・断章第六話「モンスターズ・セレクション」
・断章第六話「モンスターズ・セレクション」
BYUGOO! ZAPPAAANNNN! GIIII!
「引けぇええっ!」「「「「「うぉおおおっ!!」」」」」
「《良き風を》……!」「《波を鎮めたまえ》……!」
叩きつける大波、不穏な、木材の軋む音。人々の叫び声、祈り声。それ以外にも縄の鳴る音、走る足音、荷物の転がる音。凄まじい音が船上に重なり響き渡る。
船上。そう、ここは海の真っ只中、船の上だ。今正に凄まじい嵐に教われているが如き有り様の。如き。そう、厳密にはこれは嵐ではない。荒れ狂う帆縄を船員が懸命に引く。そして《航神》の神官達が、必死に船の周囲の波と風を法術で制御し船を守ろうとする様は、どう見ても嵐そのものだが。
「神官衆! あと
〔余談だが
船長が潮と酒に焼けた大声で伝声管に怒鳴る。それは嵐では有り得ない采配だ。まるで、この状態が短時間で終わる事を想定しているかのように。いや、何らかの理由でその予測がついたとしても、だからといって法術をその時間だけ使えればいいというレベルで振り絞れという指示をする理由は普通はない。
即ちそれが意味するのは、これが嵐ではなく攻撃であるという事だ。攻撃であるから、唯の嵐への防御では耐えきれない。攻撃であるから、攻撃してくる相手を何とかするまでの間耐えれば済む。故にこその短期全力防御。
「海賊から逃れて魔獣亜獣の群れに突っ込むなんざ最悪かと思ったが……!」
一通りの指示を終えた船長は、時に強まり、時に弱まる雨粒と波濤の混合を頭から拭いながら、その向こうを見た。
「どうやらこの海も、まだ捨てたもんじゃないみたいだな……!」
その向こうで戦う、彼の船に乗っていた乗客達を。
「【GEOAAAAAFANN!! 】」
「【PKSYLLLLLLLL!! 】」
嵐の海を圧するが如く、咆哮が響き渡った。それは二匹の竜、即ち〈最後の
「BUUFF!?」「BUUFF!?」
「BSYEEEEEMIIII!!」
その【咆哮】に船を襲っていた魔獣亜獣の群れの内、巨大な
やはり亜獣と魔獣では、その好戦性に違いがある。
それというのも魔獣とは即ち魔の影響を明確に受けた、自然生物の限界を越えた肉体と魔力を持つ生物だ。人形の知的生命体である魔族に近い存在で、知性は獣同然が大半だが稀に魔族に匹敵する知性を持つ存在もある。
それに対して亜獣は亜人とは少し意味が事なり、亜獣はあくまで動物の中でも特に強力で特殊な種を指す言葉だ。亜人もまた長寿や暗視等通常の人間と異なる肉体特性を持つ〔その代わりに繁殖力の低さや背の低さ等通常の人間に劣る部分もある〕が、亜人が信仰との特殊な結び付きで変化したのに対し、亜獣は必ずしもそうではない。稀に神獣や霊獣という神や精霊と結び付いた事で法術や霊術の行使や特殊な肉体を得たものもいるが、それはあくまで例外で具体的に言えば亜獣は地球で言う恐竜の類や
外見で識別する手段としては、複数の別種生物が融合したものや生物学敵に無理のある過剰や欠落を持つものは魔獣である。巨体や鰭や甲が極度の発達をしているとはいえあくまで甲烏賊が本来持つ体構造から逸脱していない破城鎚烏賊は亜獣であり、哺乳類と魚類が融合したような姿を持つだけでなく肺と鰓を両方持つ鯱帆虎は魔獣である。基本は生物の行動の範囲内で魔獣も亜獣も食う為や縄張りからの排除等で人を襲うが、魔獣は時に魔の怨念に突き動かされ更に積極的に人間を襲う。
そして高位の魔獣の中には、他の魔獣や亜獣を上級魔族や魔王の如く魔術で統率し使役するものもいる。今この場に集まった魔獣や亜獣もそのように操られた存在だ。
「【AAAAAAGYAOOOOSS! 】 」
そしてこれら魔獣亜獣を統率する魔獣は、【
「ぬううううっ!」
ルルヤは重力を操る月の属性を持つ【
「このっ! あの船は、襲わせないっ!」
リアラは、相手が水中から体を出している時には陽の【息吹】の熱光線を放ち、水中から船を狙う者には【
「どこの
水の
「
口を利く程度の知性がある癖に、この人だの魔だのと言っている場合ではない今の時代に竜の眷族でありながら魔獣としての本能にのみ従う相手に、竜の眷属の恥晒しめと怒鳴り付けるルルヤだが。
「
それに対し、思っても見ない角度から
「我ら魔は人の世を憎む。この世界を憎む。何やら世界が危機にあるのはわかるが、滅びるならば滅びれば良い。人間共と和平を結んだ三代目魔王の盆暗めの末裔のように、この海嵐
それは唯の直感的・感覚的な印象を感情的な反発の為の方便として用いたに近かったが、ある意味正確精密にルルヤの矛盾した一面を嗅ぎ取り指摘していた。
気質的に
「血腥い憎悪の臭い、か。確かに、そうかもな」
「ルルヤさんっ」
振り向くリアラに、そして眼前のリギギザに、ルルヤは。
「ああ、そうだとも。私の行いと動機は復讐だ。正義は、己を律する為と、人に希望を見せて、少しでも助けになればという為に掲げた。けれど」
微笑んだ。ここまでの戦いで更に成長を重ねたルルヤは、その迷いに対しても、経験を増している。
「だからこそだ。己が至らぬと知ればこそ人はより良くあらんとする。だからこそ、私は
故にその言葉、その宣戦は朗々として澱み無し。復讐に猛り狂っていた黒き竜は、今や一人の堂々たる勇者になりつつあるが如く輝いて見えた。
そんなルルヤの様子に、リアラは少し安堵する。以前は復讐に心が片寄りすぎていたが故に復讐の対象ではない相手との戦いで弱体化した事まであった程だが。
(どうか)
そして何より、必然的に想うのだ。愛しいと想うルルヤに対し。どうか何時か、憎悪を悲しみを乗り越えて、幸せになってほしいと。
そんなリアラの視線が、少しばかり面映ゆく、しかし同時に何より大切なルルヤだった。……堂々と在れるのは、リアラという竜の卵を抱えているからだ、と、ルルヤは想う。リアラの事を思うと、卵を抱く竜が百万の軍も恐れぬが如く、勇気と克己心が沸いてくる。
(だから)
リアラの前では、
「っ……妙な羽と鱗の色だな! 言った程の事が出来るか! まずは試させてもらおうか! そうでなければ……貴様の二択を選ぶかどうか等、決められはせんからな!」
そんな二人に、リギギザは目を瞬かせ、そう吠えた。二人の様子がこの
……この戦いは、逆襲の物語ではない。故に、ここより先の戦いは、ただ二人がそれを無事乗り越えたという事のみ今は語ろう。その戦いの結末の先にあるものは、いつの日か、
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