・第三十話「僕等は一つじゃない(中編)」

・第三十話「僕等は一つじゃないwe are not one pieces(中編)」



 波風が激しく揺らぎ、俄に嵐じみてきた諸島海の中心で、ルルヤとリアラの二人は『増大インフレ欲能チート』ガゴビス・ジャンデオジンと対峙していた。


 嵐の中心はルルヤだ。【真竜シュムシュの地脈】で、この海に眼前の男が散らした血の魂の力が、ルルヤとリアラに流れ込んできている。それにより限度を超えた力を投じて放った竜術を付与した攻撃を、もろに食らって尚、僅かしか受けなかった手傷を軽々と回復してのけたのだ。


 それを上回る攻撃力を発揮するには、【地脈】と【真竜シュムシュの息吹】の合わせ技で自然界の大地や海や大気の重さを借り受け、数億トン数百万ホワバテ以上の破壊力を打ち込むルルヤの宣誓詠唱【世壊破メラジゴラガ】しかない。この嵐は、それによって発生した水流と気流による予備動作だ。


「目突き鼓膜破りに口に剣突っ込むたぁ、中々容赦がねえじゃねえか。『神仰クルセイド』の奴とはちょいちょい喧嘩を楽しんだが、野郎はお上品だったからこういうのは無くてな、お陰で目と耳と口を鍛えられたってばよ、礼を言うぜ……拳でなぁ!」


 手にしていた棒を弾き飛ばされたが、毛髪を材料としたものであるが故に再構築は余裕であるにも関わらず、べろりと舌をだして口腔の傷の回復を強調した後『増大インフレ』はぎゅうと拳を握り……襲いかかる!


「【骨幹】よ【息吹】よ、つよき剣をっ!」


 切っ先を噛み砕かれた鉄剣を【真竜シュムシュの骨幹】で再構築、重力の【息吹】を多重に固め強度を増したルルヤが迎え撃つ!



 爆!!!



 空気が超音速の衝撃波で爆裂する中、ルルヤは【真竜シュムシュの宝珠】による思考加速と【真竜シュムシュの眼光】による感覚強化で、『増大インフレ』の極速の拳の軌道を捉えていた。【息吹】を纏わせた黒い腕と剣は衝撃波を貫き、暴力的な速度の相手の動きに強化と技量の複合で追い付き、相手の打撃の軌道の内側にそれより鋭い螺旋を描いて抉り混む軌道で刃で腕を切り払う迎撃を、



 したはずだった。



 間違いなくしたのだ。



 ましてルルヤの重力の【息吹】と【真竜シュムシュの膂力】の複合は、身長数十ザカレの巨人をも片手で投げ飛ばす程の力を通常段階でも得ている。【地脈】で魔法の威力を大幅にブーストした状態でのその力はどれ程か。


 であるのに。


「がっ……! (これ、はっ……?)」


 ルルヤが次の瞬間に知覚したのは、決まった筈の切り払いが刃を当てた相手の腕に押し負けて、自分の腕がちぎれそうな衝撃で弾き飛ばされる衝撃だった。


 『神仰クルセイド欲能チート』の取神行ヘーロース未来神約・復登唯光ザ・ニュー・ミトラス』も乱打が速すぎて技を極めきれぬ速度と少々の技では此方の手指が傷つく程の硬度を兼ね備えていたが、硬度においてそれとほぼ互角、力においては遥かに、圧倒的に、次元が違うというレベルで異なり、そしてそれに加えて再生能力でも勝り。


 そして。


まずっ……!!?)


 直後ルルヤが対面したのは、視野全域を埋め尽くす程の拳の弾幕だ。さながら腕だけを分身させているか拳型の弾丸を放つ機関砲ガトリングか。速度も『未来神約・復登唯光ザ・ニュー・ミトラス』と互角以上。咄嗟に、拳の嵐の最初の一発を防ぐ。腕に激痛が走り、防いだ腕が弾き飛ばされる。宝石の様に輝く多角形の防壁が、【真竜シュムシュの鱗棘】が舞い散り砕け散る。それに続く拳の嵐の、回避が間にあわな


「【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】!!」


 BAKIBAKIBAKIBAKIIIINNN!!


 直後枚散る光の量が一挙に十倍以上に増大した。【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】。リアラが咄嗟に放ったのだ。リアラは【増大】の異常だがその欲能チート名と併せどういう方向性のどれ程の脅威かがあからさまに理解できる姿に最大限警戒をし、先の連携攻撃の直後から動いていた。


 だがそれでも尚、このタイミングが限度であったし……張り巡らすのではなくルルヤと『増大インフレ』の間の極小の範囲に学校と都市を要塞化出来るほどの枚数を同時展開できる全部を重ねたにも関わらず、その全てが一瞬で砕け散り。


「っ……【陽の息吹よ狙い撃つ鏃となれホーミング・フォトンブレス】! ルルヤさん! 飛んで! 撃ってっ!」


 拳撃の気の篭った事により純粋に物理的な力を強力に防御する【鱗棘】を通しても尚ダメージを与える力を得た衝撃波だけで片方の肩を肩鎧ごと砕かれ、苦痛に歯を食い縛り片方の翼が弱体化して錐揉み飛行になりながら、咄嗟にルルヤを横から突き飛ばすように拳嵐の軌道から外し……不甲斐なさを狂わんばかりに噛み締めながらそのまま空中で距離を取る……言葉を飾るまい、一旦逃げる様な飛び方をしながら、ルルヤにも同調を提案し、【陽の息吹よ狙い撃つ鏃となれホーミング・フォトンブレス】を撃ちまくった。


「くっ……【真竜シュムシュの息吹】よっ!!」


 屈辱を感じながらもリアラの体に負担をかけまいという思いが即座に優先し、ルルヤもばさりと翼を開いてリアラの肩と翼が【血脈】と【骨幹】の再使用で回復するのを支えながら、ただ一撃で骨と手甲に皹が入った片腕を同じく【血脈】で癒しながら、黒い重力の【息吹】を反対の腕で断続的に放射、空に光の花の如き軌道を描くリアラの【息吹】の合間を貫くように【地脈】の魔法力を込めた太く強く青空を切断するような黒い線を幾重にも描く!


「エフッエフッ! オラオラ気張れよ! オラは手前等てめぇらの死神だ! 『神仰クルセイド』がオラとやりあえたのは、あいつがその気になりゃ全ての攻撃に即死必中の魔法効果を付与できたからだ! それにすらオラは命を増大させて耐えたが! お前らはそういう類いの力は受け付けねえから、奴も使わなかったがよ!」


 リアラとルルヤを追い、嗜虐的に楽しげな含み笑いと共に、自慢を喚き散らしながら『増大インフレ』はドン! と気力を噴出して飛翔した。生命の数すら増大させたと嘯くだけあり、非効率な気力噴射を無尽蔵に繰り出しながら。


手前等てめぇらは『邪流ジャンル』にも従わずに、イカサマを封じて殺してきた! 正々堂々なら負けねえと吠えてなぁ!」


 飛翔し哄笑しながら、ぐいと揃えた掌を『増大インフレ』は突きだした。その動きをリアラは知っている。あの姿とあの珍妙な言動の癖、リアラのいた〈不在の月ちきゅう〉の世界規模の市場で売れに売れるレベルのメジャーが大半な殴りあうものばかりの人気漫画複数作品の登場人物のごちゃまぜで出来ている『増大インフレ』、それと同じもの。ごちゃまぜの一部が使う技のパロディだ……!


手前等てめぇらの盲点は! 単純に手前等てめぇらより強いオラには勝てねぇって事よぉ! 喰らいやがれっ! 『くたばれ波』!!」


 メジャー漫画の元々広く受容されたから珍妙と認識されなくなったが落ち着いて考えれば相当珍妙な技名を更にパロディしたふざけた技名と共に放たれた出鱈目な量の気力は、凄まじい破壊力を持つ光線砲めいて炸裂した。



 Z‐GTOOOOOOOOOOONNNNNN!!



 海が裂け、余波で津波が巻き起こった。島に直撃していれば、恐らく跡形もなく消し飛んだだろう。衝撃波だけで、リアラとルルヤはきりきり舞いさせられた。


「う、くぅっ!?」

「あああああああっ!!?」


 咄嗟にリアラは【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】を沿岸に展開、流れ弾等を可能な限り防ごうとしていた。だが、余波ですら防ぎきれない。空中を爆風に振り回される回転する視界の中、沿岸を襲う津波が防ぎきれなかった場所を乗り越え、既に荒らされていた各島沿岸部を更に踏み潰すのを見た。同じく空中で体制を建て直すルルヤの歯を食い縛る表情が見えた。辛うじて他の船に囲まれていた事が幸いして激しく揺れ動きながらも耐え抜いた〈波巻く祈りライミンダ〉号と〈魔嵐〉パックルーブラ号の船員が恐怖と驚愕に混乱するのが見えた。『増大インフレ』の足元にあった船にいた為に被害を免れたガルンと名無ナナシが、さすがに度肝を抜かれた表情を浮かべるのを見た。


「アッハハハ! この程度で死んだらつまらねぇだろ! お前らの人生はなしはここで終わりうちきりだが、俺の人生はなしつまらなくふにんきにするんじゃねえってばよ! 『死ねぃがん』! そらそらそらそらぁっ!」


 哄笑する『増大インフレ』は、必死に体制を建て直し飛ぶルルヤとリアラに、今度は掌に気力のエネルギー球を生成すると、もう片方の掌で擦るように回転をつけ、手裏剣を乱射するが如く連続射撃を繰り出してくる!


「……っいくぞリアラぁっ!」

「はいっ!!」


 連続して放たれるそれを辛うじてかわし、青い水面のすれすれを白い水柱の連続を引きながら仲間達を巻き込まぬように飛翔するルルヤとリアラ。ルルヤは気力を振り絞るように叫び、リアラも必死にそれに答え、【息吹】を撃ち返しながらその弾幕を煙幕に再度接近戦を挑みに行く。


 無謀? 確かに無謀だ。相手の力は桁違いだ。だがそれでも世を守る為戦うからこそ、世に満ちる死者の無念の魂や世を荒らされる精霊や命の嘆きから、【真竜シュムシュの地脈】で力を借り受けることができるのだ。


 事実ジャンデオジン海賊団は〈真唯一神エルオン教団〉と異なり、海という海島という島を血に染めんばかりの暴虐をむしろ誇示していた。【真竜シュムシュの地脈】で力を借り受ける事ができる無念の魂や自然の精霊達の規模はかつてなく大きい。更にこうして戦いの中で破壊を巻き散らかしている。諸島海全体から力を借り受けられる以上、【世破破】をかつてない高威力で何発も撃つ事ができる筈だ。


(だが、それで、届くか……!? あいつの、命に……?」

「エフッエフッエフッアーッハッハッハッ! 笑えるぜ! それがこの世界のあり方って奴なのかよ!? 誰かを守るぅうう!? 復讐も正義の為にぃぃぃ!? 実際にてめーらがそうだなんて、そんな軟弱野郎が俺たちに歯向かえる程の強さだなんて、見るまで信じられなかったぜ! こんな綺麗事ばかりが、この世界かよ!」


 必死の表情でこれ以上周囲を舞い込む破壊的な射撃攻撃を防ごうと飛び込んでくるルルヤとリアラに対し、黒白の『息吹』の炸裂の中から『増大インフレ』の獰猛で傲慢で尊大な見下す哄笑が響き渡る。来るなら追う必要無しと、 一歩も動くこと無くその場に滞空した状態での迎撃を『増大インフレ』は選択した。何発も直撃する【息吹】。だが何れも軽傷、そして即座に回復。


「綺麗事の何が悪い! それを、通しさえ出来れば、何が悪いんだっ!」


 FLAAAAAAASH!!


 その傲慢を隙と突き刺せまいかと、リアラが思いを叫びながらそれまでと違った形で【息吹】を白魔術《作音》と同時発動させた。即ち、直接攻撃に対する傷は即座に回復されるのならば、あえて目潰しに止めた光と耳を聾す轟音といういわば魔法的に再現させた閃光手榴弾〔それを遥かに上回る威力を出していたが〕を乱打、更にそこから逆に光学迷彩と 《作音》逆用による消音を併用した疑似透明化を組み合わせ【骨幹】を使い金属繊維で編んだ無数の逆棘針をつけた投網を形成、連続投射!


「通せねえからだよぉっ! 手前らがオラに勝てねぇよぉになぁっ!!」


 それに対する【増大】の対処は、雷や大砲の直撃にも更に勝る閃光轟音には最初の一瞬はわずかに反応速度を減じたが二発目からは無効。このレベルの閃光轟音が初めてでも欲能チートによる強化成長で即座に対応、続く透明化と投網投射は、面倒だとばかりに気を込めた拳を全方向に乱打し、拳圧の衝撃波だけで投網を蒸発させリアラを弾き飛ばす!


「ーーーーっ! (くそっ、無茶苦茶……無茶苦茶の癖に、バカの一つ覚えで!)」


 弾き飛ばされ直撃ですらない衝撃波に混じった気力の放出で全身を打ちのめされ吹き飛ばされながら、『神仰クルセイド』も若干〔知略戦が鍵の異能バトル漫画の愛読者だったが唯一神の力を小細工やハッタリや騙しと共に用いるのは穢れだと考えた為か知略を好まなかった〕影響を受けていた人気週刊少年漫画共通あるあるの拳の乱打で何もかもが強行突破される理不尽に苦痛と苦悩と苦渋と苦虫を噛み潰すリアラ。だが同時に、それでも必死に知恵を巡らせる。吹っ飛ばされながらも強引に身を起こし、『増大インフレ』を睨み据えながら体制を建て直そうとする。敵の反応速度、敵の反応の仕方、何が効き何が効かないか、分類し分析し少しでもルルヤさんの為に!


「生意気な目ぇしやがって……『神仰クルセイド』の奴と似た目だ! この世の現実を認めねぇ目! 同じ狂人の目だ! 何でテメエが欲能行使者チーターじゃねえか、分からねぇ目だぜ!」


 己を恐れぬその目に、『増大インフレ』は怒った。撲殺せんと拳を振り上げる。


欲能チートを使っておいて、何が現実だぁっ!!」


 それに、リアラは突っ込む! 馬鹿な、かすっただけで吹き飛ぶ拳、直撃すればいかな【血潮】による回復能力に優れようと頭蓋を一撃で粉砕されれば即死! 激情で判断を誤ったか!?



「その隙させるかぁあっ!!」「ルルヤさん少し早いっ!?」「ァッ!」



 否。変幻自在のリアラの攻撃は、すべて悪までルルヤの攻撃を通す為の牽制。ルルヤは全力で【地脈】で得た魔法力を増やして突撃した。だが、ここまで完璧に連携をこなしていた二人だったが、ルルヤがわずかにリアラの想定より早く仕掛けてしまった。リアラは本当にぎりぎり、理想を言えばなんとか東部直撃を裂けて即死さえしなければ自分が致命傷級のダメージを食らった瞬間こそが理想的攻撃タイミングと覚悟すらしていたのだが。


 ルルヤは、それを厭った。思わず声が出たのもその為だ。


 『増大インフレ』は反撃を即座に繰り出した。やはり力だけではなく速度も反射神経も卓越していた。だが、リアラの想定よりリアラへの攻撃に固執していた為、そのぶんだけ反応が遅れた。


 結果……!



 GIRI……!



「くっ……!」

「アッハハハハハハ!!」


 両手で全力を込めたルルヤの剣は『増大インフレ』の拳と激突する形で止まっていた。気に覆われた拳には刃が食い込んでいない。何たる強度と気の量か。その『増大インフレ』の腕には、咄嗟にリアラが飛び付きしがみついていた。だが、ほんの僅かにしか、その動きを遅らせる事はできなかった。しかし逆に言えば、少しでも遅らせなければ、逆にカウンターが入っていた。


(ルルヤさん、何で……!?)(……すまん、心が乱れた……)(あっ……)


 ルルヤは、こと戦闘においてこの手の過ちをした事が殆ど無い。故にリアラの驚きは大きかった。しかし、一瞬の視線と思考の交錯。それで、リアラには理由が分かってしまった。ルルヤの苦悩の表情。それは改めて強く意識するようになってしまった、お互いと離れたくない、悲しませたくない、傷つけたくないという心。それが捨て身をさせる事を躊躇わせてしまったか。



「けっ……何てぇ気っ色悪ぃい世界なんだ、えぇ!? この混珠こんじゅはよぉ!!」


 だがそれが『増大インフレ』の逆鱗に触れた!


「下らねえ下らねえ。魔法の無え俺の故郷じゃ手前等てめえら半日で強姦殺人死体になってるぜ? 強い奴が奪った富でちやほやされる! 暴力こそが全て! それが人の自然ってもんだろうがよ。この世界はむかつく、気色悪い、許せねえ! どこもかしこも地球の文明国みてえに取り澄ましやがって……ぶっ潰してやる! 全部奪って壊して殺して! 俺の故郷と同じ! 奪う者と奪われる者しかいねぇ荒野に変えてやらぁっ!」


 轟ッ!!!!


 混珠こんじゅへ、そして地球の平和な部分へも、否定の言葉を口にしながら、『増大インフレ』は気力を燃え立たせた。光の炎に包まれ全身を燃やすが如く……ただそれだけで攻撃的なエネルギーが迸り、ルルヤとリアラの肌を守る【真竜シュムシュの鱗棘】が宝石の様な多角形の輝きを必死に瞬かせ、防ぐが、揺らいでいく!


「そぉらぁ」「っ!」


 挑発的な余裕ぶった声と共に、『増大インフレ』はルルヤの剣と競り合っていない方の拳を振り上げた。それにリアラが反応する!


「よぉっ!!」


 SMAAAASH!!


「ぐっあっ……!」


 ルルヤと競り合っている方の腕を掴んだ状態から、体操の鞍馬めいて羽の助けを借りながらその腕の上を身を捻って飛び越え、『神仰クルセイド』との戦いでの失敗と成功とここまでの戦闘経験から、相手の攻撃を止め、かつ相手の攻撃に拘束されまいと、使用した防具全てを失う覚悟で【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】と【骨幹】で作った盾、更に体を傾けて片方の肩鎧も重ねる様に構え受け止めるルルヤ!


 バリアー全貫通、盾粉砕、肩鎧粉砕、肩骨骨折! だが、それでも止めた! 止めて砕け散った肩鎧と盾を今は【翼鰭】は浮力を保つだけでいいし肩を【血潮】で再生している余裕も無いと急ぎ【息吹】を使い全て【《生ける息よ死の骨よ、縛れブレスバインド&ボーンバインド》】に再構築。


 【陽の息吹よ守護の祝福たれフォトンブレス・バリアー】と同じ硬度の光の鎖と【骨幹】の鉄の鎖に束縛形の白魔術を絡めた束縛を編み上げる。無論それで止められる【増大】ではないが、傷の苦痛を噛み締めながら鎖を持った手でルルヤの剣を握る手に触れる。剣へ注ぎ込む【息吹】を、鎖へも付与出来るようにと!


「~~~~っ!!」

「捕まえ、ました! 大丈夫! おかげで! だから!」


 結局リアラに自己犠牲を強いてしまったと一瞬思うルルヤに、想定したダメージよりずっとまし、だからこれでよかった、このままやるしかない、と、短く鋭くリアラは訴え、そしてルルヤは頷いた。


「分かったっ……やむを得ん、押し通るっ! 【森羅万象、天地万物、諸神諸霊に希う。我は真竜シュムシュ、過てる世界と戦う者にして、良き世界を抱き締める者……】!!」


 ZZDDOOOMMNN!!


「おおおおっ……!! こいつあ……!!」


 零距離、拳と剣の競り合いから、剣に宿る黒の【息吹】が天を衝く程激しく燃え上がる。剣が強化巨大化される。【真竜シュムシュの膂力】で強化された力を込めるルルヤの腕を更に強化する。【地脈】で得た魔法力を燃やすだけでなく海と島の精霊や航神タツワミノエスへの信仰から借り受けた諸島海の水と大地と地殻の重さを、重力を操る月の【息吹】に注ぎ込んでいる。即ち【世破壊メラジゴラガ】。このまま鎖から相手に重力をかけて動きを封じ、広大な諸島海から掻き集めた全力で拳から相手を叩き斬る!!


「はぁあああああああああああああっ!!」


 リアラを傷つけられた事への悲しみ、己の不甲斐なさへの戒め、傲慢なこの敵への怒り、防げない周囲の被害への悲憤……様々な感情を込めてルルヤは吼える。吼えて【息吹】を注ぎ込む……!


「【諸霊の愛と命を宿し、諸神の善と智を思い……】! (っ、まだか……!?)」

「へ、へへ……こいつぁ……!!」


 だが硬い! 切り込めぬ! いや! 『増大インフレ』が拳に力を込め気を放出し、拳を押し出し競り合っている! 硬さだけでは動けぬ。力で押し返している! 鎖を通して注ぎ込んでいる捕縛の為の【息吹】が足りていない! 借り受けた重量を注ぎ続けるルルヤ! 後どれ位注げば切り込み、注ぎ込み、動きを封じられる!? 一体……!


「こいつぁ! どうだぁっ!」「っ!? だがっ! 【我此処に約定を果たさん】!」


 眉間を汗が伝った一瞬、【増大】が動いた。重力束縛を振り切り、拳を突き出して剣を弾き飛ばし掌から気を放つ技の体勢に入ろうと、だがそれをルルヤは許さぬ。既に此まで【世壊破】三発分の重力を込めた所に更に重力を追加、そして『増大インフレ』の手をさせまいと跳ね返された剣を切り返し追う!気を放出に使うためか、一瞬気の硬化と捕縛重力への競り合いに使われているエネルギー量が減った! 動きが鈍り、防御力が低下するそこを、逃さない! 刃が発射前の掌を捉える。血の赤が見えた。今!



「【悪しき世界を齎す者に、真竜シュムシュは滅びの一撃を齎さん!】【世壊破メラジゴラガ】ァッ!!」


 炸裂!!!! !!!! !



 …………


 …………………


 …………………………


「下らねえ」


 メリメリ、バキバキと、砕け散る音と共に、声がした。ルルヤは愕然として目を見開いた。


「オラはな。戦えば戦うほど強くなるんだぞ? 強い力と戦えば、それを上回るようにより強くなる。だからわざわざ……お前らも薄々気づいてるから、こっちが油断でもしてると思って、焦って今の内に決着つけようと思ったんだろうが……わーざーわーざー、『取神行ヘーロース』にならずに、今のこっちを上回って見せろ、それを上回れるようにオラを成長させろ、ってしてたんだがなあ……?」


 眼前に、『増大インフレ』がいる。ドンと心に重圧を与える程に平然と立っている、その手で【世壊破】を放った大剣を、受け止め……皹入らせ刃毀れさせ握り潰しながら。


「まあまあだ。まあまあだったが……この程度かってばよ?」


 顔面を歪め引き攣らせせ皺を刻み牙を剥く様に、『増大インフレ』は嘲笑った。

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