースを集中。それを追って薙ぎ払われるラトゥルハの両腕から発射される装填式攻撃魔法機械指機関砲マルチマジカルマシンカノン! 回避した攻撃が飛んでいく内の人のいる建物のある方へ【地脈】不使用の最低限の【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】が展開、辛うじて周辺被害を防ぐ!


「くく! やる! けど! 何時まで偽善者ぶりが続くかな!」


 左右に別れた事で正面を狙う内蔵武装は使用不能。だが笑うラトゥルハ。民家に飛ぶ攻撃をわざわざ防ぐリアラを。そして……


「え、ぐわぁっ!?」「な、うぎゃあっ!?」「危なっ!?」「……!!」「げぼっ、て、てめえ『反逆アンチヒーロー』! 何しやがる!」


 流石に庇う余裕がないので放置される道路や彫像や噴水と違い、庇う義理が無いので纏めて薙ぎ払われる回りに集合しそれぞれにリアラとルルヤを襲おうとしていた〈超人党〉の連中を。辛うじて『和風パトリオット』と『虚無ウチキリ』はかわしたが、欲にかられて射線に突っ込んだ他の面々はもろに食らって吹き飛ばされ、その中で比較的体の頑丈な『暴走ツッパリ』が抗議と怒りの叫びをあげるが。


「知るか! オレは好きにする! お前らも好きにしろ!」


 仲間の命等皆目頓着せぬ、どころかそもそも欠片も仲間と思っておらぬ。そんな口調で叫びながら更にラトゥルハは両肩鎧の内蔵武装を起動! 竜の頭蓋を象った肩鎧の眼窩から破壊光線の【真竜シュムシュの眼光】を、両頭蓋にとっては正面である左右に回ったリアラとルルヤに発射!



(おいおい、こりゃあ……ヤバい奴じゃねーか……!)


 遥か彼方から戦場を観察する『旗操フラグ欲能チート』は同じベッドの傍らで眠る女達を起こさない為に無音に圧し殺した引き攣った引き笑いを浮かべて。


「……怪物ね、あいつ。まあ、私達も人の事言えないけどね」


 同じく彼方より眺める『悪嬢アボミネーション欲能チート』も流石に眉を顰めた。



 しかしそんな事はこの場においては関係ない事。ラトゥルハは猛り……そしてリアラとルルヤは抗う!


 リアラは【真竜シュムシュの翼鰭】を展開して飛翔回避! 『虚無ウチキリ』も巻き添えを受けそうになって慌てて回避! 夜空を閃光が切り裂く!


 ルルヤは肩鎧を回復させながらスライディング回避! 道路にクレーター! 爆発で巻き上げられる瓦礫と土に『和風パトリオット』が飛び退く!


 更にラトゥルハの頭蓋型両肩鎧が変形! 口を! 開く!


「【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】!!」

「【月影天盾イルゴラギチイド】!!」


 リアラとルルヤはそれぞれ竜術を防御に使い炎の中を突っ切った。幸いこの【息吹】は他の武装と比べ貫通力には劣る! 防御成立! 白兵戦の間合いに!


「こう近づけば!」「どうだっ!」「上等っ!」


 【真竜シュムシュの骨幹】で剣を形成したルルヤ、同じく【骨幹】で内臓魔法火器を使われぬ様に出来るだけ接近する為短い間合いで使える武器を選び片手に鉈片手に斧を装備したリアラ、それに対抗してラトゥルハは攻防両立の為両手の鋭い鋼の指に【真竜シュムシュの爪牙】を付与して受けて立つ!


 GRIN! GAIN! GIRLN!


 スライディングから立ち上がり踏み込む力を乗せたルルヤの突き、飛翔急降下からの速度と体重を乗せたリアラの振り下ろし、何れも【真竜シュムシュの武練】の技。


 だがそれをラトゥルハは受け止めた。指を揃え肘から先を一本の刃とした様な腕をルルヤの剣の切っ先と擦り付け絡める様にして突きを逸らし、その反動を体の中心を軸に回し、腕を払う様にしてルルヤの振り落としを横から叩いて防ぐ。これは。


「【真竜シュムシュの武練】!?」

「過去の戦い、見せて貰ったぜ! 教わる程度にな!」


 魔法だけではなく武術までコピーしている、驚くリアラに楽しげにファンめいて語ると、ラトゥルハは防御の用は済んだとばかりに装填式攻撃魔法機械指機関砲マルチマジカルマシンカノンと【眼光】でリアラを狙い。


「だが、まだだっ!」

「がはっ!?」


 それをさせぬルルヤの一撃がラトゥルハの細腰をしたたか叩いた。突きを反らされた瞬間からルルヤは旋舞するが如き動きでラトゥルハの懐に飛び込んでいた。その遠心力と再度の振り込み、【真竜シュムシュの爪牙】と更に月の【息吹】グラビトンブレスを合わせた黒い霊光オーラを纏う掌底に、溜まらずラトゥルハは体をくの字に折る。


(【鱗棘】【血潮】は向こうも使っている、だが!)

「昔の私程度だ! 技はともかく実戦経験はな!」


 殴った感触からルルヤは分析する。相手の防御力は自分達と同等。即ち欲能チート等の絡め手への耐性も回復力も高いが、『神仰クルセイド』の防御法術や特殊取神行パラクセノスヘーロース、『増大インフレ』の肉体ほど出鱈目な防御力ではない!


 BAGI!


 ルルヤ、連撃! 跳ね上げた肘でラトゥルハの顎をかちあげる!並の相手なら顎の骨を粉砕していただろう一撃! だが!


「げはっはぁっ!」


 打ち込むルルヤに、噎せながらも笑いながらラトゥルハは反撃した。膝棘の雷や爪先の溶岩奔流マグマウェーブ装填式攻撃魔法機械指機関砲マルチマジカルマシンカノンを使うには自爆や通電の可能性があり、両肩鎧の【眼光】を使うには射角的に近すぎる。両目の【眼光】は警戒され【息吹】と合わせかちあげで防がれた。それでも尚。


 DOM!


(この程度!)


 膝蹴り。だが、ルルヤは腹筋で耐える。踏み込みが乗りきっていない。膝に棘がついているとはいえ、此方の腹も【鱗棘】で覆われている。故に、この程度……


 Z D G A M M ! ! ! ! !


「がはぁっ!?」


 そのルルヤの認識を上回る破壊力が雷を百発束ねた程の轟音と共に炸裂! 腹部に向こうが見える風穴を開けられ、激しく血飛沫を巻き散らかしながらルルヤは倉庫の壁に叩きつけられ、その衝撃だけで分厚い壁にクレーターじみた凹みが出来た!


「ルルヤさっ……」


  Z D G A M M ! ! ! ! !


 攻撃を弾かれたリアラがそれを見た。阻止は間に合わなかったが追撃を阻止しようとした。そのリアラめがけて今度は膝蹴りではなく踵蹴りヒールキックをラトウルハが放ったと見えた瞬間、再び百雷の如き轟音!


「ちいっ!」

「それか……!」


 それを間一髪リアラはかわした。三つ編みが吹っ飛ぶ。吹っ飛ばしたのは、膝下と同じ程の長さに延びたラトゥルハのピンヒールだ。いや、それはピンでは無いヒールを伸ばした瞬間、膝の棘が無くなっていた。よく見ればそれが一直線上なのが分かる。恐らくルルハの腹を穿っ瞬間には逆にヒールが無くなっていたはず。即ちそれはピンでは無くパイル


「そのパイルバンカーでルルヤさんを!」

「当たりだ! よく一瞬で……」


 膝の方向にも踵の方向にも電磁力で射出可能なパイルバンカー! 感電攻撃では自分まで通電しそうな距離で使う為の電力の応用、いや元々こちらパイルバンカーが主攻撃手段で電撃が副次的攻撃手段か。いずれにせよ、屠竜武器の魔法剣を鋳潰して鍛造しただろうそれは恐るべき攻撃力!


 ZGINN!


「つっ、よく一瞬で反撃したなあ! 賢しいなお母様!」


 しかしそれをルルヤが食らった一発で見抜いたリアラは即座に反撃した。かわしたラトゥルハの蹴り足に鉈を一太刀! 足首を捉えた、血の代わりに火花が散り、装甲が軋む。体勢を乱すラトゥルハだが。


 ZAPZAP!



 その両肩鎧の眼窩が反応、【眼光】を連続して打ち込む。それを身を低くして避けたリアラ、更にもう一撃を見舞う。ブレイクダンスめいて地面を転がり、更に道路に引っ掛からないように展開角度に気をつけた【翼棘】で勢いをつけながら再度狙ったのはラトゥルハの足首だ。一撃命中。更にその反動で回転し、リアラはラトゥルハの背後至近距離まで回り込む。肩鎧眼窩の射角外に。


 もう一撃リアラは、武器では断ち切れぬと見て単分子ブレード化させた【翼鰭】を当てる心算であった。パイルバンカーがあの構造であれば足首の中に杭が通っているという事であり、足の動きはそれほど柔軟にする事は構造上不可能、ならば【真竜の武練】の他の技は兎も角足捌きまでは柔軟にはいくまいと!


「させるかぁ!」

 GRIN!

「うわぁ!?」

「かはっ…ぶはぁっ!?」

 ZAP! ZAP!


 それに対し、ラトゥルハは物凄い奇襲攻撃を行った。流石のルルヤも驚き叫ぶ。何とラトゥルハの首が180度回転して真後ろを向きリアラ目掛けて【眼光】を発射! 当然正面には後頭部が向く訳で、腹に風穴が空いて壁に叩きつけられた状態でルルヤは血反吐を吐きながら立ち直ろうとした瞬間にそんな光景を見せられて思わず叫んで己の血で噎せたほどだ。


「また避けた! やっぱり賢しいな!」

「そうでもないっていうか君の作り主の嗜好が理解できるんだよ設計思想がべたというか王道というかあるあるなんだよ!?」


 仰天の奇襲をかわすリアラを苛立ちながらも評価するラトゥルハだったが、リアラからしてみればメカ怪獣で連想はしたがまさか一応外見美少女がやってくるかは半信半疑だったが想像はしていた動きそのものだったから避けられたとも言えた。先のパイルバンカーもメカ怪獣の元ネタにはなかったが、いかにもマッドサイエンティスト趣味の奴ロマンチストなら付けそうな武装であった為対応できた。ただそれはある意味、リアラの前世のオタク知識とはいえラトゥルハの言う通り知識と知恵の力であると言えない事もない。


 BOM! GYRRII!


「くっ! そんなんもあったかっ!」

「在った! だから当たらない! なんてな!」


 だがそれを以ってしても尚追いきれない。追撃に斧を投擲したリアラだったが、敵もさるもの。『文明サイエンス』も動作時に足首の可動範囲の狭さは理解していたらしく、足に車輪ローラーダッシュを仕込んでいたのだ。その車輪を回し高速旋回、斧を避けるラトゥルハ。


 その時である!


「今だぜぇっ!」


 しばらく続いた白兵戦、攻撃魔法のリアラへの集中、ラトゥルハの回避行動、吹き飛ばされたルルヤを、好機チャンスとばかりに再び〈超人党〉が襲撃!


「『聖痕激風スティグマータウィンド』!!」

 DOWAOOOOOO!!

「おらぁっ!」

「……っ!」


 GRIP! CRAAASH! GIN!


「食らえっ!」

「SUPER RAY!」


 BIN!


「【PKSYLLLLLLL】!!」

「YEEEEEART!」


 一瞬の乱舞。『虚無ウチキリ』が突風で薙ぎ払う中、『暴走ツッパリ』がルルヤの腹の貫通創目掛けて思えばラトゥルハに搭載されたもののプロトタイプであろう機人化車輪サイバーローラーダッシュを回して殴り掛かり、同時に『最大カンスト』もまたルルヤに斬り掛かる。『栄光ヒーロー』がリアラ目掛けてラトゥルハや過去に『鮫影シャークムービー』が出現させた超能力鮫X-JAWSと同じく眼から破壊光線を発射し『和風パトリオット』が欲能チートで架空の達人的精度と誇張された超人的威力を得た弓矢で同じくリアラを狙った。


 それに対してルルヤは血反吐を吐きながらも対決、剣持たぬ手で『暴走ツッパリ』の勢いを逆手にとって投げ飛ばす。


「うおわあああああっ!?」


 自分の速力とルルヤの腕力と体重移動と【息吹】の三乗効果で重い機人化体サイボーグボディを塔より高く投げ飛ばされ道路にめり込む『暴走ツッパリ』。続いて切りかかった『最大カンスト』の攻撃も鍔競り合いで受け止めるルルヤ。傷口からどくどくと血が流れ苦悶に唸る。パイルの材料となった魔法武器が屠竜の業物故再生阻害の効果が付与されているか。


 同時【咆哮】で射撃攻撃を逸らすリアラだが『和風パトリオット』も強力な東洋的精神集中オリエンタリズム・カリカチュアで跳ね返すまではさせぬ。


 殴り掛かる『栄光ヒーロー』と同時に更に斬り掛かる『和風パトリオット』。今度は手首を取って受け止める余裕もなく、誇張された日本刀の切れ味ですっぱりと切り飛ばされる鉈!


「雑魚と遊んでる場合か!? ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


 そしてお構い無しに乱射乱射乱射、ぶっ放し続けるラトゥルハ! 激闘が! 続く!リアラとルルヤ、『反逆アンチヒーロー欲能チート』にして第三の真竜シュムシュの戦士ラトゥルハ・ソアフ・シュム・アマト、そしてナアロ王国〈超人党〉。その戦いは、実質三つ巴といっていいレベルでの大混乱となった!


 ZDDDDDDDDDDDD! ZAPZAPZAPZAP!


 装填式攻撃魔法機械指機関砲マルチマジカルマシンカノンと【眼光】が夜の町を切り裂きリアラ・ルルヤと〈超人党〉を分け隔てなど面倒とまとめて攻撃する。


「ちいっ! 『虚無ウチキリ』ウィング!」

「危ないわっ!」


 上空から攻撃していた『虚無ウチキリ』は機人化体サイバーボディからマントじみた羽を展開して即座に離脱、『和風パトリオット』もまた八艘跳びめいて回避した。リアラを襲っていた相手で逃げ切れなかったのは『栄光ヒーロー』だ。


「ぐわぁああっ! 熱い熱い熱い! 燃えるぅうう!?」


 背中のマントがナパームを受けた様に炎上し一体化したボディスーツに延焼、火達磨となり転げ回る『栄光ヒーロー』。死なないあたり十弄卿テンアドミニスターの全力である取神行ヘーロースに次ぐ身体能力を有すると豪語する〈超人党〉だけはあるが、最早攻撃どころではない。


「くうっ、はぁっ、やっぱり、【地脈】抜きだと、魔法力が……」


 リアラは回避と【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】を必死に併用し凌ぐが、いくらこれまでの数々の戦いで成長したとはいえ本来【真竜シュムシュの地脈】と組み合わせて使用する専誓詠吟である【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】。ラトゥルハの存在自体が【真竜シュムシュの地脈】の使用に制限をかけるこの状況。たちまち消耗し手傷を増やしていく。


 既にラトゥルハのパイルバンカーを食らって重傷のルルヤは尚更危ういが、その戦闘センスは幸い咄嗟の一手を産み出した。


「ちょうどいい! 逃がさん!」

「あがががががががが! あっぎゃああああああ!?」


 『暴走ツッパリ』を投げ飛ばした後で鍔競り合っていた『最大カンスト』」の腕を捉え捻りあげる。ルルヤと互角以上の魔竜すら上回る身体能力を持っていた『最大カンスト』だが、背後のラトゥルハと眼前のルルヤにどう逃げるか一瞬迷った隙が仇になった。


 その結果が、腕を捻り上げられての人間盾である。装填式攻撃魔法機械指機関砲マルチマジカルマシンカノン、両目と両肩鎧からの殺人光線【眼光】、膝棘からの雷撃、足からの溶岩奔流マグマウェーブが次々と直撃。こちらも豪語した身体能力を耐久力だけ披露する羽目になる『最大カンスト』だが、そのダメージは『栄光ヒーロー』の比ではない。さながら燃えるプレス機にかけられたコンビーフ缶のごとく、鎧も肉体も滅茶苦茶に破壊されていく!


「くう……!」


 肉盾で致命傷を免れているとはいえルルヤも完全に無傷とはいかぬ。手甲脚甲肩甲、そしてその下のしなやかな白い肢体に幾重もの傷が走る! 死に物狂いでもがく『最大カンスト』の肉体を押さえつける度、腹の傷から血が迸る。


「ハハハハハハハハハハ! どうした! どうしたぁ! この程度じゃつまらないぞ! 俺に笑う余裕を許すつもりか!? もっと! 来い!!」


 それまでリアラとルルヤに力を与えていた【真竜シュムシュの地脈】。竜術を欲能チートで使用可能とする事で地脈から魔法力を汲み出すのは今やラトゥルハだ。リアラとルルヤがそれ以上魔法力を組み上げれば都の住人を吸い殺しかねないという問題に束縛される!


「オレはまだ全力も本気も出していないぞ! この! 程度か!?」


 それに構わずラトゥルハは活火山の最大噴火が如く火力をばら撒き続け……!



「なんたる無様だ。『交雑クロスオーバー』、貴様の兵が何人死のうがどうでもいいが、我々にあんな狂犬と轡を並べて共闘しろと言う心算だったのか!? 貴様は!」


 状況を観察していた『大人ビッグブラザー欲能チート』は憤り、通信越しに『交雑クロスオーバー欲能チート』に対し言葉を荒げた。同士討ちの巻き添えフレンドリーファイアーを食らう〈超人党〉の面々、それに同情心が沸いた訳では勿論無い。天真爛漫で奔放な狂暴さの儘に暴れ回る『反逆アンチヒーロー欲能チート』。都を巻き込むその暴虐に怒りが沸いた訳でもない。


「貴様が貴様の王国の支配者であるように、我々も我々の帝国の支配者だ。私はこの帝国の筆頭大臣だぞ。我々の所有物たる都を戦場として民を人質として貸してやっているというのに、その上あんな狂犬の流れ弾を我々に被らせる心算だったのか!?」


 食って掛かるのは『反逆アンチヒーロー』の戦いぶりに関してだ。


 本来〈除虫屠竜デバッグドラゴンスレイ〉計画では、【真竜シュムシュの地脈】封じが確かに成功するかを確認する今回の戦いの後、【真竜シュムシュの鱗棘】による絶対的な効果を持つ欲能チートや『邪流ジャンル』の無効化に加え力の差を補う為に【地脈】を使えるからこそ十弄卿テンアドミニスターと互角に戦える〈長虫バグ〉を、諸島海では混乱が発生したが『反逆アンチヒーロー欲能チート』に加え今度こそ十弄卿テンアドミニスターを複数繰り出して確実に仕留めるのが本来の作戦だった。


 つまり、本番では今の〈超人派〉の様に自分達も流れ弾を食らう羽目になるのか、冗談ではない、試運転をする事を主張したのは間違いではなかったと『大人ビッグブラザー欲能チート』は怒る。


「『反逆アンチヒーロー』は貴方の被造物クリーチャーだ、『文明サイエンス』翁。もっとマトモな兵器として運用出来ないのか? 【地脈】封じの為に生命力を少し吸い取る程度ならいいが、帝都の秩序を預かる宮廷騎士団の長として、私の騎士団とそれだけではなく関連する我等が組織の人間を束ねる身としては、被害拡大は本来最小限度に止めて欲しいのだが」


 連合帝国で宰相に近い地位を持つ筆頭大臣の『大人ビッグブラザー欲能チート』ゼタ・ラ・ブイムに加え、宮廷騎士団長を表の顔とする『正義ロウ欲能チート』マシナ・ミム・カタもまた〈帝国派〉欲能行使者チーターの身の安全を絡めつつ抗議した。


「ふむ、それについてじゃがな」


 それに先に答えたのは『文明サイエンス欲能チート』だ。


「至極単純な話じゃが不可能じゃ。『反逆アンチヒーロー』は【地脈】封じの為に真竜シュムシュの竜術を使える必要がある『発明品マクガフィン』じゃ。となれば当然〈長虫バグ〉と同じく【鱗棘】による外部からの支配的干渉に対する抵抗力を備える。遠隔操作は不可能じゃ。ついでに言えば竜術を使えるようにする『反逆アンチヒーロー欲能チート』が形成される形に魂を歪めた時点で、あの人格が形成された。それゆえに従順とはいかぬ」

「欠陥兵器ではないか!」

「仕様じゃ」

「言い訳を!」


 だがその言葉は周囲を巻き込む『反逆アンチヒーロー』の暴れぶりに完全に開き直るもので、流石に『正義ロウ』も声を荒げる。だがそれも『文明サイエンス』にとっては蛙の面に小便であり。


「『反逆アンチヒーロー』の力無しで、【地脈】封じ無しで勝てるというなら、そうすればいい。それはあの『神仰クルセイド』にもあの『増大インフレ』にも出来なかったことだ。出来る心算か?」


 まして『交雑クロスオーバー』は歯牙にもかけぬ。仮面越しでありながら、愚かな新参者が偉そうにという様子を隠しもしない。尤も第三位たる彼は、それこそ会議の場でこそ第二位たる『永遠エターナル』に対しては丁寧に応じたが、内心は『永遠エターナル』も嫌悪しており、まして戦場で対立した時には命を奪おうとするに遠慮も会釈もないのだ。それに比べれば下位かつ新規ましてや他派閥の十弄卿テンアドミニスター等下郎も同じ。


「無論、我々は己の力のみに頼り既に滅んだ愚か者達ではない。力を振り回すだけではなく、理知的な運用が必要だと言っている。(若造が……!)」


 だがそんな『交雑クロスオーバー』相手でも、十弄卿テンアドミニスターは皆己が世界認識を絶対とする歪んだ魂だからこそ成った者達だ。派閥としての引き上げがあったとはいえ『大人ビッグブラザー』も同じこと。『大人ビッグブラザー』の憎悪と『交雑クロスオーバー』の冷徹が交錯する。


 その状況を観察しながら、『情報ネット』は静かに考え続ける。無表情で肯定的な笑い、言わば阿諛追をその顔に張り付けたまま、そのやりとりを『悪嬢アボミネーション』と『旗操フラグ』に流し続ける。


 『悪嬢アボミネーション』と『旗操フラグ』は、それぞれに動く決意を固めた。



 そしてそれら全てを、『全能ゴッド欲能チート』は、『永遠エターナル欲能チート』を従え眺めている。眼前の相手も眺める自分達も承知の上で『交雑クロスオーバー』がかく振る舞い、『全能ゴッド』と戦い続けている事を。



 『交雑クロスオーバー』もまた、一切『全能ゴッド』を見る事無く、『全能ゴッド』と戦い続けていた。



 そしてそんな中、リアラとルルヤと『反逆アンチヒーロー欲能チート』ラトゥルハ・ソアフ・シュム・アマト達との戦いは一晩中続いた……!

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