・第三十二話「僕等は一つじゃない(決戦編)」
・第三十二話「
「うぅううううあああああああああああAAAAAAAAっ!!!」
ルルヤは絶叫し空を黒く切り刻む流星となった。それはこれまでルルヤの心の隅を何度か掠めた極端なまでの憎悪と殺意の、過去最大の大爆発であった。【
ZDGAM! ZDBAM! ZZZZZZNNNNNN!!
そのルルヤの斬撃と打撃は、一発一発が大気を轟かせる程の爆発、その機動は天地を掻き回す嵐。そしてその襲撃は、文字通り前後左右上下から、誇張なく殆ど同時に行われた。
「ぐはっ! ぐがっ!? ごッ!? (分身!!? いや違ぇ、残像か!? インフレしまくったこの俺の増大視力がか!?)」
一瞬だけだが、
「わああああっ!?」
だがそれは同時に周囲に凄まじい破壊をもたらした。ルルヤが【増大】の死角を衝く為に飛び回る度に船のマストが吹っ飛び船員が海に転落し水騎が転覆し、拳を打ち剣を振るう度に海が爆裂する。強烈な上昇気流が竜巻の如く渦巻き、水柱が何本も上がった。獰猛な勇気と爆発させた怒りの精神的エネルギーを魔法力にしているだけでなく、普段ならやらない危険なレベルでの【
「ななな、何だこいつは!?」
「し、諸島海が保つのか!? ぐうっ……!?」
既にその下の海域ではジャンデオジン海賊団側の
「ま、まずいやべえ、このままじゃ嵐の海で砕かれるより先に衰弱死だぜ!? !」
「け、けど、こうしねえと……!?」
「だ、だが、俺等が持つのか!? うぐ……!?」
天空遥かの戦いは海上で目の前の相手に必死な海賊達に見る余裕は殆ど無かったが、先程の墜落と激しく立ち上った黒い炎を
(殺す! 殺す殺す殺す殺す殺すっ!!)
狂乱し瞳を赤く光らせながら、ルルヤは猛烈な勢いで拳打蹴撃斬撃刺突の嵐を見舞っていた。狂奔しながらも体が技を紡ぐ。バチ、バチ、と、火花が散るように、脳裏にリアラの様々な表情が瞬き、消える。燃える。塗り潰される。思慕と悲嘆が、より攻撃的な感情に。憎悪が燃える。撒き散らかされる敵の血に、狂乱した魔獣のように興奮して理性が狭まる。【爪牙】で強化した手指が相手の肉体の急所を抉り、興奮した口が敵の首筋や手首や指に噛み付き食い千切る。
まるで自分の感情ではない感情まで混じっているかの様に。
「死ネェエエエエエエエエエエええええええええEEEEEEEッ!!!!」
ZDGAMM!!!! !!
咆哮の如く金属が軋む様な響きを帯びた叫びと共に、禍々しく変形した剣が止めを刺すべく殴り飛ばされ体勢を乱した
……だが!
「エッハハハッ! やるようになったじゃねえか! やっぱこの手だってばよっ!」
血を流しながら、
「な、がぁっ!!? っ、貴様ぁああっ!!」
「
「~~~~~ッッッ!!?」
かつて『
「が……がぁっ!? がはっ!? !」
……押し負けている!? 届かない!? これ程迄の殺人的な全力全開でも!? 認めぬと
「いい感じに戦えたぜ、痛ぇと感じたのは『
拳を握り混みながら、醜悪な獣の顔に邪悪な歓喜の笑みを炸裂させる
(い、き、がっ……!?)
それでも尚【鱗棘】が喉笛と顎骨の粉砕を防ぐが絶息し、脳が揺れ、ルルヤの上体が揺らぐ。赤く輝いていた瞳が濁り、四肢を覆う普段より激しく燃えていた黒い【息吹】が揺らぎ燃料切れのように小さくなる。
「どうした終いか!? あいつの命ぁ、てめえの怒りはその程度なんだなぁ!?」
(ち……がうっっ!?)
だがそれでも挑発しながらの
「……いいや、その程度だ!」
収束【
「あいつの存在てめえの思い、この程度の、ちっぽけだぁっ!!」
杭剣を砕きながら、
「あ、あああああああああっ!? !」
遂にルルヤが悲鳴を、苦悶の表情で叫んだ。……無念。力をどれだけ増やしても、力と力で争う限り際限なく力を増していく
「アッハハハハハハハハハハハハハッ!!」
そこに
(だ、駄目だ……)
突き飛ばそうとする腕が弾き飛ばされ、乳房に拳が突き刺さった。胸鎧に皹が入り、激痛に払い除けられた腕が引き攣る中、その腕も捕まれ、足掻く両足の間、股間を下から蹴り上げられた。凄まじい苦痛に言葉にならないルルヤの悲鳴が響く。身をもぎ離そうと必死に、半狂乱の様子で翼が羽ばたくが。
(勝てないっ……)
翼を支える肩鎧が羽を毟る様に引き千切られた。翼が揺らぎ薄れる。何発か股間に膝と脛を打ち込んで、鱗が細かく皮革に近い構造のせいか他の部分の鎧と違い上手く砕けない為
(殺、されるっ……)
既に力の失せた腕に代わり、
「リアラちゃっ、ルルヤ……!? おっさん
「てめっ!?」
「おっさんではないが保たせる! いけっ子供っ!!」
「舐めるなぁあっ!!」
ここから時系列は激しく前後する。数分前。墜ちる陽、狂い、潰えんとする月。それを見た直後、
同じ
そして。
「解いてくれ! 俺も! 戦う!」
奇跡的に未だ生きたまま、帆柱に磔られていたボルゾンが、重傷の身でありながら吼えた。それに答えるように船が揺れた。
「よく言ったぁぁ!」
それに呼応して、韜晦を取っ払い、敵艦隊を突破した最奥まで至りジャンデオジン海賊団旗艦にぶち当たった〈
「うほおおおっ!!」
「おわぁっ!?」
「今だ! 食らえぇい!!」
ボルゾンが船に積まれていた短艇や岩弾や壊れて旋回機構から脱落した投石機そのものを丸ごと担ぎ上げ、樽でも投げるかのように投げつけた。拷問された傷口から血を噴き出しながら、何度も!
「♪ーーーーーーーっ!!!」
船縁から飛び降りながら、
「ぷはぁっ! 起きてくれ、リアラ!」
「っ!? けほっ、あっ……!!」
気絶してた事に気づき、
「ルルヤさんっ……!!」
見上げた先には既に絶望的になりつつある戦況。愛しい人の苦悶。リアラの魂に冷たい戦慄と苦痛が走った。
「ヤバい! けど、まだだ! リアラ、ルルヤを助けるぞ! 細かいことはともかく好きなんだろ、手はあるか!?」
だがそれを励まし
その言葉は、リアラの心をがつんと動かした。この思いに比べれば、他の全てが何だと言うのだと。何よりも唯只管に、絶対にルルヤさんを、この思いを守ると。
「俺の命を使ってもかまわんっ!!」「なっ!?」「【
上から決然、ガルンが叫んだ。
「俺は余計なことをしてしまったようだからな。そして、俺の思いをルルヤがどうするかはともかく、俺がルルヤを愛した事は変わらんからな!」
ルルヤへの思いで。
「俺もいいぜ。団員や騎士さんや姫さんの面倒見てくれるんなら。俺の夢を背負ってくれるんならな」「
そして
そしてそれらの思いの純粋さは、リアラの心をまた純粋に煌めかせた。僕もこの思いに負けない、と。
「っ、大丈夫です、手はあります! 命、貰わなくても、勝ってきますっ!」
リアラは決然叫んだ。手はあると。先程吹っ飛ばされる直前まで考え続け、吹っ飛ばされなければ実行に移せていた手はあるのだと。そして弾けとんだ黒鉄のビキニアーマーを【
「分かったっ! 行ってこい! 俺も、行く!」
「うん!
そして最後の声をかわしながら二人は動いた。リアラは離陸、
そして、リアラは!
「…………」
「もういいぜ、まあまあの糧だった……『く・た・ば・れ』」
めりめりと筋肉を浮き上がらせ、放り上げ、既に飛ぶ力を失い落下するルルヤを、落ちてくる所を『くたばれ波』で貫き砕いてトドメとせんとする
「させませんっ!」
GOWA!!!! !!
「何!?」
リアラは高速で飛来、一瞬でルルヤを奪い取った! 必死に猛る気力が翼に力を与え、心を研ぎ澄まされて魔法力が迸り、先程より更に早さが増した! その速度ならば、例え相手がルルヤの体を掴んだままトドメを刺そうとしていたとしても強奪救出に成功しただろう超高速! 空を切る『くたばれ波』! 目を剥く
「っ、り、あら」
「~~~~~~~~っ、ごめん、なさい、また、遅くなっちゃってっ……」
「……まにあって、くれて、いきていて、くれて。……よかった、ほんとうに、よかった」
かつてカイシャリアⅦでの最終決戦で戦闘終了後力尽きたリアラをルルヤが抱いたように、ルルヤの体を抱き止めるリアラ。裸に剥かれたボロボロのルルヤの体に、リアラの目から涙が溢れ抱き締める腕が戦慄いた。ルトア王国の戦いではハウラとソティアを救えず、カイシャリアⅦの戦いの時も辿り着くのが遅れてルルヤに心配をかけ、今もまた、と、呻くリアラにルルヤは、息も絶え絶えながらも、生きていてくれた事への喜びと、こうしてちゃんと、私が死ぬ前に来てくれた、間に合ってくれている、だから、大丈夫、と答えて。
その声のか細さと、縋り付く腕の震えに、リアラは奥歯を噛み砕く思いだった。
「まあ、一向に構わねえせ。そいつぁもう十分食らいつくした。それで、お前? 覚醒したのかよ? オラを楽しませられっか?」
そんな二人を、一瞬は驚いたが、むしろ期待通りだと、余裕の嘲笑で腕を組んで見下す
「お前を少しも楽しませてはやらない。お前を殺す。お前が僕より
「やれるわきゃああるかぁっ! てめえに! 何ができるって」
その挑発的不服従不屈宣言に、怒号する
「この手に取らん神の行い、我こそこの世の主人公!」
「な、ばっ!? バカかてめえ!? てめえにそんな事が……!?」
……それには、流石の
「上なる天より神として。穢れたると、下界を眺め」
だが現に詠唱は続いている。目の前に光の壁が形成される。
「傲慢にも降臨した罪、凄絶に征伐した罪」
そして、光の壁の中に消える前のリアラの目、その眼光。それは憎き障壁であった『
「浅ましくされど尚、愛を捧げ涙を拭おう」
そう。何より、己が言ったではないか。漫画みたいに覚醒して見せろ、と。
「征服の罪を、せめて償わん」
まさか、本当に覚醒したのか!?
「
光の壁が解けた。姿が現れる。
「っ、ハッタリを……」「そうかな?」「ぬおおおおおっ!?」
現れた姿は、人の姿だった。鎧の
リアラの姿を。リアラの姿を。リアラの姿を。
周囲全てを包囲する様に数多の、無数に分身したリアラ・ソアフ・シュム・パロンの大軍勢を!
「同じ……! 『
リアラと目の気配が似た、自分の体の外に
「【
灼熱の光が無数に輝く。太陽の熱と、宇宙空間の冷たさを思わせる殺意の籠った声でリアラが呟くと同時に、【骨幹】による鉄剣ではなく、【息吹】を形成した光の剣を無数のリアラ達がその手にした。
「突撃っ!!」
そして、全方位から一斉に
(ルルヤさん)
(り、リアラ。これは、これは一体)
……リアラが『
(すいません、ここまで全部、ハッタリです)
(はぁああああああああ!?)
直後倍驚く羽目になった。
(これ、
流石に表情にも驚きの出るルルヤだったが、声に内容を出さなかった為、その姿は
それすらも計算の内。リアラは急いで続けた。
(でも、このハッタリで。そしてルルヤさんが稼いだ時間で得た情報で、奴を殺します! 格好つけて出てきて間抜けで情けなくてすいませんが、もう、体はほんの少しも動かさなくていいんで、あと少しだけ、手伝って下さい)
……そう、ここから逆襲が始まる! ハッタリでも策でも、リアラの出来うる全てを振り絞った逆襲が。全てを奪われた
「いいぜいいぜ面白ぇ! 来やがあああああああああ!?」
光剣を構えた無数のリアラ達に対し、上等だ楽しそうじゃねえか片っ端から殴り倒してやると、剣を構えたのだから白兵戦を挑んでくるのだろうと身構えた
それらは皆、数百枚の光壁と八発の光線を一本の剣に圧縮した物質をプラズマ化させる熱量を、即ち、ルルヤがそれまで繰り出していた重力と四肢と剣による物理的な衝撃とは違う攻撃力を持っていた。
「ってめえっ!!」
だが即座に
「
怒りを込めて突貫し、分身の一体に拳を降り下ろす!
(
竜術と白魔術に集中しながら、リアラはルルヤに説明する。
(力を盲信する馬鹿だからこそあんな
リアラがルルヤの力を借りると言ったのは、この白魔術の使用を意味していた。本来は悪辣な魔族が用いる極めて高度な魔術であり、余程習熟しないと完全に操ることなどできず、また強力な相手には抵抗されうるし解除や防御を行う魔法もある為、特化した適性かやむをえぬ事情があるのでもない限りこの魔術を鍛練するよりは他の魔術を鍛練し自分の戦闘力を上げる方が遥かに役に立つ。
事実リアラも齧る程度に覚えただけで、他人を操る事など出来はしない。リアラがこの魔法を覚えたのはまさにこの現状における裏技的な使い方、即ち全く抵抗をせず受け入れる信頼しあう味方に使用し、その魔法を借り受ける形で制御使用する為だ。
これによりルルヤの重力の【息吹】を使用する事で本来質量を持たない幻像に疑似質量を与え、あたかも実体があるかのように空気を揺らし飛ぶ事で更に分身の精度を上げたのだ。加えてその疑似質量を殴れば拳に手応えを感じ、殴られた瞬間にその幻像を破壊される
「おらららららららっ!!」
最初の奇襲の後は光剣を構え白兵戦を演じる幻像達を、
(そしてルルヤさんが稼いだ時間のなかで、幾つかの白魔術を使って分かった事があります。あいつは、あくまで魔法でないと攻撃が通りにくい相手を殴る為に気の力を使っていますけど、魔法そのものへの理解力は低いし、感覚も超人といってもあくまで普通の人間だったころの常識に縛られて五感しか強化していない。紫外線や赤外線は見えないし、魔法を察するような第六感の類いは持ってない)
それ故にルルヤを抱えて飛翔するリアラは、一見唯接近する
こんな手は多数の魔法使いの力を取り込み猜疑心を持ってそれを行使しただろう『
「『皆死ね波』!!」
故に只管分身相手に暴れ続ける事になる。『くたばれ波』『死ねぃ丸』の乱射では埒が明かないと、大技をぶっぱなす。
それは【
分身が一度全て消滅するが、すぐさま再度展開される。同時多数誘導といってもあくまで何をロックオンし追うかは
しかし、いつまでも逃げ切れるともわからない。まぐれ当たりの可能性もあれば、戦場全てを吹き飛ばすような攻撃を相手が行った場合は危険だ。このまま無尽蔵に近い体力を持つ相手がスタミナ切れを起こすのを待つわけにはいかない。
そして、本来野伏と兼業の隠秘術者としてスタートし成長したとはいえ竜術や武練と平行して修行をするリアラにこれほどまでに高精度の術行使は魔法への高い適正があったとはいえあくまで大量の魔法力を投入してこそ成り立つもの。勇者の精神を持つが故にリアラの魔法力は高いが、それだけではなく【地脈】の魔法力も消費している。それが無くなれば敗北。それまでに倒す方法とは何か。
(少しズルい手ですけどね。正々堂々の戦いで勝つに越したことはないけど、それは邪知卑劣の横行を防ぎ、人々を勇気づけるため。暴力が全てというまた別の邪道を封じる為には、こういう手もやむをえませんし……力だけが全てではないという事実もまた、皆の心に勇気を与えられたみたいです)
少なくとも、戦況は動き始めていた。そしてそれは、リアラ達に力を貸してくれる変化だった。
「ごっほおおおおおっ!!」「ふううううんっ! 今だ子供ぉおおっ!!!」
戦局の変化は、リアラが飛び上がった直後から始まっていた。
「がぁああああっ!? 離しやがれぇっ!?」
怪力無双の二人の男が、『
「《
それを可能としたのは
「嘘だろ、俺が……」
「怪物は、退治されるもんさ!」
「ぎゃああああああっ!!!! !!」
「くはっ!?」
「む、うう……」
「くっ……」
だが、
「……よくもやってくれましたね、殺してあげましょう! ゾンビ映画は全滅エンドも普通にありなんですよぉっ!!」
故に、最早
三人には。
「野郎共撃て撃て撃てぇえええっ!!」
BINBINBANBINBINBANBINBINBAN!!!!
「ぬぐわああああっ!!?」
響き渡るのはハリハルラの指揮の声、そして一斉に放たれる弩砲の太矢と艦載装備で増強された魔法、合計数十発!
「ぬが、ぐわっ、この程度でっ……!!」
それでも尚
とはいえ
「お前達も立ち上がれぇえええっ!」
「うぉおおおおっ!!」
遂に海軍も蜂起。事前からその心算だった為、ジャンデオジン海賊団が海兵を漕ぎ手席に括りつける為に使った海軍の捕縛鎖が特定の手段で解除可能な細工が施されていたりと、劣悪な環境下でもある程度の戦力としての蜂起は可能であった。
「痛い痛い痛い痛いいだいいだいいだいぃいいっ!? ぎゃばあああっ!!」
これにより戦力比は更に逆転。
「うひぃ!?」
「い、命あっての物種だ! 親分は勝つかもしれんが、死んだら何の意味もねえ!」
そしてそれは
それでも尚
そして。
「うぉおおおっ!!」
「俺達はやったぞ! そっちも! 頑張れーっ!!」
「負けるなーっ!!」
壊走する敵の背中へ響く勝鬨。そしてその勝鬨の声は、即座に戦い続けるリアラとルルヤへの応援の叫びへと変わった。ガルンが
故に、今こそルルヤは宣言した。
「言ったろだう、
(たとえハッタリでも、辛くても、苦しくても。それで救われる人が少しでもいるのだから、僕は僕の人生を完遂する!)
「だから皆、僕に力を! 皆にも、僕の力を捧げる! 僕もまた一つの陽として、こいつに明日の朝日は拝ませない! その為に力を貸してくれ! 皆の世界の歌を聞かせてくれ! 様々な歌が共存する世界の為に!!」
「「「「「応!」」」」」「「「「「応!」」」」」「「「「「応!」」」」」「「「「「応!」」」」」「「「「「応!」」」」」「「「「「応!」」」」」
「……応っ」
天と地と海に、リアラの声と、皆の叫びが響き渡り。そしてリアラの腕の中からも、ルルヤの声がリアラを勇気づけた。
「これで終わりにする! 次の一手で
故に、決着と勝利を今こそ宣言する!
「てめぇらっ! この! クソがぁっ! 雑魚がぁっ! 糞雑魚共がああああっ!!?」
どの分身も主観的には一発で消滅させられる。自分への攻撃もすぐ回復する掠り傷程度のダメージしか出せない。雑魚の筈なのに何時まで立っても殺しきれないリアラへ苛立ち振り回され続け、その状態で不甲斐無い部下の潰走に当たり散らしていた
「がああああっ!! てめぇら! オラに命を、寄越しやがれええええええっ!!!」
「「「「「「「「あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーーーーーーっ!?」」」」」」」」
狂乱しながら
「『
それ即ちこの状況でのリアラとルルヤを他全員巻き添えにして殺しうる、戦場全体を消し飛ばす一撃だ。
奇しくも、互いに多数の人間の力を束ねる者同士。ジャンルと嗜好は別、片や現実的な力の物語、片や理想論的な幻想の物語とはいえ、同じく物語を愛する者同士であるが故の類似か。
本来そのどちらにも善悪優劣は無い。こうして実際に他者を害する力として用いられるのでなければ。それは転生者であるリアラが、今ここでこうして、そしてこれまでもこうして人を守るために戦い続けている事からも、悪しき転生者を憎むルルヤがその腕の中にいる事からも明らかだ。
策が図に当たり敵を倒せるかどうかはやってみなければ分からない。失敗すれば全員死ぬ。それでも尚。戦い続けると、歩み続けると誓った以上。戦い続け、次の一歩を踏み出し続けるだけだ。
「ルルヤさん。貴方の痛みは、僕も担います」
そう呟くと同時、リアラは息を詰め、呻いた。その直前、リアラとルルヤは【宝珠】でこう会話していた。
(仕方がない、か)
(うん。だけど。ルルヤさんと同じ痛みを共有できるのは、僕にとっては苦しみなんかじゃない。ルルヤさんが傷つく事に比べたら、何でもないから)
それより以前の対話での説得で、ルルヤは、ある白魔術を自分に対し使う事をリアラに許した。その白魔術の名は《魔痕》。
だがリアラの使い方はそうではない。逆に用いる。ルルヤから傷を引き受け、その痛みを、防げなかった罰を己で担いながら、己の負傷度を攻撃威力に加算する《復讐》へと繋げるのだ。
リアラの柔らかな体に傷が移り、唇から吐血が溢れた。逆に傷の癒えていくルルヤの縋り付く裸身が、リアラに痛苦を与えざるを得ない己の未熟に嗚咽で震えた。初めて年頃の女の子らしい弱さを見せるルルヤをリアラは傷ついた腕で硬く抱きしめて前を見た。
全ての痛みを噛み締め、リアラは
ここまでで、『
『
上回られたのかどうか、というのは、『
……奴の魂の歪み、賊として生きていたが故にその力の側面だけを見て憧れた少年漫画のあり方から生まれた力が故の特徴。そしてこれ以前に理解した特性を元に、既に仕掛けていた布石をこれから発動させる。
勝てるのか。いや、勝つのだ。リアラの心を、凄まじいまでの不安とそれを乗り越えようとする勇気が荒れ狂った。腕の中のルルヤへの思いが、ルルヤの、負けないで、という小さな呟きが勇気を強化した。勇気が、攻撃を発動させた。それら全てを束ねた専誓詠吟を。
「《
「ア」
リアラがそう唱えた瞬間、『殺る気玉』を投げつけようとしていた
「アボッ!?」
突如その目が白く濁り、同時に喀血!
「ガッアッナンッウググオゴゴッ!? ゲボッ!? ウガッウウググゲボバーッ!?」
そして悶絶! 気力を維持できず掻き集めた生命力で製造した『殺る気玉』が消滅! 吐血、血涙、耳血、そして泡を吹いて中毒し全身から発熱、苦痛、痙攣、呼吸困難、心臓麻痺、脳溢血、更に羽毛が炎上、一部逆に凍結、怨念が身を蝕み、肉体が腫瘍化し、部分的に席化し始め、呪いが絡み付き、突然内側から裂けるように傷が発生し出血、体組織が崩壊していく……!
それは【地脈】で得た大量の魔法力を注ぎ込み、《復讐》と同時発動させ、爆発的に効果を増大させた毒や呪詛や病魔等の、攻撃に付与したりじわじわとかけ続ける事で作動する継続的に発動し妨害し能力を低下させ障害を与え生命力を削り命を奪うこれもまた復讐の為に《魔痕》と
ゲーム的に例えれば、1ターンあたり最大HPの十分の一の継続的ダメージを与える魔法を、10個同時にかければ、十分の十のダメージを受け1ターンで死ぬ。仮に複数のHPゲージを持っていても、行動出来なくされていれば、HPゲージ数ターン後に死ぬ事は変わらない。要するにそういう事だ。
戦いながら、既にじわじわと仕掛けていた。傲慢で短絡的で愚かで力での勝敗以外何も見ていない相手に、気づかせぬままに。だからこそ、いくら愚かでも、そもそも力を加減して戦っていたのだから力をある程度解放すれば『殺る気玉』を使わずとも此方を滅ぼせていただろうものを、考えなしに『殺る気玉』を使ったのも、元々愚かであったが既に知力低下の呪いがじわりと効いていたのだ。
それこそルルヤと一緒に戦っていた時に幾つかの白魔術を試しにこっそりかけてみた時に反応から、既に伏線を張り始め、じわじわと魔術をかけ始めていた。分身を突撃させても僅か傷しか刻めなかったが、僅かな傷で十分。そこから既に、この状況を作るのに十分な量の様々な毒や呪いを流し込んでいた。後はそれに、一斉に魔法力を注ぎ込み威力を爆発的に向上させるだけだ。
認識した瞬間に上回るというならそもそも認識させなければよい。幾つもの命を持っているというのであれば、認識できないままに削り取ればいい。生命力を増やす事が出来ず、生命力を削る魔法を解除できなければ、どれほど莫大な生命力を誇ろうとも何れ力尽きる。そして、そこまで効果のある魔法ならば当然かけ続けるのは難しく普通だったら抵抗されうる魔法ならば、抵抗されないような状況になるよう順番に発動させればいい。
例えば《謎掛》という魔法がある。他の魔法と組み合わせ《謎を解いた時には効果が失われるが、謎を解けなかった場合効果が倍増する》という、発動しないかもしれないという制限を入れる事で魔法が発動した時の効果を強化する魔法だ。迷宮や魔城等に侵入防止兼罠という様な用途で仕掛けられている事がたまにある。回答するまで発動しない、回答するまで発動し続け間違った答えだった場合効果が倍増して正解するまで呪い続ける、回答に時間制限を設ける、等の調整が可能だ。
……もし、意識が朦朧としたり知力が低下してまともに答えられない状況で時間制限付きのこれをかけられたら? 要するに抵抗されないような状況になってから順番に発動させるというのを最大限の敵意と悪意と殺意を以て行使するというのはそういう事だ。無論他にも様々な組み合わせがあり、全て復讐の為に必死に学び覚え最大効率で相手を絡め取る為に日頃から考え続けたリアラの知恵の賜物であり、そして限界まで耐え続けたルルヤのボロボロになる程のダメージがその全てに《復讐》で上乗せされた、ルルヤの死闘の賜物だった。
無論、魔法知識に長けた『
「例えお前の前世が貧しかったとしても、例えお前の前世が愛し方はどうあれ物語を愛していたとしても。例えお前が僕より強かったとしても。例え
ルルヤを抱き抱えたままこの暴力の化身を倒しきったリアラは、全ての魔法が完全に全身を食いつくし崩壊していく怪物の末路に、決然とした表情で告げた。
「僕の魂は。僕の想いは。負けません」
「アガッ……」
その一瞬の表情に僅かに瞑目した後リアラは、腕の中に抱くルルヤを、彼女の傷を引き継いだ傷だらけの腕で、それでも優しく撫でて囁いた。
「ルルヤさん。……勝ちましたよ」
「……ああ。リアラ。お前はやっぱり、私より強くなれるじゃないか」
そう初めて
二人とも、様々な、強く、まだ言葉にならない思いを込めて。
かくして、諸島海での戦いもまた、終わりを告げた。沸き上がる歓声が、二人を祝福していた。
……だがその時、この海域に近づく
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