・第三十一話「僕等は一つじゃない(後編)」
・第三十一話
ガルンと
(精神干渉を【
己等以外の全てを無力化する
上級魔族といえば歴史に名が残る程の英雄か特に優秀な冒険者団等が立ち向かう者、それより強いとなれば
((恋愛は難しい。友情も難しい。ただ好きだという以上の事は、こんなにも難しいんですね……生前、家族とは妹を除いて疎遠でした。女友達は、失いたくなくて、そういう事を考えてきませんでした。
そうつらい過去を呟くリアラに対し。リアラはルルヤの事が一番好きなのかもしれない。俺からリアラへの思いは、友情としてしか実を結ばないのかもしれない。それでも、と、
((俺も似たようなモンだよ。廓の育ちで、9つの頃から殺し合いしてて、いつも必死で、助けた仲間を背負って走り続けて……会話の手練手管にゃ長けてるけど、家族と同じ仲間の中で妹みたいな弟みたいなミレミも、尊敬する雇い主というか主君な
言われてみれば僕のほうが
((だから。俺と、似てる気がしたから。お前の事、好きになったのかもな。だから……友情でも恋情でも愛情でも、俺はお前が大好きだ。ルルヤねーさんの言った事を繰り返すようですまねえが、お互いまだ若いんだ。俺も頑張るからよ、頑張る中で気づいたことがあれば、お前にアドバイスしてやるし、愚痴聞くし、相談にも乗るさ……俺なんかが代表して言うのも何だが、お前が助けた皆、一緒に戦った皆、お前の幸せを祈ってる。そう思って、船の上だし、大船に乗った気でいていいさ))
励ます為、俺だってそう対したもんじゃないと
((ありがとう、ございます))
不安が少し解けたるいてきと微笑みを煌めかせたルルヤの輝きが、思い出すとリアラには悪いが、わくわくどきどきにむずむずとうずうずが入り交じったような暖かい感覚になって、妙に力をくれるのだから。
そして、勇者と並び立つ英雄たらんとしていたガルンもまた。
彼は多弁をせぬ。言い訳もせぬし文句も言わぬ。派手にぶっ飛ばされたとはいえ、それは未だ己とルルヤに盛大に力の差があるという事。それを事実として言い訳も文句もなく受け入れるし、それを理由としたリアラの判断も、この戦いの結果ならばすっぱりと受け入れよう。
再戦を望まない訳でも無いし、ルルヤを己の妻に欲しいと思う事も変わらない。それはそれ! これはこれ! で、勝利と敗北と生死がそれとは別に存在する。その全てを受け入れて、尚、生きるがままに生きる。ガルンは単純な男だ。戦士という生命としての糧を得る生態を会得した人間という獣の一頭の雄として生まれ、そのように生きてきた。そうであるからこそ、人間を戦士でも動物でも、命をやり取りする生き物ではなく、一方的に命を奪う存在、自分を含めた獣を収奪するそれより上位の存在を生む銃を恐れた。文化を知らず、機微を知らず、欲するが侭であり、狩と戦で駆け引きはするが、命として命を食らう事はしても、卑劣や搾取や邪悪といった、命ではなく魂を削る行為には殊の外嫌悪感を持っていた。
だが。いや、だからか。
そんな単純だからこそ単純の果ての更に上にある純粋さを持っていたルルヤを、先祖が
故に、細かい事は分からぬが、己の在り方とやり方なりに、ルルヤへの好意を抱き続ける事とは別にして、身命を以て、償い、灌ぎ、贖わねばならぬ、そう感じた。故に至極単純にそうしようとする。
だから、二人は。
「おい、
「何だい、
「おっさんという年ではないわ。……あいつらを、倒したいか?」
「ああ、勿論さ。やっぱ、おっさんもか」
「ええい、もうよいわ。勿論だ」
二人はただ引き留めるだけで終わる訳にはと、尚も闘志を燃やしていた。荒い息をつきながらも、その間に短く、
「何とかなりそうな方は、隙を作れば何とかなるか」
「して、見せる」
己の血に濡れた全身に尚も力を込めて立ち続けるガルンに言われ、防具はボロボロ、短剣は鋼線を繋いで巻き戻しが効く物以外は限界まで威力を上げた攻撃魔法を付与して使用した事で粉砕して残り数本まで使い尽くした
「んだとぉ!?」
「それは、恐らくこいつの事ですかね?」
「んだとぉお!!?」
それを聞き、何とかなりそうな方ってなどっちだと気色ばむ
「な」「あっ」
上空から轟いた、その場にいた全員をよろけさせる程の凄まじい轟音と衝撃波。それに空を見上げて、愕然とした。
「は」「ひひっ」
対照的に、同じく轟音と衝撃波によろけ体制を建て直しながらも
【
「下らねえ。てめぇらの戦いは下らねえ。弱い、価値がねえ、意味がねえぜ。……思い出すぜ。地球で海賊してた頃、捕まえた日本人から奪って訳させた漫画本でもそうだったぜ。結局の所どんだけ上辺を取り繕おうが男が戦って勝つ奴が売れて、売れる奴がちやほやされて、売れねえ奴は
『
強い。そうでありながら強い。悔しいのに強い。その愚かしい力と勝利と支配と欲望こそがこの世の真理であり万民が支持し従う法則なのだと傲慢に誇るが如く……余りにも、強い!
……その時、リアラにもルルヤにも、言われた『
「そうそう……そんな君の、まさに地球人、まさに地球という在り方は、それなりに好ましい……楽しませてね?」
何処かで。青い髪を揺らめかせ、『
「まあ、元々オラはもう十分に強い。お前らの必殺技を引っ張り出す為に、わざわざ手加減する位にはな。まあそりゃそうだ。フルパワーで戦ったらこの
「な……!」
戦慄の、それが真実であれば余りにも絶対的な力の格差を何でもない当然の出来事のように語る『
「……だけどよぉ。これっぽっちじゃ全然オラの力が
そして、途方もなくエゴイスティックで、力という現実を自称する割りに思考発想が物語的な、しかしてその物語を踏みにじる力でもある……物語と現実の融合、現実に支配された物語、物語を支配せんとする現実の都合、力による物語以外の小さな物語を
「この手に取らん神の行い、我こそこの世の主人公!
力は全ての為になる、全ては力の為にある!
人気極まれば任期永遠、一番ならばいい奴とされる!
征服すれば正義とされ、勝利さえすれば称賛される!
物理的にぶっ散らばせば、ブルって豚ども
勝った奴が神なのだ、
ド ン ! ! ! !
気の卵から孵化するのは、人の姿と同じ服を纏ったまま、豚と狒々の如き猿が入り交じった顔、大蛇の如き尾、金髪が変化した金赤青銀の入り交じった羽毛を頭と拳以外の両腕に生やす魔神。その名は、
うおおおおっ、と、遥か下の船上の戦場で、ハリハルラ達の巧みな戦術に押さえ込まれていたジャンデオジン海賊団と、
「っおおおおお!!」
負けられない。負けたくない。そう己を鼓舞する為に、歓声に対抗するようにルルヤは叫んだ。【
(【世壊破】は完全に潰された訳じゃない。発動途中に潰されたから、まだ、解放してない分の重さの力は半分残ってる! 力と知恵を貸してくれ、届かせる為に!)
必死にルルヤは【宝珠】通信でリアラに訴えた。全てのエネルギーを注ぎ込む前に剣を粉砕された為、未だその力は半分くらいは残っている。だが、もう一度同じ力を打ち込んでもやはり同じ様に潰されるだけだ。『
(その為の策を考えてくれ、その間は……私が奴を食い止める、リアラは、支援と作戦に専念してくれ)
「ルルヤさん!? それは、そんな、それはっ!!?」
そのルルヤの言葉に、リアラは思わず【宝珠】通信ではなく、肉声で叫んでしまった。その言葉、この状況は、リアラの心の傷そのものだった。ハウラさんとソティアさんを失った、全てが終わりそして血濡れの道が始まった
「あン?」
「勝負だ、『
その声に一瞬怪訝の表情を浮かべる『
「わ……かり、まし、たっ!」
苦渋の表情で、しかし一瞬でも連携が途切れることは危険と、リアラは魔法力の状況、ここまで見た分析、取れる手段の確認を必死に頭脳を巡らせながら、支援射撃の態勢に移った。二対一の白兵戦と変わらぬ支援が取れるよう、時にルルヤの真後ろから曲射軌道を描く【
そのリアラを背負う様に背後に庇い、ルルヤは戦う。二人とも、しかし魔法力を消費しすぎて逆転の手段を見いだすまでの間に尽きぬよう、ぎりぎりまで魔法力の配分を考えねばならない。勇気ある限り精神力を燃やし続けられる勇者であるリアラとルルヤ故にその魔法力の量はある程度の補給が効くが、常に全力全開でなければ食い下がる事すらままならない以上、回復量と消費量のバランスを考えればリソースは無限ではなく有限。時間と精神力と不安との勝負……!
「アッハッハッ、頑張るじゃんよえぇおいっ!」
……そしてそれを、『
最早【
Z―DODM!
「か、はっ……」
……少しでも、ルルヤのダメージを減らそうと。だがそれでも尚、鎖を引き千切り、障壁をぶち破り、『
(嗚呼、嗚呼嗚呼。嗚呼嗚呼ああっ……!?」
リアラの目から涙が溢れる。思考に悲鳴が混じる。思考が後半は声になって溢れ出る。それでも尚、全て止める事は出来ぬ。リアラにとっても地獄、そしてルルヤにとっても地獄の戦闘が、二人を責め苛む悪夢の時間が、どろりと二人を絡め取った。
「っくぅあっ!!」
引き締まっているが細い腰に炸裂し呼吸を奪う苦痛を食い縛りながら、それでもルルヤは反撃した。【息吹】だけではなく【翼鰭】の推力を乗せながらの切っ先の刺突で、『
「かゆいぜぇっ!」
しかし『
JYAGATTA!! DOBVANN!!
空気が裂け、海面が爆裂した! 直撃すれば海を叩き割って海底まで叩きつけられ防御力が足りなければグシャグシャに潰されていたであろう!
だが爆発したのは海面。ルルヤは間一髪半身になって両掌の間をすり抜け回避!
それでも一瞬翼を折り畳まざるをえなくなり、空中での姿勢が不安定となる中、続く『
BAKI!
「あぐっ!!」
翼を再展開する一瞬の隙を突かれた。リアラの
「ッ~~~~~~~~~~っ!!! (この、ままじゃっ……)」
腹部に突き刺さる爪先。臓腑胎内を掻き回されるが如き激烈な苦痛の中、気高い戦士であるルルヤの心にすら、じわりと影が滲んだ。『
「『死ねぃ丸』!!」
砕け散る【鱗棘】と【
「貴様が、死ね、だっ!」
だがその瞬間、ルルヤが凄絶な反撃の意思を込めた表情の顔を上げた! 【血脈】で治癒した手に込められた【息吹】の重力を、射出するのではなく引力として制御して用いる事で……
ZBAMZBAMZBAM!!
「おぉおっ!!?」
連続飛来した『死ねぃ丸』を引力で逆制御、自分に向かって飛んでくるのをよけつつ絡めとり、遠心力を乗せ逆に『
「うぐおっ!?」
初めて有効な攻撃となり、異形化した肉体の羽毛が舞い散り血が流れ落ち明確なダメージが発生した。
「よしっ! 通ったっ!」
「やったぞ、リアラっ!」
快哉を叫ぶリアラとルルヤ。それは二人の知恵と力の合体。一瞬の意思の交錯、阿吽の呼吸、阿吽の呼吸。先の気弾を重力で絡めとって投げ返す一撃は、【宝珠】を通じリアラが思い付いたものを、ルルヤがその天性の戦闘センスでもって実現してのけたものだったのだ。【世壊破】よりも【地脈】で集めた魔法力と大地と海の力を浪費しない、一矢報いる手段。
(《復讐》を使うには、一撃で戦闘不能になってはダメだ、けど、あいつの力じゃ、それが難しい。だけど掠り傷じゃ意味がない。《復讐》がダメなら、相手の力を使う手段はこれだ……この、調子でっ)
『
それによりリアラの心の揺らぎが、僅かに静まる。力になる事が出来た。大丈夫だ、今度は、僕は間に合って見せる。間に合って、仲間を救うと、心を燃やす。
(負けないっ……)
そして、ルルヤも。圧倒的な力の差が再演させる無力感という心の傷を振り払い、更なる抵抗を
「邪魔だぜ。そういうのは、望んじゃいねえんだ」
しようとしたその次の瞬間。一瞬で、二人の零距離にまで『
「死ね」「っ!? !? !?」「ッ~~~~~~~!!!!」
リアラを庇い立ちはだかったルルヤを、猛烈な突撃零距離気力波が吹き飛ばした。ダメージを与える事より振り払う事を狙ったそれに、ルルヤは堪えようとしたが、まるで水切りの石のように水面を何度も爆発させながら吹き飛ばされ、島に叩きつけられた。そして、激しく回転する視界の中、ルルヤは見せ付けられた。
唯、拳の一撃だけで。『
「かはっ……な、あ、あ」
島に叩き付けられ、仰向けに倒れクレーターにめり込んだルルヤの声が震えた。上空から見下ろす狒々豚じみた『
轟く、海が砕け散る爆発音。【宝珠】から消えたリアラの反応。かつて『
「あ、き」
「……その顔が見たかった。そういう戦いがヤりてぇんだよ」
「貴、様、っ」
■■。■■■■■■。めきりとルルヤの心の底が砕けて、心を壊しながら、黒い殺意と憎悪が溢れ出た。
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