・第三十八話「大悪夢! 恐怖の娘、強敵『反逆』の挑戦! (前編)」
・第三十八話「大悪夢! 恐怖の娘、強敵『
「……始まるわね」
夜。連合帝国双都が一、エクタシフォンの壮麗な館のバルコニーから、帝国有数の大貴族、治爵エノニール・マイエ・ビーボモイータ……
その呟きは〈
「ええ……安心して下さい、貴方は、守ってみせます」
彼女の傍らには、金髪碧眼でこの国の第一帝龍太子と比べ遥かに女性が夢見思い描く〈王子様〉に近い印象の美青年が、貴族の装束に帯剣し侍るが如く控える。
「おお、任せておけ」
赤茶の髪に逞しいが過剰に暑苦しすぎない体、その体に似合う男性的だが優しげで、純朴な男を好む女が愛するだろう感じの容姿をした戦士が、同意し頷く。
「何だったら、様子見てこようか?」
猫種獣人の可愛らしい少年が、バルコニーの手すりに腰かけて遠方を見て呟く。
「不要です。事前に準備した魔法で、事の推移は手に取るように分かります」
「ちぇー」
それをやや強く窘める、鋭い眼光に眼鏡、学者風の出で立ちに整った鼻筋とシャープな顔立ちと鋭い目、クールでツンツンした美形がタイプの女には堪らない美青年。
さながらというかどう見ても乙女ゲーめいた光景だが、『
(今は気分じゃないわ)
必要な気分になれば愛を囁かれよう。けれど今はその気分ではない。だから、それ以上なにも発生しない。それに、彼らは何も反応しなければ文句も言わない……彼等は、粛清された『
彼女の欲能『
他の
転生先の生まれはぱっとしないながらも『強く美しい男性に出会われ好かれその男性達に強い力を与え彼等との暮らしに邪魔な相手が運命によって排除される結果を生む』という
それを殺し力を奪えたのは、派閥抗争の結果と……
(私は、あの馬鹿のようにはならない。こんな人形共に情は移さない。傅かれる以上の快楽は求めないし、世間の当たり前なんかに従ったりしない。善や清純や人道が栄えるなんて当たり前なんかには)
『
((貴方は……虚しくないの? ))
((下らない。贅沢者の戯れ言だわ。こんな贅沢な身なりの私が言うのは間違ってる? 物質的に贅沢でも精神的に贅沢かは別よ。私は飢えて登る側、貴方は肥え太った狩られる側。貧富が逆でも、誰が否定しようと、そうだと言ってやるわ))
殺す間際、清楚な身なりで栗色の髪の可憐な『
(悪として私は生きる。悪のままで、物語の主役なんかに勝ってみせる。いいえ、勝った、そして、次も勝つ)
少女漫画や乙女ゲームのヒロインのようないかにも清純な美少女。そんな存在が身近にいて、そんな女への憎悪と対抗心に身を焦がして死んだ前世。今度こそそれに勝つと成し遂げた今世。
「勝つわよ。……勝ち続ける」
『
(下らねえ、今更自己暗示してるようじゃ、生き残れねえぞ。油断への注意以外は、きちんと我欲で埋め尽くしておくんだな。それが、迷いのない速度を生む)
(節穴の目と聞き間違いしかしない耳なら、『
返答してきた思念通信に、噛み付き引っ掻くイメージで返答する『
『
(人形といえば)
作戦第一段階においてはまずは状況を見守るべき立場である為に、待機時間にとりとめなく回想と通信を重ねていたが、最終的にこの作戦の要である最新の
(あいつは、作り物だけど……)
あの意思はどこまでが作り物で、どこまでが彼女自身なのだろうか。いや、あれを彼女と表現していいのかも分からないし、その有り様もこれからの戦いでこそ明らかになるだろうが。
いずれにせよ、あれは強い。途方もなく。あの力さえあれば勝利は安泰……そう思っていいのだろうかという懸念が胸に沸くのを『
HYOOOOOO……!
鏑矢の音。事前通知の連合帝国での玩想郷と〈
「……始まった」
『
ナアロ王国首都コロンビヤード・ワン、〈
連合帝国第一双都エクタシフォン直通超空間ワープゲートポータル。
「さあて、それじゃあ俺達が先陣だ」
「てめぇらはせいぜい、ゆっくり後方で後始末してな」
地下会議室に設えられたSF的なワープ装置を前にして、出撃前に意気軒昂に自分達以外の
それに加えて諸島海での戦いに加わり十弄卿とやりあった『
ざんばら髪に猛々しい容姿、大袖、栴檀板、鳩尾板、籠手脚甲という簡略化した大鎧の部品をつけ太刀を帯び弓と箙を背負った若武者風の『
そして一見全身鎧を来た冒険者だが、まるでMMORPGの重課金者か廃人プレイヤーか、さもなくばTRPGのロングキャンペーンの末尾も末尾の上がるだけ上がったステータスと貯めるだけ貯めた財力にものを言わせレアアイテムを大量に買い漁りビジュアル的な要素や一人の人間がそんだけの装備を抱え込むのが不自然ではないかなどの書要素を無視して大量の装備を抱え込んだ様なごてごてした出で立ちそれを支えられる屈強な肉体をした『
別任務についている『
「精々死なない程度に〈帝国派〉と仲良く遊んでくることだな。出来れば、だが」
それに答えるのは緑色の軍服に身を包む黒髪幼女〈軍鬼〉。そしてその傍らには整っているが個性に乏しい顔の『
「そうそう、この作戦は向こうとの連携が鍵だ。連絡網を構築した私の顔を潰さないでくれよ」
それにそう続けたのは
そしてこうして横に並ぶと〈軍鬼〉の緑色の軍服は旧日本陸軍をイメージしているのだという事がよく分かる、白い旧日本海軍第二種軍服に神主装束風のアレンジを施した装束を纏い同じく神道様式風の紋様の書かれた無貌の仮面を被る男性、傍らに宝剣を帯びた美形の男性と軍船を象った鎧を纏う美女を従える『
国王エオレーツ・ナアロ直属でこの場にいない『
その名の通り超人として玩想郷王国派の依頼を受けて独自単独活動する〈超人党〉と違いあくまでナアロ王国の軍人としてその指揮系統に従い、その征服の実務を遂行してきた。
この二派閥には、少々の対立が存在する。己が欲能で世界を思うが儘に蹂躙する典型的な
事実直接戦闘能力においては、〈軍鬼〉と『英雄』の例外を除けば〈軍人党〉の面々は束になってかかっても〈超人党〉の欲能行使者一人に敵わない。尤も『
〈軍人党〉から言わせれば、自分達が存在するからこそナアロ王国軍ひいてはナアロ王国と〈王国派〉が存続運営されているのであり、〈
(『
(自分達が実験動物だと理解できぬ。制御不能の獣共め。〈TR計画〉の段階が進み、新兵器が揃えばお前らなどお払い箱だ)
「出撃!」「「「「応! ! ! !」」」」
一瞬の視線の交錯の後、〈超人党〉一団がワープゲートを潜る。エクタシフォンにおける〈
「我々も始めるぞ。北部方面軍に命令。作戦名〈
〈超人党〉転移と同時に、〈軍鬼〉が踵を返した。〈軍人党〉がそれに続く。連合帝国とはまた別の場所でも、戦いが動こうとしていた。
「とはいえ、それもこれもあくまで、情報の一部に過ぎない」
暫時後。傍らに『
「場が広がりすぎては自分達だけではどうしようもない事は、もう把握している筈だ〈
「はい。敵側の配置、基本はエクタシフォンへの結集ですが、それ以外の動きをしている気配もあります」
「魔族の掌握状況も予定より乱れとるな。どうも少々は搦め手を打っておる奴が向こうの仲間にもおるようじゃ。ま、王手詰となれば無意味な布石じゃが」
『
「エクタシフォンでの戦いは、軍団を率いての戦ではなく。こちらの軍団の挙動も、あくまでエクタシフォンにおける状況の変化に最終的には収束する」
真竜の力が加わると、それを完全に予知するとはいかない。その事に改めてすまなそうに俯く『
「強いて言えばボードゲームやウォーゲームに例えるよりトレーディングカードゲームじゃのう。場札に手札、伏せ札に山札。さて、どうなる事やら」
ひょっひょっひょっ、と、遊戯に例えて『
「少なくとも、わしの札は強力じゃぞぉ?」
全ては遊戯と、楽しむがごとく。
そしてその夜遅く、リアラとルルヤはそれに遭遇した。
「その手を離せっ!」
ルルヤの叫びが夜の路地裏の空気を凛と震えさせた。それは唯の脅しではない。この叫びも相手の隙を伺う一手だ。そいつが何かしでかそうとすれば、即座に重力の【息吹】を発動させ、そいつがその手で捕らえた人質を弾き飛ばすつもりでいた。ルルヤの【息吹】は度を始めたその時でも、人質を取る敵が人質の喉笛に突き付けた短剣が喉笛をかっ切る前に地面に叩き落とす速度と範囲を持つ。
今相手の手の内に捕らえられた人間はボロボロにされ口から血泡を吹いて悶絶し胸倉を捕まれており、十分な速度でもぎ離せば追加の負傷を追わせる事にはなるだろうが、仮に相手がその掴んだ手から攻撃魔法を発射できるのであれば、その勢いでぶっ飛ばさない事には撃ち抜かれて人質は死ぬ。
「フン……!!」「ハァッ!!」「はぐぁっ!!?」
見定める最中の一瞬、その胸倉を握る相手の腕が僅かに動き、同時にルルヤが【息吹】を放った。捕らえられていた髭面の大男は胸板に火傷を負い吹っ飛ばされて廃屋の壁に叩きつけられ床の石畳に打ち付けられるが、幸い死んではいなかった。この状況なら、死ななきゃ安い。
「ククッ……~~~♪」
「……こいつ……!」
そしてそれを捕まえていたそいつはフードつきローブの奥で喉を鳴らし笑い、口笛を吹いた。鼠で遊ぶ猫の如くズタボロにした男、ダビンバ・ロス・ドバス将軍は連合帝国随一の武将と知られた男だが、そいつは所詮退屈しのぎの玩具だったらしい。その手からルルヤが将軍を弾き飛ばす間に、改めて二人に隙なく向き直っていた。将軍襲撃は十分テロだが、ローブの相手にとっては暇潰しと宣戦布告と改めての対象の為の玩具に過ぎないと言う事か。
リアラはその、フードつきローブの中から鋭い爪先を持つ手甲を出した姿をみて、緊迫に視線を険しくしていた。直視して改めてその異常性に気づく。そいつの気配は、実に色々な力を帯びていた。
リアラの緊迫の気配はルルヤにも伝わる。相手がこちらを挑発するように掴んだ男への攻撃の気配を見せつつ、直前まで見せた殺気を鮮やかに捨て、無駄な荷物を捨てて己へ向き直って見せたその一連の動きの、殺意のコントロールと隙の無さが見事だったからだ。
「……お前は、何だ」
リアラは問う。相手の体に流れる力は、魔法、
「見せてやるよ、それと、挨拶もしないとな……」
答えが帰ってきた。ローブの奥から。荒々しくハスキーだが少女の声だ。獰猛で獣の如き、いや。
「初めましてお父様お母様、ってな!」
竜の咆えるが如き声でそう叫ぶと同時に、轟、とばかりに姿を隠していたローブが一瞬で燃え尽きた! 露になるその姿!
ローブの裾から見え隠れしていた足元は、膝までを一分の肌の露出もなく覆う金属の脚甲、否、膝にスパイク、鋭い爪先と尖ったピンヒールを持つそれは脚甲ではなく膝から下が機械化されているのだ。
膝から下と同じく、手甲と見えていた肘から先もだ。鋭く尖った爪先を強調するように、準備運動めいてぐるりと回す手首の動きは明らかに通常の関節を無視して数回転旋回している、機械なのだ。
引き締まった太腿と腹部等は剥き出しではなく、全身を少し色白な地肌の色が透けるかどうかの薄さのダークブルーのストッキングじみて見えるボディスーツに覆われているが、その小降りだが美しく滑らかなヒップとバストを覆うのは、腰を覆う部分はやや鎧としての要素が強くてごつく対照的に胸を覆う部分は随分小さいが、紛れも無くビキニアーマーだった。
肩鎧は直線的で鋭く大きくローブ越しにも奇妙に肩幅が広く見えたのはこの為か。馬上槍の穂先と飛竜の頭蓋を合わせた機械といった風で、嘴が左右に尖り、立体視可能かつ視界の広そうな両目眼窩を象った意匠もある。
そしてその頭は、鉢金から生える角は両側頭部から水平に伸びた後直角に曲がって天に尖り、紫色の髪はギザギザと跳ね鉢金とセットの髪飾りで結った一房だけ尾の様に長く、腰どころか踝まで届く程だ。その頭を支える細い首には、チョーカーというにはごつく首輪と言うには
その顔は竜が併せ持つ諸獣の相の中では猫科の猛獣に近い印象の、しかし同時に妖精じみて愛らしい容姿で、だが尚表情においては凶暴さが勝っていた。耳は
そして群雲の夜空、晦冥の海、日食や月食を司る古代神話の暗黒星、宇宙の暗黒面を思わせる色を帯びた三人目のビキニアーマー美少女戦士は、自然界に存在しない不浄に病んだ炎のような禍々しい熱の篭った叫びで名乗りを上げて……
「名乗らせて貰う! オレは
……リアラとルルヤの二人に何処か似た顔に、戦慄する程滅ぼしてきた敵達に何処か似た嗜虐的で残虐で凶暴で好戦的な笑みを浮かべた。
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