・第二十九話「僕等は一つじゃない(前編)」
・第二十九話「
BAUN! BAUN! BAUN!
VOHYU! VOHYU! VOHYU!
諸島海を支配するに至ったジャンデオジン海賊団とそれに服従させられた海軍と、それ以外の海賊団との一大海戦が、諸島海各海域で発生していた。
投石機の曲射が先ず唸りをあげる。それにより射程距離の短い弩砲の直射が続く。彼我の港艦から発信した水騎兵を石散弾で射つか、味方の水騎の迎撃と各艦に搭載された弩砲での迎撃に委ね敵艦を岩弾で射つか、岩弾に魔法付与が可能である場合いかなる魔法を付与するか。
陣形、風向き、戦況、彼我の戦力、その他数多くの要素。それによってその判断の最適解は様々に変わる。それを見抜くのが船長の技量だ。
「近づけるんじゃねえぞっ! 癪だがな!」「合点承知!」
海賊船長の指示に従い、船員達が櫓櫂を漕ぎ、帆布を動かし、弩砲を放ち、船内の船員が旋回式投石機の《労働倍力》が付与された土台を回し、投石機操作員が防盾の中で石弾を装填し錘を調整する。
「錘二つ減らし! 旋回終わり! 撃ェッ!」「取り舵! 櫓櫂集漕ぎ方合わせ!」
石弾が、太矢が飛ぶ。衝撃が表面を削り、そこに火矢が打ち込まれる。その火が必死に消火され、飛び散った木片で負傷した船員が搬送される。敵艦の旋回式投石機や弩砲を撃ち抜き破壊する。マストが軋み、彼我の何本かの櫓櫂が折れ飛ぶ。艦が旋回し、同航戦を保とうとする。その艦と艦の間を、敵味方の水騎が大海狼に牽かれ地球のモーターボートじみた速度で疾走し、
漁師兼業の血の気の多い荒くれが多い
「親分、いけてますぜ! 奴等、海軍の連中を末端としてしか使ってやせん!」
「馬っ鹿野郎! それはそれで不味いだろうが! それに!」
その戦法をジャンデオジン海賊団に抗う者達が通せたのには理由がある。それは敵側の編成だ。
裏切りの可能性と効果を減じる為か、ジャンデオジン海賊団は武力と
それは現状においては反ジャンデオジン海賊連合を利してはいたが、しかしそれは拮抗が崩れた段階での海軍の離反抵抗が望みがたいか弱小化することでの犠牲増大を意味するし白兵戦距離に踏み込まれた際の危険性も跳ね上がる。そして何より……
「KIIIII!?」「KIIIII!?」
艦を直衛していた二隻の水騎を曳く大海狼が、片方はチェーンソーシャークの群れに切り刻まれ、もう片方はネッシャークに首を咥えられ空中高く投げ飛ばされる!
「うわああっ!?」
「調子にのれる程マシな状況じゃねえ! 水騎戦でもこっちが不利なんだ! 死ぬ気でやらんかぁ!」
「が、合点承知!」
そう言いながらも船長が吠え、銛を投じネッシャークの長い首にある鰓を貫く! 鰓から血を噴いてのたうつネッシャーク! 船員も気合いを入れ直し、這い上がってこようとする水陸両用の鮫共を櫂槍で叩き落とす!
「今じゃ諸島海はどこでもこの地獄か! ……更に酷い地獄もあるってな、一体全体どうなってるやら……!」
船長は唸る。決戦の海を思って。
「法術障壁展開!」「隠秘術障壁展開!」
決戦海域、ジャンデオジン海賊団母港での海戦は、案の定更に熾烈を極めていた。それは、各地での撹乱攻撃とは違う理由があった。
即ち、接近しなければならないという事だ。彼我入り乱れる乱戦にしなければ、
即ち、味方の強力な戦士にその任を果たさせる為には相手の通常戦力を引き受ける戦力が必要になる。この海域に船団を送り込まない事は出来ないのだ。
故に突撃は必須、さりとて白兵戦では敵が優勢。それを辛うじて耐え凌がせるのは、突入した艦である〈
だが、敵の攻撃は更に激しい。向こうからも衝角戦を次々挑んでくる。
「櫓櫂衆、右全力左半力
「当たるかっての!」
自らの衝角も、深々と当てれば相手の艦体に固定されてしまう。それは最終的には避けられないのは覚悟の上とはいえ、ハリハルラもデックニーも見事に舵輪を操り伝声管で櫓櫂の動きを指示しながら、敵の衝角をかわし、自艦の衝角で敵の片舷の櫂を薙ぎ倒し、船尾の櫓や舵を突き崩し、おっとり刀で迎撃に出た前衛艦隊を突き崩して突破、操船不能とし敵戦力の半分を後方に置き去りにして白兵戦に参加できぬようにし。その上で、敵軍本陣の衝角を避け、敵の船腹に自らの衝角をめり込ませる!
「艦首結界解除!」
「ぶっぱなせぇい!」
「艦首結界再展開っ!」
「撃てぇえっ!」
そこから結界を開けては投石機と弩砲を見舞い、閉じては投石機と弩砲を装填し、再び開けて撃ち放つ! だが!
VZZZZZZZZZZZZ!
BZZZZZZZZZZZZ!
「来るぞぉーっ!」
敵はやはり恐るべき存在。砲撃で打ち崩された味方の船に構わず接舷し、鮫と
「迎え撃てぇえっ!」
だが、それはハリハルラも読んでいた。一部の弩砲や水騎用武器を取り外し乗員の武器として装備させていただけではない。
「WOOOOOOOOOOOFF!!」
本来水騎を牽引する大海狼。鰭型の四肢と巨体を持つが、アシカよりも素早く鰐やカワウソ並みに地上を移動できる。それは艦上を移動するには十分な速度。それを利用し、水騎騎手と大海狼に訓練を施し、いざという時水騎を曳くのではなく乗手が大海狼に跨がって甲板上で白兵戦を行えるようにしていたのだ!
「おらあああああ!」
「食らってやるぜええええっ!」
だがそれでも尚、『増身賊』の欲望に突き動かされた突撃は止まらない。
「くそ、揃いも揃って、
しかしハリハルラが魔法の杖を構え、銛と投網を構えるデックニーと共に船員を従えて激突する!
「そこを、どけえええ!!」
そして、その目指す先では、この戦いの渦潮の、更に中心的な激流の如き戦闘が始まっていた。
「畜生! 畜生がぁっ! 邪魔を、しやがってっ! 俺を、怒らせたら、死ぬって事、思い、知らせ、て……!」
『
「……あへっ……?」
その形相が、突如、呆けたように蕩け崩れた。それは、怒りではなく、快楽。
直後両目と喉笛を投じられた短剣が貫き付与魔法が炸裂、こと単純な破壊力ではジャンデオジン海賊団において『
「てめーの同類が使ってた
投じた短剣に変わる短剣を防具から引き抜き構え冷徹に吐き捨てる
「生憎私には通じませんよ! 死体ですからねえ!」
「俺にも通じねえなあ! 人間用のはよぉ! 鮫だからなあっ! 最もそれ以上に刺さりゃしないんだよそんなチャチな攻撃はよぉっ!」
「生憎今ので品切さ! この! 化け物共! ちっ!」
迫る、それぞれ異形の怪物、長舌多眼多頭鉤爪多巨腕皮翼の
「鮫めがっ!」
「無駄無駄ぁ! シャークオリハルコニウム製の鎧は神秘の金属! 魔法を付与しようがこいつの防御は抜けん! 無敵だぜ!」
「何だよシャークオリハルコニウムって!?」
続くガルンの櫂槍の一撃を腹に受けるもやはり無傷で高笑いする
(しかも、実際身体能力も大したもんだ、素早過ぎて中々隙を狙うのも……?)
「そっちはどうだっ!」
「無駄無駄無駄ぁあ! この私の再生力は! 倒せるものではありませんよぉ!」
攻撃をシャットアウトする
そして、防御力・生存力が高いという事は即ち。
「ぐむっ!」「く、あ、ぐっ……かはっ!?」
相手の攻撃を無視して無茶な攻撃が可能という事である。三又槍に対し櫂槍を合わせカウンターを繰り出したガルンだが、相互の勢いの乗った一撃にも構わず耐えた
短剣を連続投擲する
辛うじてガルンは鮫の食いつきを皮一枚に留め甲板を転げて
「しゃはっ。勝てねぇのは分かったか?」
「ええ、私達の狙いは
血と汗に筋肉の浮き立った肌をぬめ光らせるガルン、ぜえぜえと痣の残る喉を鳴らす
「掠り傷程度で、良く吠える」
出血は派手だが、命も当座の戦闘力も未だ失われてはおらん、何も問題はないと平然ガルンは答え。
「ふん。そんな偉そうな事は俺の細首程度へし折ってから言えよ、三下。リアラちゃんのところにたどり着く事すらできてねえくせに」
くっと首を傾けて痣と首の細さを強調して晒しながら、
「さっき、お前らの中の最高幹部にも負けないとかほざいてたが……俺程度即死させられないんじゃ、一通り真似できるっつっても、所詮は唯の劣化コピーだろうが。そんなんじゃリアラちゃんどころか、俺にだって勝てねえよ」
それは痩せ我慢だ。服の内側に仕込んでいた衝撃吸収の護符は、今ので幾つか効果を焼き切られて吹っ飛んだ。事前にリアラに貰った【
それに加えて
だがだからこそ、勝ち目は薄いと悟りながらも、こいつらを挑発せねばならぬ。俺達が戦わねばならぬ。
「……惨たらしく死にたいんだな?」
「いいでしょう。貴方達程度でも、首でも晒してやれば、
(姑息な性根が透けているぞ。だが、障害になるのは事実……)
ガルンもそれは承知の上だ。己自信の名誉もあるし、こいつらはこいつらで、【
(……死ぬなよリアラちゃん! その為には、出来るだけここでこいつらを……!)
あれと戦うだけで二人とも限界以上の極限状況だ。それは間違いない。だから、こいつらがそれより弱くても……ほんの僅かでも向こうの勝率をこれ以上下げる訳には行かない。ただそれだけの為に、命を捨てても食らいつかねばならぬ状況だと!
(……この男)
その
(気力の力だけで飛んでいるのか……何て奴だ)
気力意思力精神力が限定的かつ原始的な魔法として機能する。それは
飛ぶ魔法すら比較的希少であるにも関わらず、気の力で飛ぶ等本来あり得ない事。もしそんな事が可能だとするならば、気の力が常人の数万倍等というレベルではない事を示している。
ましてジャンデオジン海賊団は、〈
それを察したのはルルヤではなく、魔法等の力を【
正直一目見たその姿とその口調は、リアラからしてみればまるで故郷のメジャーな人気少年漫画の登場人物を粗雑に取り混ぜ模倣した様な珍奇きわまりないものでむしろ目撃した時は
「それにしても、おめえも中々人気者だなあ。あの海賊共も、『
「……それが、どうした?」
酷く気安い口調で話しかけてくる『
(一体、こいつ、どういう奴だ……?)
故に答えるルルヤも眉を潜め、無言のリアラも、奇妙な不安を覚えた。
「人気者ってなあいいよなあ。だが、俺の方がもっと人気者だってばよ。何しろ強いからな、この諸島海も混珠全部も、何れ俺を崇めるようになるぜ。そう、人気ってな、やっぱり強さだってばよ。地球の漫画でもよ、一等売れてるのはやっぱり、強い奴が戦って勝つ漫画じゃねえか。そして現実の戦場でも、戦って勝つ奴が富を得る。この世界の英雄だって、要するに強い奴だったんだし、お前らだってそうなんだろ? 強くて勝って来たからこそ、ちやほやとファンが増えやがる」
「強いだけが英雄の理由なんかじゃない、強いだけの悪は、いつかは討たれます!」
「そして、悪いが仲間達が命がけで戦っている、無駄話ではない続きがあるなら、戦いながら言ってみるがいいっ!」
薄笑いを浮かべ頭をがりがりと掻き、ヘラヘラと楽しそうにいう『
「違わねえな!」
同時『
「そいつをこれから、力で教えてやるってばよぉっ!」
その長棒で薙ぎ払うようにしてリアラとルルヤの攻撃を止め『
VABABABABABABABABABABABANN!!
『
「これが『
乱打の猛襲にたちまち主導権を取られ、突き込んだ矛の穂先を粉砕され共学するリアラ。『
圧倒的な力と速度とそして硬度重量を強力に拡張された武器。鉄鋼とそれを基とした合金の範疇で理論最大値の強度を誇る【
(【骨幹】で再構築し続け、防御を優先だ! ここは私が! その後に……)
(っはいっ?」
【
「確かに猛然たるものだ。シンプル故の速攻、攻撃的で制圧的な武……」
ルルヤも、そして流石のリアラも知らなかったが、『
ルルヤもそれを【骨幹】を使い再構築し続ける鉄剣で捌く。『
「おらぁっ!!」
「うわぁっ!!?」
ZZBAAAANNNN!!!!
圧 倒 的 な 力 !
更に速度と威力を増した一撃が一瞬にして極超音速に到達し、気力の篭った事で【
しかしその間、二人に向かっていた『
「だが」「『
そうはさせじと、その瞬間ルルヤは反撃に転じた。二対一から一対一になる戦局の悪化に起死回生を狙うだろうからそれを更なる一撃で制するという『
『
それをルルヤは読んでいた。のみならず、リアラと【宝珠】竜術通信で図り、この状況を作り誘い込んでいた。
直線的な杭打撃をくるりと踊る様に斜めにかわす。衝撃波を【鱗棘】で無力化し、回転を斜めにのせ、更に重力操る月の【息吹】を付与した斬撃。それに呼応する、
「【
吹き飛ばされた勢いを利用して後衛に展開し、武器を持たぬ一瞬に両手指を広げての【
「【リアラ・ソアフ・シュム・パロン、
「うおおおおおおおっ!!!」
その普通の敵ならばそれで必殺の攻撃を煙幕に、更に重なるリアラの【
「【地脈にて繋がりたまえ】!」
「食らえぇえっ!!!」
【
白き陽の熱線と黒く吼える月の重力が『
「ああ、そうだ。【地脈】とやらを使えば、これくらいは出来るだろうよ……!」
「っ……(やはり、更に手強いっ……)」
その炸裂の後に響いたのは、笑みすら含んだ『
「オラは戦えば戦う程強くなる。おめえらは、この世界の力を借りて強くなる。おめえらを殺せば世界をも越える力を手に入れられる……」
ばりり、と、ルルヤの剣の切っ先を噛み砕きながら、『
「食らうぜ、てめえらをよ」
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