・断章第七話「りあるる」
・断章第七話「りあるる」
「だからね。どんな魔法も、必要なのは魔法への知識……その魔法の力の源にどういう世界への接続と影響力の行使が可能か、その可能な行為をする為にはどうその力に接続すればいいのか……それと、魔法を掌握する気力……精神的肉体的な力が捧げられる疲弊に耐える心と、その行使が可能だと固く信じる心と、力の源を強く信じる一体感……隠秘術だとそこに、魔法装備に封印された魔の影響に耐える心が加わる訳だけど。リアラ、貴方の性格的には、自己の意思と知識だけで世界への接続を行う、言わば我儘を通すタイプの錬術より、耐えて制御するタイプの隠避術の方が適性があるみたいね。リアラは、穏やかで優しいから」
そう静かにいって、ソティアさんは微笑んだ。
「そ、そんな事、無いですよ。僕は……そんな事、無いです」
それにリアラは、そう答えた。事実、自分が穏やかで優しいとは思わなかった。唯、自分は、我欲に対して潔癖性で、自分が耐える方が気が楽だと思う引っ込み思案で、と。二人との旅の間と復讐の旅の中で改めて認識させられた自分について、そう吐露した。
本と目を痛めぬよう穏やかにレースカーテン等で減衰させられた程良い明るさが保たれる図書館で。左右を挟むソティアと反対側のハウラは、石板から写された古文書を置いて、リアラにこう言った。
「リアラが自分の事そう思ってるんじゃないか、というのは、確かにそうなのかも、と、ワタシ達も思ってた、けど」
幼いといっていい少女の顔に、豊かな自然のような懐の深さを宿して。
「それでもリアラは、いい人に、優しくしようとしてる。引っ込み思案だって言ってるのに自分から。潔癖性だって言ってるのに人の輪の中に入って。それ、つまり、優しいとか穏やかって言う、違う?」
「っ」
返す言葉がなかった。目頭が熱くなった。胸が、暖かく切なく大きなもので詰まった。ぎゅっと、野伏風の上着の胸元を掴んだ。
「ああ、泣くな、泣くな。泣かせたくて言った、違う。元々ソティアの言葉に、〈煎じ詰めれば知恵と勇気〉っていって、あともう一つ、〈もし神様や精霊とかの力を使う事になっても、勿論それを信じるのは大事な事、けど、例えば自然の精霊の中に野火や洪水みたいな破壊的傾向があってそれと繋がりすぎると暴走とか大変な事になる可能性もある、だから、知恵と勇気大事、けど、そうなってしまった誰かを助けるのには優しさが要る〉、って、言いたかった!」
わたわたするハウラに、リアラは何度も頷いた。頷いて、頷いて、胸が詰まって出てこなかった一言を、ようやく絞り出した。
「……いいのかなあ。ねえ、いいのかなあ」
笑顔を見せてあげたかったのに、涙が止まらなかった。二人の顔をもっと見ていたかったのに、涙が止まらなかった。
「僕が、僕なんかが。こんな夢を見ちゃって、いいのかなあ」
二人を守れなかった自分が。二人と一緒にいた優しいと言われる自分ではなく復讐者である自分が。ルルヤさんと一緒にいる事に絆を覚えている自分が。と、口に出して、あっ、と思った。
次の瞬間、夢が覚めた。……夢が覚める一瞬前。私達の事も忘れないで、と言うように、涙に滲んだ視界に一瞬クリアに、貴方の事を思っている、と言うように、祈るような表情と仕草の、二人の少女の姿が見えた。細身な種類の子猫のような印象で大きくツンとした目と艶やかなショートヘアをしているが、それでいて不思議と優し気な顔立ちの、繊細だがしなやかな芯を持つ可憐な少女tと、古風で和風に整った顔立ちに実直で真面目そうな表情、しっかり結んだ三つ編みの髪で堅実な意匠の眼鏡をした文学的な雰囲気を漂わせる少女。それぞれ、地球の妹の
「っ!」
そして目が覚め身を起こしたそこは、宿屋のベッドの上だった。時刻は、まだ一番鳥が鳴かぬ薄明。
「っ……っ……、っ~~……」
夢だと気づいた結果、目が覚めたのに。それでも一瞬、今が逆に夢じゃないのか、さっきまでのは夢じゃなかったんじゃないかと疑って。すぐに、それがやはり夢だった事を悟って。リアラは、声を殺してすすり泣いた。
(ハウラさん、ソティアさん、
夢の中ででも彼女達に会えた嬉しさと、最早失われた事実を再び残酷に突きつけられる悲嘆、そして、夢で彼女達に慰められる事を無意識に望んでいたのだろうかという己の浅ましさへの悲痛、一瞬だが追体験したかつての平穏な日々への懐古。様々な思いが胸を苦しくした。
「わっ!?」
そんなリアラを、次の瞬間すっと延びてきた腕が抱き寄せ、力強く抱き締めた。
「リアラ」
「ルルヤ、さん。あ、起こしてごめんなさ……」
誰かといえばそれは勿論、竜は宝物を一番頑丈と信頼できる防御手段即ち自分の体の下に隠して寝るという習性故に、いつもリアラと一緒に寝るルルヤであった。
そして跳ね起きた事と声を押さえたとはいえすすり泣いた事でルルヤを起こしてしまったかと詫びるリアラに対し、厳然とした慈しみ、といった優しさと頼もしさの混じった表情でルルヤはその謝罪に対し頭を降った。
「お前が泣いているのに、慰めずに寝ていられるか」
「……でも……」
「でもじゃない。私でも、誰でもそう思う」
そう言って自分を抱き締め、ゆっくりと背中や頭や髪を撫で擦るルルヤにリアラは、ソティアやハウラに対し今ルルヤと一緒にいる事と彼女への親愛の情に心を満たされているのは二人を過去の事としてしまう薄情な行為なのではないかと思っていたのはそれはそれでルルヤへの不人情ではないかというまた別の悩みに囚われかけ言いかけるも、ルルヤは察して気にするなと言いきった。私はそう思うし、誰でも、即ちハウラやソティア達とてそう思う、それを
そして、ただ、静かに故郷の歌をリアラだけに聞かせる為の小さな声で歌った。
二人の肌と肌が触れ合い鼓動と呼吸が歌の合間に響きあう中、暫くの時が流れ。
「……大丈夫です」
涙を拭うと、リアラはそう言ってルルヤに微笑んだ。
(……皆の事、忘れるわけじゃない。忘れちゃいけないというか、忘れたくないんだ。例え、痛い程に悲しくても。……それでも)
それでも、やはり、そんなルルヤ・マーナ・シュム・アマトと、出会えて良かった、一緒に居れる事が幸いだ、彼女の事が大好きだ、そう思う心は、止められないと。そう思えるようになれた。実際、優しいソティアとハウラがそれを咎めないのを知っているだろうと言われては、我が身のくよくよぶりを恥じるばかりだ。
「よし、決めたぞ」
その一方、ルルヤはうむと頷き抱く手を離すと、堂々とした表情で宣言した。
「リフレッシュだリアラ、今日は遊ぼう!」
……リアラを思って咄嗟にそう宣言したルルヤであるが、意見調整は難航した。何しろ何だかんだ言って二人揃って意外と生真面目で正義感と義務感が強く、玩想郷との戦いを一日休めばその一日で増えた犠牲は自分達が殺したも同然ではないのかと悩むタイプである。
故にそこをリアラに心配され堂々とした表情が一瞬で崩れたルルヤだが、最終的に。
第一に、今周辺に敵影は無く、敵に関する情報収集を情報屋や仲間に依頼している最中であり、調査結果や連絡を待った方が良い。
第二に、次の目的地まで移動する移動手段である特急乗合馬車や沿岸快速線の運行の都合上一日くらいの逗留は問題が無い。
第三に、上記移動手段より速い【
という三つの理由で、特に第三についてはしつこく検討した上で漸く二人とも納得した、というあたり、二人とも実に気骨が生真面目に過ぎるが。
ともあれ。
「(遊びに)行こう」
「行こう」
そういう事になった。
……宿から出る時の身繕いにおいて、
「リアラ。いつも自分で自分の髪を結ってて器用なものだと思うが、今日は私がリアラの髪を結おう」
「わあ、ありがとうございます」
数
「うう……ほ、解きにくい……武器を扱うのはあんなに器用なのに、何で……」
「すまん、本当にすまん、あああ、リアラの綺麗な綺麗な夕日色の髪の毛が痛んでしまうっ、私は何て事をっ……」
「だ、大丈夫、このくらい大丈夫だから!」
身繕いの最中ルルヤがリアラの髪を梳かすだけでなく結おうとして激しく失敗し、
(ああ、だからいつもざっと切った長いざんばら髪なんだ……)
とリアラを納得させる顛末もあったが。
ともあれ、今日はのんびりとしよう、という事になった時、二人がまず向かったのは服屋であった。何しろ、戦装束兼舞台衣裳のビキニアーマー着たきり雀である。取り代え式の裏地で清潔至極、【
幸いルルヤの美声の歌と運動神経の舞踊もあり旅芸人稼業は好調……
各地での戦いで新天地玩想郷の転生者を打倒した際それらの有する財産の内元の持ち主に返却する暇のなかったものを接収し活動資金としており、収入的にはむしろそちらがメインなのだが量的に埋蔵したり騎士団や業者に預けたりしているものが多いのだ。
故に、多少の買い物ならば問題なく。
「故郷みたいな装束は中々無いのよねー。ま、ずっと昔から変わってなものだったから仕方ないか」
「どういうのだったんです?」
「こう、まっさらな布と帯をざっと体に絡めるような感じの」
「……神歴時代のスタイルじゃないですか、ほんとに変わってないんですね……でも、想像してみると、すっごく似合いそうな気持ちがします」
ルルヤの故郷の服飾文化について店員の耳もあるのでルルヤは
「……やっぱりリアラは可愛い衣装が似合うよねえ」
「正直男装とか軍服とかはルルヤさんのほうが似合いそうだっていうの、
お互いに似合う服装を見あったりして、そんな事実にリアラが少しモニョったり。
「うーん、やっぱり可愛い!これはどう?こっちは?」
「やめてくださいやめてください
赤面するリアラに、混珠風の衣装だから地球のそれとは勿論違うのだが、地球でいうところのゴスロリ姫ロリ甘ロリみたいなフリフリを着せまくったり、リボンだの髪飾りだの次々持ってきてルルヤが着せ替え人形めいて着せ替えさせまくり、さすがにここまで着飾った事の無かったリアラはビキニアーマーやセーラー服とはまた別の羞恥心で赤面し。
「でも嫌がってるように見えて髪型はちゃんと合わせてくれてるじゃない」
「そっそれは
恥じらいながらもきっちり合わせるリアラにルルヤが突っ込んだりしていたが、それは兎も角として。
途中からは試着だの着替えだのそれを口実にしたじゃれあいが楽しくなってしまって結構時間がかかってしまい、店員に
「姐さん口調だけど容姿クール系麗人と素朴おずおず系僕っ子美少女のいちゃこらお着替えパーティキター!たまりません!」
(折角だから店先でやってくんない?見映えがいいからいい宣伝になりそう)
「えっ」
「あっ思った事と口に出す事が逆に」
と萌えられた挙げ句ファッションショー扱いされてしまって漸く我に返り、後々混珠で冒険者制度と同じ位には広がっている貸倉庫網に預ける事も遊び歩く事を考えて活動的な衣装に抑えたが。
「……凄く似合ってますよ、ルルヤさん」
「リアラもね。うーん、新鮮味があっていいね!」
〈着せられた〉セーラー服とは違い〈選んで着た〉ビキニアーマー以外の服は純粋に新鮮さを楽しみ似合いぶりを喜びあえるもので、二人は顔を見合わせて笑った。
ちなみに貸倉庫網とは各地に倉庫を構える物流業者に品物を預けると有料で保管してくれ、どこどこの町の倉庫に何日までに送ってくれと指定すれば指定した町の倉庫に預けた物品を移動させて貰えて現地で取り出せるサービス業だ。無論、採算的にあまり管理に手間のかかる物品は不可、運送業に過剰負担を強いる地球の通販制度と違い受理や移動はそれなりに時間が掛かるが、魔法文明であるため中世風の文化を保ってはいるが数千年の歴史を持つ発展した社会である事を思い出させてくれるシステムである。
さて、そうしてそぞろ歩く二人だ。現在の逗留地、街道の要所を統べるルーベギ王道国は辺境諸国の中ではかつて何人か存在した錬術王達の一人の支配地であり、錬術王国が崩壊した後その御用商人だった黄金契約に悖る振る舞いをする阿漕な商人が錬術装置の生産設備を有し王の如く支配していたがそれを討った者が真の王となった国で、立地と過去の歴史から様々の産業や冒険者を呼ぶ遺跡があり、街道を通じてそれらを輸出する産業国家だ。
今は隣国の河川連合王国とも仲が良く、活気がある。
「いつか、ケリトナ・スピオコス連峰も、こんな風に」
「…うん」
自分達に似た事を過去に成し遂げた王が統べる国に、自分達が『
「……綺麗な神殿」「はい」
地元の神殿の建築と美術を見学したり。
「飛ぶ時は、いつも戦いだからな。のんびりと景色を眺めるのも良いものだ」
「王城の方どころか、隣の国まで見えそうです」
神殿の尖塔に登り、町を眺め、風を切って飛んで戦うのではなく、景色を楽しみながら、自然に流れる風に吹かれた。塔の上だから、戦いの話題等もあまり声を憚る必要も無く、ルルヤも
立派な石畳の街道と、趣向を凝らした彫像看板や道路に面する出店や茶店や屋台等を追加で構え客を誘う旅籠、行き交う様々な人々、様々な乗騎。辻回復魔法托鉢を行う巡礼新刊、飛脚、旅人、冒険者、仕事に走る奉公人や職場に向かう職人、遍歴騎士、買い物に向かう町の住人、様々な作業音を響かせる攻防、人々に語りかける売り子や通達人、吟遊詩人、遊技場、様々な店、見学する神殿学校の生徒達。
「おい、そこまで見えるのは【眼光】のせいもあるんじゃないか?」
「あ、そうかも。……超人的な力を持つスーパーヒーローの休日って、こういう感じなのかなあ」
「リアラの知ってる物語か。今夜は、また新しいのを聞かせてくれるか?」
「ええ、勿論です。どんな話がいいです?」
「そうだな……強い戦士が戦わない話がいい。強い戦士なんだけど、平和に過ごしてる。面白おかしい日々を。そんな、話はあるかな」
「ええ、ありますとも」
「リアラの故郷の物語は、本当に色々あるな。リアラが知らない物語も、沢山あったのだろう?」
「ええ、勿論。僕が知ってる分なんて、夜空の星全体に対する
「……〈不在の月〉にも、良い所はあるのだなあ」
自分達の身体能力について改めて気づいて、それをきっかけに咲く話題。
とはいえ、現代混珠後で話さねばならぬ状況が面倒とか嫌とかではなく、寧ろ。
「おーっ、いーねこれ!おじちゃん、これとこれとこれも!」
「あいよっ!」
商店街をそぞろ歩きながら、ウィンドウショッピングや買い食いや遊興に興じるルルヤは、むしろ大分流暢になった現代混珠語になると多いに快活になる。
(世を忍ぶ仮の姿、ってのが、ストレス発散になってるのかも)
現代混珠語を話し唯の旅芸人の娘として人に接する時は、真竜信徒、真竜宗家の娘、勇者を志す者、戦士としての自分から頭を離して、気楽に振る舞えるのかも、と、リアラは思った。
丁度それは地球で言えばハンドルネームを名乗っている時は別人のようなものという感じに近いのかもしれないが、そういうのだって、羽目を外し過ぎて人に迷惑をかけたり匿名だからと人を容赦なく攻撃するみたいな事にならなければ、それで多いに楽しめばいいとリアラ=
揚物や蜜揚〔溶かし沸かした飴・蜜の中に浸し熱し絡めた菓子。地球でいうカスドースや鶏卵素麺やりんご飴に近い〕の串を何本も指に挟み、相変わらずスタイルに似合わぬ食欲旺盛さだが。
「ほらこれ、おいしい!はい!」
「あーん。もぐ。うん、おいしい!」
等とリアラも相伴に預かりつつ、二人は大いに楽しんだ。
「そーれ!」「えーい!」
簡易のコースを備えた長い屋台で営業する輪通し〔複雑に配置され揺れ動くいくつもの輪に様々なものを投げいくつ輪を通せるかを競う遊戯〕を楽しみ。
♪♪♪♪♪
(綺麗な音……)(いいです……)
足踏みオーケストラ〔手回しオルガンのより大規模なもの。馬車一台分程もある〕の音色に耳を傾け。
「うわ!?やるなねーちゃん!?ぼーけんしゃか!?」
「ふふ、踊り子よ!」
地元の子供達と路地球〔バスケットボールとサッカーと缶蹴りを混ぜたような球技。町一区画を舞台とし、ボールを敵チームの選手が見ている間は蹴飛ばしながらという制限の元に運び、相手チームが区画無いに隠した籠を見つけ出してその中にボールを入れれば勝ち、といいうのが大雑把なルール〕を遊び。
「ううん。これはいいなあ。あ、子の薬は新商品ですね。そうだ、ついでに護符とその材料と……新作を幾つか買っておこうっと」
「ふむふむ、なるほど……ぇいっ!へえ、参考になるじゃない」
様々な店に顔を出し、工芸品に見いったり、薬や魔法装備を買い集めたり、【
「そこ!そこ!そこに神官の駒!」
「い、いや、どうでしょう……」
路地に幾つも設えられた戦棋月の席で、近所の老人子供に変わって戦棋(第二章から紹介を転載)を指し。ルールは知っているリアラが指し脇からルルヤが助言するも、リアラも腰を据えてやった訳ではなくルルヤも駒の動きの説明を聞いて今ルールを把握した程度なので、まあ勝ったり負けたりといった所ではあったが、二人揃って楽しみルールを覚え、後々二人で指しあったり、会った時に名無やユカハやフェリアーラと指したりするようになった。
ちなみに、戦棋のルールについては、以下の如しとなっている。
1.基本的に地球で言うチェスや将棋等のチャトランガ系ボードゲームである。
2.10×10の升目のボードを使用する。
3.取った駒の再利用は不可能。
4.駒の配置と動き方等は下記の通り。
<盤面>
┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃従┃獣┃勇┃術┃霊┃王┃弓┃暗┃冒┃輜┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃兵┃騎┃兵┃車┃兵┃兵┃城┃兵┃騎┃兵┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃兵┃騎┃兵┃城┃兵┃兵┃車┃兵┃騎┃兵┃
┣━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━╋━┫
┃輜┃冒┃暗┃弓┃王┃霊┃術┃勇┃獣┃従┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┻━┛
<駒の動かし方>
・▲=駒の位置、頂点の方向を駒が向いている。
・〇=そのマスに進める。
・直線=その方向に何マスでも進める。
・数字=その方向にその数まで進める。
・ローマ数字=数字と同様だが1マス移動毎に移動方向を変更可能。
〔ローマ数字は
・〇数字=数字と同様だが駒を取る時のみ移動可で駒を取った後元に戻る。
〈霊〉 〈王〉 〈騎〉 〈兵〉 〈冒〉
┏━┳━┳━┓┏━┳━┳━┓┏━┳━┳━┓┏━┳━┳━┓┏━┳━┳━┓
┃\┃│┃/┃┃2┃2┃2┃┃○┃4┃○┃┃ ┃〇┃ ┃┃ ┃Ⅱ┃ ┃
┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫
┃─┃▲┃─┃┃○┃▲┃○┃┃ ┃▲┃ ┃┃○┃▲┃○┃┃Ⅱ┃▲┃Ⅱ┃
┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫
┃○┃○┃○┃┃○┃○┃○┃┃ ┃○┃ ┃┃ ┃○┃ ┃┃ ┃Ⅱ┃ ┃
┗━┻━┻━┛┗━┻━┻━┛┗━┻━┻━┛┗━┻━┻━┛┗━┻━┻━┛
〈術〉 〈城〉 〈暗〉 〈勇〉 〈獣〉
┏━┳━┳━┓┏━┳━┳━┓┏━┳━┳━┓┏━┳━┳━┓┏━┳━┳━┓
┃○┃③┃○┃┃ ┃①┃ ┃┃Ⅱ┃ ┃Ⅱ┃┃\┃│┃/┃┃2┃2┃2┃
┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫
┃ ┃▲┃ ┃┃─┃▲┃─┃┃ ┃▲┃ ┃┃○┃▲┃○┃┃ ┃▲┃ ┃
┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫
┃ ┃○┃ ┃┃ ┃ ┃ ┃┃Ⅱ┃ ┃Ⅱ┃┃○┃○┃○┃┃ ┃○┃ ┃
┗━┻━┻━┛┗━┻━┻━┛┗━┻━┻━┛┗━┻━┻━┛┗━┻━┻━┛
〈弓〉 〈車〉 〈輜〉 〈従〉
┏━┳━┳━┓┏━┳━┳━┓┏━┳━┳━┓┏━┳━┳━┓
┃○┃②┃○┃┃○┃3┃○┃┃ ┃○┃ ┃┃ ┃〇┃ ┃
┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫
┃ ┃▲┃ ┃┃ ┃▲┃ ┃┃○┃▲┃○┃┃○┃▲┃○┃
┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫┣━╋━╋━┫
┃○┃ ┃○┃┃○┃ ┃○┃┃ ┃○┃ ┃┃ ┃○┃ ┃
┗━┻━┻━┛┗━┻━┻━┛┗━┻━┻━┛┗━┻━┻━┛
<各駒の設定と個別ルール>
〈兵、騎、弓、術、勇、獣〉=兵士、騎士、弓兵、魔法使、勇者、亜獣を表す駒。
〈霊〉=神や精霊を表す駒。敵に取られたら敗北となる。
〈王〉=王を表す駒。敵に取られたら敗北となる。
※取られた側が次の一手で相手の〈王〉を取れれば引き分けとなる。
※取られた側が次の一手で相手の〈霊〉を取れれば逆転勝利となる。
〈冒〉=冒険者を表す駒。〈獣、暗〉に隣接時駒を重ねずその駒を取れる。
〈暗〉=暗殺者を表す駒。他駒の後方三マスに隣接時駒を重ねずその駒を取れる。
〈城〉=城砦を表す駒。自駒が取られる時入れ替わり代わりに取られる事が可能。
〈車〉=
※背後に隣接した自駒を位置関係を保ったまま同時に移動させる事が可能。
〈輜〉=補給隊を表す駒。敵の駒を取れず取られた時任意の自駒三つを失なう。
〈従〉=従者を表す駒。自駒が取られる時入れ替わり代わりに取られる事が可能。
ともあれ、そんな遊戯を二人は遊び。
そんなごく普通の当たり前の休日を、二人は過ごした。
「どうだった?リアラ」
「……楽しかったです。幾らか、気が晴れました」
日が暮れた町、店店に点る灯火、天に輝く清らかな星を妨げぬ程度に対を成す、暖かな地の光の中、二人は宿へと変える道を歩いていた。行き過ぎる人の耳程度なら気にする必要も無く、ルルヤは再び素の口調である混珠古語。
そんなごく普通の当たり前の休日を、何とか与える事が出来てよかったと感慨深げに微笑むルルヤも。そんなごく普通の当たり前の休日を、煌めく様に思い切り笑った事を、限りなく愛おしい貴重な思い出として胸に抱きながらも、そう答えざるを得なかったリアラも。やはり青春を復讐の戦いに生きる不幸な少女達だった。
「幾らか、か」
「ルルヤさん、気にしないでください。幾らか、で、いいんです。忘れたくは、ないですから」
「いや、気持ちはわかる。……やはり私達は復讐者だからな」
そう言って、二人はひととき寂しげな苦笑を交わした。それでも尚、胸に悲しみと怒りと義憤を持っているからこそ、二人は復讐者なのだ。
「人の事は言えないな。私も、過去に対して申し訳なく思っている事がある」
ふと、ぽつり、ルルヤは呟いた。灯火が陰影を作るその横顔をリアラは見た。
「……ウルカディクはいい所だった。懐かしい故郷。……失ってはじめて気づいた、と、言うわけではない。あそこで暮らしていた時から、愛する土地だった、だけど、同時に、ほんの少しだけこうも思っていた。〈ああ、昨日と同じように生き、明日も同じように生きて、ここかあら出る事無く、静かに延びて大きくなり、静かに枯れて腐葉土となる森の木のように、私はここで生まれてここで死に、次の世代に命を引き継ぐ以外の事はできないのだろう〉と。……里が襲われた時一瞬思ったよ。これは、そんな風に思った自分に与えられた罰なのではないかと。もし罰ならば、私だけを殺してくれ、里の皆を罰しないでくれ、と」
ルルヤは深く溜め息をつき。
「……そう思っていたのに。こうして、栄えた町をそぞろ歩いて、(ああ、やはりそれにしても、ウルカディクには本当になにも無かったのだなあ)と、罰当たりな事を考えてしまった自分に少し腹が立つ。しかし同時に、もし何もかもが夢とかで無かった事になって朝目が覚めたら皆のいるウルカディクだったら、と思うこともあるし、しかしそうなると、私の隣にリアラが居ないのは寂しい。けれど過去に戻れたならリアラにはハウラとソティアが居ただろうし、と。……私も同じだよ、リアラ」
苦々しい自嘲の苦笑を浮かべた。その苦悩の表情は、やはり一人の年頃の少女のもので。それを見るリアラも、また同じだが。
「だがそれも、私達の生きている証だ。私達が惜しみ慈しむ人々が、慈しみ育ててくれた私達の」
それでも尚ルルヤは、己を正し凛としてリアラをそう励ました。だからリアラはそんなルルヤの心の揺らぎを認め受け止める勇気を美しいと憧れた。
「それなら、うん。今日みたいに、日々を楽しまないとダメですね。それが僕達を慈しみ育ててくれた人の思いに繋がる。だから、今度は僕が時間を上手く作って遊びにつれてってあげます」
それでも尚リアラは、そんなルルヤを支えたいとそう言葉を加えて。だからルルヤは、そんなリアラに深く感謝した。
だから二人は顔を見合わせ、苦さと自嘲の無い真なる笑顔を互いに与えあった。
あるいはこんな休日も、
だから今日も二人で歩いて行く。月星と灯火を頼りに夜の道を、明日の朝の太陽を目指して。
そんな二人の絆は、きっとこれより先の物語において二人の力になるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます