・第三十三話「僕等は一つじゃない(完結編)」

・第三十三話「僕等は一つじゃないwe are not one pieces(完結編)」



真竜シュムシュの暴走、そして諸島海への【真竜シュムシュの地脈】による高い負荷の発生。それによる消耗。ここまでは想定通りだ、だが……」


 『交雑クロスオーバー欲能チート』は、仮面越しにも分かる警戒の表情で、それを見た。諸島海の戦いの決着を。


「予想外はあいつか。リアラ・ソアフ・シュム・パロン」


 予想通り、これまで主戦力であると見なされていたルルヤは『増大インフレ欲能チート』に敵わなかった。決めたのはリアラの策と、それを成し遂げた二人の連携。


「今迄の戦い方では勝てないと見切ってはいたが。今迄ではない戦いも出来たか」


 しかし事前の戦力分析で今までという言葉を使っていたように、この可能性もまた『交雑クロスオーバー』はありえると見切っていた。故に、驚きは無くそう呟く。


 何らかの飛行魔法を用いて空を駆けながら。遥か先のリアラではなく、目指す先の光景を見る。


「な、何でお前が邪魔をする! 『永遠エターナル』!」

「『旗操フラグ』。先輩に対する礼儀がなってねーんじゃねーの? そんな問いなんかに答える気になると思う?」


 海上を飛行し対峙するのは、『旗操フラグ欲能チート』と『永遠エターナル欲能チート』。それも『永遠エターナル欲能チート』が、戦闘直後のルルヤとリアラを奇襲しようとしていた『旗操フラグ』に立ちはだかる格好でだ。『旗操フラグ』は砂混じりの風を纏い『永遠エターナル』はその力で呼び出したものか混珠こんじゅ魔竜ラハルムとは異なる印象を持つ翼ある竜を駆って飛んでいた。


 『旗操フラグ』は既に『取神行ヘーロース』となっている。その姿は天秤を象ったバックルの付いたベルトをして宝飾を体に巻き、鰐と獅子と河馬を融合した奇怪な獣を象った鎧と冠を纏う、緑の線が入った胡狼ジャッカルの様な頭を持つ木乃伊ミイラといった姿だ。対する『永遠エターナル』は平然と素のままの姿。だがそれでも尚、口調に余裕があるのは『永遠エターナル』。


 そして『永遠エターナル』は剣の柄に手を置く。『災禍を呼ぶ者テンペストコーザー』。『永遠エターナル』最大の武器。


(やる気か!?)


 それに『旗操フラグ』は両手に鎌めいた剣、即ち古代エジプトで用いられたケペシュを一振りづつ形成して構えて、一触即発の睨み合い。



「え? ……ぐはあああっ!?」


 『永遠エターナル』は『旗操フラグ』を倒した。コピシュ二剣を弾き飛ばされ、全身幾つもの傷から血を吹き上げ、『旗操フラグ』は悶絶瀕死!!


「な、何がっ……!?」

「即死しねーのかよ、『旗操フラグ』。それだけが取り柄なだけあって運のいい奴。ったく、幸運とか気まぐれに安易に頼る物語は二流だってのに。ま、じゃあもう一度」


 まるで描写が省略されたかの様な攻撃。苦悶しながら混乱に目を見開く『旗操フラグ』に対し、容赦なくトドメを見舞おうとする『永遠エターナル』。


 だがそのとき!


「『聖痕激風スティグマータウィンド』ッ!」


 DOWAO! DOWAODOWAO!


 奇怪な飛行音ともにルルヤのそれにひけをとらぬ空中にギザギザの軌道を描く慣性と重力を無視した飛行で割って入った影が、強烈な風の攻撃を放った。即座に身をかわす『永遠エターナル』。


「『三連血爪螺旋錐トリニティブラッディドリル』! 『虚無手斧ウチキリトマホーク』!」


 そこに割って入ったそいつは、片腕を即座に三本の鉤爪を捩り合わせた様な凶悪なデザインのドリルに変えると『災禍を呼ぶ者テンペストコーザー』と鍔迫り合いし、反対側の手に棍棒の様に頑丈な柄を持つ手斧を構え『永遠エターナル』に向けた。ぼろぼろのマントめいてはためくコートに生物じみて奇怪にうねり動き重力に逆らい上向く赤いマフラー、口から鼻を覆う鉄の覆面と頭から生えた細長い三角形の二本角、爛々と緑色に輝く瞳孔が螺旋を描く目、鋼の鬼じみた機械化人間サイボーグ


 機人化欲能行使者サイボーグチーター虚無ウチキリ欲能チート』。驚くべき事に、十弄卿テンアドミニスターでならざる身ながら十弄卿テンアドミニスター同士の争いに割って入ったのだ。


「自分への重力と慣性を『虚無ウチキリ』して飛び、『文明サイエンス』の『発明品マクガフィン』の効果と欲能チートを組み合わせて、十弄卿テンアドミニスターが使う『邪流ジャンル』の絶対支配を『文明サイエンス』の『邪流ジャンル』を本人から『虚無ウチキリ』で切り離し借り受け纏う事で十弄卿テンアドミニスターとの戦闘を可能とする。あくまで十弄卿テンアドミニスターの力あればこそ、『邪流ジャンル』の絶対性を突破したんじゃなく『文明サイエンス』の力を借りて誤魔化しただけだけだが中々小細工をするじゃねえか。ま、だからといって私に勝てる訳じゃないが」


 間に割って入り、狂暴な眼光で両者を睨み激突を阻止する『虚無ウチキリ』を、その仕組みを一瞬で見破り、へらりと嘲笑する『永遠エターナル』。そして正面に『旗操フラグ』『虚無ウチキリ』を置きながら余裕綽々で振り返り、問う。


「だろ?」「見切るか、流石」


 それに追い付くように現れ、己の背後を取った『交雑クロスオーバー』に。


「だがそれは兎も角として、なぜ十弄卿テンアドミニスター同士で内紛をしている。それも〈長虫バグ〉の打倒を妨害する形で。第二位と言えど、糾弾を免れぬと思わないか?」

「別に? くたばった宗教馬鹿クルセイド筋肉馬鹿インフレもやってたじゃん、何が悪いっての。まあ建前言うなら、『全能ゴッド欲能チート』がが、長虫バグ〉はある対策を取ってから殺さないと殺せはするがの先にある危険な事態になるとか何とか? らしいから、馬鹿は殺してでも止めるのが新天地玩想郷ネオファンタジーチートピア全体の為だ、って、追加命令がお前らには知らされず私だけにな? ま、お前らもこれが幸運でも気まぐれでもないそれとは別にこっちはこっちの望んだ状況であいつらを殺したいっていう目論見あっての建前だ、って事は分かってるとは思うが」


 仮面もその下の表情も声も無機質に『交雑クロスオーバー』は『永遠エターナル』を批難。だが『永遠エターナル』は、へらへらとまともに取り合わない。


「如何にもその通りだ。危険の話は既に聞き及んでいるし、件の暴走も片や独自魔法で片や力で何とかしただろう『神仰クルセイド』も『増大インフレ』も滅んだ。『旗操フラグ』達も一応の準備はしていたろうが妨害された訳だが。正に建前、真の理由はそちらの欲望と都合だな。まったく、新天地玩想郷ネオファンタジーチートピアは変わらなければならない」


 私が変える。私が望む方向に。それに従わないなら、お前もここで滅ぶか? とでも言う様に、無表情で淡々としかし凍れる剣の様に冷厳と『交雑クロスオーバー』は告げる。


「変わる? ハハッ、ワロス。お前らは変われないよ。死ぬのはお前たちで、は関係ねーさ」


 それでも尚にやにやと真に受けない『永遠エターナル』に対し、『交雑クロスオーバー』は。


、か」

「ああ、そうだとも。


 その言葉に、将棋の駒を打つ様に呟いた。そして、それに『永遠エターナル』も応じる。


 俺にはではなくこっちには。それはつまり、『全能ゴッド欲能チート』と『永遠エターナル』の派閥、言わば〈首領派〉の存在を匂わせると言うより明言するものだ。それは『交雑クロスオーバー』の予想通りではあったが、であるならばこの場で言う事がという事か? ならば……


 と、一瞬で先の先の更に先まで『交雑クロスオーバー』は読み、『永遠エターナル』はその読み具合を読み、『交雑クロスオーバー』は更に己にどこまで読ませ何をさせたいと『永遠エターナル』とその背後にいる『全能ゴッド』は考えているのかと、お互いの意図を読みあう。


(『惨劇グランギニョル』が昔言っていた、こいつの正体に関する予測。それと『文明サイエンス』の研究成果。そこからすると)


 『交雑クロスオーバー』は判断した。手品めいた手つきで一粒の丸薬を取り出し、指弾として射出。それは『旗操フラグ』の口に命中した。


「んぶっ!? げほ……、おおっ!?」


 それをまともに受けて飲み込む羽目になった『旗操フラグ』だが、その結果に驚く事になる。先ほどまでの手傷が一瞬で完治。回復薬だったのだ。


「さて、ここからは三対一だ」

「別にいいぜ。少なくともそこのそいつぁ雑魚だ」

「……!」


 己を見る『永遠エターナル』『交雑クロスオーバー』を見て『旗操フラグ』は理解する。『交雑クロスオーバー』は、己に影響力を行使出来るようになろうとしている。派閥から引き抜くつもりか、そこまではいかず騙して利用するつもりか、そしてまた『永遠エターナル』も。


「お前は若干物分かりが悪いようだから言っておくが。立ちはだかったのが俺だって事と、この場に『情報ネット』がいない事について、少しは考えたら?」


 謎めいた言葉を『旗操フラグ』にかける『永遠エターナル』。不意に『旗操フラグ』は己が酷く危うい立ち居地にいることを理解して全身の毛穴が開く感覚を覚えながら必死に頭をフル回転させた。確かにこの場に『情報ネット』はいない。〈長虫バグ〉潰しの為に共に離間工作か、あるいは真実か。この場で殺す心算ではないのか、そう思わせて殺す算段か。


(『情報ネット』! 『情報ネット』! どうなってる、そっちは!?)

(これは少々面倒ですねえ)


 欲能チートとは別の隠秘術による魔法通信……連合帝国中枢に高い地位を持って巣食っている為に高額な極めて小型の念じるだけでハンズフリー使用が可能なものを購入していた……で『情報ネット』に呼び掛ける『旗操フラグ』。


(予想より辺境諸国艦隊の動きがよい。そこそこの数が来てる。どころか、鉱易砂海の船まで来てますね、これは)


 応じる『情報ネット』の声には緊張感がなく、かなり『旗操フラグ』をイライラさせた。


(【世壊破メラジゴラガ】のリソースが切れていれば殺すは容易いという手筈だったのですがね。実際今はもう【世壊破メラジゴラガ】は一発も打てないでしょうが……『増大インフレ』を仕留めたのは【世壊破メラジゴラガ】ではなかった)


 諸島海政府の要請で出した連合帝国艦隊。『旗操フラグ』と『情報ネット』はそれにまぎれ〈長虫バグ〉の首を取るべく接近し、万が一の事を考え『旗操フラグ』が消えた事を誤魔化す為に艦隊に残って『情報ネット』はその欲能チートでその場に取神行ヘーロース化前の『旗操フラグ』の姿を映し続けていたのだが。辺境諸国から派遣された艦隊、鉱易砂海から派遣された艦隊、それぞれの意外な多さとまた外交的な足並みの問題から、連合帝国艦隊はそれら二艦隊と対峙し交渉を行う状態になっていた。その光景を船上から見ながら『情報ネット』は思案する。尤も、彼の欲能チートの射程距離的にはこの距離からでもリアラとルルヤを攻撃可能であるため、地理的な位置関係程『旗操フラグ』だけを前線に立たせている訳ではないが。


(この数の船から【地脈】で魔法力を集めれば、〈長虫バグ〉はもう一足掻きは出来るかもしれません)

(馬鹿野郎それどころじゃない! 『永遠エターナル』だ! 『永遠エターナル』が何でか敵に回ってる! 死ぬところだったんだぞ、おい!?)


 船団にリアラとルルヤの仲間がいる事を欲能チートで知覚確認し、船団が【地脈】における追加の燃料タンクになる、というよりは船団派遣に働きかけたリアラとルルヤの仲間はそう考えていたと見るべきかと、船団に乗る自由守護騎士団と児童傭兵団〈無謀なる逸れ者団〉を見て分析する『情報ネット』に対し、何故その情報収集能力で警告しなかった、と『情報ネット』を詰り猜疑する『旗操フラグ』。


(空間を切断して唐突に出現できる怪物相手にどうしろと言うんですか。貴方の前に出る二秒前まで、彼は何時も通り〈絶え果て島〉に居たんですよ? 『交雑クロスオーバー』と『虚無ウチキリ』についてはそちらに情報を飛ばしたのですが、どうやら『永遠エターナル』との交戦でそれどころでは無かったようですし)


 肩を竦めて嘆息して2秒、飄々とした口調のまま『情報ネット』はすっぱりと決断した。


(いずれにせよこうなってしまえば〈長虫バグ〉二人の抹殺は不可能。支援します、いざとなったら私も『取紙行ヘーロース』となっても。ですので撤退しましょう)

(いいのか? 俺は回復したし、『交雑クロスオーバー』もこっち側の上に十弄卿テンアドミニスターともやりあえる『文明サイエンス』の新兵器とかいう奴も居る。お前も入れて4対1なら『永遠エターナル』だって殺れる。船何隻か分の魔法力を回復した程度の〈長虫バグ〉なら、その後でだって……)


 諦めが早すぎるのでは、と、3対1の戦いを開始しながら反論する『旗操フラグ』に、糸目の眉寝を寄せて『情報ネット』は頭を振った。


(『永遠エターナル』を侮ってはいけません。それに万が一『全能ゴッド欲能チート』が出てくれば全てが台無しです。全知ではないとはいえ『全能ゴッド』は恐るべきお方。『全能ゴッド』がここで事を構えず『永遠エターナル』が退くか運良く倒せて〈長虫バグ〉を我々全員で殺しても手柄は山分けです、それは旨くない。〈王国派〉のこれまでの動きと今後の予測からして、私達の目的を達するには、『永遠エターナル』と『全能ゴッド』を〈王国派〉と共に排除した上で〈王国派〉に勝つか、さもなくば最低限此方の要求を飲ませる程度の力を持っておく事です。それに……)


 そして、くわ、と、いつも細く閉じかけていた目を見開く。見開いたその目は、狼や蛇のごとき鋭い殺気を持っていた。


(……かつては脅威をむしろ誇張して利用しました。鼠の如き子供だと思っていましたが、なかなかどうして侮れない。転生者の〈長虫〉リアラ・ソアフ・シュム・パロン取神行ヘーロースを使ったというのはハッタリですが、窮鼠は猫を噛む。まして窮竜ならば神を噛むでしょう。私達の勝利条件は生きている先にこそあるのです。勇者の力とやらがどの程度土壇場で踏ん張りが効くか。突っ込んで殺せたが相手の最後の踏ん張りで此方の一人と刺し違えた、その一人が自分だったら? 組織の為になれて良かった、と笑って死ぬような奴じゃないでしょう? 貴方も、私も。自分なら勝てると思って自分の命の安全を確保しようとしなかった、これまでやられた連中の二の舞は嫌です。こちらが確実に生存できる状態で相手を殺さなくては)

(それは、まあ、そうだが……うおっ!?)


 それに気付いて『旗操フラグ』は目を見張った。その視線の先には……今正に上空で争い合う自分達を、凄まじい覚悟の表情で見据えているリアラの視線があった。


 その表情は、その眼光は、凄まじい覚悟の表情としか言いようがないがそんな言葉では収まらない顔をしていた。五体が粉微塵に砕け散ろうとも、この腕の中の女ルルヤ・マーナ・シュム・アマトは死なせない、絶対にどんな手を使っても全員相討ちに道連れだという気迫があった。一瞬【旗操】は思わず怯え、そしてその事実に愕然とした。おのれと睨み返し。


(……畜生が)


 全裸でも戦って見せる、リアラは死なせないとばかりにルルヤもまた同じ表情を浮かべた事に、内心唸った。


 だが水平線に邪魔をされぬ距離とはいえ、この距離では人間など埃粒程度にも見えるかどうか。まして此方は欲能チートを使った戦闘スタイルの外見が地味で『交雑クロスオーバー』も何故か普段ほど力を全開にせず、『永遠エターナル』も同じく先ほど自分を一瞬で瀕死にした力を使う事が無かった為それでも張り合えていたのだが、何れにせよ『増大インフレ』の様な天地を轟かせる様な戦いではなかったというのに気付くとは。


「『増大インフレ』を倒しただけの事はある。やはりこの距離で気づくか」

「へー、予想してた? だから手の内を隠したのか。情けない話だなあ、ええおい。それでもこっちの力に対応した上できっちり目立たない力だけで追随してくるのは、一回転生小僧にしちゃあ、やるじゃん」


 そして『永遠エターナル』と『交雑クロスオーバー』の会話で一連の流れの意味を理解する。


 『交雑クロスオーバー』はこの距離からリアラが此方に気づく可能性を見据え、手の内を隠した。その上で『永遠エターナル』が使った、描写をすっ飛ばしたかのように相手を倒す技に、手の内を隠せる力を運用して対応してのけたのだ。何という。その上で最初の一手、『虚無ウチキリ』と呼応して放った初太刀はその裏に本気でこの場で『永遠エターナル』を殺すつもりで放っていたのだが、次の一手までの間に彼我の実力を計り、方針を転換したのだ。


「直接手合わせして大体分かった。貴様は確かに強い。あらゆる転生者よりも。だがこの場で殺すのは面倒だが、手が無い訳でもない。しかしどうしようもない馬鹿だったが単純な破壊力という点では新天地玩想郷チートピア随一の『増大インフレ』を仕留めた相手を、その後で相手取るのは面倒だ。相手が使うのがお代わりの分の辺境・砂海の船団から貰える魔法力なら確実に仕留められるが、追い詰められて心算の覚悟ひらきなおりで来られれば大分厄介だ」


 ルルヤが見せた黒い暴走。それ自体は『増大インフレ』に敗れたが、あれは『増大インフレ』が際限なく相手より強くなる欲能チートを持っていたが故だ。あの黒い暴走も吸い取る力を増す程強くなる。それと同じように犠牲を出す事を覚悟して来られれば、仲間割れの後では、成る程生き残った者の内道連れにされる者も有ろう。


 それに実際手合わせし方針を変換したとはいえ、元々〈長虫バグ〉より『永遠エターナル』を優先していたのには理由がある。故に、今はここまでだと『交雑クロスオーバー』は判断した。


「故に、健闘に敬意を表する、と言っておこう。だが、これまでも、今も、我々の、派閥間の目的の相違や戦略的意図で、貴様等は生かされたのだ。そして、これからはそれは無くなる。その時がお前達の最後だ。それを忘れるな」


「忘れないさ。その仲違い、その優先事項、その条件をも武器にして、必ず勝つ」


 沈黙を保つ『虚無ウチキリ』を脇に従え、『交雑クロスオーバー』はその欲能チートの一欠片を用い、超長距離での会話を成立させ、リアラを威圧した。そしてそんな事は覚悟の上だ、それでも戦う、それでも勝つ、と、怯まぬリアラに、敵意を込めて獰猛な笑みを向けた。


「首洗って待ってなよ、今回邪魔をしたのは必要な時まで育てて収穫する為なんだから。せいぜい肉質良くしてるんだな子豚ちゃん。ま、似たような事は『交雑クロスオーバー』も考えてるようだけどさ」

「……そんな目論見を持った事を後悔させてやる。あと、誰が、何処が子豚だ!」


 『交雑クロスオーバー』の判断と優先順位と目論見を弄びながら、『永遠エターナル』は『交雑クロスオーバー』と同じ様な、だが別の力に由来するだろう手段で長距離会話を成立させて挑発し、ルルヤは女としてその比喩は腹が立つという部分も怒りながらも、もっと強くなる、心も体も、と誓いを立て己の弱さ未熟さに怒りながらやはり一歩も譲らず。『永遠エターナル』は、それでも尚見下すように嘲笑った。


 そして、十弄卿テンアドミニスターはそれぞれ身を翻して姿を消していった。


(こんな事もあろうかと、貴方の幻を作るだけではなく、何人かの幻を作っておきました。仮に相手が《使魔つかいま》等を使って船団を調べ、この距離で私の欲能チートを見抜いたとしても、どれが変身前の貴方だったのかは分かりませんよ)

(た、助かったぜ)


 その影で、離脱する『旗操フラグ』とこそこそ通信を続けていた『情報ネット』だが、通信が終わった後、内心一人思う。


(私を破滅させた奴も、ああいう目をしていたのだろうか。世界を、権威を、強者を恐れぬ目。やはり貴女方は、必ずその心をへし折って殺します)


 この場に集まった四人の十弄卿テンアドミニスターの内、最も濃い悪意と敵意を込めて。


(しかし。組織の為に命を捨てられる人間がいない、最終的に相互の目的が両立不能の派閥も存在する、この二つの新天地玩想郷チートピアの弱点が露になった格好ですが、それでもこれからは全派閥が〈勢力圏に現れたら対処が必要な虫〉ではなく〈戦略的に本気で対策が必要な敵〉と認識する。派閥間の関係も協調可能な部分は変化する)


 『全能ゴッド』も『永遠エターナル』を介してそう認識しただろうし、『文明サイエンス』も『虚無ウチキリ』を介してこの場を見てそう認識しただろう。つまり、十弄卿テンアドミニスターの全員が。即ち。故にこそ此処に置いて初めて、真竜シュムシュの勇者と新天地玩想郷チートピアの間に、宣戦の布告が為されたと言えよう。故に。


(本当の戦いは、ここからです)


 戦いは続く。より複雑さを増して。



 逆襲物語ネイキッド・ブレイド、今尚、未完いまだおわらず

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る