・しゅむしゅフレンズだい35わ「おんせん(後編)」
・
「あばあああああああっ!!?」
その壁に、『
そして打ち付けられた壁から落下する前に光の長剣が心臓をぶち抜き、昆虫標本の様に壁に縫い止め。
とどめに光の長剣が爆発。
「さて、これでこやつが
「……ええ。たった今『
己が『
「…………!!」
これは〈帝国派〉にとって、凄まじい威圧の一撃となった。十弄卿の数で勝る事など無意味、質が違えば鎧袖一触なのだと。
「さて」
そして打ち静まった場に満を持して、これまでの出来事を前座とする風格を纏い『
「それでは改めて、〈
同時。諸島海ラクジュ島温泉宿〈大山波〉亭〔注・貸切中〕。
「さてそれじゃ、改めてこれまでとこれからの話をしようか。女子皆いいね?」
「はーい〔
「男子―、返事は?」
「うぐぐ」「う、うむ」「はーい」
大広間に湯衣装束の様々なメンバーが揃い、現代混珠語で話す時特有の雑な口調でルルヤがそう音頭を取る。女性陣ががやがやと返事に応じ……覗き騒ぎでリアラの罠でズタボロになったガルンが唸り、ハリハルラに回復法術を掛けて貰ってるので顔が腫れてる程度まで回復しているボルゾンが顰め面でうなずき、咄嗟にその場に居た傭兵団全員でボルゾンを肉の盾にしたお陰で自前のそこまで上手い訳ではない回復法術でしゃっきり全快した
「まず敵情だが、ナアロ王国の混乱は収まっちまったな。ナアロ国内の動乱については、何とか連絡を取った頃には鎮圧されてた。何人か亡命はさせたが、もうナアロ王国は諸部族領に侵略前段階工作をかける段階まで行ってる。連合帝国も傭兵を雇い入れ始めてるが、ナアロについた傭兵団も多い。それに何よりナアロ王国の軍隊は、いつでも征服戦争を再開できる状態になった」
第一に報告したのは名無だ。諸部族領の抵抗運動や傭兵の動きからナアロ王国の動きまで探っていたらしく、少年傭兵達の情報を束ねて要約する。
「……出来ればこの日が来るまでに、辺境諸国を説き伏せ、反
続いては、ユカハとフェリアーラだ。
「……連合帝国系吟遊詩人が、事実に反する歌を流布している。連合帝国内にも相当数の玩想郷勢力が既に入り込み、かなりのレベルで帝国を操っている」
「反玩想郷で辺境諸国を纏められなかったのは、その影響も大きいわ。一応、これまで連絡のついたリアラやルルヤさんの戦友を中心とした玩想郷を知りそれと戦う人々のネットワークを構築する事は出来たんだけど」
苦い顔でフェリアーラが唸り、ユカハがややすまなそうに報告する。
それを聞いてリアラは、その背後にある敵の有り様を理解した。
「……敵に、多分マスコミ関係者か考案・諜報関係者がいますね、これ。情報戦を理解している奴がいる」
同時に後悔めいた感情もリアラの心中をよぎった。仲間を作らなければとも思うが、人を巻き込むのも恐れていた。それは不徹底だったのだろうか。……漫画ならば最後の決戦にこれまでの旅でであった人々がずらりと駆けつけてくるのは輝かしくも頼もしく、これまでの旅路の最中に少しそれを意識しないでもなかったけれど、現実には、それはその人達全員の命の危機を背負う事でもあり、と。
その後、僅かの間、リアラは考え悩んだ。
いつも、少しだけ怖い事がある。僕達はこの世界を守る為に戦っているけれど、それは力で敵を排除する行為であり……それは結局地球の理に従っているに等しいのではないか、と。
その恐怖に負けるわけにはいかないし、今、目の前で行われている事を阻止するのを止める訳にはいかないとも思うけど、というリアラの悩みを、ルルヤの疑問の呟きが一時的に中断させた。
「ますこみ?」
「
「ただ働く事を
首を傾げるルルヤにリアラは少し躊躇いながら説明し、ルルヤはそれだけで察した。その色んな意味で切れ味鋭すぎる反応にリアラは少し苦笑して、思考を改めて眼前の問題に集中させる。
報告は続く。
「鉱易砂海は、何しろ砂漠の殆どを〈
「諸島海も同じさ。今回の件で、漁民・海賊側と商人・海軍側は団結したけど、犠牲が多すぎた。相手がナアロ王国海軍であれ連合帝国海軍であれ、現状ではね……まして玩想郷となると……」
しかしその報告は、重く、苦い。アドブバの名代であるルアエザも海賊団代表のハリハルラも。しかしそれは、リアラもルルヤも承知の上だ。その戦いに加わった身だ。アドブバが失ったもの、ハリハルラが失ったもの、ハリハルラが失ったもの、ボルゾンが失ったものを知っている。それは、彼らと言葉を交わした、リアラとルルヤが失ったものでもあるのだ。彼等の死は。
「元より、戦で決着するのは本意ではない。敵の動きが大規模すぎて、ここ一連の行動は戦争になってしまったが……」
『
「……ええ」
苦い、しかし同時に思考を絶やさぬ表情でリアラは頷いた。
(戦争という局面において、僕たちにできる事は限られている)
そしてリアラは思索に耽る。
ルルヤさんは味方における最強の戦士だが、あくまで現状はそれに留まる。僕はそれより弱いけど戦闘においては似たような使い方をする事になる戦力としてカウントされる。長駆その戦場で最も危険な
『
だが例えば、三人の
そしてまた逆に、二対一の戦いでもぎりぎりの大苦戦だった『
よくよく考えて事に当たらなければならないのだが……
(歴史や戦史について、趣味が高じて知識を蓄えはしたけれど。さすがに僕もそれを現実に実用できると思う程夢見がちじゃない)
リアラの前世はあくまで唯の中学生だ。その精神力と物語愛から来る魔法の応用能力については紛れもない取り柄だが、流石に軍略政略の技能は乏しい。ハンニバルが如何にローマ軍を包囲殲滅したか知っていても軍隊を指揮して敵軍を包囲殲滅できるかどうかについては当たり前だが別の話だ。政治においても勿論同様だがそれはともかく。
「……状況については、あと三つ、確認しておくべき事があるわ」
ユカハが再び口を開いた。
同時。
「さて〈
『
「〈戦争戦災対策国際会議〉。各地で起こる
未知の事象故仕方の無い事、と、上から目線で現状を評価した上で。
「連合帝国とそれ以外の国は、神代終焉の〈人類国家〉分裂から、旧人類国家の衣鉢を継ぎその元で人類はひとつになるべきとする連合帝国と、それを是と出来ずに〈人類国家〉を割ったそれ以外の国とでの歴史的なぎくしゃくした関係があります。連合帝国は最大国家として諸国家に対し庇護者として振る舞おうとし、諸国家はそれに自存自衛を貫く事で独立を守ろうとする」
国家を治める方には言わずもかなと思いますがと言いつつ、混珠の歴史概略を一度わざわざ『
「それがこれまであなた方ナアロ王国を利してきたとも言えますが……いえ、仮に連合帝国が介入をしてもナアロ王国の軍勢は止められなかったでしょうね」
途中、ナアロ王国に関して一度少々皮肉気な評価を加えた上で取り消しつつ、改めて〈帝国派〉の方針について『
「ともあれ、その状況が変化する。連合帝国が中心となって諸国を束ねる形になるのか、あるいは連合帝国が諸国と対等に事に当たるとするのか。我々としては前者の展開へと持っていく事で、我らが影響力を振るう連合帝国がナアロ王国以外の諸国へ影響力を行使する体制を構築し、事実上の
実際は外交上優位を活用し〈王国派〉に対し〈帝国派〉の優位を確立する目的があったのだが、ぬけぬけと
(ま、『
同時進行で後々『
「なるほど」
それに対し『
「それならば、基本方針はそれで構わない」
(ほう?)
糸目の奥にその言葉への関心を封じポーカーフェイスを保ち続ける『
『
(場合によっちゃ、色々考える必要があるからな)
(と、考えているんでしょうねえ)
『
「我々も協力し、連合帝国においてまず〈
そして『
……その内容を、リアラ達はまだ知らない。
そして再び同時、ラクジュ島温泉宿〈大山波〉亭。
「……という所よ」
追加の説明を、ユカハは終えた。その内容は以下の様なものだった。
一つは、近く連合帝国で〈戦争戦災対策国際会議〉が開催される事。
二つは、ナアロ王国が何故か領土内並びに緒部族領や草海島等に兵を出し魔竜を大量に狩り遺跡や禁足地や聖地を掘り返しているという情報。
リアラ達はまずその二つについて確認した。
「二つ目の情報は多分、何らかの兵器を構築するつもりなんだと思います。ナアロ王国は首席錬術博士ドシ・ファファエスがそういう
情報を咀嚼するようなゆっくりとした口調で、リアラがまずそう呟いた。これで現状手元にある情報即ち判断材料が揃った。即ち、判断の時間だ。
「一つ目については、
「それは十六中十六がそうだって思うわ」
ルアエザの警戒に、ルルヤは故郷の数の数え方が十六進法である故の表現と現代混珠語を話す時の雑な口調が入り交じった反応を返した。
「仮に連合帝国首脳が玩想郷の影響を受けずにこれを提案したとしても、それを連合帝国に巣食っている
それには皆が頷いた。
そして、三つ目だ。
「さて、その上で」
「三つ目をどうするか、ですね」
三つ目の情報。それは即ち、〈辺境諸国を中心とした
それは基本的にはこれまでルルヤとリアラが助けてきた人々、共に戦った人々だが、それらの人々が己が所属した国家に働きかけ動かすことに成功した例も、そして、辺境諸国全体の意思を統一する程度ではなかったが、それらの働きかけによって他の国が動いた場合もまた少数だが存在したのだ。
そして、それら国家は、当然〈戦争戦災対策国際会議〉に代表を送り参加する事になるわけだ。
「ううん……」
リアラは、悩んだ。策謀。罠。その意図。どうするべきか。再度の、何度目かの窮地を、今後も乗り越えられるだろうか。ルルヤさんを守れるだろうかと。
「ま、これは連合帝国に皆で行かない訳にはいかないわよね」
それに対しルルヤはそうすっぱり言い切った。思わず「えっ」と慌ててルルヤを振り返るリアラ。ルルヤはまっすぐ前を向いて皆に視線を向けながら続けた。
「連中の事だからこっちが行かずに他の事したら連合帝国や会議参加国に悪さするでしょ。それを見捨てたらアタシ達はアタシ達じゃいられないわ。敵はこっちが来なかった時の事も考えてる筈。それ位なら、皆で連合帝国を守って、互いに守りあって、相手の策を警戒した上で突破した方がいいと思う。アタシが一番に皆の盾になる。だから、危険だけど付いてきて欲しい」
竹を割ったようにさっぱりと言い切るルルヤ。それははっとする程に美しかった。その精神が戦う敵と自分達を分かつものだと無言のうちに主張するように。
「……勿論、それで勝つ為の皆の知恵は借りたいんだけどさ」
その直後に浮かべる謙虚な含羞の微苦笑も、また同じく。リアラは思った。ルルヤさんは、よく、自分は頭が悪いので取り柄は力と女らしい見た目だけだ、と自嘲気味に言うけれど。
「……喜んで。状況を想定した方がむしろ考えやすいですし……なにより、その通りです。ルルヤさんがそうだからこそ、僕達は胸を張って、心の力を以て戦える。ルルヤさんの心が僕らに力をくれるんですから、僕らが無い知恵絞ってルルヤさんの戦いに力を返すのは当然の事です」
その心の輝きこそ、ルルヤの力であり取り柄なのだと、リアラはルルヤに伝え、二人は笑みを交わした。
無論そんな美しい勇気を通すには知恵がなければならぬ。実際、皆は即座に考え始めていた。
「警戒したり逆張りを狙って例えばナアロ王国の転生者を襲って軍事侵攻を潰そうとすれば、確かに戦の分散になる……むしろこの機を利用し、
「それに団結してこっちを潰しにくると、連中は雁首揃えて宣言した。それに逆にいえば、ここに罠を仕掛けてるなら、ここで殺す気でいるという事。戦棋でいえば、王の駒を取れるかどうかを気にする時に端の兵駒を取りに行くかという話でもある。尤も、戦棋と違って一手ずつ指すだけじゃないがな。ただ、優先順位を考えると……そう、考えるのは敵にとっての優先順位だ……」
「あの様子だと連中、戦力はこっちよりずっと上で、これまでと違って一緒に動くようになった訳だけど、あの様子なら一緒に動くとなると互いに隣にいる奴同士で意地の張り合いになるわ。強い一つの頭に統括されていた教団や海賊団と違ってね。付け入るなら、そういう所じゃない?政や大きな戦の話はもっと複雑だけど、殴りあい斬りあいの発展形で考えるなら、手柄首の争いは隙よ」
喧々諤々交わされる会話。ルルヤも話題に加わり自分なりに知恵も働かせる。
「こっちにも伏せてる札もあります。それをどう使うか考えないと。それと、こっちのネットワークの強みをどう活かすか」
リアラも必死に頭を回す。例え戦も政も知らぬ小僧であろうと、ここで手を思い付けずして何で生きていられようかと、【
「連合帝国の今の政治的状況の絵図と、著名人のリスト作ろう。色々洗い出すぞ」
「《
「……この状況なら。そして、あの時見たあいつなら。どう考えるか……」
そして、皆で行動作戦を作り上げていく。それを果たして、
強くなければ、賢くなければ生きられないと、そんな側面がどうしてもあるとしても世界全てが必ずそうだとは言わせはしない。心の力を以て繋がる事で、力や知恵を束ね重ね、助け合う事で補い生きる事も出来るのだと宣言すべく。
連合帝国を巡る新たな戦いが始まる。
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